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1.10章

お待たせしました。

ついに10話目の投稿です。

「え、失礼ですが貴方は馬鹿ですの?」


 俺がキングゴブリンの件は村には報告せず、ゴブリンの集落も簡単に壊滅させてきたと報告すると言ったら速攻で頭の出来を罵られた。


「馬鹿はお前だ、ポンコツ頭。」


 ついつい頭に血が上ってすぐに言い返してしまう。


「キングゴブリンが出たのですわ、冒険者なら報告の義務がありますですわ。」


 しかし、俺の暴言を気に留めず、冷静に彼女は義務を全うすべきだと言ってきた。

 確かに彼女の言う通り、普通ならそうするべきだ、そうすれば富も名誉も見事にゲット、金色冒険者に昇進間違いなしだろう。


 しかし、俺は手配中の身なのだ。

 顔を広めれば勇者とバレてしまう。当然、冒険者活動も出来なくなり、生活の当てを失う羽目になる。


「俺は手配中だぞ、目立つ訳にはいかない、忘れたのか。」


「それはそうですが、こんな村の近くにキングゴブリンが出るなんて異常事態ですわ。村の安全を考えるなら、冒険者組合に調査をして貰うべきですわ。」


 グゥの音も出ない正論だ。

 俺の生活を優先しないならばそれは正しい。いや、俺にとっては生活を脅かされているので正しくはない。

 仮定として、キングゴブリンのことを素直に村長に伝え、村に冒険者組合の調査員がやってきて、これを倒したの者はどんな風貌でなんと名乗っていたと、聞かれれば即刻アウトだ。


 新しい偽名を使えば良いという考えもあるが、また、銅から目立たないようにやり直しは流石に辛い。

 銅色冒険者だとあまり割合のいい報酬は期待出来ない。かと言って、依頼外で強い魔物の討伐を行って、それを報告して色のランクアップを図るのでは結局目立ってしまう。


「ぅんんんんん〜、よし決めた。他の奴になすりつけよう。」


 頭を掻き唸りながら結論を出す。

 そうだ工作しよう。


「突然最低ですわっ。」


 彼女がドン引きする。

 しかし、俺の安寧の為にもこれしかもう案が浮かばないのだ。

 木を隠すなら森の中と言うしな、それになにも悪いことをするわけではない。

 全ての名誉はそいつに渡される訳だしな。


「いいか、これを倒したのは俺たちじゃない。たまたま通りかかった勇者が颯爽とキングゴブリンを倒していった。そういう事にする。」


 村の今後と、俺の今後を天秤に乗せた時、俺をすり替えるという結論に至った。

 つまり、勇者を隠すなら勇者で隠せばいい作戦だ。


「むぅ、それなら確かに普通の調査隊よりも、勇者を捉えるための強い部隊の派遣も期待出来ますですわ。」


「そして、俺たちは勇者の名前を雲に身を隠すわけだ。」


「なるほど、でもそれを報告した者の風貌を聞かれたら、結局バレてしまいませんかですわ。」


「…。」


 いつもポンコツなクックさんにしてはなかなか頭が回るじゃないか。

 しかし、キングゴブリンの死体を隠す方法が無ければ、どうやっても痕跡のが残り原因調査が入る。

 一度、洞窟に放り込んで入り口を崩そうかとも考えたが、掘られてしまえば見つかってしまう。鼻のいい種族なら簡単に死体の血の匂いを嗅ぎつけるられる。


 今更変装しても誤魔化すことはできないだろう。外套を簡単に貸してしまった己の無能さと、彼女のポンコツさが悔やまれる。

 だが、考え尽くした結果これしか浮かばなかった。他に案が浮かばなかったので勇者を隠すなら勇者で作戦で行くとする。


 既に暗くなり始めており、村に戻るのは明日になりそうだ。

 せめて、ここから離れた場所で野宿したかったのだが、ゴブリンの縄張りとなっているここに他の魔物が近づくことはあまり考えられない。

 しかし、ゴブリンの死体と一晩過ごすのはごめんなので、死体を洞窟へと次々に放り込む作業をし、終えた頃には夜になっており、結局洞窟付近に岩陰を作り、焚き火を焚くことになった。


 幸い、裏手が急斜面なこともあり、前方の森だけ警戒してれば良いと言うのが少しの救いであった。

 濃い血の匂いが漂う場所で食事をする気にもなれず、ただ焚き火の火を眺めて朝を待っていたのだが。

 他の魔物が来ないという考えは流石に甘かった。


「なにが、キングゴブリンの縄張りに入ってくる魔物はいないだろうですわっ。」


「魔狼種みたいな下級の魔物なら寄って来ないと思ってたんだ。」


 そういう俺は現在、いつもの魔法によって触手を両手に纏わせ魔物と相撲をとっている。

 取っ組み合いの隙を見て新たな触手を顕現させ焚き火から燃える木の枝を拾い、魔物鼻先へと押し付ける。

 すると、火に怯んだ魔物が森へと1匹帰っていく。相撲なら明らかな反則行為であるが、生き残る為に手段は問わない。


「ええ、そうですわね、確かに、これは魔狼なんて可愛いものではありませんですわ。」


 魔狼とは狼型の魔物であり、群れで行動し、縄張り以上に行動しない魔物であり、俺の思った通り、魔狼は1匹も現れていない。


 現れたのは、単体で狩りをする魔熊であった。魔熊は名前の通り熊の魔物であり、そのサイズは立てば3メートルくらいになる。その魔熊が何度もゴブリンの縄張りを破って侵入してきたのだ。

 魔熊は群れずに単独で行動する。つまりそれだけの強さを備えており、縄張り意識も強く敵の排除を怠らない、そんな魔物なのだ。


 魔狼だって群れると怖いんだぞと思いつつも、襲撃を招いたのは俺の責任なので全く言い返せない。


 結局のところ魔熊の襲撃は明け方に止み、幸いなことに魔熊を料理したことのある彼女はその料理魔法を遺憾無く発揮させ、それまで二人で魔熊の撃退続けた。

 日が昇り始め森が明るくなったところで、俺たちは一目散に村へと向かって走っていく。


 その後ろ姿はとても勇ましいとは言えず、敗走兵のそれである。

 ここは童話のように相撲で勝てば使役出来るそんな甘い世界ではなく、そもそも反則で勝つ勇者に懐くなどあり得ないのだ。


「覚えてろよ、熊チクショーォォォォォォォ!」


 ゴブリンの次は勇者の絶叫が、木々の隙間から木漏れ日を漏らし始める朝の森へと木霊するのであった。


お読みいただきありがとうございました。

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