表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/173

4.18章

お待たせしました。

4.18章、投稿させて頂きました。

お読みいただければ幸いです。

魔法(メイジ)隊、狙撃隊、準備を急げっ!」


 フォートの部隊を()かす声が、俺の待機している右側まで聞こえる。

 防衛線は半円を組むように築いているので、声が絶対に届かない訳では無いが、フォートのその声量はもはや魔法の域なのではと思えてしまう。


 俺が魔物の接近を伝えると、フォートは遺憾無くそのリーダーシップを発揮し、すぐに陣形を編成し直し、弓や投擲(とうてき)魔法が使える者達を集め即席で狙撃隊を編成したのだ。


 かくいう自分はと言うと、やる事を見つけられず、それを見ているだけだったのだが。

 いや、それは今も変わらないか。

 暇を持て余す俺は視線を空へ向ける。


「流石に空の敵は倒せないな。」


 遠距離攻撃が無くやる事が無い俺は、もうすぐ弓の射程に入る鳥型の魔物群れを見上げながら呟く。

 俺にも手伝える事が有れば良かったのだが、触手魔法しか使えない俺が無理に上空へ触手を伸ばしても、味方の弓や魔法の射線を邪魔しかねない。


「それは向こうも同じはずなのですわ。」


 隣で俺と同じくやる事が無く、空を見上げながら待機しているクックが気休めを言う。


「だと良いんだけどな。」


 この魔物群れの中には、魔狼たちと同じく氷魔法を使える魔物がいる可能性が高い。

 それを鑑みると、安易に攻撃の手段が無いと思うのは少し油断し過ぎだ。


「来たぞぉっ!狙撃隊、構えぇぇぇぇっ!」


 上空斜め45度くらいを狙いながら、狙撃隊の面々が弓を引き絞り、投擲魔法使いは大きく振りかぶる。


 俺の目にも、ようやく大きな黒い影の正体が目に見える。

 それは空を羽ばたくのではなく、翼を一切動かさず『滑空』しながら此方に向かってくる。


「空飛ぶ…ペンギン…だとぉっ⁉︎」


 空を羽ばたくのは、いや、滑空しながら此方(こちら)へ向かってくるのは、空に白と黒のコントラストを作る人鳥(ペンギン)たちの集団。


 この世界で名付けられるなら、きっとあの魔物たちは魔人鳥と名付けられるだろう。

 魔人鳥と地球のペンギンと違う点を挙げるなら、刃物の様に光沢を持つ長い翼だ。


 そんな魔人鳥は、エイプリルフールの冗談かと思うほど綺麗に空を滑空しながら、此方へ一直線に向かってくる。


 鳥型の魔物もドラゴン種と同じく、翼はあくまで補助で、飛行魔法で飛ぶのだと俺も理解していた。

 だが、目の前の光景は飛ぶと言うより、最早、空を滑るといったほうが正しい。

 飛行魔法に頼りきった飛行だと言える。


「狙撃隊、放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 フォートの号令の下、一斉にヒュンヒュンと風切り音を鳴かせながら矢が放たれる。

