4.21章
お待たせしました。
4.21章投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「ふざけんな、巨岩の無頼漢は死んだはずだろっ⁉︎」
俺は目の前に立ち塞がる巨体に叫ぶ。
「その通りだ。だから有効活用させて貰っただけだ。」
死んだのがその通りだと?
だとしたら俺の前に立つ巨人は一体なんなんだ。
目の前の巨体の顔は四天王、巨岩の|無頼漢《ロックそのもので、倍化魔法を使用していないのか、普通の巨人族の倍くらいの大きさだが、それでも俺より遥かに大きい事は確かだ。
それにさっき言った有効活用という言葉も気になる。
偽四天王の言葉に俺は思考をフル回転させる。
だが、目の前の偽四天王は俺に考える暇を与えてくれない。
「確か、コレの魔法は倍化魔法だったな。」
偽四天王が呟くと同時に、風船が膨らむように右腕だけが膨張する。
「潰れろ。」
ズゴゴゴゴゴと地面を掬いながら迫る右腕が無慈悲に振るわれる。
俺は触手を地面から生やすとジャンプ台にし、空中へと跳び上がり腕を避けると同時に偽四天王の両目に向かって、触手で掴んだ竹串を投げ槍のように投擲する。
「よっしゃ。」
竹串で両目を潰した俺は、触手を偽四天王の手足に巻きつけ拘束しにかかる。
「小手先技だけでは、私は倒せないぞ。」
着地した俺は見上げると、両目に竹串を突き刺したまま此方を見下す顔があった。
見えていないはずなのに、まるで睨まれているかの様な圧迫感に思わず頬が引き攣る。
「そんな顔で凄まれてもシュールなだけだぞ。」
「強がっているのが丸わかりだ、勇者。」
差し込まれた竹串は両目にズブズブと沈んで行き、完全に飲み込まれると両目は元の形に復元された。
「それと、これで私を捕まえたつもりなら勘違いも甚だしい。勇者とはこんなものなのか?」
突き刺さった竹串の末路と同じように、拘束しているはずの触手は偽四天王の体内へと沈んで行き、ジュウジュウと煙を上げながらドンドンと溶けて行く。
「まじかっ、ありかよそれっ。」
拘束を完全に溶かした偽四天王は、俺を蹴り飛ばそうと自由になった足を持ち上げ、その爪先が迫り来る。
俺は咄嗟に腰から触手を後ろに伸ばし、後方へ逃れようとするが、受け止めるのが正解だった。
倍化魔法により突如巨大化した爪先が俺の腹に減り込む。
「なっ、ぶふぉっ⁉︎」
俺は爪先に巻き込まれ、砲弾並みの速度で天高く蹴りあげられる。
「カハッ⁉︎ハァハァハァッ…!」
俺を空へ飛ばすGが消え、自然落下が始まる事によりようやく呼吸が出来るようなった俺は、必死に空気を肺に掻き込みなぎら下を向く。
「手加減無しかよっ。」
偽四天王の両腕は落ちる俺を、さながらピッチャーフライをキャッチするかのように、手をグローブのように広げると、更に倍化までさせて待ち構えている。
このままでは溶かされるか、握りつぶされるかの二択だ。
俺は腰の触手を一旦消すと、新たに衣ダコの触手をウイングスーツの様に脇と足の間に顕現させ、ムササビのように滑空を始める。
何とか態勢を立て直した俺は、風を掴む触手の膜を利用し、偽四天王の腕スレスレを滑空して避け巨体の裏を取る。
そして、高度を失い地面ギリギリを低空飛行し墜落する前に、新たな触手を顕現させ、体を丸めると同時に反転し、触手を地面に突き立て思い切り踏ん張りながらブレーキをかける。
「ふんっん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ!」
触手の先が地面を削ると同時に、触手自身も削られながらなんとか、止まる事に成功した。
だが、息つく暇など無い。
俺は弾かれた様にスタートすると、触手を腰から顕現させ、走りながら一回転し触手を思い切り、偽四天王の足へと叩きつける。
触手は狙い通り足へヒットし、雷でも落ちたかと思う程凄まじい音を響かせるが、その先が無い。
転倒を狙ったのだが、見た目通りの重量を持つ巨体は動くはずも無く、叩きつけた触手にはまるで水面を叩いたかの様な感触が返って来るだけ、その挙句にじわじわと触手が溶けてさえいる。
