4.19章
お待たせしました。
4.19章、投稿させて頂きました。
お読みいただければ幸いです。
「おいアレ、あの白いの、ゴブリンじゃないか?」
「白い魔猿かもしれないぞ。いや…、白い魔猿も見た事無いけど…。」
「白い魔狼もいるぞ。」
「あの左右のデケェ角は魔鹿か?角が凍ってるようにも見えるが。」
「白い魔狐まで、綺麗だわ。」
冒険者たちは、森から姿を見せる魔物たちを見ると、それぞれが自分の知識の中にいる魔物の姿に重ねていく。
そして、冒険者たちから聞こえる言葉のどれもが、『初めて見る』と言った意味合いが込められて聞こえる。
俺も魔物たちの姿を確認するが、群れの中には、まだウルフリーダーや魔熊などの姿は見えない。
「姿に惑わされるなっ!冷静に対処しろっ!」
フォートの怒声が戦場に響き、それを合図に冒険者たちは武器を構え、明確な殺意を発する。
「グギャギャギャギャッ。」「グゥルルルルルッ。」「ギャッギャッギャッ。」「キシャーッ。」「ゥワウッッ。」
魔物たちはそんな冒険者たちの殺意に当てられたのか、魔物たちは興奮状態となり一斉に雪崩れ込み、戦いの火蓋が切られる。
「うぉぉぉぉっ、二連斬撃っ!」
1人の冒険者が先陣を切り群れに突っ込むと、足が早く先頭にいた魔狼に向かい、片手剣で剣魔法の二連斬撃を放つ。
二連斬撃は振り下ろしと切り上げを素早く放つ技で、その斬撃はキッチリと魔狼の頭を捉え、同じ場所を深く斬り裂かれた魔狼から血飛沫が舞う。
それを皮切りに冒険者たちは勢い付き、迫る魔物たちを切ったり、殴ったり、魔法を放ったりしながら数を減らしていく。
だが、数の利は魔物たちにある。
「手が足りないっ!こっちの援護を頼むっ!」
その言葉に反応した俺は、塹壕を飛び越え戦場に駆け出す。
声の方向には魔狼たちに囲まれる1人の冒険者の姿があった。
「一、二の、三ッ!」
三の合図で走り幅跳びの要領で飛んだ俺は、状態を後ろへしならせ、着地より先に触手魔法により、触手を顕現させると魔狼の数匹を巻き込むように叩きつける。
「そらっ!」
触手を背中から叩きつけられた魔狼は、一瞬にして縦にひしゃげると、触手と地面にプレスされ圧壊し形を失った。
「悪い手間かけた。」
「いいから戻れ、また囲まれるぞ。」
「おう、そっちも気をつけろよっ。」
俺が助けた冒険者は駆け出すと、防衛線の基点である塹壕まで下がって行った。
だが、見送ってる暇など無い、直ぐに側にいた魔狼が俺に飛び掛かる。
「ガウッ!」
「おっと。」
俺は地面から触手を生やし、首根っこを掴むとそのまま絞めて首の骨を砕く。
「ワァウッ。」
魔狼を倒したのも束の間、高い鳴き声とともに、ソフトボールサイズの氷の塊が飛んでくる。
「氷魔法、やっぱりいたか。」
やはり俺の予測していた通り、氷魔法を使える魔物がいたようだ。
俺に向かって飛来する氷の塊を、触手で難なくキャッチすると呟く。
姿を見るとそれは『魔狐』の姿をしていた。
魔狐とは狐の魔物で、普段見かける個体は炎魔法を得意とし、下級の魔物にしては魔法が得意という珍しい魔物なのだが、今目の前に居る魔狐は見た目通り氷魔法が得意らしい。
「ワア゛ゥッ!」
魔狐は吠えると同時に氷の塊が三つ出現し、俺に向かって三連射される。
「悪足掻きをっ、…するなっ!」
氷の塊を触手で全て受け止めきると、白い魔狐目掛け投げ返すと、その全てが見事にヒットし、魔狐の四肢は力無く投げ出される。
「あっ…、当たった。」
本当はどれか一つでも当たればラッキー程度だったのだが、悲しことに触手魔法を使い過ぎた弊害で、ボールのコントロールは腕よりも触手の方が上らしい。
だが、魔物たちはそんな俺の悲しみを悟ってはくれない。
1匹倒したところで次の1匹が即座に現れ、襲いかかってくる。
「よっと、…それにしても一体ずつ倒してるんじゃ効率が悪いな。」
飛び出してきたゴブリンを軽く瞬殺すると、戦場を見回す。
すると、戦場の奥の方にちょうど良く、人が全くいない場所を見つけ、俺はそこに陣取ると一本の太い触手を顕現させる。
「一気に掃除だ。」
触手をグリンと蜷局を巻くように丸める。
魔物は群れに飛び込んできた恰好の餌だとばかりに、群れを向かわせ集団で襲い掛かる。
「今だっ、吹っ飛べっ!」
ギリギリまで魔物が近くのを待ち、魔物が充分近づいたところで丸めた触手の筋肉を解放し、触手は回転しながら伸びていき、辺りにいた魔物を次々とホームランにしていく。
ただの所見殺しだが、おかげで10匹以上は魔物を倒せた。
いや、たったの十数匹しか倒せなかったと言うべきか。
「うーん、地道に1匹ずつ倒した方が早いかもしれないなぁ。」
1匹ずつか…。
魔物総数は見えるだけでも100はくだらないだろう。
然も随時追加発注のオマケ付きときた。
そしてこちらはと言うと、最初は冒険者と鬼人族が合わせて30人程居たのだが、最初の魔人鳥のせいでその数は半分ほど。
減った人数を考えると一人で最低6匹以上は倒さないと行けない。
上位種の魔物の存在を考えると魔力を温存するべきで、さっきの一撃は明らかな魔力の無駄使いだ。
「囲まれたっ!助けてくれっ!」
どうしたものかと悩んでいるとまた別の所から声が上がる。
「今行きますですわっ!」
俺が助けに向かおうとすると、代わりにクックが駆け出し、クックが見事な手捌きで包丁を数度振るうと、魔物がバタバタと倒れ冒険者が魔物の群れから救出される。
まさに、あっという間の出来事だった。
「オクトッ、貴方こんな時に何をのんびりしているのですわっ!」
俺の視線に気づいたのか、クックが肩を怒らせこちらへ歩いてくる。
「悪い見惚れてた。」
あの包丁捌き、素人の俺が見ても分かるほど熟達された、正に職人の手捌きだった。
「なっ⁉︎いっ、今、なんでそれをいう必要があるのですわ。」
「は?今しか無かったろ。」
「そっそんな…、返事に困るのですわ…。」
何を言ってんだコイツ?
