2.1章
お待たせしました。
『俺のチートが触手すぎるんだが』の2章の開幕となります。
お読みいただければ幸いです。
「この変態、くっ……殺しなさい…ですわ。」
待ってほしい、いや、タイトルの二度見などしなくていい。
正真正銘、オクトとクックの旅の途中である。
クックは今、高身長の男と身長150センチくらいしかない、凸凹の2人組と路地裏にいる。
クックはそのうちの高身長の男に片手で両腕を拘束されて動けないでいる。
「いや、待ってくれないかな。僕は変態じゃないよ。」
金髪高身長ポニテが弁解する。
「そうだぞ、俺っちの師匠は変態じゃないぞ。超凄くてカッコいい変態なんだからなっす!」
黒髪低身長ポニテの謎のフォローが入る。
「いや、メイも待って、それは結局僕の変態を肯定することになるからね。」
「パンツ一丁の貴方も、上半身裸の貴女もどちらとも変態ですわーーーっ!」
路地裏でクックの魂の叫びがこだまする。
「やっと見つけたぞポンコツっ、そいつを放せ、この変態共がっ!」
俺たちはこの街、『ヒラリの街』には買い物のためやって来たのだが、いつのまにかクックとはぐれてしまったのだ。
そして街を探しまわっていると、路地裏でパンイチの男と上半身裸の男?に絡まれて絶叫しているクックを見つけたのだ。
俺はすぐさま触手魔法を発動させるとクックを拘束しているパンイチ男に触手を叩きつける。
「おっと危ない。」
クックを拘束する男は、弱めたといってもかなり強いそこらのチンピラじゃ絶対に止めることのできないはずである俺の自慢の触手を、そのパンイチ変態男は片手で、しかも素手で止めてみせた。
「あ゛あ?」
予想外の出来事に俺の警戒心が一気に膨れ上がる。
「あれ、この魔法…。」
俺の触手を受け止めたパンイチ男は俺の魔法に心当たりがあるように呟く。
ん?パンイチ?
俺と変態の視線が合う。
「「あ、」」
「オクト!」
「シズト !」
お互いの顔を見た、2人の勇者の声が綺麗に重なる。
知り合いだと分かると、俺は触手魔法を霧散させる。
「シズト 、何やってるんだこんな所で。」
「僕?僕はこの子を探してくれって依頼を受けてたまたま見つけたから保護しようかと思って、この子を説得していた所だよ。」
パンイチで説得とな、この男は勇者か!
いやそうだった。
「オクト、この人は誰ですわ。」
俺がシズトと話していると、未だ拘束されている彼女が不安げに聞いてきた。
「あれ、オクトはこの子と知り合いなの。」
「ああ、そうだ、だから放してやってくれ。」
「ああ、ごめんね。」
そう言うと素直にクックを放す。
解放されたクックはすぐに俺の方に走り寄り、俺を盾にするように彼らを伺う。
相当怖い思いをしたのだろう、可哀想に。
そして、真っ先に盾にされる俺はもっと可哀想だと思う。
「クック、こいつは『勇者シズト』だ。」
俺はシズトの正体をクックに明かす。
「え、あの、彫刻の勇者と呼ばれ、超絶イケメンと言われるあの勇者ですのですわっ!」
「ポンコツバカっ、声がデカい!」
色欲の勇者と彫刻の勇者という俺とシズトの扱いの差に猛抗議したいが場所が悪い。
それと彼女がいつものように大声を出したのもあり、俺たちは場所を変えるために、更に路地裏の奥へと引っ込むと話を続け始めた。
「貴方は勇者シズトなのですのですわ。」
クックさん検定の資格を持たないシズトにいきなり難しい語尾で質問をするクック。
「うん、そうだよ。」
クックさん検定推定二級となる質問に、服を着ながら難なく答えるシズト。
「確かに、言われてみれば凄くかっこいいお顔ですわ。」
「うん、ありがとね。」
シズトはそれを照れるでもなく、謙遜するでもなく普通にお礼を返す。
これだけでコイツの性格はもうダダ漏れている事に察しがつくだろう。
「それで、君はクックちゃんだよね。」
シズトは何もない空間から依頼書を取り出してみせ、それを確認するようにクックに問いかける。
シズトが使った魔法は空間収納魔法だ。
転移時に俺以外の勇者全員が使えることが判明していた魔法だ。
なので俺も知っているのだが、何度見ても羨ましすぎる。
「確かにそうですわ、ですがこの依頼は既に達成された依頼ですわ。」
「あれ、そうなの、参ったな〜。」
全然、参ったという風な態度はみせずにそういうシズト。
この様子だと、ここに居るのは他の目的で、たまたまクックを見つけ保護しようとしただけかもしれない。
「俺も質問だ。そこのチビは誰だ。」
上半身裸だった彼?もシズトに合わせ服を既に着ている。
男だよな?めちゃくちゃ童顔で女性みたいな顔をしているから判断に困る。
「チビじゃないっす。俺っちはカーメイ。師匠の一番弟子っす。」
「シズト、お前弟子なんて取ってたのか。」
この世界に転移して、王都から逃げ出した後に、一度だけシズトに再開したことがある。
その時シズトは1人で冒険していた。
興味本位で仲間とか作らないのかと聞いてみたのだが、
「僕より天才で、強くて、美しくて、カッコいい人なんていないからね。必要ないかなって思うんだよね。」
と言ってのけたのだ。
そうもうお判り頂けただろうか、シズトは超がつくほどのナルシストだ。
そんなシズトが仲間を取るなんて珍しいと思い、正直驚きを隠せない。
「いや〜、最初は断ったんだけどね。絶対に強くなりたいって言って、付いて着ちゃったんだよ。」
「はい、俺っちは師匠に憧れて、俺も師匠みたいに強くなりたくって一緒に冒険をさせて頂いてますっす。」
「シズトなんかを選ぶなんてこの子は相当末期なんだな。」
よりにもよって、師匠にシズトを選ぶなど、思わず哀れみを感じてしまう。
「師匠を侮辱するなんて許せないっす。そういうお前は誰なんだっす。」
聞かれたなら答えねばならないな。
「俺か、俺は勇者オクトだ。」
キメ顔で堂々と名乗る。
「げっ、あの色欲の勇者と言われる勇者オクトっすか。」
「何度でも言うが、あれは不幸な事故で俺は何も悪くない。」
「白々しい嘘をつくなっす。」
真っ向からこう何度も否定されると、流石にくるものがある。
「さて、全員の自己紹介も済んだみたいだからどっかに食事にでも行こうよ。」
どこまでも自己中心マイペースなシズトは、そう言って自然と全員をまとめると歩き出した。
フードをかぶり直した俺は、シズトの後に疑問を抱く事なく続くのであった。
お読みいただきありがとうございました。




