1.14章
今回はクック視点となります。
お読みいただければ幸いです。
「不味いことになりましたですわ。」
言ったところでどうにもならないと分かっていても口に出てしまう。
私は一人、小型ドラゴンの群れと対峙している。
先程まで一緒にいた、変態勇者は中型ドラゴンと思われる影に攫われてしまいましたですわ。
ですが、幸いなことにここにいるのは小型ドラゴンのみ、私の料理魔法が十全に発揮できますですわ。
こんな絶望的な状況でも私は諦めない。今までそうやって頑張ってきたのだから。
勝機は薄く、唯一の希望は悔しいことにあの変態勇者が戻ってくること。
ならば、ここは逃げに徹した防衛戦をするべきですわ。
「さぁ、どこからでもかかってくると良いですわ。」
私がそう意気込むと、一匹のドラゴンが真っ直ぐに私に急降下してくる。
私はそれを限界まで我慢し、直前で飛び退きドラゴンを後ろの木の幹に向かって捌く。勢いのままに激突したドラゴンは木を強く揺らし気絶する。
一匹目を捌ききったのも束の間、もう一匹が弧を描くように飛び、足で私を攫おうと迫ってくる。それに合わせ、足の裏の腱を深く切りつけると、ドラゴンは即座に諦め空中へと舞い戻る。
空中へ戻ったドラゴンから警戒を解くと、しびれを切らしたのか別の3匹のドラゴンが地面へと降り立ち、三方向から間合いを詰め、その圧にジリジリと後退を続けていると、いつのまにか後ろに生えていた木にぶつかって、自分の逃げ場がない事を理解する。
「ぐぅっ、しまったですわ。」
好機と見たのか一匹のドラゴンが功を焦って、飛び出してくる。
私はその一匹目がけ飛び出し、ドラゴンの腹下を滑りながら、包丁を入れ、ドラゴンの下から包囲を抜け出すと、すぐさま反転し、後ろから背に飛びかかり、喉笛を搔き切る。
絶命するドラゴンの背から飛び抜くとさっきまでいた場所にドラゴンのアギトがガキンッと音を鳴らす。
攻撃を外したドラゴンにすかさず、包丁を入れ反撃するが、皮をうすく裂いただけにとどまり、致命傷とは至らない。
あと、もう一歩踏み込めば届くそう確信し、皮を切られたことに驚きたたらを踏むドラゴンに、更に踏み込み胴体から首を完全に切り落とす。
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ぼとりと長い首が落ち、気を一瞬抜いてしまう。
地上に降りていた最後の一匹が、首をハンマーのように振り回し、攻撃を放つ。
「しまっ…きゃあっ!」
慌てて包丁で受け止めるもあまりの重さに包丁を手から飛ばされ、後ろの地面へと落としてしまう。
勝利を確信したドラゴンは私のに向かって噛みつきを放つ。
しかし、私は腰から新たな獲物を抜き放ちドラゴンの上顎から脳を貫通させ絶命させる。
「はぁはぁ、まさか串丸に助けられるなんて思っていなかったですわ。」
元の持ち主が聞いたら「なに勝手に名前つけてるんだ」怒りそうだが、おかげで助かったことに感謝する。
「本当に頑丈ですわ。あら?」
アイスピックを引き抜くとアイスピックが料理魔法の光を帯びていることに気づく。
手に持つアイスピックはもともと、あの変態勇者のものだ。
このアイスピックは本来は、ドラゴンの攻撃に耐えつつ攻撃出来るほど頑丈ではない。
アイスピックが調理器具であり、彼女の魔法が料理魔法であったことが幸いして、ここまでの威力で貫けたのだ。
「『目打ち突き』とでも名付けましょうかですわ。さて、続きと行きますですわ。」
地面から包丁を拾い、一旦アイスピックを腰の鞘に仕舞い、依然と上空を飛び続ける、数を減らしたドラゴンの群れを睨みつける。
先ほどの戦闘を経て、これならなんとか勝てるかもしれないと思い込む。
背負っていた鞄を地面に置き体を軽くして、比較的低い上空を飛ぶ、一匹のドラゴンに狙いをつけ、最初に倒した時のように飛び上がり翼を奪おうとする。
しかし、旋回されあっさりと避けられてしまう。
自由落下をはじめる体に横からドラゴンが牙を剥き出しにし、噛みちぎらんと、目を爛々と輝かせ襲いかかる。
だが、私も諦めない逆にこちらから手を伸ばし、鼻先を片手で掴むと噛まれる前に、ドラゴンの頭蓋を包丁で叩き割る。
絶命したドラゴンは私とともに地面に落下していき、私は背中から地面に叩きつけられる。
「かはっ…。」
肺の空気を全て失い、一瞬意識が飛びそうになるも、まだ頭上を飛び回るドラゴンに無防備を晒すわけにいかないと、地面をころがり、茂みへと隠れ息を整える。
「はぁはぁ、迂闊でしたですわ。」
上空を飛びこちらを探すドラゴンは残り5匹。そのうち1匹は手負いであり、戦い始めてから半分の数を減らすことに成功していた。
しかし、上空に気を取られていた彼女は後ろの影に気づけなかった。
「きゃあっ!」
後ろから飛びかかられたそれに馬乗りになられ手足をがっちり固定され、動く事が出来なかった。
飛び出してきたのは最初に気絶していたドラゴンである。
気絶から復帰し、地面に落ちてきた彼女をたまたま見つけ襲いかかったのだ。
「くぅ…重………ぃですわ。」
竜のアギトが間近に迫り、絶体絶命に陥る。
もう自分は助からないと理解すると涙が溢れはじめる。
「助けて…助けて、オクトっっっ!!!」
か弱く助けを求め、旅を一緒にしていた仲間の名前を叫ぶ。
直後、影がドラゴンへと迫り、ボンッとなにか弾けたような音がして、体から重圧が消え、ドラゴンが木へぶつかり幹をへし折りながら吹き飛ばされる。
「悪い、遅れた。」
「オクトっ。」
涙声で私は彼の名前を呼んでしまう。
遅れて参上したのは我らが変態勇者様だった。
お読みいただきありがとうございました。