クックはほんのり赤く染まる頬を両手で押さえ、アワアワとやっている。
包丁捌きの腕を褒められたのが、そんなになるほど恥ずかしかったのだろうか?
謙遜などする必要無いのに。
「誇って良い。クック、お前は世界一だ。」
世界一の料理魔法使いだよ。
まぁ、料理魔法で戦闘を行う人物などクックしか知らないのだが。
「せっ、世界一だなんて大袈裟ですわっ。」
「大袈裟なんかじゃねぇよ。俺の知ってる限りお前だけだからな。」
ほんのり赤かったクックの顔がボンッ一気に赤くなり、湯気でも見えそうな雰囲気だ。
「私だけ…なの…ですわ…。」
急にどうしたんだコイツと、訝しんでクックを見てると、クックの背中側から3匹の魔狼が迫って来ており、未だ茹っているクックは全く気づいてない。
人を注意しに来ておいて、自分が注意力散漫とはどういうことなのか。
仕方ないので俺はクックの両肩を掴み抱き寄せる。
「きゃっ⁉︎」
クックを退かし視界を確保したところで、俺はさっさと触手魔法を発動し、目の前に触手を顕現させるとさっさと魔狼たちを叩き潰す。
下を見るとクックが赤く染まった顔で、俺の顔を見上げていた。
「あの本当に…、本当の本当に私だけなのですわ…?」
視線が合い、クックは震える声で呟く。
そこで俺は話の途中だった事を思い出す。
聞かれたからには答えるか、事実を言うだけだしな。
「そうだ、料理魔法で戦おうなんて考える馬鹿な奴は、世界中どこ探してもお前しかいねぇよ。」
「……………………………………………………。」
何だろう、辺りが急に冷えてきた気がする。
氷魔法か?
いよいよ上位種がお出ましかと、クックからサッと手を離し辺りを見回すが、勘違いだったのか影も見当たらない。
おかしいと思いながら目の前に向き直ると、さっきまで包丁捌きを褒められて、顔を真っ赤にしながら照れていたはずのクックが、魔物の上位種なんて目じゃないくらいの不機嫌オーラを放っている。
「どっ、どうしたんだ?お腹でも痛くなったか?」
急に冷えて来たから仕方ないな。
なんなら俺も何故かちょっとお腹痛いかもしれない。
男の本能が危険を感じている。
その時タイミング悪くゴブリンが棒切れを持ってクックに襲い掛かる。
「グギャァッ!」
「五月蝿いですわっ!」
通り抜けざまに首を一閃。
首が跳ねられ司令塔を失ったはずの体は、あまりの一瞬の出来事を理解出来ず数歩歩いてから、思い出したかのように地面をズザザと転がり俺の足元で止まった。
「はぁ、私だけ舞い上がって馬鹿みたいでしたわ…。」
「いや、お前の戦い方は馬鹿そのものだろ。」
「オクトだけには言われたくないのですわっ!」
なんなんだコイツっ⁉︎
さっきから急に照れたり、呆れたり、怒ったりと情緒不安定過ぎないかっ⁈
「誰かぁっ、助けてくれぇっ!」
俺は声がした方向へばっと振り返ると、かなりの魔物に囲まれた冒険者の姿があった。
囲まれている冒険者は、今にも魔物に群がられ餌になりそうだ。
「オクト、この戦いが終わったらお説教ですわっ!だから必ず生き残って下さいですわっ!」
多分それは、包丁を突きつけながら相手に言う台詞ではない。
それだけ言うと、クックはさっさと冒険者を助ける為に駆け出した。
「いや、待てよ。不穏な台詞だけ残して行くなって馬鹿っ。」
必ず生き残れって、その台詞は不味い。
だってそれは…、
「ワ゛オ゛ォォン゛ッ!」「ゴォォォォッ!」「アオォォォォンッ!」
「だから待てって言ったのに…。」
俺は触手を4本腰から顕現させると、いつものスタイルで敵を待ち構える。
咆哮が聞こえた森を睨み付けていると、魔物の上位種と思われる個体が姿を現し始めたのであった。
お読み頂きありがとうございました。