2.3章
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「装備を外しやがって、俺様は雑魚扱いか、ああ゛、舐めるのも大概にしろよぉシズトぉっ!」
先程身につけたばかりだと言うのに、シズトは革製の鎧を外す。
「いや、流石にこの数相手を舐めてなんかいないさ。」
着ていた革製の鎧を外したシズトはそう言い、更にシャツに手をかけ勢いよく脱ぐ。
「きゃぁ、なんでですわっ!」
シズトの言葉とは逆に、明らかに完全に敵を舐めきったシズトの予想外の行動にクックの悲鳴が響き、クックは顔を上気させ手で目を覆う。
おい、指の隙間からチラチラと見てるのバレてるぞ。
「ぉんのぉぉぉぉぶっっっ殺すっ!」
シズトが上半身裸になったところで堪忍袋の尾が切れたダマーは大剣を背中から引き抜き、シズトに襲いかかろうとするが、それをまぁ待てと手で制す。
そして、ズボンを一瞬にして脱ぎ捨てる。
パンイチになったシズトを見て流石に、ダマーも黙ってドン引く。
「さぁ、やろうか!」
「「「「ふざけんなゴラァ!」」」」
冒険者たちの声が一斉にハモる。
シズトの行動を理解している身としてはシズトに同情したくは無いが、しかし自分が同じような境遇だったらと複雑な気分になっている。
「なんでシズトさんは服を脱ぐのですわっ!」
顔を覆う指の隙間からシズトを覗き見るむっつりクックさんは叫ぶ。
「師匠はあの格好のほうが強いんだ。」
何故か上の服を脱いで、上半身裸で胸を隠すカーメイがクックに教えてくれる。
「では、あの装備や服は強すぎる力を抑えるためのものでしたのねですわ。」
「えっ?全然違うっす。」
何言ってんだコイツみたいな目を向けられ、クックはまた、別の意味で顔を赤くさせて手で覆う。
「じゃぁ、なんで脱いだのですわ。」
クックは自分が恥ずかしい思いをしたことに納得がいかないのか、尻すぼみになりながらか細い声でそう聞いてくる。
「まぁ、見てれば分かるさ。シズトの『魔法』がな。」
俺は気軽にクックに答える。
「ちっ、調子が狂うぜ。行くぞ、勇者ぁぁぁ!」
なんとか言った様子で、モチベーションを取り戻したダマーは、大剣を構え体重を無視したかの様に一気に距離を詰め、大剣を縦に振り下ろす。
それを構えも取っていなかったシズトは、流れるようにスレスレに回避する。
「ほい。」
しかし、一手目が避けられるのは織り込み済みなのか、すぐに手首を捻らせて横への追撃に移る。
シズトはそれを空中へと跳ねて躱し、ダマーが振るう剣先につま先で着地し、己の体重によって相手の大剣を沈めようとする。
だが、ダマーの大剣はシズトの思惑を外れダマーの強靭な腕力によってその場に留まる。
「あれま。」
「舐めんな!」
ダマーは剣先を捻りながら手元へと戻し、シズトの自重でシズトを縦に裂こうとするが、シズトは戻る剣先よりも早く剣から足を離し地面へと逃れる。
シズトの着地を狙い戻した大剣で顔面に向かって突きを放たれる。
だが、それすらも首を傾げて飄々と躱してみせ、そのまま後ろに宙返りをしながら距離を取るシズト。
そんな2人の様子を見て外野から声が上がる。
「すげぇ、ここまでダマーさんと互角なんて。」「ああ、流石は勇者だな。」 「勇者の彼、凄くイケメンじゃない。」「そうね、かなりのイケメンね。」「あたし、あの勇者の方応援しちゃおっかな。」
冒険者達は2人の戦いに魅せられる。
そしてシズトの戦う姿は敵対する冒険者の心すら奪っていく。主に顔でだが。
「ちっ、スカしやがって気にくわねぇな。」
「スカしているつもりは無いんだけどね。僕はカッコいいから仕方ないよね。」
シズトを調子に乗らせるだけだから無駄口を叩くのはやめとけと言いたい。
「はぁ、ガキ相手に本気を使うつもりはなかったんだがな。」
ガキ相手にムキになってるおっさんが言うセリフでは無いな。
「そのガキ相手にムキになってるおじさんが言うセリフじゃないよね。」
不覚にも俺とシズトの思考が一致してしまう。
そして、この場にいるほぼ全員がサッと目を逸らしていることに気づき『コイツら全員同じこと考えてたな。』と察した。
「テメェ、死ねゴラァ!」
