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1.16章

お待たせしました。

1.16章投稿させて頂きました。

「今晩の夕食はお前だ、こんのクソトカゲっ!」


 折角の高級肉を逃した俺の怒りら即座に沸騰し顔を真っ赤に染め、巨大な乱入者に怒鳴りつける。


「なに、馬鹿な事を言ってるんですわ。すぐにでも逃げないといけませんですわ。」


「焦ってるのに一々セリフ長いんだよ。アンタは。」


「超大型ドラゴンを目の前に随分余裕ですわねっ!」


 律儀に突っ込んでくる彼女も実は随分余裕なのではないかとそちらを見ると、うつ伏せの状態で足を震わせている。

 必死に立とうともがいてはいるが、どうやら腰が抜けて立てないらしい。


「生まれたばかりの子牛かっ!」


「そこはせめて、子鹿でお願いいたしますですわ。」


 いや、だって、ね?


「ゴギャァァァァァァァァァァァァス!」


 漫才を繰り広げていたのだが、ドラゴンにはうけなかったらしい。

 ドラゴンはトラック2台分はあるであろうその足で前脚で俺たちを叩き潰そうとする。


「やばっ!」


 焦ったような言葉とは裏腹に、冷静に両腕から触手を顕現させると、触手の一本で動けない彼女を拐い手元に引き寄せた。

 彼女を掴んだ触手とは別の、もう一本の触手は木の幹に巻きつけ、思い切り引っ張りその場から緊急離脱すると、木の根元まで一瞬で辿り着く。


 この間の動作を僅か、2秒未満でこなしていく。

 次の瞬間、ドラゴンの巨大な前足が叩きつけられ、地面が沈み砂埃が舞い煙幕を作る。


 それを利用し、俺たちは木の影へと隠れる。


「あ、ありがとうございますですわ。」


「後、どれくらいで立てそうだ。」


「いえ、もう大丈夫ですわ。」


 彼女は大丈夫と足を震わせながらも立ち上がるが、まだ動き回るには時間がかかりそうだ。


「少しの間、俺におぶさっていろ。そっちの方が安全だ。」


 走って逃げれば僅かな可能性だが、逃げ切れるかもしれない。


「危険ですわ、貴方だけでも逃げてくださいですわ。」


 しかし、私を見捨てて逃げろと彼女は言う。

 確かに彼女を守りながら逃げたり、戦うというのは無理があるうえに、俺も今回ばかりは勝てるか微妙であった。


「ふざけんな、アンタを見捨てられるわけないだろ。」


 だからといって見捨てるのとは別の感情だ。

 その感情が、勇者としての義務感から来るものか、それとも別の何かか自分でも考えている余裕は無かった。

 ただ口から出たのは紛れも無い本心であると自分に確信が持てる。


 俺は彼女の周りの地面から少し太めの触手を数本生やすと彼女を覆うようにそっと触手を重ねた。


「な、なにをするのですわ。」


「触手魔法で今から木に擬態する。少しの間なら見つからないで済むはずだ。内側からは簡単に開くようにしておく、だから足が動くようになったらアンタは全力で逃げろ。」


 それだけ言うと、俺はドラゴンの前に会えて躍り出て、彼女とは逆方向にドラゴンの視線を向けさせる。


「おいこっちだクソトカゲっ。」


 わざと大声をあげ、こちらの存在を強く意識させる。


「ゴガァァァァァァァァァ!」


 前足ではうまく狙えないと判断したのか、ドラゴンは吠えると『魔法』を発動させる。

 開いた口の中に火球を生み出し、一度口を閉じると口内が軽く膨れ上がり、水鉄砲のように炎を吐き出し、その炎は地面を這う津波のように俺に迫り来る。


「舐めんな!」


 俺はオウムガイの触手を何百倍にも数を増やし顕現させて、炎を後ろに逃すように触手で道を作る。すると炎は触手で出来た道に沿って後方へと流れていく。

 役目を果たした触手は炎のダメージで消えてしまった。

 俺が健在だと分かると、また、同じように炎を貯め始めるドラゴン。


「させねぇよっ!」


 俺はドラゴンの首に向かって手から触手を伸ばし頭まで来ると、今まで使った触手よりも太い触手を背中から顕現させる。

 その触手をドラゴンの口に何重にもまきつけてガッチリとホールドし、開かないようにする。

 すると、逃げ場を失った炎は口以外の場所へとも向かっていき、ドラゴンの鼻から吹き出る。


「ぷはははっ、口を塞ぐとそうなるのか。」


 行き当たりばったりの考えだったが意外にも上手くいったことにドラゴンの頭の上で驚き、その不恰好さに笑いが漏れる。

 鼻から炎を出すドラゴンは呼吸が出来なくなったことに驚き、口の触手を解こうと頭を振り回す。


「やっ…、うっうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ジェットコースターよりも強く色々な方向にGがかかり意識が飛びそうになるが炎が止むまで触手は絶対に離さない。

