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1.13章

更新しました。

お読みいただければ幸いです。

「ここがドラゴンの縄張りですわね。」


 珍しく真面目なセリフから始まることに違和感を覚えつつも、シリアスにはシリアスを返す。


「ああ、といっても山の麓だから、ここら辺だと居るとしても精々中型までだ。あと、借りパクしてるアイスピックを返せ。」


 彼女との旅は村から出てもう3週間にもなる。そして、借りパク歴は2週間になる。


 今いる場所は俺が見つけた、とある山の麓にある竜の縄張りである。

 前に縄張りとは知らずに踏み込んで、数十匹目の小型ドラゴンとその集団のリーダーである中型ドラゴンに襲われたのが記憶に残っている。


「充分ですわ。中型ドラゴンを料理することが出来れば、お姉様達と肩を並べて戦うことができますですわ。」


 俺の後半の言葉を無視しつつ、自分の勝利を何処までも疑わない彼女は、包丁の柄を掴みながらそう呟く。

 いや、とりあえず返せよ。こらから戦うんだからと内心愚痴っていると、彼女の好戦的な雰囲気にあてられたのか、一匹のドラゴンがこちらに向かい飛んでくる。


「おい一匹こっちに来るぞ。」


「手を出さないで欲しいですわ。」


 戦おうとした俺に牽制を入れ、彼女は包丁を抜き放つ。

 その包丁には魔法の光がしっかりと宿っていた。

 飛んできたのは、小型のドラゴンで少し長めの首と前脚の飛膜がついて翼となっている、所謂ワイバーンのようなドラゴンだった。


 小型と言ってもそのサイズは足から頭までで2メートルは超えている。尻尾も含めれば4メートルに届くだろう。


 そんなドラゴンに向かって、真っ直ぐ彼女は駆け出し、接近した上空のドラゴンに向かって飛び上がり、片方の翼の根元にぶら下がる。そして迷いなく翼の飛膜を包丁で切り裂き、ドラゴンのバランスを崩させ、墜落するドラゴンから飛び降りる。


 ドラゴンは翼で飛ぶのではなく、飛行魔法で飛ぶのだが、飛膜で風を調整して魔力の節約をしているのだ。

 なので、飛んでいる最中に飛膜が傷つくことがあれば、当然バランスを崩し、再び飛び立つにも時間がかかる。


 飛べなくなったドラゴンは四足歩行で彼女に詰め寄り、そのアギトで噛みつきを放つ。それをするりと躱し、包丁を首裏の喉から腹まで深く走らせ、生命機関に関わる太い血管を引き裂き、後ろへと飛び退く。

 ドラゴンは彼女の放った致命的な一撃を受けて膨大な血を吹き出し絶命した。


「どうですわ。これが、私の実力ですわ。」


「いや、ドラゴンに料理魔法がしっかり使えているように見えたのだが、俺の見間違いかな?」


「ええ、料理魔法を使っていましたですわ。」


 そうドヤ顔で言い放つ彼女。

 あっれぇ、おかしいな。


「つかぬ事お聞きしますが、この旅の目的はなんだっけ?」


「ドラゴンを倒すことですわ。」


「そうだよね、終わっちゃっなっ。」


「いいえ、終わっておりませんですわ。私の目標は中型ドラゴンですわ。」


「ちょっと待て、なに勝手に上位の目標作ってるんだ、意味がわからない。」


「はぁ、私の料理魔法の話をしっかりと聞いていまして、私は小型のドラゴンを料理したことがあるのですわ。」


 成る程、だから彼女はドラゴンと渡り合えたのか。

 だからこそ疑問が残る。


「なんで中型ドラゴンを狩る必要があるんだ。」


「小型ドラゴンを料理したことがあるからといって、中型ドラゴンも同じように、料理魔法が使えるわけでは無いのですわ。小型ドラゴンよりも格上である中型ドラゴンと対峙した時、恐らくですが、小型ドラゴンに使えていた料理魔法の能力の半分くらいしか、力が引き出せないのですわ。」