痛いところをピンポイントで煽られたダマーは逆上すると、左足を前に出し肩に大剣を担ぐように構えると、左手の親指から中指で半分の三角形を作り、その三角形を頼りに片目を瞑り、まるで銃で狙いを定めるように構える。
「豪断…、飛閃剣!」
空を切った大剣から斬撃が飛んだ。
恐らく剣魔法の一種だろう。
その斬撃は地面のブロックを砕きながらシズトへと迫る。
シズトは腰を少し落とし、右手を腰に構えその手で手刀を作り、左手をその右手に添えるように置く。
「無刀抜刀、居合っ!」
迫り来る斬撃に向けて下から上へと手刀を放つ。
すると、ダマーの放った斬撃は、シズトの手刀によって一瞬で掻き消され、上空に向かって突風が真っ直ぐと吹いて行く。
「な、なんだと馬鹿な!」
手刀の余波である突風を受けながらダマーはあり得ないと呟く。
「嘘だろ…。」「ダマーさんの技が負けるなんて。」「そんな。」「ありえないわ…。」
外野からもあり得ないと声が上がって行く。
「す、凄いですわ、素手で魔法を打ち消すなんて。」
「テメェどんな手品を使った。」
「ん、ただの風魔法だよ。」
敵の質問に馬鹿正直に答え、まるでなんでもないという風にあっさり手の内を晒すシズト。
「そうかぁぁ、教えてくれてありがとよぉぉ!なら、接近戦で倒せばいい話だよなぁっ!」
再び舐められたと感じたのかダマーは怒りに肩を震わせると、足に魔法の光を纏わせて、その図体に似合わない最初の接近よりも更に速い速度を出し、轟と風を唸らせ一気に距離を詰める。
確かに、遠距離で魔法を放ちあってもまた手刀で放つ風魔法に消されてしまうのがオチだろう。
相手が魔法使いならば詰めるのが正解となる。
しかし、それは普通の魔法使いに対処する場合だ。
「豪断、天落剣っ!」
上段から剣の魔法と剣の重さと魔法により加速したスピードを足した、ダマーの最高威力の技であろう一撃が放たれる。
「おっと危ない危ない。」
パシンと乾いた音が辺りに響き、辺りが静まり返る。
今回シズトは何も魔法を使わずに本当に素手だけでダマー必殺の攻撃を止めてみせた。
「ばっ馬鹿な!なっ、剣が抜けねぇだとっ⁈」
両手で真剣白刃取りをリアルで見せたシズトは、ダマーの大剣を両手でガッシリ掴んで離さないでいる。
「そろそろ良いかな、今度は僕から行くよっ!」
ダマーの大剣をあえて放し、ダマーに押しつけるように返すと、左手を前に広げ腕をピンと伸ばし、右手の掌を脇腹まで引き下げると掌打の構えを取る。
そして、引っ張っていた大剣を急に押し返されたたらを踏むダマーに向かって放つ。しかし、金色であるダマーも大剣を盾として使い自分の腹をガードする。
次の瞬間、ドパンッと素手ではあり得ない音を立てた掌打が大剣を打ち据えると、勢いのままにダマーの金色の大剣を砕きシズトの掌がダマーの腹へと突き刺さり、ダマーは広間の中心から端の民家の壁へと叩きつけられ気を失った。
金色冒険者をたった一撃、そしてただの掌打で沈めて見せたシズト。
再び100を超える人が集まる広場が静寂に包まれる。
「じゃあ次は誰がやる?」
激戦を繰り広げたあとだと言うのに、いや、シズトが放った攻撃はたった一度だけであるが、それを加味したとしてあまりにも気楽に質問するシズト。
ザッと冒険者達の足が一歩下がる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
後ろにいた冒険者が逃げ出し、それに続くように次々と冒険者達は逃げ出していき、広間には追っていたはずの冒険者達が1人も居なくなった。
「す、凄いですわ。」
「そうっす、師匠は凄いんっす。」
シズトの圧倒的な強さに思わず呟くクックとそれを自慢するカーメイ。
そして、みんなが忘れていたであろうことをクックは叫ぶ。
「凄いですわ、けど…けど、なんで下着姿なのですわぁぁぁーっ!」
一仕事終えたシズトはそんな俺たちに向かって前髪をかきあげると、グッジョブと手でハンドサインを送り、にこりと微笑み眩しい笑顔を見せるのであった。
あえて言わせてもらおう、ここまで一連の戦いの中、シズトはパンイチだったと。
お読みいただきありがとうございました。




