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1.11章

はい、続きの投稿です。

「村長村長てーへんなんだ、勇者を名乗る半裸の金髪男が突然現れて、素手でキングゴブリンとゴブリンの群れをあっという間に討伐しちまったんだ。」


「すみません村長、彼はあまりの出来事に少し錯乱しているようですわ。少し席を外させてもらいますですわ。」


 ドンドンドンッと村長宅の扉を叩き、玄関を開けて出てきた村長に向かって、俺がそうまくしたてると、すぐさま彼女は引き摺るように俺を連れ、村長宅から離れたところで俺に耳打ちをしてくる。


「貴方は馬鹿ですの、それとも気が狂ってしまったのですわ。」


 なにかと思えばもう慣れてしまった唐突な罵倒であった。


「狂ってるのはアンタの語尾だろ。」


 その罵倒に慣れた俺は当然彼女が望むように罵倒を返すというやりとりをしてやり、彼女の気を済ませることにする。

 やれやれ困った性格なお嬢様だ。


「なぁっ、人が気にしている事を、貴方には人を思う心がありませんのですわ。」


「え、気にしてたの?ごめん気づかなかった。」


 普段の態度から喋り方を全く気にしている様子が感じ取れず、気がつかなかった。軽いジャブのつもりだったんだが、本気でショックを受けている彼女に思わず素で謝ってしまう。

 方言とか気にしちゃう系の女子だったのは意外だ。俺は方言とか個性的で可愛いと思うけどね。


「っ…くぅ、今は良いですわ、それよりもさっきのふざけた説明をすぐさま訂正して説明するべきですわ。」


 言葉の痛みを堪えショックからも瞬時に立ち直り、俺の作り話にいちゃもんをつけてくる。


「え、なにか問題があった?」


 だか俺は、本当に何を訂正すべきか皆目見当もつかない。


「貴方は頭が空っぽだったのですわね。」


「はぁ?ポンコツ頭だけには言われたくないんだが。」


 彼女が悟ったように可哀想な子を見る目を向けてくる。


「オーパス君、私が村長に探索の経緯を説明してくるので少し待っててくださいですわ。」


 俺の肩に手を置き、彼女は小さい子供を諭すように語りかけ、そのまま村長の方へと向かい新しく説明を始める。


「村長さん、調査の結果、森にはキングゴブリンと思われる魔物が潜んでいましたですわ。」


 なんとっ白い眉毛をあげて驚く村長。


「しかし、ご安心くださいですわ。勇者を名乗る聖なる鎧を身に纏ったイケメンな男性が、聖なる剣で瞬く間にキングゴブリンとその群れを屠って見せ、私たちを安全なところまで護衛してくださったのですわ。」


「すみません村長、コイツ婚期が迫り焦ってて、誰でもイケメンに見えて美化して見てしまう悪癖があるんです。この前なんて追っかけてきたゴブリンに、「あらやだイケメンですわ。あれはきっと、私を迎えに来た勇者様ですわ。」とか言っててだいぶ末期なんです。村長も危ないんで、少しドア閉めて下がってもらえますか。」


 まるで、押し寄せるファンからスターを守る警備員の様に彼女の前に出て俺がそう言うと、村長は素直にドアをパタンと閉めた。

 閉める直前に「ワシにはもう孫までおるんじゃ」と呟いていた事を追記しておこう。


「なんてことをいうのですわ。それに婚約者の当てなど沢山ありますですわ。」


 リア充アピールを欠かさずしてくる彼女に俺はキレる。


「アンタだって適当なホラ吹いてんじゃねーよっ!勇者が輝く鎧着て聖剣持ってるわけないだろっ!」


「待ってくださいですわ、私の中の勇者のイメージ像が音を立てて崩れていきますですわ。」


「あれ、勇者ってなんですわ…。」頭を抱えながらそう漏らす彼女に思わず哀れんでしまう。

 何度でも言うが、俺も一応勇者として呼ばれたんだがな。

 あれ、みんなももしかして忘れてた。はっはっは、そんな訳ないよね。


「とにかくだ、俺が説明するからお前は下がってろ。」


「あの説明で納得するはずあるわけないですわ。」


「あー、分かった折衷案だ。キングゴブリンの件と勇者を名乗るものが現れたと言うことだけ伝えるぞ。」


「それなら承諾できますですわ。」


 俺と彼女の主張で唯一重なり合う点のみを村長に伝えるという結論でこの場は決着がついた。

 そして、お互いあまりの出来事に錯乱していたのだと言い訳し、折衷案の内容を村長に伝えると、すぐに冒険者組合に早馬を出すと言って報酬を俺たちに渡すと、馬を用意し、若い村人の1人を街に向かって走らせた。

 それを見送り、村を出た俺たちは目的地へと既に歩き出している。


「これで良かったのですわね。」


 彼女は心残りがあるのか、俺に正しかったのか意見を求めてくる。


「まぁ、俺たちに出来るのはあそこまでだ。それにまだ俺たちの目的を果たしてないからな。」


「まぁ、ちゃんと覚えていてくださったのですわね。」


 隣を歩く彼女は、両手を顔の横で合わせ、花を咲かせたような満面の笑みで俺に笑いかける彼女。

 俺もその笑顔に釣られて笑顔で言葉を返す。


「ああ、忘れるわけないだろ。なんたってドラゴンの肉を使った料理をご馳走して貰えるんだからな。」


 俺がそう答えると、俺と彼女との間に明らかな温度差が出始める。

 彼女の気温はぐんぐんと下がり続けて、氷点下にでも到達しそうな勢いだ。

 何を間違ったのだろうか、コックさんが本業として、腕を振るって料理をご馳走してくれるというのを喜ばないのは失礼だろう?


「はぁ、やっぱり所詮、貴方は貴方ですわ。少しでも期待した私が馬鹿でしたですわ。」


「おう、やっと自分がポンコツだと理解したか。大きな成長だな。」


 後半の都合の良い部分だけを切り取り、彼女の目覚ましい一歩に俺は喜び賞賛する。


「貴女もだいぶポンコツですわ。」


 あれ、素直に褒めたのに貶された。


「うるせぇ、ポンコツ行き遅れ、イケメンゴブリン大好き貴族。」


 流石に黙っていられず、顔を真っ赤に染めて罵倒する。


「甚だしい事実皆無の作り話ですわっ、それにまだ行き遅れてはいませんですわ。むしろ今が花な時期なのですわ。」


「いや、花がこんな野道で咲いてたところで誰も見向きしないだろ。」


 見渡す限り誰もいない道でそう咲き誇る、ポンコツな彼女の墓穴発言に思わず心配してしまう。

 本気でゴブリンを婿に取る気だろうか。式場は近くのでっかい洞窟かな。

 うん、彼女の結婚式にはちょっと行きたくないな。

 彼女の将来に不安を覚えつつも旅の先を急ぐのであった。


 冒険はまだ始まったばかり。

お読みいただきありがとうございました。


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