4.25章
長らくお待たせしました。
4.25章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「ヒガさんっ、まだ俺たちに言ってない事あるんじゃないかっ。」
俺は敵前という事も放ったらかし、ヒガさんに質問する。
「ん、あー、概ね目の前のコイツは倒しても構わねぇから気にすんな。」
しかし、ヒガさんからは歯切れの悪い答えしか返ってこない。
「そんな事を気にしてる場合じゃないよ構えてっ!」
振り返ると、既に炎熱を支配する者は杖を構えており、床を削りながら横薙ぎに振るう。
俺は天上に触手を伸ばし、シズトとヒガさんは飛び越え、エースは空間跳躍魔法とそれぞれの方法でその横薙ぎを避ける。
「我による処刑を逃げるなど、小癪な闖入者どもめ。」
「フハハハハッ、そんな幼稚な攻撃が当たると考える方が愚かなのだ。」
この状況で敵を煽るとか、頭でも沸いてるのかっ⁈
やけにテンションの高いエースがフレムルーラーを煽る。
「良かろう、特に貴様は念入りにひねりつぶしてくれようっ。」
フレイムルーラーは杖を引くと、エースに向かい杖を槍の様に突き出すと、その杖の先が伸びエースへと迫る。
「笑止、破城拳。」
だが、エースはその杖を避ける事無く、己の拳で迎え撃つ。
エースと杖の先端が直撃すると、杖はエースを押し込み、伸びる杖の先端はエースを数十メートル押し込んだ所でようやく止まり、床にはエースが踏ん張った後がしっかりと刻まれている。
「フハハハハッ!笑いが止まらぬとはこの事だ。その程度か四天王。」
エースは笑って誤魔化しているが、手首を軽く振っているので、相当無茶をしたのが透けて見える。
あっ、シズトが駆け付けて回復魔法をかけた。
「ぐぬぬ、小癪なァ…。」
「オレの事も忘てくれんなよ。」
いつのまにか接近していたヒガさんが、フレイムルーラーの手首目掛け跳ねると思い切り蹴り上げ、その氷の手首にヒビがが入る。
「おっ、クリティカルヒットって奴か。」
「ぬおっ、この程度っ!」
顔を歪ませたフレイムルーラーは、ヒビが入った手を即座に修復してみせ、一度手放した杖を拾い直すと、自然落下中で身動きが取れないヒガさんを、杖を振るい羽虫の様に吹き飛ばし、ヒガさんは氷の壁に叩きつけられる。
「ヒガさんっ!」
吹き飛ばされたヒガさんに俺は声かける。
「大丈夫だっ!それよりも坊主っ、前だっ!」
その言葉に振り返ると、一番近い俺に狙いを変え、杖を縦に振るい叩き潰そうとするフレイムルーラーの姿があった。
俺は咄嗟に触手魔法を発動させ、床から触手を2本伸ばすと、頭の上でクロスを組み杖を受け止める。
「ぐぬぉっ⁉︎重っっっっっ⁉︎」
だが、やられてばかりでは無い、俺は受け止めた触手を杖へと絡みつかせ固定する。
「ナイスオクトっ!」
「ナイスだ少年っ!」
さっきまでエースに回復魔法を使っていたシズトとエースが、その杖を平均台の様に踏み台にすると、そのままフレイムルーラーの眼前へと迫る。
「無刀抜刀、居合っ!」
「砲撃拳ッ!」
シズトの手刀が顔を、自らが砲弾の様に飛び出したエースの拳が顎を捉え、それぞれの攻撃がヒビを入れる。
「ぐのぉっ!王に一度ならず、二度も傷を与えるとは何たる不敬ッ!」
ダメージを負った顔を抑えながら二歩、三歩と後ろへたたらを踏むと、猛吹雪を起こシズトとエースを纏めて吹き飛ばし、その後方にいた俺が二人を触手でキャッチする。
「貴様らには最大の屈辱を持って贖って貰うぞ。」
