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4.最終章

お待たせしました。

4.最終章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「終わった…のか?」


 フレイムルーラーが目の前から消えたのを見て、確信の持てない俺は呟く。


「あぁ、付き合ってもらってあんがとよ坊主。」


 ヒガさんの言葉に俺は、ようやく肩の力を抜くことが出来る。

 これで四天王の二人目を倒したこととなる。


 俺は床に仰向けになり、溶けた天井からは青い空が空気が冷えているせいか、やたらと高く見える。


「では、そろそろお(いとま)とさせて頂こうか。」


「待てバク。」


Mr.(ミスター)ヒガ。今はエースとお呼び頂きたい。」


「もうちっと待て。もう少しで来るからよ。」


 その言葉に呼応するかのように、目の前の床が赤熱し、水になるより早く水蒸気へと変わり、目の前の氷の床へぽっかりと大穴が開く。


「うぉっ⁉︎熱っ⁉︎なんだっ⁉︎」


「オレの言ってた王様だ。お前さんも随分と遅いご登場だな。」


 空いた穴から浮遊して来たのは炎の塊。

 人型を取ってはいるが、人相までは流石に分からない。

 いや、直視してるだけでも目が焼かれそうで、顔を上げられない。

 俺は炎の余波から逃れる為に、20メートル近く離れる事を余儀なくされた。


「初めまして勇者たちよ。私の名はカウシ。世界に精霊王を任されたものだ。」


 熱い炎とは真逆に、その声色は全てを包み込むかのような慈悲に満ち溢れている。


「お前さん、もうちっと温度を下げられんか。熱くて(かな)わねぇ。」


「すまない、封印から解放されたばかりで力加減を誤ってしまったようだ。」


 精霊王がそう言うと、次第に熱が下がりそれでも熱いが、暖炉程度の熱さまで下がった。

 そして、温度を下げた事を俺(だけでは無いと思いたいので、他の勇者)たちの表情を確認すると、話の続きを始める。


「さて、勇者たちよ。此度は我が兄を止めてくれた事、深く感謝する。」


「オレは別に良いさ。」


 他のみんなも同感なのか、いつのまにか復活して服を着直したシズトも含め、精霊王に頷いて返す。


「ふふ、やはり君たちは勇者なのだな。私の家族たちが好むのも分かる。」


「なぁ、アンタはこれで良かったのか?」


 無神経なのは分かっている。

 けれども、実の兄が死んだと言うのに、あまりにも落ち着き過ぎではないだろうか。


「坊主。」


「いや、構わない。」


 俺を注意しようとしたヒガさんを遮り、精霊王は言葉を続ける。


「私は、私の兄の死を(いた)んでくれる者が居るから幸せなのだ。」


 そう言った精霊王の声は、幸せすら感じるほどに暖かい。


「君は兄の死に怒っているのだね。兄が受けた理不尽へ。君が怒る理由は分かる。兄はいい人だったろう?私の自慢の兄なのだ。」


 子供のように笑う彼の言葉は、決して偽りだとは思えない。


「だから充分だ。兄も私も充分に報われたし、救われた。」


 精霊王の眼差しは暖かく、子を見守る親のように優しい。

 その言葉に俺は何も返せない。


「ありがとう勇者。私たちを救ってくれて。」


「馬鹿言え、これからだ。オレはこれからお前さんたちを救うんだよ。」


 ヒガさんが立ち上がり、精霊王の前で宣言する。


「ちょっくら世界救ってくるからよ、その後はお前さんの仕事に暇をくれてやるよ。」


「はは、暇ときたか。叶うならそんな日をいつか過ごしてみたいものだ。」


「任せとけ、それとスピサから伝言だ。『幸せだった』とさ。」


「そうか…、そうかっ。」


 固く握る拳の炎が揺らめき、その炎は一層熱さを増していく。


「さて、帰るぞお前ら。」


 ヒガさんが言うと、準備していたのかシズトが俺たちを風魔法で浮かす。


「さらばだ勇者たちよ。」


 精霊王の言葉を背に、溶け去ろうとすると氷の城を後にするのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「もうオクトっ、何処に行ってたのですわっ!」


「探した。」


 宿に帰ってきた俺たちは、早々に仲間たちに捕まり。

 他の勇者面々も同じように、一体何をしていたのかと詰め寄られている。

 まるで浮気を疑う妻のような現場に、すっかり日常へ戻ってきた気分だ。

 いや、待て、浮気が日常とか最低過ぎないか?


