4.23章
お待たせしました
4.23章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「はい。これで大丈夫。」
一先ず魔物の群れを退ける事に成功した俺たちは、一旦宿に戻りシズトの回復魔法で腕を治療して貰っていた。
「おお、サンキュな。」
紫色に変色していた腕はすっかり血色を取り戻し、右手を何度も開いたり握ったりして、指先の感覚を確かめると何の問題も無く動かせる。
「どういたしまして。」
「全く、無茶をするのは良くないのですわ。」
クックがお小言を呟く。
さっきまで、怪我人の俺より青い顔をしていた癖に。
だいたい元はといえば、コイツが変なフラグを立てるからであって。
…まぁ、良いか。
「ふむ、そのボロボロの様子を見るに、随分と手酷くやられたようだな少年。」
扉を押して入ってきたのはエースとドグたち三姉妹だった。
「Mr.ヒガはまだ戻っていないようだな。」
あ、年上の人だとそう呼ぶんですね。
エースは店内を見回す。
「お〜、呼んだか〜。」
エースがヒガさんの名前を口にすると、タイミング良くベロベロに酔っ払ったヒガさんが戻ってきて、声に気づいたツクシが駆け寄る。
駆け寄ったツクシはヒガさんに抱き着くと、頭をグリグリと押し付け、ヒガさんもそんなツクシの頭を撫でる。
「お〜、ただいまツクシ〜。」
「お帰りなさい。」
「完全に一児のパパだな。」
「微笑ましいのですわ。」
「そうだね。」
俺たちが命を懸けて守ったのが、この微笑ましい光景だと言うなら、ちょっと誇らしいく思える。
「ふむ、Mr.ヒガがあの様子では、まともに情報共有する事も出来まい。」
「俺たちだけでも、話を纏めとくか?」
「その方が良かろう。」
俺たちは戦った黒いスライムや、影魔法使いと透明化魔法使いの二人、そして、四天王ロキの事をエースに伝える。
エースの方はと言うと、特に魔王関連の敵は現れていないようで、持ち場を片付けたエースは防衛ラインの真ん中まで赴き、周辺の魔物を難なく倒したらしい。
此方よりも向こうが早く片付いていたのは、エースが頑張っていたお陰という訳か。
「ふむ、ロキ=ライトニングか…。」
足を組み、腕まで組んだエースは背もたれに深く体を預けながら意味深に呟く。
「なにか気になるのか?」
俺が質問すると、「いや、あくまで推論の域を脱しないのだが。」と歯切れ悪く言葉を続ける。
「あの影魔法使いたちが笑勝商会と繋がっていた事を考えると、そのロキと言う四天王は、この国の裏の人間たちとコネクションを持っている可能性が有るとワタシは考えていたのだ。」
それもそうだ。
影魔法使いたちは正に言いなりの人形そのもので、あの様子だと、笑勝商会の一件が影魔法使いたちの独断とは考えづらい。
けれども一体何の為に?
俺がない頭を捻って考えていると、俺が思いつくより先にシズトが口を開く。
「彼の言葉から推理するけど、多分、楽しみたいだけなんじゃないかな?」
「楽しみたいだけ?」
聞いた言葉に耳を疑い、二度聞きしてしまう。
「そう、仲間の事も僕たちの事も演者って言ってたし、つまらないや楽しませろーみたいな事を口走ってたけど、それが本心なら彼は、自分の事をを演出家だとでも思ってるんじゃないかな?」
シズトの言葉は妙に説得力がある。
あのロキとか言う魔物が言っていた「本来なら手を出したく無かった」って言葉も、自分が演者を操る演出家の立場とでも思ってるなら、自分がステージに立つのは確かに不本意だと捉える事が出来る。
それに裏の人間と繋がってるのも、舞台作りの一環と考えればなんら不思議でも無い。
ロキの行動原理は偏に自分が楽しむ為。
その為になら他の何が犠牲になろうと構わないという訳か。
「四天王ロキ、その相手をワタシに任せたまえ。」
「エース?一体どうしたんだ?」
全ての話を聞き終えたエースが、突然そんな事を言うので面をくらう。
「なに、ロキとやらにちょっとした灸を据えなければならないと思ったのだ。」
灸を据える?