「くっそ、どうしろってんだよ。」
溶けた触手を消し顕現させ直した俺は、やけくそになって叫ぶが、答えの代わりに後ろにいる俺に偽四天王の踵が迫る。
「うわっと。後ろに目でもついてんのかよっ。」
また跳ね上げられては堪らないので、俺は横へ飛び退く事で難を逃れる。
「貴様は何を勘違いしているんだ。スライムの私に目などある訳無いだろう。」
振り返った偽四天王は両手を組み俺へと振り下ろす。
「そういえばそうだったなっ。」
偽四天王の攻撃範囲から逃げながら声に顔を上げると、その口は飾りでしか無いのか動いてすらいない。
つまり、目の前の偽四天王は何処からでも見えている訳だ。
バゴンッと音が響き、地面が偽四天王の両手の手形を残す。
「くそっ、本当にスライムなのかよ。」
「何度言えば貴様は理解するのだ。私は変幻自在にして最強スライムだ。愚かな貴様には少し難しかったか?」
何がそこまでさせるのか、随分と煽ってくれやがる。
それと、自称が前より一つ多かないですかね。
それよりも、スライムという事も相俟って打撃が効きづらいのが難点過ぎる。
俺にも鋭い攻撃があれば良いのだが、あいにく触手ではそんな芸当出来はしない。
触手を細く顕現させて、鞭の様に思い切り振り回すという手も無くはないが、あの偽四天王の肉を削げるかどうかは話が別だ。
そもそも目の前のコイツはスライムな訳だ。
だとしたら弱点の核があるはずなのだが、一体核はどこにあるのだか見当もつかない。
姿、色、形は四天王のロック=ロックそのもので、違うのは声色くらいだぞ。
核なんて見えるはずが無い。
「なんだ、降参か勇者。ならとっとと死ね。」
偽四天王は地面に着いた両手を、爆発でもしたのかという音を立て更に地面へ沈めると、俺の足元から地面が太い針の様に鋭く隆起し飛び出す。
「っぶなっ⁉︎」
俺は上半身を逸らし避けるが、その攻撃は一撃で終わらない。
二本、三本と隆起して襲いかかる針を転がる様に避け続けると、辺りは針山の様になっていた。
だが、その針のおかげで一先ず身を隠す事が出来た。
呼吸を整えながら俺は状況も整理し、打開策を考える。
まずアイツは土魔法まで使えるということだ。
シズトから土魔法の事は聞いてはいたが、だとするとコイツ…、硬化魔法も使える可能性があるな。
硬化で斬撃まで防げるとなると、ますます手に負えないぞ。
何か弱点はと探るため、俺は針山の影から偽四天王の様子を隠れ見る。
だが、そこには居たはずの巨体の影すら無い。
「消えただとっ⁉︎」
シズトから姿を見えなくする魔法を持っていたなんて話を聞いていない。
あのロック=ロックの魔法は巨大化魔法、倍化魔法、土魔法、硬化魔法の四つだけだったはずだ。
俺が姿を眩ませた巨体を探していると、ズルズルときぬ擦れの様な音がし、そちらに振り返ると1匹の魔蛇がいた。
魔蛇と視線が合った瞬間、魔蛇は体をバネの様に使うと飛び掛かり、一気に距離が詰められる。
出遅れた。
けれども反応が間に合う。
俺は腰から伸びる触手で魔蛇をはたき落とそと振るうが予想外の事が起きる。
その魔蛇の姿は空中でグニョグニョと蠢くと形を変え、白い魔狼へと変化すると、触手を踏み台にその鋭い歯の並ぶ顎門が目前に迫る。
「っ⁉︎」
理解の及ばない現象に声を上げる事すら出来ない。
俺は咄嗟に魔狼の顎門を、右腕を差し出す事で防ぐ。
これで自分の首は守れる。だが、その行動と判断には当然代償が伴う。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
魔狼の歯が俺の右腕に喰い込み、噛み付かれた箇所から鋭い痛みが走り、更に氷魔法まで使っているのか、痛みに悶絶している間にどんどんと氷ついていく。
「離せっ、このっ!」
触手で魔狼の鼻先と顎を掴んで引っ張り、無理やり引き剥がし魔狼から飛び退く。
噛み付かれた腕は紫色に変色し、二の腕から先の感覚が全く無い。
一点幸いな事があるとすれば、傷口を凍らされたせいで血が流れていないという事だけだ。
