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1.最終章 幕間

今回の投稿はクックの帰宅してすぐ後のクックサイドのお話となります。

「お父様、お母様、ラットお姉様、レットお姉様、改めてただいまですわ。」


 私は旅から帰り、家族で食卓に並び座るとただいまと挨拶をする。


「ああ、お帰り、ところでオーパス君とはどういった関係なんだい?」


 お父様がオクトの偽名であるオーパスの名を出し、彼について質問してくる。


「あなた、少し急かし過ぎですよ。」


 何かを気遣った様にお母様がお父様を注意するが、私は隠すこともないと質問に答えることにする。


「オーパスは私の冒険仲間ですわ。」


「本当にそれだけかい?何かお父さんに隠してないかい?」


「あなたっ!」


 お母様がしつこいお父様を叱咤する。


「だってよぉ。」


「口調っ!」


 普段、冒険者にモンスターの仕入れを依頼したり、一緒に討伐に向かったりするため、お父様は油断すると粗野な部分が溢れてしまう。


「まあまあお母様、お父様の気持ちも分からないことはないでしょう。」「お母様だって気になっているのでしょう。だから、お父様を許して上げて。」


 ラットお姉様とレットお姉様が息ピッタリに言葉を紡ぎ、お母様を宥める。


 本当にこの感じ懐かしいですわ。

 たった半年だというのに、数年振りに聞いた様な気分になる。


「はぁ、分かりました。許します。ですが娘のあれこれを詮索するのはしたないですよ。」


「ぐぅ…、すまなかった。」


「それよも私は、」「クックの冒険の話が聞きたいわ。」「どんな物を見てきたのか、」「沢山お姉ちゃんたちに話してね。」


 ラットお姉様とラットお姉様が交互に喋り、私の冒険譚が聞きたいと言う。


「はい、勿論ですわ。」


 流石に勇者である事と彼の魔法のことは言えないが、それでも信じてもらえるだろうか、いや、信じてもらいたい。


 私の冒険を。


「オーパスとの最初の出会いは最悪でしたわ。私を追ってくる不審な人を見つけて、路地裏で倒してしまおうと考えたのですわ。そこでオーパスと出会ったのですわ。」


 路地裏で捕まえられた私であったが、実は彼の追跡には気づいていたのだ。

 なので、本来はそこで撃退するつもりだったのだ。


「まぁ、華麗にその追手から助けてくれたのですね。」「運命を感じるわ。」


「いえ、その追手がオーパスでしたわ。」


「「そっ、そう…。」」


 私の訂正に2人の姉は沈黙する。


「路地裏に誘い込んだ私はそのままオーパスに捕まって、名前を聞かれ、依頼で来たと私に自己紹介しましたですわ。」


「何っ⁉︎捕まったのか。何か、乱暴はされなかったか。」


 お父様はが私の身を案じてくれる。

 だが、私は何もされて…そこまで考えて私がどうやって拘束されていたかを思い出し、軽くえずきかけて口を押さえる。


「だっ、大丈夫ですわ。オーパスは特に悪いことはしませんでしたわ。しょっぱくてヌルヌルしたなんて事はありませんですわ。」


「そっ…そうか。なら良い。」


 思い出したくなかった私はそのことを無かったことにした。


 お父様は私の反応に疑問を持ちつつも、先程の詮索をお母様に叱られたことから深く突っ込まないことにした様だ。


「それからどうしたの。」


 お母様が続きを促してくる。


「ええ、それから…。」


 そう会話を続けて、途中夕食をはさみながならも再開の夜は更けていく。


 そして、夕食を終えた頃に語り終えふと自分で気付く。


 オクトの話ばかりをしていた事に。

 なぜだか涙が溢れはじめる。


「あれっ?おかしいですわ。なんで涙が…。」


 私の様子に気づき、立ち上がったお母様が私の後ろに来て背中から抱きしめる。


「そう、楽しかったのね冒険が。」


「…はいでずわぁ。」


 ずずっと鼻をすすり答える。


「私まだ、冒険がしたいですわ。」


 私の素直な気持ちが口から溢れ出てしまう。


「なっ⁉︎帰ってきたばかりだぞっ。それにどれだけ心配をしたと思っているんだ。」


 しかし、それに驚いたお父様が声を上げる。


 自分でも分かってる。

 自分ながら身勝手でわがままな娘だと自己嫌悪してしまう。

 でも、それでも、冒険がしたい。

 冒険は辛かったし、死ぬかもしれないとも思った。

 でも、オクトと過ごした日々がこの家で過ごした日々と同じくらいに愛おしくとても楽しかった。


「お父様、私、冒険に出たいですわ。彼と冒険がしたいですわ。」


 私の決意が固まる。


「少し考えさせてくれ。明日の朝まではオーパス君もまだ街に居るだろう。それまでには結論を出す。」


 そう言ってお父様は席を外し、執務室へと篭って行った。


「クック、お姉ちゃんたちは貴女のお願いに反対しないわ。」「話を聞いてて思ったの、クックは冒険の話を凄く楽しそうにするなぁ〜って。」


 お姉様達は私の顔を左右から挟む様に手を当てて私に語りかける。


「クック、今日はもう寝なさい。」


「はいですわ。」


 お母様がそう言いうと、私は素直に部屋に戻り眠りについた。

 そうして再開の夜は幕を閉じた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おはようございますクックお嬢様。御当主様から言伝を預かっております。」