 同時に放たれた矢は波のように魔人鳥たちへ飛来する。


「フォートさん、駄目ですっ!効果が有りませんっ!」


 空を突き抜ける弓矢や、ナイフはそのどれもが届きはするものの、魔人鳥の進行を(とど)めるに至らない。


 そして、弓矢と投擲の掃射が終わった途端、魔人鳥の群れは角度を傾け一気に加速する。


「っ!魔法隊、構えぇぇぇぇっ!」


 フォートの言葉に慌てて魔法隊の面々が杖を空へと向ける。


「撃てぇぇぇぇっ!」


 地上から見えるもなら炎、水、電撃、土、光、闇そして風と様々な魔法が放たれ、爆発が起こる。

 だが、その攻撃は群れの前面を撃ち落とすのが精一杯だった。

 何匹かの魔人鳥が絶命し落下して行く中、爆風を突き抜け魔人鳥が飛来する。


 普段の地上をペタペタと歩くずんぐりした姿を横に向ける事で、逆にずんぐりした体は流線型を描き、完璧に風を受け流す事になる。

 更に飛行魔法により、水の抵抗の無い空から、重力による加速を手に入れた魔人鳥は、想像もつかない程のスピードで冒険者たちに迫る。


「総員、迎撃準備ぃぃぃぃぃっ!」


 冒険者たちがそれぞれ己の武器を構えるも、それは判断ミスだ。

 あの速度を剣や斧で切り落とせる訳が無い。

 唯一正しい選択があるとしたら、フォートのように頑丈な盾を持つ事だろう。


 けれども、そんな都合良く全ての冒険者が盾を持っている事など無い。


 突出した1匹の魔人鳥が飛来する。

 その射線上にいた1人の無謀な冒険者(ファーストペンギン)が切り落とそうと剣を振るう。


「こんっのっ!」


「やめろバカっ!」


 俺は冒険者の無茶な行動を止めようと叫ぶが、一歩遅く声は届かない。

 魔人鳥は一瞬で男の脇腹の横を滑り抜ける。


「ぐぎゃぁっ⁉︎」


 冒険者は悲鳴を上げ倒れるも、意識はあるようで、血を流す脇腹を抑えて蹲っている。


 恐らく冒険者の脇腹を切り裂いたのは、あの刃物の様な長めの翼だろう。

 魔人鳥は通り抜けると同時に、冒険者の脇腹を裂いたのだと分かる。


 1人の冒険者に傷を与えた魔人鳥は滑る様に上空へと舞い戻る。


「オクトっ、こっちにも来ますですわっ!」


 クックの言葉に、切られた冒険者を見ていた俺は上空へ振り返ると、魔人鳥たちはもう目前まで迫っていた。


「一旦伏せるぞ。」


「きゃっ⁉︎」


「むっ。」


 俺は触手魔法を発動させ、クックとサファイアを触手で素早く掴むと、土嚢(どのう)裏に作られた塹壕へ飛び込む。


 塹壕の外からは魔人鳥の攻撃を受けているのか、かなりの数の悲鳴が上がって行く。


「オクト、先程ペンギンと言ってましたが、アレは一体なんの魔物なのですわ。私の料理魔法が発動するのですが、あんなの料理した覚えが無いのですわ。」


 クックの料理魔法が発動しているとなると、魔人鳥はやはり魔鳥種になるのだろうか。

 上位種か下位種かは分からないが、先程の冒険者が浅い傷で済んでいたので、見積もって銀鷹(アルゲンホーク)にギリギリ届く程度の強さだと思われる。


「一応、魔鳥種のはずだ。」


「アレがですわっ⁉︎」


 まぁ、初めて見た人は、まさか鳥だとは思わないよな。


「止んだ。」


 音を拾っていたのか、耳をピクピクと動かしたサファイアがそう告げる。


 俺は塹壕からひょっこりと顔を出し、外の様子を窺うと、攻撃の第1波が過ぎたのか魔人鳥の空へと滑って行く背中が見える。


 魔人鳥の背を見送り戦場を見回すと、悲鳴が教えてくれた通り、果敢にもその魔人鳥に攻撃をしようとした者がいたようで、何人かの冒険者が切り傷を作りながら倒れ、呻き声を上げている。