「料理魔法は料理したことのある魔物より格上の同種だった場合、料理魔法の性能が下がるってことなのか?」


 自分なりに解釈して聞き直す。


「その通りですわ。」


 だから、小型ドラゴンに料理魔法が使えたにもかかわらず、彼女は中型ドラゴンを狩りたがったのか。

 俺は1人納得がいき、何となくソシャゲの闇を思い出してしまう。

 中型を倒したら大型とか言わないよな。お母さん許さへんよ。


「そうか、じゃあもう一つ質問だ。小型ドラゴンを料理する機会はどうしてあったんだ。」


「闘技場経営をしていますので、小型の地竜などを仕入れる機会がありましたのですわ。」


「中型は無かったのか。」


「いえ、一度だけありましたですわ、でも直ぐに公演が組まれ、倒したドラゴンの素材は全て王都の貴族と王族に持っていかれてしまいましたわ。私の家系は成り上がりの貴族ですから、権力が少々弱いので仕方ないのですわ。それにドラゴンの素材を買い取ってもらったおかげで、コロシアムの運転資金がだいぶ増えましたので、悪いことばかりではありませんですわ。」


「それは、アンタにとって良いことではないだろう」という言葉をグッと飲み込んだ。


 貴族として、代々続く家柄というのは向こうも同じ、王族ともなれば、国を起こした時から存在することになる。

 そうなれば歴史を長く持つ家系の方が力を蓄えているのは当然であろう。


「肉は料理にしか使われないだろ。料理くらいさせてもらえなかったのか。」


「子どもが王族に振る舞う料理を作るなど許されないのですわ。」


 それもそうか。折角の高級肉を子どもの料理の練習に使われ、台無しにされては堪ったものでは無いのだろう。


「事情は分かったよ。」


 なんとも世知辛い話であった。


「ご理解痛み入りますですわ。」


 中型ドラゴンは小型を使役しながら自分も戦うという戦法を取り、非常に厄介なのだ。

 しかし小型と分断出来たところで彼女ではまず勝てないだろう。


「で、中型はどうやって倒すんだ。」


「それは今から考えますですわ。」


「考えなしか、このポンコツ。」


「うっ……。」


 無計画な彼女にいつもの罵倒を浴びせる。シリアスに付き合ってやったというのに、自分で台無しにするのだから始末に負えない。


「はぁ、まあ、今夜の夕食のためだ。少し頑張るか。俺が、」


 作戦といっても、俺が中型と小型の群れを倒し、その間に撃ち漏らす小型の処理をしてもらおうと考えていたのだが、作戦を伝える前に彼女は俺の話を聞かずに、空を見上げて呟く。


「あっ。」


「あ?」


 彼女は視線は俺の後ろを向いていた。

 一瞬の出来事だった。

 俺は小型ドラゴンの倍は大きい、中型と思われるドラゴンの片足に鞄を掴まれ一気に急上昇する。


「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「なにをやっているのですわぁぁぁぁぁぁ!」


 俺たちがいた場所は風上。

 ドラゴンは仲間の血の匂いに気づきこちらに集団でやってきて、話し込んでいて無防備であった俺を攫っていったのだ。


 シリアスな雰囲気が崩れれば場は総じてネタよりの雰囲気を醸し出すものだ。

 つまり、展開的には美味しい。

 馬鹿な事を考えている場合ではない。


 意図せず彼女にかなりの数の小型を押し付ける形になってしまった。

 すぐに彼女の元に戻らねばならないが、ぐんぐんと上昇するドラゴンは俺を離す気配がなく、触手魔法を使おうにも、強烈なGと風圧に体の自由を奪われ、全く動けない。


 そして、山の中腹の高さまで飛んだ頃、パッと足を離され空中に投げ出される。

 だが、おかげで体が自由になり得意の魔法を発動させ、触手を顕現させると中型の背中にに巻きつく。

 そして、俺を振りほどこうともがくドラゴンの両翼を触手で縛り上げる。


 バランスを崩したドラゴンは、下の森へと落下をはじめ、地面が近づいた頃にドラゴンの背から飛び、太い木の枝に向かって触手を伸ばし、落下の速度を殺し中型ドラゴンの背から脱出する。


 中型は地面すれすれで解放されたものの、即座に反応し再び飛び上がることが出来なかったのか、ドゴンッと音を立てて落下し、落下のダメージのせいで立ち上がれずにいる。


 それに近づき俺は即座に丸太並みに太い触手を顕現させ、首をへし折る。


「ふぅ、久しぶりに死ぬかと思った。っと、ゆっくりしている場合じゃないか。」


 どうやら、だいぶ遠くに落とされたようだ。

 彼女の居場所完全に見失った俺はもう一度木の上に登ると、彼女の居場所を探し始めるのであった。


お読みいただきありがとうございました。

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