俺が絡め取った杖を諦めると、フレイムルーラーは新たに右手に氷の剣と、左手に丸い盾を作り出す。
「盾を持ち出すとは、恐れをなしたのか四天王。」
フレイムルーラーは、そんなエースの言葉には取り合わず、盾を構えながらエース目掛け突進を繰り出す。
「チャンスっ、足元がお留守だ。」
いつかの戦いの時の様に、俺はフレイムルーラーの足元に触手を顕現させると、転ばせにかかる。
「小賢しいっ!」
しかし、それに気づいたフレイムルーラーは跳ねる事で触手を躱す。
「跳んだっ⁉︎」
「言ってる場合じゃないよっ。」
シズトが俺を掴み、横へ思い切り飛び退く。
そして、繰り出されるのは、体重を生かした剣の叩きつけ。
その凄まじい威力に床に大穴が開く。
「逃がさんっ!」
フレイムルーラーは、丸い盾をフリスビーのように投げ、回転の掛かった盾が俺とシズトに向かって襲い来る。
「任せろっ。」
俺はその盾を触手を斜めに床から顕現させることにより、迫り来る盾を受け流し、受け流された盾は城の壁へと突き刺さる。
「ぬるいわっ!」
フレイムルーラーの攻撃はそこで止まらなかった、右手に持っていた氷の剣も真っ直ぐに飛来する。
だが、俺はそれを躱すと、先程盾を防ぐために使った触手を剣へと伸ばし、持ち手に絡めると、威力をそのままに遠心力を活かし投げ返す。
「あんがと…よっ!」
投げ返した氷の剣は、深々とフレイムルーラーの土手っ腹に刺さる。
「がっ⁉︎おのれぇ賊め。」
フレイムルーラーは苦悶の声を上げるも、自らの腹に刺さる氷の剣を引き抜くと捨て去る。
そして、その体に空いた穴からは生物らしい体液などは流れて来ず、今もじわじわと塞がって行く。
「なぁ、不死身なのかコイツ。」
思わず俺の口から言葉が漏れる。
「馬鹿を言うな坊主。精霊だって魔力が尽きれば死ぬ。」
「じゃあ、コイツの魔力が尽きるまで付き合わなきゃならないって事かっ⁉︎」
確かに勇者の魔力量なら勝てるだろうが、その前に体力が尽きるぞっ⁉︎
「落ち着け坊主。今も順調に魔力は削れてる。」
ヒガさんはそう言うが、俺から見る限りではフレイムルーラーは全く弱ってるようには見えない。
なんなら今、新しく氷の両手剣を作り出した所だ。
「って、させねぇよっ!」
あんなどデカイ物を振り回されてはひとたまりも無い。
触手魔法で手から触手を顕現させると、触手を両手剣の持ち手に向かって伸ばし、更に腰の触手で床を掴み引っ張り合いを開始する。
「こんのっ!」
だが、その引っ張り合いも直ぐに終わる、絡みつかせた触手が、フレイムルーラーの氷魔法によって凍りつき始め俺の手まで迫る。迫る。
「どわっぶなっ⁉︎」
咄嗟に触手魔法を霧散させるが、そのせいで塞いでいた両手剣が自由になってしまう。
けれども、このチャンスをむざむざ逃す勇者たちでは無い。
「その危なげな物は没収させて頂こう。」
ワイヤーが擦れる金属質の音が響き、いつのまにか仕込んでいたのか、両手剣が天井付近まで一気に釣り上げられる。
「オレのもくらっとけぃ。」
両手剣を奪われ攻撃手段の無くなったフレイムルーラーの膝裏へ、ヒガさんの強烈な踵落としが入り、ヒビが入ると同時に床へ膝をつく。
「ぬぉぉぉぉぉっ⁉︎この程度っ!」
接近を拒んだフレイムルーラーは猛吹雪を体から発し、俺たちに距離を取らせようとする。
俺はその吹雪を触手の盾を用意する事で凌ぐが、触手にはどんどんと雪がのし掛かり、今飛び出したところで、俺では雪に埋もれるだけだ。
