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1.20章

1.20章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「さぁ早くしてくださいですわっ、この馬車が最後の乗り継ぎになりますですわ。」


 早朝、宿から出てくると彼女は奇妙なテンションで俺を急かす。


 俺たちはあの超大型ドラゴンを退治した日から更に3週間かけて最初にクックと出会った街まで戻り、商人が使う馬車に乗せてもらったり、公共の馬車を使い乗り継ぎながらコロッセオの街へと向かっている。


 そして、これが最後の乗り継ぎになる。

 昼頃には隣町に着く予定となっている。


「朝から元気だなアンタ。なんだ、今更になって帰って叱られるのが怖くなったのか。」


 変な態度の彼女をフード越しにからかう。


「そんなことないですわ。ただもう半年以上家を出たままなのですわ。どんな顔をして合えばいいのかわからないのですわ。」


 再開にそんな不安を抱える彼女。

 朝からの妙なテンションもそのせいか。


「とりあえずただいまって言えばいいんじゃないか。」


「そんな簡単にっ。」


「まず怒られるだろうな。だから目一杯怒られてこい。」


「…はいですわ。」


 そんな会話をしながら馬車に揺られる。

 昼頃になり馬車はようやく街へと着く。


「あー、腰が痛い。」


「ですわ。」


 長く馬車に揺られた感想はお互いに一緒だった。


「こちらですわ。」


 彼女は迷い無く街の西側に向かって歩き出す、右手にはこの街の象徴である。

 馬鹿でかくここからでも銅像や装飾などが見え隠れする楕円形の立派なコロシアムが見えた。


「本当にでかいな。」


「コロッセオ家の、いえ、この街の象徴ですわ。これくらい当然ですわ。銅像は左手にあるのが初代様ですわ。そして、右手が決勝を務めたその相手と言われていますですわ。」


 歩きながら、俺に説明してくる彼女は誇らしげだ。

 これだけ立派な建物を管理する家に生まれたのだ。料理魔法しか使えない彼女には相当なプレッシャーだったことだろう。


 彼女はよく行った食事が美味しい店や、魔物の輸入通路などの話をしながら、懐かしむように足を進める。


 暫くすると、ほかの建物よりも豪奢な出で立ちの建物が見えると、彼女は一度足を止めた。

 だが、すぐに手を強く握り歩き始める。

 恐らくあれが彼女の家なのだろうと俺も理解できる。


 門の前までやってきた彼女に、2人いるの門番のうち1人が気づいた。


「クックお嬢様?クックお嬢様がお戻りになられたぞぉ!すぐに旦那様に知らせろっ。」


 慌てた門番の片方が屋敷へと走っていく。

 コイツ本当にお嬢様だったんだな。

 今更ながらに実感する。


「お帰りなさいませお嬢様。後ろの方はどなたでいらっしゃいますか。」


「私を連れ戻す依頼を受けた冒険者のオーパスですわ。」


 俺も忘れかけていた偽名を使い彼女は俺を紹介するので、俺は胸元の銀色のプレートを引きずり出し、門番にプレートを見せて「初めまして」と挨拶する。


「ああ、そういう理由だったのか。冒険者様、お嬢様を連れ帰っていただきありがとうございます。」


 彼はいまだにフードを被って素性を隠している俺に、律儀に深々とお礼をしてくれる。


 そんな彼にどう対応して良いかわからずあたふたしていると、屋敷の扉が勢い良く開き、赤い髪の二人の女性が、ドレス姿だというのにそれを感じさせない速さで飛び出して彼女の元へと走ってきた。


「「クックっ!お帰りなさい!心配したんだからっ!」」


 息ピッタリに二人は言葉を発して左右から抱きつく。

 その女性二人の顔はそっくりだった。


「ラットお姉様レットお姉様!…心配をかけてごめんなさいですわ。」


「いいえ、良いのよ。」「貴女が無事に帰ってきてくれただけでお姉ちゃん達は嬉しいわ。」


 感動の再会に水を指すまいと黙っていたせいで不審がられたのか、こちらを四つの目が凝視する。


「あ、お姉様こちらは「「ちょっと貴方、私の妹とはどういう関係かしら。」」」


 あ、この話の聞かない早とちり凄く知ってる。


 クックの言葉を遮り、クックを隠すように並んで二人で詰め寄ってくる。


「ラットお嬢様、レットお嬢様。そちらの方はお嬢様捜索の依頼を受けて連れかっえって下さったオーパスさんです。」


 恩人に無礼な態度は取らせまいと、門番さんが即座に二人の姉妹に忠言をする。


「えっと、俺は冒険者のオーパスと言います。銀色です。」


「そうなのですか」「これは失礼致しましたわ。」「私はラット=コロッセオ長女です。」「そして、私はレット=コロッセオ次女です。」「「この度は末妹を保護して頂きありがとうございました。」」


