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1.2章

2話目投稿させて頂きました。


「弱過ぎる‼︎‼︎‼︎」


 苦虫を噛み潰したような顔で俺は吐き捨てた。決して過剰なエクスクラメーションマークの使用をしていないと断言できる。

 何故なら、


「なんで、スライム一匹倒すのにこんな時間掛かるんだよぉ。棒切れ装備したレベル1勇者以下とか勘弁してくれぇ。」


 言葉の切れが思わず弱々しくなってしまう。だってスライムだぜ。本当にドラゴン狩れんのコイツ。いや無理だったな。

 彼女は今、直結80センチくらいのゼリー体と(本人の中では)激闘を繰り広げている。


「仕方がないのですわ。スライムはどうやって食べるか分かりませんもの。」


「はぁ〜〜〜〜〜?」


 コイツ何を言っているんだ。くっころ属性に貴族出身お嬢様ツンからの腹ペコ少女とか属性多過ぎませんか。


「コイツ何を言っているんだ。くっころ属性に貴族出身お嬢様ツンからの腹ペコ少女とか属性多過ぎませんか。」


「口に出ていますわっ!半分くらい何を言ってるのかよくわかりませんが失礼ですわっ。あと、私は別にお腹が空いているわけではありませんですわ。」


「じゃあなんで急にお腹が空いて力が出ないなんて言い出したんだ。」


「そんな事一言も言ってませんわっ。私の魔法に関係する事なんですの。スライムは私の魔法とは相性が悪いのですわ。」


「へぇーそうかいそうかい。ほらよっと。」


 彼女と対峙しているスライムに横から触手魔法を発動し触手を叩きつけ瞬殺した俺は、彼女の言い訳に最早呆れを通り越して、同情心すら湧いてしまう。


 彼女の周りにはスライムの核が今ので10個目となるものが転がる。勿論全て俺が討伐したものである。


 実際のところ俺もスライムとは昔は相性が悪かった。スライムには核とそれを覆うゼリー対があり、核のサイズにつれてゼリー体もでかくなる。

 そしてスライムは斬撃等で核にダメージを与えるか、ゼリー体の部分を修復不可能なまでに切り崩すなどして倒すのだ。


 なので、最初の頃は剣で核に直接ダメージを与えて討伐していたが、今となってはスライムは核にダメージを与えればいいので、ゼリー体で吸収しきれないほどの威力の打撃加え核に直接ダメージを与えると簡単に討伐が出来る。