ヒガさんもエースも堪らず距離を取る。
フレイムルーラーの策は通じたかに思えた。
だが、その目論見は失敗する何故なら、吹雪の中を嵐を超える帆船の如く突き進むパンイチの変態がいるからだ。
「これで最後っ!無刀抜刀、閃刃槍ッ!」
シズトから放たれた手刀の突きは、閃光を纏い光の柱となってフレイムルーラーの胸を穿つ。
そう確かに穿ったのだ。
襲い来るのは熱波。
吹雪が一瞬で蒸発し高熱の水蒸気となる。
高温になった水蒸気は城の上部へ溜まり、氷の城の天井を溶かす。
水蒸気は天井を抜け、蒸すような暑さが風に流された時に現れたのは『燃える氷』。
シズトに開けられた胸の穴から、寒さとは相反するべき炎が燃え盛っているのだ。
「ふんっ…、ようやく一人か。」
その言葉と共に赤く腫れ上がったそれを、フレイムルーラーは蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた正体に気づいた俺は、触手の盾から飛び出すと、腰の触手で出来るだけ優しく受け止める。
「シズトッ!しっかりしろっ⁉︎」
フレイムルーラーに蹴り飛ばされたシズトに声を掛ける。
シズトの体は全身が真っ赤に腫れ上がっており、頭から熱湯を被ったような状態だ。
「大っっっ丈夫、僕は凄く強いからね。ただちょっと目にまでダメージがあって、回復魔法を掛けるから時間を稼いで欲しい。」
かなり危険な状態そう思ったのだが、どうやらシズトの意識はハッキリしているようで、早口で捲し立てたシズトは、右手を目に添えると回復魔法を使ったのか、優しく魔法の光が包む。
「任せろ。盾を出すからここに居てくれ。」
「ありがとう、任せたよ。」
俺はシズトを触手の盾で隠すと、目の前に立つフレイムルーラーに立ち塞がる。
「まだ息があったか。おのれぇ、しぶとい賊め。そこを退け、王たる我の道に立つではないっ!」
フレイムルーラーは胸の炎に両手を突っ込むと、炎は両手へと拡大する。
炎熱を支配する者か、良く言ったもんだな。
使えるのは氷魔法だけではない。氷と炎、相容れない二つを使えるが故の名前って訳だ。
「悪いが道は譲れない。そんで回り道だってさせねぇ。」
言葉と共に俺は触手魔法を発動させると、床から触手を何本も天高く伸ばし、鉄格子のように後ろを塞ぐ。
「その心意気だ少年。」
空から降って来るのはエースの声。
その手にはいつもの白い手袋ではなく、銀色に光る手袋が嵌められている。
「紐魔法で編み込んだ鋼鉄製グローブだ。とくと味わうが良い。破城拳ッ!」
エースの拳とフレイムルーラーの燃える拳がぶつかり、フレイムルーラーの拳から腕にかけて亀裂が生じる。
それと同時にフレイムルーラーの拳から爆炎が起こり、エースがその炎に包まれる。
「エースっ!」
「ふむ、危機一髪の脱出劇と言った所か。」
今さっき炎に包まれたように見えたエースが隣に立ち呟く。
どうやら空間跳躍魔法で逃げたらしい。心配して損した。
「エース、ヒガさんはどうしたんだ?」
エースとヒガさんが一緒に吹雪から後退していたのを確認していたのたが、姿が見当たらないので質問する。
「む、そうであった。Mr.ヒガから伝言だ。『ちょっくらパワーアップして来るから時間稼ぎしてくれ』だそうだ。」
あの呑んだくれ、まだ飲み足りないのかっ⁉︎
四天王を目前にして、緊張感が足りな過ぎる気がしてならない。
「まぁ、どちらにせよ決定打の少ないワタシたちでは倒すことは叶うまい。」
「さらっと悲しい事言うなよっ⁉︎」