 炎がやんだ頃、触手を解きドラゴンから一旦距離を取り、木の上へといつものように着地する。

 ドラゴンの顔を見ると、流石に粘膜を直接焼かれたことはなかったのか、鼻血を出して、こちらを睨みつけている。


「そう睨むなよ、こっちも必死なんだ。」


 意味が伝わらないとわかっていながら軽口を叩くと、車が何台はいるだろうかというドラゴンのアギトが迫り、それを俺は横へと飛び降りると、さっきまで俺がいた木が後ろの木ごと噛み砕かれる。

 俺を噛み砕けなかったことを理解したドラゴンは、口内残る砕けた大量の木を散弾のように俺に向かってぶちまける。


「うおっ、汚ったな。」


 触手魔法を発動させると、触手で盾を作り、散弾の雨を防ぐ。


 周辺の地面には何本もの木の砕かれた破片が突き刺さり、盾として出した触手にも、いくつか破片が突き刺さっているのがわかる。

 散弾が止むと同時に俺はすぐさまその場から離脱する。

 次の瞬間、その場は先程と同じようにドラゴンの足型が残るだけの平地に均されてしまう。


 俺は木々の隙間を縫うように走り抜けるが、後ろからドンドンとドラゴンの足に均されて、森は平地を広げていく。


「環境破壊は感心しないな。」


 この世界では未開拓な土地が多いので心配する必要はないが思うが。

 唐突に燃やされたり、踏み荒らされたりして森も散々だな。

 俺が森の中を逃げ続けていると、ドラゴンは追うのをやめ、口に火球を溜め込み始める。


 チャンスと即座に首に向かって触手を伸ばす。

 しかし、それを読んでいたドラゴンは十分に開けた土地となった森を生かし、後ろへと一歩二歩と距離を取る。


「くっそ、ミスった。」


 触手はドラゴンの首を掠めることなく、地面へと落下する。外したことを理解し、すぐさま地面からオウムガイの触手を顕現させ、ドーム型に生やすと、ドラゴンが吐く炎のブレスをその触手の盾で耐えきろうとする。

 ドームの中は地面や空気中から、ブレスの熱が伝わり一気に温度が上昇していく。


「あっつっっっっ!」


 しかし、今は耐える以外どうすることもできない。

 ゴォォォォォォォォとバーナーが吹きかけられるような音が少しの間続く。

 バーナーの音が止みすぐさま触手を解除すると、頭上にはドラゴンの足が迫っていた。

 炎を吐いている間、こちらに移動し距離を詰めてきたらしい。


「おあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 声にならない声を上げながら、総重量が何百トンとわからない重量を、大量の触手を顕現させ潰されまいと、足を押し返そうとする。