 厄介なのは群生するので、長引くと集まってくるという点だけである。


 確かに彼女の少し長いだけの武器では、核を捉えるのは難しいかもしれないだが、問題はそこではない。


「なんで、魔物退治すんのに包丁なんか使ってんだ。真面目にやれよ。」


「魔物を倒すのに触手のような邪な魔法を使っている貴方だけには言われたくありませんですわっ。それと、包丁を使うのにもちゃんとした理由がありますですわ。」


「ほぉーう、どんな理由なんだ、言ってみろよ。」


 そこまで言うのなら理由があるのだろうと湧き上がる怒りをグッと堪え、一度聞く姿勢をとってみる。


「私の使える魔法は『料理魔法』ですわ。」


「なんでそれでドラゴンと戦えると思ったんだぁっ!!!」


 ドヤ顔で自信満々に言い放つ彼女に思わず怒鳴ってしまった。

 確か、料理魔法は料理が上手くなるみたいな魔法であったはずだ。


「貴方だって、そんな邪な魔法でよく世界を救えると思いましたわね。勇者の名が泣いていますわ。」


「うるせぇ、俺はこれしか魔法が使えないんだ!」


 血が上り顔を真っ赤にして俺は叫ぶ。

 そう、俺は触手魔法しか使えないのだ。

 冗談でもネタでも無く、本当にこの魔法しか使えないのだ。


「えっ…、それは失礼なことを言いましたわ。ごめんなさい。」


 驚愕の表情を見せた後、彼女は急にしおらしくなり素直に謝ってきたので、頭に登った血がスーッと下がっていく。

 お互いにヒートアップした空気が冷えていき、ポツポツと彼女は語り出した。


「私もそうですわ。料理魔法しか使えないのですわ。家族の中でただ1人、戦闘系の魔法を使えなかったのですわ。」


「っ…、それは悪かった。」


「別にもう怒っておりませんですわ。」


 彼女はふぅとため息を吐くと「少し話を聞いてくださいませんか。」と言い語り始めた。


「私の家、コロッセオ家は元々奴隷からの成り上がりでしたの。初代様が闘技場で数々の敵と魔物を屠り優勝し、そして賞品として貴族の家名を手に入れたのですわ。それからは闘技場の管理を任され、代々闘技場と家名を継いで来たのですわ。そしてコロッセオ家の人間は全員が戦闘系の技能を扱え、武に長けていましたわ。ただ1人の例外を除いて。……私は一切の攻撃系の魔法も強化系の魔法も覚えられませんでしたわ。」


 この世界はレベルという法則と魔法という技能に縛られ、実際にレベルが数値として見えるわけではないが、レベルが上がれば身体能力や頑丈さが多少なり上がる。


 しかし、残念なことに身体強化魔法持ちに並ぶほど強くなれるわけではない。この差を例えるなら、レベルアップは足し算方式で身体能力が強化されて行くが、身体強化魔法は掛け算だ。


 そして身体だけではなく攻撃である剣撃や弓矢などにも魔法が宿すことができる。例えば剣の威力を上げるスラッシュや、剣の威力を上げたうえで炎を纏わせて切る、ファイアスラッシュなどがある。これらの魔法は後天的に発現することも多いらしい。


 ここでも問題なのが魔法の有無であり、ただの人が振る剣と、剣魔法を纏わせて振る剣とでは、大人と子供が振るくらいの差が出来てしまう。

 稀に子供のまま、大人並みの威力で剣を振る猛者もいるけど、それも一種の才能の域であり、本業にはやはり敵わない。


 それと最後にもう一つ重要なことがある。魔法も成長するという点だ。

 魔法は使い込めば使い込むほどに成長していき、使える技の種類が増えたり、パワーが上がったりするのだ。ここまで聞けば戦闘系の魔法を持つ人間と持たない人間の差は絶対的であると分かるであろう。


「けれどある日私は一筋の光を見たんですわ。今でも鮮明にあの日の事を覚えていますわ。」


 〜〜クックの回想〜〜


「クックお嬢様、それはメイドの仕事ですので、まかせていただけませんでしょうか。」


「嫌ですわ、私にできる事はこれしかありませんの。だからこれだけでも頑張らなくちゃいけないんですわ。」


「クックお嬢様………。」


 幼い時の私はただがむしゃらでしたですわ。6歳の時に私は両親に連れられ、協会に行き、神父様に鑑定魔法を使っていただいたのですわ。


 その時に神父様から私の持つ魔法は料理魔法と告げられたのですわ。私の魔法が料理魔法と知ってからはそれでもと両親に頼み込み、剣術に槍術、弓術など様々な稽古に励みましたわ。


 それでも何一つ魔法を授かることなく五年の月日が経った頃の話ですわ。私は少しでも、両親の役に立ちたい一心で料理魔法を鍛え、家のメイドを困らせていましたですわ。


「あとは焼くだけですわ!」


 私は満面の笑みで魔猪の肉をオーブンに向かわせる。

 私が捌いていたのは魔猪の肉であり、魔猪は比較的仕入れやすい魔物であり、闘技の見世物としてコロシアムで仕入れており、弱った魔猪を食材として回しているのである。


「クックお嬢様、焼き終わるまで10分くらいですので、少しお休みになっては如何でしょうか。」


「大丈夫ですわ。ちゃんと最後までやり遂げたいんですの。」


「分かりました。では椅子をご用意させていただきますね。」


 顔を微笑ませてメイドは椅子を用意し、私を座らせたあと、「仕事が他にもありますので失礼します。」と言い少し席を外した。


「まだかな、まだかなですわ。」


 待つ事10分、私はミトンを手につけ、オーブンを開くと濃厚な肉汁のいい匂いが溢れ出した。その匂いに思わず笑みを溢しながら魔猪の焼けた肉を取り出し、盛り付けのために一旦キッチンへと置き、鼻歌を奏でながら皿と配膳用のワゴンの準備を始めた。