 翌朝、私が目覚めると部屋の前にはメイドが立っており、お父様から言伝を預かっていると言ってきた。

 なんでも、武装してコロシアムのステージまで来いとの話らしい。


 私は冒険の衣装に着替えると、武器を持ちそこで気付く。


「そういえば返し忘れてましたですわ。」


 手に持っているのは長大なアイスピック。


 すっかり馴染んでしまって違和感が無かったために気づかなかったが、串丸は元々オクトのものである。

 それを冒険の間していた時の様に腰に挿すと準備が完了する。


「よしっ、ですわ。」


 私はコロシアムのステージに向かって行った。

 ステージに着くとその真ん中にお父様が立っていた。


「お父様、一体どう言う事ですわ。」


「俺を倒したら冒険に出る事を許す。」


 たった一言、そう呟くとお父様は素手で構えを取り、一瞬魔法の光を見せつけるように放ち纏わせる。


 お父様を倒すなんて無理に決まっている。

 何せ私の魔法は料理魔法。お父様も勿論その事を知っているので、まさか、こんな事を言われるとは思っていなかった。


「無理ですわ。私の魔法は料理魔法で人と戦うのは無理だってお父様もご存知でしょうですわ。」


 お父様は何も答えない。


「それにお父様は剣魔法以外にも身体強化魔法持ちですわ。万に一つ勝ち目なんて。」


 威圧。

 暑くもないのに汗が滴る気がした。


「…!」


 私はお父様のその雰囲気に気圧され、思わず武器である包丁を抜いてしまう。


 その瞬間、待っていたかのように距離を詰めて、私の包丁を持つ右手をその両手で掴むと、ステージ端まで私は投げ飛ばされる。


「きゃっ⁉︎…うっ、つぅ。」


 背中から受け身も取れず落下した私はゴロゴロとステージ上を転がる。


「その程度で本当に冒険に出るつもりか、家出してから何も変わっていないじゃないか、冒険の話は嘘だったのか?」


 さっきまで沈黙していたお父様が口を開くと、私の冒険を貶してきた。


「嘘…では…、ありませんわっ!」


 悔しくて歯嚙みをする。

 決して嘘なんかじゃない。

 私は冒険をしたんだ。

 己の敵を目前に今度はしっかりと武器を構える。


「ゆくぞ。」


 今度も同じように右手を狙って掴みにくるその手を私は包丁を上に向かって振り上げ反撃する。

 しかし、それも簡単に躱されてしまう。

 お父様の右手は武器を振り上げ、ガラ空きの私の襟元を掴むとそのまま先程と同じように容赦なく投げ飛ばす。


「ぐぅッ、はっ⁉︎…。」


 私はまた受け身も取れず背中から落ちて肺の空気を全て失う。


 痛い。凄く痛い。

 たった二度投げられただけなのにその差を文字通り痛感してしまう。


 でも、私は証明したい。

 私が冒険したということを。

 仰向けの状態から一度寝返りをうってうつ伏せになり、肘を立てて何とか上半身を起こすと私を見るお父様と目が合う。


「どうした、もう限界か。その程度ならもう諦めたらどうだ。冒険はもっと痛いし、もっと辛いし怖いぞ。」


「知って…いますですわ。」


 鈍く響く痛みを堪えて立ち上がる。