 っと、下らない事を場合じゃ無い、この怒れるクックと多分怒ってるサファイアを鎮めなければ。


「いや、ちょっと四天王倒してきただけだって。」


「四天王をなのですわっ⁉︎」


「本当?」


「ホント、ホント。ヒガさんに無理矢理連れられてな。」


 あれぇ、おかしいな。

 本当に悪い事を隠している気分になって来たぞぉ?

 包み隠さず喋っているつもりなのだが、自分に自分でやましいことがあるのでは無いかと疑ってしまう。


 いや、やめだやめ。

 そんなはずは無い。


「心配した。」


 サファイアがクイッと袖を引き、上目遣いでこちらを見つめる。


 何故だろう。

 罪悪感まで感じ始めたのだが。


「仕方ありませんですわ。今回は特別に許してあげますのですわ。」


 おっとぉ?

 俺が謎の罪悪感に苛まれているうちに、この現場は俺の有罪で決定してしまったらしい。


「待てクック、何で俺が悪いみたいになってんだよっ!」


「仲間に伝言も無しに出て行った挙句に、開き直る気なのですわっ!」


「うぐぅっ⁉︎」


 痛い所を突かれた。


「けど、ヒガさんが無理矢理…。」


「けども、だっても無いのですわっ!一言くらい声を掛ける暇だって、伝言をメモか何かに残す事だって出来たはずなのですわ。」


 うぐっ、確かにメモ書く時間くれとか、代わりに伝言を残しといてくれとか、頼もうと思えば頼めたし、そこまで話の聞かない人たちでも無い。…多分。


「…もうっ、本当に心配したのですわっ!」


 改めて見るクックの目元は真っ赤に腫れており、瞳には充血の跡がある。

 俺の視線に気づいたクックは、慌てて顔を逸らすがもう手遅れ。


 この生まれてしまった、らしくない微妙な雰囲気に何て答えるべきか戸惑ってしまう。


 そんな時、店の奥からどデカイ声が響く。


「温泉が沸いたぞぉぉぉぉぉっ!」


 その馬鹿でかい声に振り返ると、叫んでいたのはあのやる気の無い店主だった。


「おっ、ようやくか。これでやっと目的が達成出来るぜ。」


 そう言えばそうだったな。

 ヒガさんの目的は温泉で酒を飲むことだった。


「店主。酒を用意してくれ。それと温泉も使わせてくれ。」


「おうよ、内の温泉は村一番の温泉だ。お客さんたちにゃ特別に一番風呂くれてやらぁ。」


 騒がしくなって行く店内に、さっきまでのおかしな雰囲気が有耶無耶(うやむや)になって行く。


「僕たちも使っていいですか?」


「勿論っ。」


「良かった。じゃあ行こっかカーメイ。」


「うぇっ、俺っち病み上がりっすよっ⁉︎」


「だからだよカーメイ。その体臭は洗って落とそっか?」


「毎日ちゃんとタオルで拭いてたっすよっ⁉︎」


 シズトに連行されて、カーメイたちの組みがいち早く温泉へと向かって行った。


「ふむ、ワタシは部屋で準備をしてから向かうとしよう。明日には此処を()たねばならないからな。さぁ、準備をしてくれ。」


「は〜い。」

「はいよ。」

「はいっ。」


 エース率いる劇団員たちは慌ただしく、部屋へと戻っていった。


「温泉卵。」


 サファイアも既に食い気に釣られている。

 最早、此処で流れに乗らない理由が無いな。

 せっかくの温泉。

 ボーっとしてるのは馬鹿らしい。


「温泉…、入るかっ!」


「ですわっ!」

「んっ!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 カポンッと木製の桶か何かが床を叩く音が、引き戸の向こうから聞こえる。


