1.15章
1.15章投稿させていただきました。
お読みいただければ幸いです。
「感謝いたしますですわ。あと、助けに来るのが遅すぎますですわ。」
オクトっとか泣きながら言っていたくせに、彼女は未だ目を腫らしているものの直ぐにツンケンした態度に逆戻りする。
まぁべつに、好かれたかったわけじゃないからいいけど、それにこんな高飛車お嬢様などお断りだ。
「はいはい、悪かったよ。だから泣き止んで下さいポンコツお嬢様。」
取り合うのがめんどくさかったのもあり、投げやり気味に言い放つ。
まだ上空にドラゴンが残っていてそっちの処理も残っている。
因みに遅れた理由は普通に遠かったからだ。
距離にしたら1キロくらいだろうが、なにせ足場が悪く、その間こっちにも来た小型ドラゴンが絶え間なく襲ってくるものだから足が遅れてしまった。
俺は触手を伸ばし木に登ると、片腕を触手で木に固定し、もう一方の腕にタコの触手を5本顕現させ、飛び回るドラゴンを難なく全て捕縛すると、翼を縛り飛行が出来なくなったドラゴン全てを勢いよく地面に叩きつけて始末する。
「本当にデタラメな魔法ですわ。」
木から降りて一仕事終えた俺を労うでもなくただ一言呟く彼女にイラッとくる。
「そう妬むな。ポンコツ泣き虫お嬢様。それよりも約束覚えてるだろうな。」
「ポンコツも泣き虫も余計ですわっ。はぁ、約束は約束ですわ。」
いつもなら俺の発言に言い返してくるのだが、今回は流石に肝が冷えたのか、言い返す力は弱々しい。
「じゃあ、ご馳走になる。」
「こっちだ」と中型ドラゴンの方へと案内する。
鞄を拾った彼女はそのまま後を素直についてくる。
「良かった、漁られていないな。」
十数分かけ俺たちは中型ドラゴンの死体がある場所に戻ってきた。
隠しもせず放置してきたから心配だったのだが、意外にもそのまま残っていた。
「これが中型ですわね。近くで見ると、小型の倍の大きさはありますですわ。」
そう言いつつも彼女は手早く料理に取り掛かり、焚き火の準備から始めだした。
俺も手伝おうと手ごろな石を集め始める。
「ああ、それよりも早く昼食にしよう。もうすぐ昼だしな。」
そう言い、空を見上げる。
太陽の位置が大体の時間を教えてくれている。
「わかっていますですわ。急かさないで下さいですわ。」
手を休ませず、俺に元気に文句を言ってくる。いつのまにか焚き火の準備を済ませた彼女は、既にドラゴンを捌いており、その包丁捌きはとても滑らかで迷いがない。
「このドラゴンをさばいた事でもあるのか。」
あまり手際の良さに思わず質問してしまう。
「いえ、ありませんですわ。でも、小型をさばいた事があるので同じ要領で捌けますですわ。」
俺がへぇと感心の声を漏らしていると「出来ましたですわ。」と彼女は言い手元にを見てみるとブロックぐらいの大きさの肉が切り出されて、剥がされた皮の上に置いてあった。
「さすがに全部を食べれないので、一部分だけ切り出させて頂きましたですわ。」
それでも相当な量だ。
そこから彼女は更にドラゴンのブロック肉をスライスする。
「鉄板を出して頂けますですわ。」
そう言い、俺に指示し慣れた手つきでアイスピックにドラゴン肉を串刺しにしていく。
「いや、そのアイスピック俺のなんだけど。」
「便利だからお借りしていますですわ。」
「そうだな、2週間前からな。」
「ですわ。」
なにそれ、肯定なの?「ですわ」って。話終わらせるのに使うんじゃねぇよ。意思疎通が難しいだろ。
彼女は火打石を鞄から取り出すと、火をつけ火に鉄板を重ねる。
いつ買ったのか、緑の何か入った小さい瓶を出し、中身を振りかけると肉を焼き始める。
少ししてから肉の焼ける匂いが漂い、肉に火をしっかり通すため一度裏返される。そこから数分してようやく完成した。
「お待たせしましたですわ。」
「おー、待ってました。」
振りかけたのは臭い消しの香草か何かだったのだろうか、おかげで臭くなく、とてもいい匂いだ。
「じゃあ、いた「頂きますですわ。」」
淑女の嗜みとは何だったのか、我先にとドラゴンの肉に齧り付く。
「んんん〜〜〜!」
声にならない声をあげ、その美味しさを表現する。
どうやらこの世界の淑女の食事マナーは男性よりも先に食べるらしいので、これからのゲテモノの先手は全て彼女に食べさせるとしよう。
あ、今日で彼女との旅も最後か……………。
いや、ぼうっとしている場合ではない。
目の前にせっかく高級肉があるのだ。そんなことを気にしている場合ではない。
早くこの肉を頂こう。
俺はさっき中断されて、頂きますを言えなかったので咳払いをし、仕切りなおす。
「んん゛…、いた「びゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!」」
突然大砲のような突風が吹き、体を吹き飛ばされかける。
地面に爪を立て必死にしがみついているが、あまりの風に目も開けられない。
向こうで、彼女の悲鳴が上がったが、俺も食えずに飛んでいったドラゴン肉に悲鳴を上げたい。
まだ吹き荒れる突風の中、何かがバサッバサッとはためく音が聞こえたが、確認している余裕はない。
突風が吹いて来た方向から、どしんと重鈍な音が響き、体が浮いたのではないかと錯覚する。
突風が止み静寂がその場を支配する。
ようやく止んだ風に目を開けると、辺りはさっきまで昼であったのに影に包まれていた。
「何で…こんなところにっ…。」
震えながら彼女は呟く。
視線をあげた先、俺たちの目の前に降り立ったのは魔物の中でも最強種と謳われるものである。
普通なら近辺で見つかることなく、住処から出てくることもないはずの魔物であり、それを倒すためには金色冒険者なら100人、白金級の冒険者でも最低10人は必要と言われている。
こちらを見下ろすその瞳は、ギラつく爬虫類独特の目であり、その姿には硬質な鱗を持っている。
そしてその巨大で大樹を連想させる4本の足で地面を踏みつけ、一対の大翼を空に広げ圧倒的存在感を放っている。
「超…大型……ドラゴンっ…!」
彼女がその巨体の名前を口にすると、そのギラつく目がギョロリと此方を向いた。
そんな中俺は、ああまさか、あの時の言葉がフラグになるなんて、しかも大型じゃなくて超大型だなんて、そう思わずにはいられなかった。
お読み頂きありがとうございました。