「声が聞こえるなら大丈夫か。」


 幸い回復魔法を使える者が後ろに控えていたはずだ。生きてさえいれば何とかなる。

 それに今も近くの冒険者が、次々と塹壕に引きずり込んで救出作業を行っているので、次の攻撃の餌食になることは無いだろう。


 けれども、怪我人を放置してたら出血で死んでしまう。

 だとすれば、さっさとあの魔人鳥どもを何とかしなければならないな。


「クック、サファイア。さっきの魔鳥の攻撃見切れるか。」


「勿論ですわ。」

「ん。」


 俺も近づかれる前に止めるか、避ける自信がある。

 伊達に冒険者やってきた訳じゃ無いからな。

 身体強化魔法並み力は無いとしても、レベルアップの恩恵で動体視力も上がっており、あの速度ならまだ目で追うことが出来る。


「第2波、来るぞぉっ!」


 その言葉に俺たちは塹壕から飛び出し、積まれた土嚢の前に躍り出る。


 塹壕から飛び出した俺は、即座に触手魔法を発動させ、触手の間に膜を持つ巨大な(ころも)ダコの触手を顕現させると、扇子(せんす)のように広げ思い切り振り下ろす。

 衣ダコの触手はしっかりと魔人鳥を捉え、滑空攻撃の大部分をはたき落とす。


 そして、俺の攻撃範囲から逃れた魔人鳥には、クックとサファイアが武器を振るい、切り落としていく事で、魔人鳥の第2波を切り抜ける事が出来たうえに、数も大分減らせた。


 だが、またも被害が出たようで悲鳴が上がり、何人かが塹壕へ引きずり込まれていく。


(らち)が明かないな。」


 俺が攻撃と同時に触手で壁を作るか?

 いや、突き抜けられた場合に味方が対処出来なくなる。

 対処…?

 そもそも、あの速度で突っ込まれから対処が出来ないのだ。


 そう理解した俺は、触手を乱雑に次々と地面から顕現させていき、触手の『森』を作る。


「なにっ!」「また新しい敵かっ⁉︎」「次から次へとっ!」「不気味だ。」「気色悪いわ…。」「キモい。」「生理的に無理…。」「ちょっと吐きそうかも…。」


 半分以上が触手に対する誹謗中傷とはどういう了見か。

 冒険者たちの戸惑う声が聞こえる。

 取り敢えず、敵と間違われ攻撃されては堪らないので、俺は魔法であると大声で叫ぶ。


「これは俺の魔法だっ!これであの魔物の速度も緩まるはずだっ!」


 俺が叫ぶと次々と冒険者たちは武器を構え、次の魔人鳥の攻撃を待ち構える。

 そして、俺の狙い通り、魔人鳥たちは触手を避けながら滑空して迫るが、その速度は最初のスピードの半分以下まで落ちている。


「これならっ!」「魔物が遅くなった!」「いけるぞっ!」「反撃だっ!」「誰だか分からんが助かる。」「やっぱり気持ち悪いぃっ。」


 おい、最後の誰だ。

 それはさておき、速さの弱まった魔人鳥は冒険者たちの大した敵にならず、次々と屠られていく。


「ふぅ、何とかなったな。」


「これでっ、最後ですわっ!」


 クックの包丁が振るわれ、最後の魔人鳥が駆逐された。


 一時はどうなるかと思ったが、順調に魔人鳥たちは数を減らしていき、此方側の魔人鳥は全て駆逐された。


 他の戦場はどうなったと、民家の屋根に触手を伸ばし戦場を見渡すと、勝鬨の声が上がっており、向こうは向こうで何とかなったらしい。


「油断するなっ、まだ敵は来るぞっ!」


 戦場に響き渡るフォートの喝に、緩んだ戦場の雰囲気が引き締まって行く。

 そう、まだ戦いは始まったばかり。


 フォートの的確な指示が飛び、先程の戦いで傷を負った冒険者や鬼人族の人たちが後方へ引きずられて行き、残った人たちで新たに戦線が編成されて行く。


 俺も準備をと持ち場に戻ると、フォートの声がしっかり届いていたのか、此方の戦線でも既に次の戦いの準備が進んでいた。

 俺も準備の一環として、視界を確保する為に邪魔な触手の森を消すと、地響きをともなう大量の足音と鳴き声が、既にそこまで迫っていたのであった。


お読み頂きありがとうございました。


お待ち頂いてる読者様には申し訳無いのですが、次回の投稿は月曜日とさせて頂きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