「私からのプレゼントだ。気に入ったか勇者ァ。」
喋れるはずのない魔狼から憎たらしい声が聞こえ、俺も状況をようやく理解する。
「テメェ、あの黒いスライムか。」
動かなくなった右腕を抑えながら俺は吠える。
「正解だ間抜け。」
グニョグニョと粘土を揉む様に魔狼の形が崩れると、種明かしでもしてるつもりなのか、初めに見た黒いスライムの姿に戻る。
「随分と煽ってくれるじゃねぇか。そんなに俺の事が嫌いなのかよ。」
少しでも余裕に見せる為、激痛に脂汗を垂らしながらも俺は冗談を口にする。
「あぁ、嫌いだ。人間は大嫌いだ。特に人間の中でも貴様ら勇者はな。」
瞳などあるはずが無いのに、憎悪が篭った今にも射殺す様な視線を感じ、心胆が冷える思いだ。
勇者関連の話題は地雷だった様で、黒いスライムから濁流の様に言葉が溢れ出す。
「貴様ら勇者を見てるとズキズキ頭が痛むのだ。私の中の何かが叫ぶのだ。吠え狂うのだ。頭が砕けそうな程にだ。」
「その頭が見当たらなんだがな。」
「なら、代わりに貴様の頭を砕いて、私のこの痛みを和らげよう。」
「砕かれんのはテメェの方だろ。今すぐ核ぶち抜いてやるよ、雑魚スライム。」
「抜かせ勇者、たとえ貴様が五体満足であろう勝機は無い。」
黒いスライムは再びグニョグニョと波打つと、ロック=ロックの姿を取る。
俺は竹串を4本抜くと、腰から伸びる触手で持ち、更に竹串に『とある触手』を巻きつける。
「これで終わりだ勇者。潰れて死ねっ!」
倍加した偽四天王の拳が唸りを上げて迫る。
俺はその拳に向かい、触手を巻きつけた竹串を投げるが、偽四天王は所詮竹串と警戒心すら見せず、竹串は予想通り軽く刺さると飲み込まれる。
「無駄だと分からないのか、哀れなものだな勇者っ!」
俺は触手を地面から顕現させる事により、偽四天王の拳を受け止めにかかる。
巨大化魔法なら止めるのは不可能だった。
いや、以前までだったら倍加魔法の攻撃ですら止められなかっただろう。
けれど今は違う。
触手魔法しか使えない俺の魔法のレベル必然的に上がる。
「悪いが打撃系は得意分野なんだよ。」
触手が偽四天王の直撃を受けると、衝撃を逃がすために触手の表面が何度も波打つ。
そして、偽四天王の拳は完全に止まる。
「一撃止めた所で調子に乗るな勇者。このまま溶かしてっ⁉︎⁉︎⁉︎」
溶かすと放った言葉と共に溶けたのは偽四天王の拳の方だった。
ボトリと溶け落ちた拳は、姿を黒い液体に変え地面に広がる。
俺は目の前の盾として顕現させていた触手を霧散させると、更に竹串を全て放ち偽四天王の四肢に打ち込んで行く。
すると、偽四天王はそれを嫌がるかの様に、自らの意思によって切り離すと、ボトボトと黒いスライム体に戻りべちゃりと地面へと落ちる。
「貴様ァァァッ、『毒』を盛ったなぁっ!」
四肢を失います体を保てなくなったのか、残った体で魔狼の姿に変化すると、狂ったように吠え猛る。
「正解だよ間抜け。ようやく気づいたのか。」
そう、俺が竹串に巻きつけたのはクラゲの触手。
竹串が偽四天王の体に直撃した瞬間、猛毒を含む毒針が触手から飛び出して、スライムの体を蝕んでいたのだ。
本当は毒で仕留めるつもりだったのだが、感の良い事に直ぐに気付かれ、自分の体を自分で切り離すのは誤算だった。
「覚悟しろスライム。こっからは俺のターンだ。」
「おのれ勇者ァァァァァァァァッ!次は…、次は貴様を必ず殺すっ!」
叫んだスライムは魔狼の姿から最初の黒いスライムに戻ると、黒い霧状になって行く。
「なっ、テメェ此の期に及んで逃げる気かっ!」
せっかくここまで追い詰めたのに、俺には目の前の黒いスライムを捉える手段が無い。
「私は此処で捕まる訳にはいかないのだっ。勝負は預けたぞ勇者ァァァァッ!」
スライムは完全な霧になると、その霧は空中へ逃げようとする。
「逃がさないよ。」
空から降る声と共に起こった現象は爆炎。
「オクト、来ちゃった。」
「今そんな冗談は求めてねぇよ、シズト。」
パンイチの男が彼女の様なセリフで登場したのであった。
お読み頂きありがとうございました。