 俺は引き戸を横に開き、浴場へと足を踏み入れる。

 そこは此処に来た時とは別世界と思えるほどの熱気が立ち込めていて、湿る床すら暖かい。


 そして、煙を抜けた先にいたのは、温泉の淵に佇む、長身金髪ロングの背中と、黒髪ロングの女性らしいシルエットだ。


「って、もう騙されんわっ!」


「うわっ!」

「うぇっす⁉︎」


 金髪ロングのそのガッシリとした尻に蹴りを入れて突き落とすと、ついでに隣の黒髪ロングのやたら丸みを帯びた尻も蹴飛ばし、湯船の中へと突き落とす。


 ボチャンッと二人分の水柱が出来上がり、二人が直ぐに浮かび上がってくる。


「突然酷いっすよオクトさんっ!」


「そうだよオクト、こういうのはカーメイだけにしてよね。」


「師匠も酷いっす⁉︎」


「こら坊主ども、湯船で遊ぶんじゃねぇっ!」


 ヒガさんが酒樽を転がしながらやって来た、酒を我慢出来ずに摘んだのか、顔はほんのりと赤い。


「すいません、でも、コイツら2人が悪いんです。」


「あー、じゃあ仕方ねぇか。」


 2人を見て何があったかを大体何があったかを察したヒガさんは、ため息を零しながらもういいといった風に、流し台へ向かうと、体を洗い始めた。


 俺もそれに倣い、体をパパッと洗い終えると、湯船に浸かる。


 風呂なんて此方に来てから初めてだ。

 熱いくらいの温泉が身体中に染み渡って、体全身をほぐしてくれているようで心地よい。


「ふぅーーーー、極楽極楽って奴だなぁ。」


 温泉の竹で出来た柵に背を預けると、完全に脱力してしまう。


「オクト、そこにいるのですわ?」


 柵の向こう側から声が聞こえた。

 この裏はどうやら女湯らしい。


「あっ、あぁ、クックか?」


「やっぱり繋がっているのですわ。」


「みたいだなぁ。」


「私もいる。」


 どうやら、向こうにはサファイアもいるらしい。


「ふわぁ〜、お姉ちゃん、すっごく大っきいね。」


 この声はツクシだろうか?


「ツクシちゃん、何でその手をワキワキさせているのですわ?」


「触っていいですか?」


「そっ、それはちょっと恥ずかしいのですわっ!」


 後ろの湯船がバシャバシャと激しく音を立てる。


「駄目?」


「うぅっ、そんな目で私を見つめないで下さいなのですわっ。」


「皆んな何してんの〜、ラビたちもまっぜって〜。」


「ラビッ!危ないから浴場で走るんじゃねぇって。」


 バシャーンと飛び込んだ音と共に、柵を水が叩く音が響く。


 落ちが見えたな、出れなくなる前にさっさと出て行くか。

 それに昔からのぼせやすいから、長湯はしない主義なんだよ。

 キャーキャーと姦しい温泉を俺は後にするのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「うぅっ、昨日は酷い目に会ったのですわ…。」


 聞かぬが花という奴だろう。

 温泉に()かったと言うのに、温泉に入る前よりぐったりしたクックが呟く。


「凄かったんだよクックちゃんの〜、こう両手から溢れてね〜「説明しなくていいのですわっ!」


「じゃあそろそろ行こうか。皆んな、また何処かで会おう。」


「またな。」

「まったね〜。」


 バクさんが馬車の前で俺たちに挨拶すると、乗り込み残ったバドが、サファイアの方へ近づく。


「サファイアちゃんまたね。」


「ん。」


 2人は軽くハグをすると、バドは身を翻し馬車へと飛び乗り、馬車は馬の足音と荷車の軋む音を立てながら村を後にしていった。


「それじゃ、僕たちも行くよ。またね。」


「皆さん、お元気でっす。」


 軽く手を振ると、マイペースなシズトは歩いて去って行った。

 カーメイも律儀に頭を深く下げると、シズトの背を走って追いかけ、追いつくと並んで歩き出す。


 次は俺たちの番か。


「坊主、またな。」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、バイバイ。」


 見送るのはヒガさんとツクシ。

 何の用かは知らないが、2人はまだ後2日ほどこの村に残るらしい。


「あぁ、また。」

「はい、また会いましょうなのですわ。」

「ん。」


 2人の親子に見送られ俺たちは歩き出す。


 活気を取り戻した温泉街は、すぐに2人の姿を隠してしまう。

 けれども、それで良い。

 立ち込める湯気と、客引きの声。

 そんな村を行き交う多くの足音。


 この音たちが、俺たちの守ったものを実感させてくれる。


 ふと、冷たい風が足元を縫うように吹き抜け、その後を追うように暖かい風が吹いた。

 風が吹き抜けた先へ振り返るが、当然そこには何も無い。


 気のせいだったと前を向き直すと、突然止まった俺を待つ2人の姿。

 俺は追いつく為に()を早める。


 賑わう村の奏でるメロディーを背景に、俺たちは新しい冒険へと旅立つのであった。


お読み頂きありがとうございました。


これにて、4章完結となります、次回の投稿はいつも通り、4.最終章 幕間を予定しております。


これからも彼らの冒険を応援いただければ幸いです。

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