「魔猪が逃げたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 男の野太い声がコロシアムの方から聞こえた。


「魔獣班は何をやっている!」


「当主様はどこにいるのですかっ!」


「ご当主様をお呼びしろぉぉぉ!」


「今、ご当主様は手練れの連中と中型ドラゴンの捕獲で出払っているっ。」


「若い衆で使えるのはいないのかっ!」


 次の瞬間怒声が響き渡り、お父様を探す声が聞こえる。しかし、会話にあった通り、お父様は珍しく近くに出た中型ドラゴンの捕獲のため、二人の姉を連れて遠征中だった。


「大変だっ、魔猪は屋敷の方へ向かったぞぉぉぉぉ。」


 再び叫び声が聞こえる。

 コロシアムの形は円形で東西南北の四箇所の出入り口がある。その中でも何かあったとき、直ぐにコロッセオ家の人間が駆けつけられるように、モンスター搬入口はコロッセオ家の屋敷の近くの北側に設けられているので、魔猪がこちらに逃げてきたのは必然だろう。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 今度は近くから甲高い悲鳴が上がり、ガラガラと、物が倒れる音が庭の方から聞こえた。

 この声は一緒にいたのメイドの声だとすぐにわかった。


「大変ですわ!」


 私は手元にあった、さっきまで料理に使っていた包丁をキッチンから持ち出し、急いで庭に向かって駆け出す。

 庭が見える位置に来ると、腰を抜かしたメイドを襲おうと狙いを澄ます魔猪が見えた。


 メイドを助けようと動こうとするが、だがしかし、いざ魔猪を目の前にするとまるで根を張ったかのように足が動かない。

 そもそも、なにも攻撃魔法を持たない自分に何ができるというのか。助けに出る事を拒む思考と恐怖が彼女を縛り付けたまま動かさせない。


「ブモォォォォォ!」


「ひぃぃぃぃ」


 魔猪が鳴き声をあげ、前足で地面を掻き威嚇行動をとる。

 その瞬間、私は先程の恐怖を忘れたかのように、足が前に進んでしまい、バッとメイドの前に飛び出し、包丁を構える。


「いっ、いけません、お嬢様逃げてください!」


 既に私にその言葉に答える余裕はなかった。

 震える切っ先がブレる包丁を必死に魔猪に向けて、足が恐怖に屈してしまわないように歯をくいしばる。


『大丈夫ですわ。お料理の時と一緒ですわ。魔猪に包丁を入れるだけですわ。』


 恐怖を抑えるために何度もそう自分に言い聞かせる。

 そんな魔猪は乱入者にひるむ様子なく、飛び出してきた乱入者に標的を変えると、スッと頭を下げ突進の体制を整える。


 来る、直感的にそう思う。


 次の瞬間魔猪は走り出す。


「やぁぁぁぁぁぁ!」


 私は声を上げて恐怖をかき消すように走り出す。

 一歩目で手の震えが止まった。

 二歩目で魔猪に線が見えた気がした。

 三歩目包丁を線に添えるように捌く。

 四本目、一人と一頭は交差する。


 バタッと後ろから倒れる音がした。

 振り向くとこと切れた魔猪が倒れている。それを見た私は腰の抜けたメイドと同じように力なくドサっと地面に倒れる。


 彼女が使ったのは紛れもなく料理魔法である。

 

 料理魔法とは、料理したことのある食材を更に料理し易くするために発動する魔法であり、たまたま魔猪の料理をしていたおかげで今回の戦闘中に発動したのである。

 しかし、クックが魔法を使い魔猪を倒したギミックに気づくのに3年、そして料理魔法の昇華に2年の時を要してしまうのである。


「お嬢様っ!」


 メイドはクックの元へと駆け出す。


「倒せ…ましたわ……。倒せたのですわ!」


 私は倒した実感が湧き、メイドを思わず抱きしめしまう。


「私、モンスター…たおせだのでずわぁ。」



「これが私の初めてのモンスター討伐の経験ですわ。」


 そう語り尽くした彼女に俺はかける言葉を探すのであった。


お読みいただきありがとうございました。

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