 しかし、かける体重を増され無情にも触手はどんどんと重みに耐えかね歪んでいく。

 耐えきれないと察した俺は、触手と足の隙間を抜けて、手早くドラゴンの足の下から脱出をする。


 ドラゴンの顔を見上げると、ドラゴンは既にブレスの予備動作に入っていた。


「まずっ!」


 ドラゴンのブレスが吐き出されるまでにもう一回同じようにドーム状の盾を作ったところで今度こそ、踏み潰されれ詰み。

 かと言って後ろは森、下がって逃げたところで森ごと焼かれる。

 一か八か、首に向かって触手を伸ばそうとしたその時、右前方の木から何かがドラゴンに向かって飛び出す。


 それはクック=コロッセオだった。


 右手に持つのは俺の特大アイスピック。彼女は空中で上半身を弓のようにしならせると、アイスピックを思い切りぶん投げてドラゴンの目へと見事命中させる。

 ドラゴンは痛みに思わず顔を上方へと逸らして口を開いた為、炎は全て空に向かって花火のように爆発を起こし霧散していく。


「ゴギャァァァァァァァァァァァァ!」


 痛みに苦悶の咆哮をあげるドラゴン。


「やりましたですわ。きゃっ⁉︎、うぶふぅっ!」


 成功を喜んだ直後、彼女は空中で霧散した炎の余波を受けて、地面へと勢いよく押し付けられる。

 それをみていた俺はすかさずクッションとなるように触手を彼女の落下地点に顕現させたのでダメージは少ないはずだ。


 俺の方にも余波が届き、彼女と俺がいる場所に触手魔法を使い、盾となる触手を顕現させ頭上で咲く花火の熱を防ぐ。


 熱は突風のようにあたりを駆け抜け、すぐさま止むが、ドラゴンは彼女の一撃を受けて、狙いの矛先を変えたらしい。

 落下して動けないでいる彼女を隻眼になったその凶悪な目で睨むと、彼女に向かって首を伸ばし、一口にそのアギトで噛み砕こうとする。

 しかし、その前に俺は彼女の元へと既に走り出していた。


「クックゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!」


 触手魔法を右手から発動させ、彼女を掴み力任せに引き寄せ、体全体を使ってキャッチすると勢いのままに走り出そうとする。

 しかし、それを掬うように口を開いて迫るドラゴンの口。

 このまま逃げ切るのは無理だと即座に逃げるのを断念して、彼女を顕現させたままであった触手でアギトの範囲外である茂みへと投げ飛ばし、自分も逃れようと左足を軸に後方へ跳びのきながら、木の幹へと向かって右手の触手を伸ばす。


 しかし、一歩判断が遅かった。

 俺の左足がドラゴンのアギトに捉えられる。瞬間左足へと来るべきそれに備えて意識を全て向ける。

 そしてガギンッと凶悪なギロチンが下され、俺の左足の膝から下がドラゴンの口内へと消える。


「あ゛ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 凄まじい痛みに絶叫が漏れる。

 そのまま、右手の触手に引っ張られ、上手く着地できずに地面をズザザっと転がっていく。


「ぐぅふぅぅぅぅっ……。」


 俺は痛みを堪えきれずに、無い膝を抱えて蹲る。

 投げ飛ばしたクックが足を引きずり、肩を押さえながらこちらに駆け寄ってくる。


「オクトッ、オクトッ、オクトッ。」


 俺の頭を抱き寄せると俺の名前を涙を流しながら何度も呼ぶ彼女。

 そんな俺たちの様子を見て勝利を確信したのか、足音を大きく立て、まるで恐怖に慄けとでも言うように足を進める。

 俺とドラゴンの視線が合う。

 ドラゴンが笑っているようだった。


 にぃ。


 だから俺も笑って返す。

 口角をヒール感満載で上げ、勝利を得たのはこちらだと目で語る。


「触手魔法奥義、喰らえっ衣蛸っ!」


 クソダサいネーミングから放たれる魔法それは触手を巨大化させる魔法。

 俺は食われた足から、触手を顕現させ、巨大化させたのだ。


 普通は体内には敵の魔力が循環している為、魔法が体内から発動させるといった必殺の手段を使うことなど出来はしない。

 しかし、俺はドラゴンに足を食われる前に魔力を最大限に溜め込み、あらかじめこの魔法を発動させる準備をしていたのだ。


 8本触手は胃から食道を登り、触手は口と肺、鼻へと到達する。

 肺へと到達した触手は内側から肺を絞り上げる。

 どう息を吸おうとしても全ての呼吸器官を完全に塞がれ、パニックに陥り暴れまわるドラゴン。


「最後の仕上げだ。」


 そう言うと右手を前に出し、狙いをつけドラゴンの頭、首、胴体、足、尻尾付近から、太い触手を新たに8本顕現させると空を握りつぶすように右手を握り、触手でドラゴンを地面へと縫い付ける。


 ドラゴンも全力で振り解こうともがくが俺も死ぬ気でそれを阻止する。


 時間が過ぎるにつれて、徐々に暴れる力を失っていき、ドラゴンの目は虚ろになっていく。

 やがて、完全暴れる力を失い、酸素を全て失った巨体は、眠るように静かに息を引き取った。


「勝ったのですわ?勝ったのですわ!やりましたですわ!」


 俺を強く抱きしめて、そう半狂乱になって生き残ったことを叫ぶ彼女。


「ああ、そうだな。」


 ひとまず、超大型ドラゴンに勝てたことに俺もホッと胸を撫で下ろすのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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