 スカートの裾をラットさんは右手で、レットさんは左手でつまみ、それぞれ空いた手を胸に当て息ピッタリに挨拶してくる。


「あ、えーと、依頼でしたし。当然の事をしただけです。」


 なんとなく気恥ずかしさを覚え、建前を前に出して壁を作る。


「クックっ!!!」


 また、屋敷の玄関から今度は男の人の声が響く。

 見ると夫婦だろうか、紳士服の赤髪の男性とドレス姿の茶髪の女性が立っていた。

 男性がこちら側に歩いてきて、その後を追うように女性が静々と後に続く。

 目の前に来ると男性の身長は2メートルはあるんじゃないかという巨体だ。

 女性も170ちょっとある俺の身長と変わらない。


「お父様、お母様。ごめぐふぅっ⁉︎」


 お父様と呼ばれた男性は、彼女の言葉を最後まで聞かずに抱きしめる。

 ああ、彼女は父親譲りの性格なんだな。


「心配…したんだぞ…。このバカ娘。」


 言葉は荒々しいものの、彼女を力強く抱きしめる彼の言葉には確かな親心を感じさせた。


「おどうざま、ぐるじぃでずわ。」


 力強い抱擁に彼女はグロッキーになっている。


「どれだけ心配かけたと思っていますの、それくらい当然の罰だと思いなさい。」


 厳しい言葉を投げかけるのは先程一緒に歩いてきた、クックのお母さんだ。


「はい、心配をおかけしてごめんなざぃでずわぁ。」


 最後まで言い切れず、家族に久しぶりに出会えた安心感からか大粒の涙を零しながら彼女はわんわんと泣き始める。

 そんな大泣きをする彼女を家族全員で抱きしめる。


 彼女がひとしきり泣いて、泣き止んだところで俺に彼女のお母さんが話しかけてくる。


「はじめまして、私はクルルと申します。貴方が「君がクックをここまで連れてきてくれたのかい?」」


 がそれに被せるようにクックのお父さんが予想とは違い温厚な態度で俺に話しかけてくる。


 あ、やっぱり性格はお父さん似だ。


 クックのお母様は言葉を遮られたがいつものことなのか、口を閉じすまし顔で何も言わなかった風を装っているので、父親の方とやりとりをすることにする。


「はい、冒険者のオーパスと言います。色は銀色です。」


「そうか、そうかオーパス君。私の娘を連れて帰ってくれてありがとう。私はコロッセオ家当主のトット=コロッセオだ、よろしく。」


「はぁ、こちらこそ。」


「依頼の件だね。すぐに報酬を用意しよう。おい、金庫から報酬金を持ってきてくれ。」


 そういうと、いつのまにか近くまで来ていたメイドが頭を下げて屋敷へと戻っていく。


「そうだ、良かったら私の屋敷でなにかご馳走をしよう。」


 どんどんと話を進めていくトットさんだが、俺は報酬金を受け取ったらすぐに近くの宿を探すつもりだったので、夕食の招待を辞退することにする。


「いえ、せっかくの再会です。家族水入らずで過ごして下さい。」


「そうか残念だ。ではお言葉に甘えることにしよう。依頼の達成報告はこちらで行っておく。オーパス君には先に報酬金だけでも渡しておこう。」


「わかりました。」


「旦那様お持ちいたしました。」


 また、いつのまにか現れたメイドが、恐らく沢山硬貨が入っているであろう袋を持ち横に立っていた。


「うむ、ではこれを。」


 トットさんは硬貨の入った袋を俺に渡してくる。


「はい、確かに受け取りました。」


 俺は中を覗くことなく、それを担ぐ。


「中を確認しなくても良いのかい。」


「ははは、クックお嬢様の普段の態度を見る限り、貴方は人を騙すような人ではないと思えます。」


 俺の素直な本音を伝えると彼女は驚いたような顔をして、すぐに居心地が悪そうにしたあと、少し赤くなった顔を俯かせる。


「そうかい、本当にありがとう。」


「はい、ではこれで失礼します。」


 俺はそう言い、その場を立ち去ろうとする。


「待って下さいですわ。」


 彼女は俺を呼び止めると、俺の近くまで寄ってきて、不意に耳元に口を寄せる。

「まぁっ!」という声が三つ重なって俺の前から聞こえてきたが彼女は気にせず言葉を囁く。


「オクト、ありがとうですわ。」


 俺に感謝の言葉を耳元で囁くと、すぐに俺から離れ、ほんのり上気した顔をこちらから隠すように家族の元へと戻っていく。


 そんな彼女の様子を見てあらあら一体誰に似たのかしらねぇと囃し立てる3人と目の前の出来事に呆然とする1人という組み合わせになっていた。


「じゃあっ、これでっ。」


 そんなクック一家の様子に、俺も居心地が悪くなり逃げるようにその場を去っていった。


 勢いのまま少し遠くまで走ったところでようやく思い出す、借りパクされたままの俺の武器のことを。


「ああ゛あぁぁぉ、俺の武器ぃ、今更戻れねぇよ。」


 頭と硬貨の入った袋を抱え込む冒険者の姿がそこにあった。


今日の夕方ごろに1章最終話の投稿となります。

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