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4.22章

お待たせしました。

4.22章投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

「シズト、群れの方はどうしたんだ。」


 空から登場したパンイチの変態(シズト)に俺は質問する。

 確かシズトは真っ先に魔物の群れを食い止めに向かったはずだ。

 そのシズトが此処に居て大丈夫なのか。


「死んだはずのロック=ロックの姿を見たからね。流石にのんびりしてられないから、急いで上位種だけ片付けて来たよ。」


 このチート野郎め。

 さも当然の様に言いやがる。


「まっ、この様子だと応援は要らなかったみたいだけどね。」


「いや、助かった。もう少しで逃げられる所だった。」


 爆炎が巻き起こした煙を睨みつけ、次第に煙が薄くなり姿が見える。


「ゴホッゴホッ…、貴様らどこまでも邪魔を…っ!」


 その声はさっきまで聞いていた声だ。

 けれども目の前で咳き込むの者は、スライムの姿などしていない。


「人…だと…?」


 煙が晴れ見えた姿は、俺と同じくらいの歳の男の裸体。

 立つこともままならないのか、四つん這いで吸い込んだ煙を吐き出そうと咳き込んでいる。


「違うっ!僕はいや、私は変幻自在の最強無敵のスライムなんだっ!」


 ムキになって叫ぶその姿はやはり同年代の男の姿としか思えない。


 人の姿をしている理由は分からないが、攻撃の手を緩める訳にはいかない。

 目の前のソイツは魔王の情報を持っているのだ。

 捕まえられるものならば、捕まえて何としても情報を吐かせたい。


 俺は触手を伸ばし捉えに掛かるが、触手は地面から飛び出した黒い影に刺され阻まれる。


「なっ、この魔法っ!」


 見覚えがある。

 この魔法は『笑勝商会』で見た魔法だ。

 影の伸びて来た方を辿ると、黒装束の人物が立っていた。

 二人逃したと聞いたが、何でこんな場所に居て、しかもスライムの味方なんてするんだ。


 影魔法使いは、人の姿になったスライムに近づき肩を貸すと起き上がらせる。


「オクトっ、逃がさないでっ!」


 この場でも冷静はシズトは直ぐに俺に指示を出し、俺は二人を捕まえるために触手を伸ばす。

 それと同時にヒュンッと風切り音が聞こえたと思ったら、次の瞬間に俺は何者かに蹴り飛ばされ地面へ転がる。


「ぐへっ⁉︎」


茶々と殺す(アタックキル)。」


 ガキンッと甲高い音が3回響き、突如虚空から現れたナイフが、俺を蹴り飛ばした人物の手によって、刀身が根元から叩き折られ弾き落とされる。

 この突然現れるナイフにも見覚えがある。確か、透明化魔法の使い手が使ってた攻撃手段だ。


「間に合った。」


 俺を蹴り飛ばしたサファイアは満足気に呟く。


「痛たた…サファイア、ナイフを壊せるなら蹴り飛ばす意味あったか?」


 遠慮無しに蹴られたせいで、脇腹が無茶くそ痛いんだけど。

 元気に見えるかもしれないが、俺は右手に重症を負ってるんだぞ。


「危なかった。」


「いや、それは助かったけどな。」


 俺の扱い雑くない?

 ちょっとショックなんだけど。


「漫才は後にして、オクト早く捕まえてっ!」


「分かってるよっ!」


 やっぱり雑くない?