けれどもエースが言う通り、この燃える氷の彫刻を倒すビジョンが浮かばないのは確かだ。
そんな事を話していると、エースを見つけたフレイムルーラーが手に纏う炎を火炎放射器のように飛ばして来る。
けれどもその攻撃は対策済みだ。
俺はオウムガイの触手を床から顕現させ、炎が上に逃げるように道を作る。
「むっ、不味いな。」
足音が響きそれに反応したエースが俺の頭を掴むと、床スレスレまで下げさせる。
「何すんっ⁉︎」
頭の真上を氷の刃が通り過ぎ、オウムガイの触手がスパッと切り裂かれバラバラになり、形を保てなくなった触手は霧散する。
振り向くと右手に氷の剣を持ち、そちらの手の炎は鎮火している。
「運の良い賊が、その運いつまでも続くと思うなよっ!」
フレイムルーラーは剣を高く振り上げる。
けれども、完全に注意が向いてる今がチャンス。
俺はフレイムルーラーの足元へ触手を顕現させると絡ませ、今度こそ前へと転倒させる事に成功する。
直後、転倒し起き上がろうとするフレイムルーラーの頭上に空間跳躍したエースは、両手を組みダンクシュートを決めるかのように仰け反り、両手を振り下ろす。
「圧壊重拳ッ!」
起き上がろうとしたフレイムルーラーの顔面は、氷の床を叩き割り数センチ埋まった。
何が決定打が無いだ。
勝った。
そう確信させる程の威力だった。
「っ!少年盾だっ!」
言われるがままに俺は触手を盾として出し、そこにエースが滑り込むと、直後に猛吹雪からの熱波、凄まじ蒸気で辺りが真っ白になる。
「またこれかっ。」
「下手に飛び出れば茹で蛸となるだろうな。」
「誰がタコだっ!」
「いちいちそのワードに敏感過ぎないかね?」
「…。」
最早条件反射なのだ。
長年生活の間に刷り込まれたそれは、自分でどうにか出来るものではないと理解して欲しい。
「此処にいたか、賊どもっ!」
俺たちの声を拾ったフレイムルーラーが、盾として出した触手を鷲掴みにし、炎を纏う手によって触手がじゅうじゅうと音を立てて焼かれているのが分かる。
「焼け死ね。」
触手の上から覗く顔は完全に平面に潰されており、辛うじて口と思わしき部分が分かるのみだ。
そして、その口には光の塊が膨大な量の光を集め続け、その熱量により頬から水分が奪われ、氷の床は溶け出し辺りが水浸しになるがその水は生温い。
「マジかよ…。」
今何が目の前で起こっているが理解できるが、本能が理解することを拒否している。
だが、放たれるはずの光の奔流は流れる前に、人間を超えた速度でフレイムルーラーを蹴り上げたヒガさんによって止められる。
「悪りぃがタイムアップだ。」
「オクトッ!触手を退かしてっ!」
裏から響くシズトの声を捉え、俺は壁として出していた触手を霧散させる。
「手加減は無しだよっ!無刀抜刀……っ!」
シズトの最期の一枚が炎に焼かれ、炭化するとシズト魔力の余波が更に上昇する。
「龍翔鳳止っ!」
シズトの手刀による突きが龍のように畝る風を巻き起こし、突きの状態から切り上げる手刀が炎の鳥、いや、不死鳥を生み出し、龍の風がフレイムルーラーを捉え絡みつき、そこへ炎の不死鳥が直撃し炎の渦が生まれる。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ⁉︎⁉︎」
フレイムルーラーの絶叫が止むまで炎の渦は畝り続け、炎の渦が消え去るとそこから地面へ、炎に溶かされ小さくなったフレイムルーラーがただ落下するだけであった。
お読み頂きありがとうございました。