 冒険は辛かった。長く歩いたせいで、足はパンパンになり、翌朝歩くのが億劫で仕方なかった。

 冒険は痛かった。小型ドラゴンの群れと一人で対峙し、空から落ちた痛みは今でも忘れない。

 冒険は怖かった。大型ドラゴンにオクトと二人満身創痍になって、あんなに強かったオクトが死にそうになってる姿を思い出すと今でも体が震える。


「それでもっ。」


 だけど冒険は楽しかった。

 だから、


「私は冒険がしたいのですわっ!」


 痛みに震える足を叱咤し、全力で前へと駆け出す。

 右手を大きく振りかぶり、愛用の包丁で斬りかかる。


 だが、それを簡単に上半身を一瞬逸らすとその一撃を躱されてしまう。


 お父様と視線が合う。


 お父様の手はまた同じように掴み投げとばそうと迫っている。

 だけど、更に踏み込む。


「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 私の全力の気迫と予想外の行動にお父様は怯む。


 そして、隙が出来る。

 振りかぶった状態の私は包丁から手を離し、左腰のアイスピックを引き抜くとその柄でお父様の顎を撃ち抜く。


「ふがっ⁉︎」


 お父様は声を漏らし、仰向けに倒れた。


「お父様…、どうしてですわ。」


 身体強化魔法を纏った体に、たとえ不意をついたとしても、魔法を纏わせないただの攻撃に倒れることなど絶対にあり得ない。


「俺の負けだ。行け、クック。」


 仰向けに倒れたお父様は私の質問には答えず、ただ行けと言うと、そのまま目を瞑り黙ったきりになってしまった。


「良いのよクック。」


 いつから見ていたのか、お母様がステージ端から現れて私に言う。


「「いってらっしゃいクック。」」


「お姉様たちまで。」


 いつのまにか家族全員がコロシアムのステージにいた。


「今度は言えて良かったわ。」「帰ってきたらお土産話を聞かせてね。」


「はいですわっ!」


 私の返事を聞くとラットお姉様とレットお姉様が微笑む。


「そういえば、クックこれをオーパス君に渡して貰えるかしら。」


 そう言って手紙を手渡される。


「なんですわ。」


 なんの手紙か気になり質問する。


「まぁ、お礼と挨拶の手紙みたいなものよ。クックは読んじゃダメよ。」


「はい?ですわ。」


 今更またお礼の手紙だなんて、疑問に思いつつも素直に頷く。


「最後に一つだけ。」


 そう言うとお母様は私を抱きしめた。


「いってらっしゃいクック。」


 それだけ言うと体を放す。


「はい、行ってきますですわ。」


 私は駆け出していた。

 新しい冒険へと。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「強くなったな…。」


「ええ、本当に…。」


 我が娘を送り出した二人は呟く。

 そのたった一言にどんな想いを込めたかは二人しか知らない。

 いや、知らなくていい。


お読みいただきありがとうございました。

次回からいよいよ、2章の開幕となります。

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