 シズトの言葉に荒々しく答えると、気を取り直し、俺はもう一度ど触手を伸ばしに掛かる。

 だが、同じように影魔法使いの影が伸び、刃物のように飛び出すと、俺の触手を下から貫き縫い止める。


「僕も出る。援護してっ!」


 状況を見て言えっての。

 俺は影に縫いとめられた触手を諦め、新たに触手を伸ばし、シズトと並走させる。


「サファイアっ、見えない敵は任せたぞ。」


「ん。」


 その言葉にサファイアが俺と背中合わせになるように構える。

 背中を守るのが元白金冒険者とは頼もしい。

 俺は目の前の敵に集中することが出来る。


「影法師っ!」


 影魔法使いが叫ぶと、影魔法使いの影から人影が立体的に浮かび上がり、その人影から手が伸びシズトへ迫る。


「邪魔はさせねぇよっ!」


 シズトに並走させていた触手を更に速度を上げ伸ばすと、その人影に触手を絡ませ、伸びる人影の手を絡みとる。


「そのまま捕まえといてっ、光の鉄拳(シャインインパクト)ッ!」


 シズトが拳に光魔法を纏わせて、影の広がる地面を叩くと、地面に染みのように広がっていた影は砕け散り、俺が掴んでいた人影も消え失せる。


 それを確認し終わる前に、俺は触手を伸ばし、シズトも黒いスライムの元へ駆け寄る。


「っ!討ち取れっ影武者っ!」


 再び影魔法使いが叫ぶと、足元の影が広がり、そこから甲冑姿の影が現れ、影によって作り出された刀を真横に振るう。


「っ!無刀抜刀、瞬閃っ!」


 シズトのオリジナル魔法、無刀抜刀。

 シズトは己の素手を刀に見立て、刀よりも頑丈な右手を鋭く振るい、光を纏うシズト右手は影の刀を下から切り上げる。

 影の刀はシズトの刀に撃ち負け、刃先が切り落とされ上空を舞う。

 その一撃は影武者にも及んでおり、形を保てなくなり霧散する。


「「届けっ!」」


 俺とシズトの声が重なり俺は触手を、シズトは右手を伸ばす。

 もう少しで手が届く。


 その時、俺がそれを感じ取れたのは最早奇跡だろう。

 手が届く直前で、俺はシズトの腹に触手を巻きつけると一気に引き戻す。


 直後、空から落ちる光の爆撃。


 地面へと直撃した轟雷は、鼓膜と大地を揺らし聴覚と視覚を奪う。


 耳鳴りが止み真っ白になった視界が戻ると、雷が落ちた方へ目を向ける。


 落雷と共に現れたのは、顔はしわくちゃの猿のようで、丸太のように太い腕は縞々のトラ柄の毛並みをしており、尻には蛇の尻尾が伸びている。

 二本足で立つそれは、毛皮が覆っているであろう更にその上から、貴族たちが着ていたような豪奢な服を着ているのだから違和感しかない。


(ぬえ)…。」


 隣まで触手で引き戻したシズトが、それの顔を見て呟く。

 鵺とは確か日本の妖怪の名前だったはずだと、うろ覚えだが記憶にある。


「お初にお目に掛かる。吾輩は四天王、迅雷(ロキ)()遊戯者(ライトニング)。」


「「っ⁉︎」」


『四天王』、その言葉に俺とシズトは動揺を隠せない。

 だが、俺たちに喋りかけているのに、まるで俺たちの意思などどうでも良いとばかりに、ロキと名乗った魔物は言葉を続ける。


「此度は吾輩の演者が世話になった。本来であれば手出しをしたく無かったのだが、此処で死なれては吾輩がつまらない。」


「ロキィ…、貴様に助けを求めた覚えは無いぞ…っ。」


「今は吾輩が話しているのだ。無惨、それを黙らせろ。」


「影縛り。」


 影魔法使いはロキの命令に従い、影魔法使いの影が黒いスライムだった男に広がると口を覆う。


「無識、戻れ。」


 その言葉にロキの隣に影魔法使いと同じく、黒装束の人物が虚空から姿を現す。

 恐らくアレが、さっきまでサファイアが相手をしていた透明化魔法の使い手なのだろう。


「此度は此処までとさせて頂く。次に会う時にまた楽しませてくれ勇者。」


 やはり此方など眼中に無いのか、ロキは踵を返す。


「待てっ!」


 俺は触手を伸ばし、何としてもあの黒いスライムを捕らえようとする。


「紫電。」


 ロキは視線をチラリと向けると、左手から紫の光が発生し、その雷は触手に触れ触手を伝い蛇のように迫る。


「不味っ⁉︎」


「無刀抜刀、居合っ。」


 シズトは手刀で咄嗟に俺の触手を切りとばすと、行き場を失った紫色の光は弾けて消え、同時に切り飛ばされた触手も霧散する。


「悪い、助かった。」


 あのままでは感電する、いや、感電以上に嫌な事が起こる予感がした。


「良いよ。それよりも相手は四天王だ。二人とも絶対に油断しないで。」


「ああ。」

「ん。」


 シズトは髪留めを外しポニテを崩すと、拳を構え、それに倣い俺も腰から触手を顕現させ直し、いつものスタイルで構え、サファイアも同じくナイフを構える。


「此処で(うぬ)らに死なれては吾輩としてはつまらないのだが。」


「まるで勝つのが当然みたいな口ぶりだな。本当に一人で勝てると思ってるのか。」


 だが、そんな俺の挑発も届かないのか、顎に一考した後、ピンと鋭い爪の生える指を俺たちの後方に向かって指す。


(うぬ)らは何を守りたい?」


 ロキが指差すのは村の方向。

 村にはクックや冒険者の他に、カーメイや戦いとは無縁な普通に暮らす人たちがたくさん残ってる。

 そこにさっきの雷を落とされたら、何人死人が出るか想像もつかない。


「村が人質って訳か、くそっ。」


 俺は大人しく触手を消し、シズトも構えを解き、サファイアもナイフを鞘へと仕舞う。


「それで良い。素直な演者は実に吾輩好みだ。」


 ロキはそのしわくちゃの顔でニンマリと笑顔を作る。


「無惨。」


「影船。」


 ロキが影魔法使いの名を呟くと影魔法使いが魔法を発動させ、ロキを含めた敵対者全員が影魔法使いの影の中へと沈んで行き、その影は地面を滑るように動き出し、森の奥へと消えて行った。


「くそっ!」


 魔王の情報を手に入れる好機だったのに、まんまと逃げられてしまった。

 遣る瀬無い気持ちに、地面を蹴り八つ当たりをする。


「落ち着いてオクト。あれは最善の判断だった。」


 髪を結び、服を着込んだシズトが俺を宥める。

 シズトが俺に声を掛けると同時に、サファイアも同感なのか、俺の服の袖を引く。


「…悪い。」


「ううん、僕も同じ気持ちだから。寧ろオクトが怒ってくれてスッキリしたよ。」


「ん。」


「オクトの怪我も酷いし、さっさと戻って治療しよう。」


「そうだな。」

「ん。」


 いつのまにか脱げていたフードを深く被り直し、俺たちは魔物群れを退(しりぞ)け、勝鬨の声を上げる、冒険者たちが待つ塹壕へと戻るのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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