その言葉に首を傾げることしか出来ない。
「それに、裏の人間と繋がっていると言うなら話は簡単だ。怪盗ついでにそれら全てを潰して回れば良い。」
エースとドグ姉妹の情報収集能力は本物だ。
街に潜む裏組織の情報を手に入れる事など造作もない事だろう。
「…適任ではあるな。分かった任せる。」
「僕も同じ意見です。」
「では、今日はここまでとしよう。少年たちよ、しっかり休息を取り、英気を養うと良い。」
「言われなくてもそうさせて貰うよ。」
俺は椅子を引いて立ち上がる。
「僕もカーメイが心配だし、部屋に戻らせて貰うね。」
そう言えばアイツ、風を引いていたんだったな。すっかり忘れていた。
そんなこんなで、その場は解散となり、全員がそれぞれの部屋に戻って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻ると、何もやる気が起きないのでベットに倒れこむみ、手足の力を抜いてから一言。
「クック、何でいるんだ?」
今が何時だか曇ってるせいでいまいち分からないが、正直疲れてるから寝てしまいたいのだが。
顔だけ横に向けながらうつ伏せの状態で問いかける。
「お説教と言ったはずなのですわ。」
正直怒られるような心当たりが無いのだが。
「…後にしてくれないか?」
「いいえ、今なのですわ。」
俺がこんなにも必死に懇願していると言うのに、俺の願いは突っぱねられた。
「最近のオクトは私に対する扱いが雑なのですわ。」
「えっ?それお前が言う?」
雑な扱いを受けてるランキングを作れば、カーメイに続いて二位につけると自負があるぞ。
その内カーメイが殿堂入りするから、実質俺が一位みたいなものと言っても過言じゃない。
あまりの予想外のクックの文句に、眠いのも相まって素で返してしまう。
「馬鹿だのポンコツだの、全くアナタは私をなんだと思っているのですわ。」
「ポンコツお嬢様ですわ。」
「っ!また貴方は…ですわっ!」
しまった、眠すぎて頭が回らない。
ヒートアップするクックと比例するように眠気が強くなり、ウトウトと意識が何度か落ち掛ける。
「仲間として見てくれてるのは凄く嬉しいのですわ。ですが、山で遭難しかけた時に抱きつけとか、その……、もう少し異性として見てくれても良いのではないかと思うのですわ。」
女の子としてみてるし、意識してるぞ。なんて言葉、小っ恥ずかしくて死んでもそんな事口に出来ないので、別の言葉を口にする。
「じゃあもっと異性らしい行動で示して貰えますかね?」
まず恋人や家族でも無いのに男部屋に一人で来るなど、異性らしいとは言えないだろ。
確かに仲間ではあるが、そういった所にはしっかりと一線を引くべきであって、いや、クックの警戒心が薄いのは俺の努力の賜物でもあるのか?
まぁ、眠いから出て行って欲しい言い訳だが。
「異性らしい行動…なのですわ…。」
もうそこで悩んでる時点で、乙女として救いようが無いんじゃないか。
あぁ、ダメだ。
下らない事を考えていたせいで余計眠くなってきた。
「わっ…、分かりましたですわ。異性らしい行動…して差し上げましょうなのですわ…って、オクト?寝てしまったのですわ?」
クックが何か言ってる気がするけど、頭が理解しようとしてくれない。
俺はそのまま意識を睡魔に委ねた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「う゛ぅん…、やべ、寝落ちてた。」
クックの奴、相当怒ってるだろうなぁ、面倒くさい。
まだ朝じゃないみたいだし、不貞寝しようと枕を搔きよせようと手を回すと、「ひゃんっ。」と声が聞こえ、手にはムニムニと枕らしからぬ触り心地の良い感触が返ってくる。
「何だこれ?」
ムニムニとした感触の答えが分からず、数度も揉んでから「ひゃっ、そこはダメですわ…。」と声が聞こえる。
その瞬間、俺の意識レベルは四天王と対峙した時と同じレベルまで一気に覚醒し、手を離し頭を持ち上げよとすると、頭に柔らかい感触がぶつかり、「きゃっ。」と高い声が聞こえ、それに動揺した俺は前に倒れこむと、枕とは違った柔らかさが俺の頭を包む。
その感触が何かを理解した俺は、直ぐに両手をベットに着き体を起こす。
場合によっては俺がクックを押し倒しているようにも見えなくも無い。
「な…、何してんだ…クック…?」
冷静に返すが、俺の顔は今までにないくらい熱く火照っており、顔が真っ赤になっている事は自覚している。
「あっ…、貴方が異性らしい行動と言うから、お母様がお父様にしていたように、膝枕というのをしていたのですわ。」
そう言うクックの顔は赤く染まっている。
顔が真っ赤になるくらい恥ずかしいならやらなければ良いのに。
と言うか、クックの親父さんはいい年こいて何してんだよ。
「こっ、これで異性という事をご理解頂けたのですわ?」
相当恥ずかしいだろうに、クックは気丈に振る舞う。
成る程、そういう事か。
充分睡眠を取った頭は、この状況を飲み込む。
つまり、異性らしい行動を示せで、膝枕という結論を出したのかこのポンコツは。
オーケー、此処でクックの誤解を解くと間違いなく平手が飛んでくる。
かと言って、この先どうするべきかなど、俺に分かるはずが無い。
アンサー、詰み。
待て、打開策が何かあるはずだ、ほら、此処はカッコよくクックが頑張った事を褒めて、自然な流れで体を退けて、平手の範囲外まで逃れるんだ。
そうすれば、クックのプライドも傷つかず、俺の顔面にも傷が付かない。
QED正面完了。
「クック…。」
俺は右手をクックの頬に添えようと手を伸ばす。
その瞬間、後ろでガチャリとドアノブが捻られる音がする。
しまった、寝落ちたせいで鍵なんて掛けて無い。
「オクト君クックちゃん〜。夕ご飯の時間だぜ〜、みんな待って…あらあら〜、まだそうゆうのには時間が早いんじゃな〜い?」
部屋の扉を開けたラビが、口元に手をやりニヤニヤと笑う。
「まぁ、そういう事ならラビに任せて〜、皆んなには上手〜く言い訳しとくから〜。」
「ちょっ、違っ、待てっ。」
だが、ラビはバタンと扉を閉めて離れて行った。
そして、クックの方へ目を向けると、ようやく自分が何をしでかしたのか理解したのか、顔が更に真っ赤になって、なんなら恥ずかしさのあまりか、目端に軽く涙まで浮かんでいる。
「落ちつ、ぶへぇっ⁉︎」
ばちんっと乾いた音が部屋にこだまし、俺を押し退けると、クックは部屋を飛び出して行った。
「いっつ。」
はぁ、今だけは外が寒い事に感謝だな。
俺は部屋の木窓を開けると、火照った顔とひりつく頬を夜風に当て冷やすのであった。
お読み頂きありがとうございました。