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1.1章

はじめまして、小説家になろうにはじめて作品を投稿させて頂く、桃髪八神と申します。

拙い文章ですが、皆様に楽しんで頂ければ幸いです。

「この変態め、くっ…殺しなさいですわ………。」


 両手両足を『触手』に縛り上げられた気の強そうな女の子がそう言って睨みつける。彼女の足元には武器として持ち歩いているであろう刃物が手から落ち、薄暗い路地裏の地面に転がっている。


 いや、待ってほしい、話を最後まで聞いてほしい。俺は別に傭兵崩れの盗賊でもなければ悪魔や魔王とかでもない。寧ろ勇者的なポジションであると主張する。だから通報は勘弁してください。


 取り敢えず敵じゃないということと、その子に捕まえた目的を話すためにも俺は彼女に話しかける。


「なぁ、アンタは「はっ…!貴方は私を辱めるつもりですのねっ!!この邪な魔法で。それなら舌を噛んで死んでやりますですわ!」」


 突然まくしたてられ、俺が呆気にとられていると、そう言った彼女は目をぎゅっと瞑り、口を大きく開き舌を出す。


「やばっっっ。」


 俺は咄嗟に『魔法』で触手を顕現させ、彼女の開いた口に滑り込ませる。おっと、だから通報は待って、今のは人命救助だから。


「もがっ!?むーむー。」


「セーフ、全く話を聞かないなコイツ。なぁ、言う事を聞いてくれないかな。」


 フード越しに俺はなるだけ笑顔で彼女に話しかけるように心掛ける。依然、触手は彼女の口の中に突っ込んだままだ。

 そして彼女と目が合ったよう気がしたのでにぃと笑ってみせると、彼女はナニかを悟ったようなに再び目を瞑り涙を零しはじめた。


「えっ、ちょっと待ってなんで泣くんだ。」


「うっ……うぅっ………。」


 このままでは埒が開かないと説得のため俺は、震える彼女の肩に手を置くと彼女の肩が跳ねた。そんな彼女に優しく話し掛ける。


「なぁ、大人しくしてくれるなら、拘束を解いてやるから。な?」


 俺がそう諭すと、彼女はコクコクと頷いた。

 彼女の反応を肯定と認識し、ゆっくりと口に突っ込まれた触手と手足の拘束を解く。


 触手から解放された彼女はゲホッゲホッとえずき、おさまったところで鼻をすすりながら震える声で宣言する。


「たとえ、体は汚されようとも私の魂までも汚せると思わないことですわ。」


 そう言って彼女は口を噤む。

 なるほど、俺はそんな風に見られていたわけか。


「あー違うんだ。俺はアンタを別に襲いにきたわけじゃないだ。」


 俺はボロ外套についてるフードを外し改めて彼女と目を合わせる。


「俺の名は「あっ!その黒髪と特徴的な癖っ毛、貴方は勇者一味のスクド オクトっふがふがもがっ!?!」」


 再び彼女の口内に触手が in そしてご丁寧な説明どうも。俺は叫ばれた為、周囲を見渡して路地裏に来るものがいないか確認する。


 口に突っ込まれたぬめる触手を必死に両手で引っ張ってジタバタしている彼女に、静かにしろと人差し指を口の前に立ててジェスチャーすると、彼女はコクコクと勢い良く上下させる。


「あー、俺を知っているようだが、一応自己紹介させてもらうぞ。俺はスクド オクト勇者だ。」


 ある日の学校への登校中に突然不思議な光に包まれたと思っていたら、俺は異世界へ勇者として召喚されていたのだ。

 そして、なんやかんやあって今に至るわけだが、今は目の前のことが優先だ。


「じゃあ俺の目的だ。俺の目的は家出娘の保護をする事。んで、赤い髪に鎧の格好、武器の包丁とその包丁と鎧に刻まれた家紋。アンタはクック=コロッセオであってるか。」


 そう訪ねながら、彼女の口から触手を引っこ抜き、異世界転移してからも愛用し続けている学生鞄から依頼書を引っぱりだして見せつける。


 俺の受けた依頼は貴族の家出娘の捜索と保護、そしてその娘を連れ帰ることだ。

 ゲホッゲホッ省略。


「ええ、そうですわ。私はコロッセオ家の末妹、クック=コロッセオですわ。まさか、噂の勇者が私を捕まえに来るなんて予想外ですわ。」


 先程まで涙を零して諦めた表情をしていたのにキッと目を吊り上げ勝気な表情をしている。しかし、目はまだ赤い。


「あー良かった。じゃあクックさん帰ろうか。」


 一応、依頼者の娘ということもあり、気を使って丁寧に話しかけ、取り繕ってみる。


「私は帰りませんですわ。」


「は?」


 が、彼女の一言に速攻で善人の皮を剥がされる。


「私はあの家には必要のない人間ですわ。ですから帰りませんですわ。」


 いや困る、非常に困る。何故なら彼女を家に帰さないと。依頼の報酬が貰えないからだ。


「いや、わざわざ捜索依頼を出してる家族がそんな事思うわけないじゃないか。兎に角一旦帰って、お父さんかお母さんとかに話してみたらどうだ。」


「確かに父と母も二人の姉も私を必要ないとは言わないでしょうですわ。ですが、私はただ存在するだけでいい、弱いままの私を許せないのですわ。私はコロッセオ家の名を汚さないためにも強くならなければならないのですわ。」


 はぁ、要するに強くなりたい若しくは強くならなければいけないというわけだ。それは今は置いておくとする。


 しかし、困った。

 どうにかして帰って貰わないと金が貰えない。

 今俺は非常に金欠で金がどかっと稼げそうな依頼を探していたのだが、この人探しの依頼くらいしか見つからなかったのだ。

 彼女のことはたまたま見つけただけだが、このチャンスをふいにしたくはない。


 さて、どうやって帰ってもらうか。いや、無理矢理にでも連れて帰るか?そう思考を巡らせているうちに彼女はパンパンと服に付いた砂埃を払い、立ち上がっていた。


「そういうことですから失礼しますですわ。」


 言い放つと彼女は何処かへと去ろうとしてしまう。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ。アンタ強くなりたいんだろ。例えば何に勝てれば強くなったって思うんだ?」


 彼女の足を止めるために適当な質問を投げかける。俺の質問を聞いた彼女は顎に手を当て考え始める。


「ドラゴンですわ。私の二人の姉はたった二人で中型ドラゴンを相手出来るほど強く、コロッセオ家の五本の指に入るくらいの強さを持つと言われていますですわ。ですから私がドラゴンを倒せるようになったら私も強くなったと思えますですわ。」


 ドラゴンか、精々魔熊程度だと思ってたけど、ずいぶん大きく出たな。この辺りだと大型は生息してないんだがな。

 まぁ、実際にドラゴンに合わせたら諦めてくれるだろ。それか、旅の過酷さに心でも早々に折れてくれることを祈ろう。


「よし分かった。俺がドラゴンに会わせてやろう。それで無理だったら帰れ。」


 彼女が見るからに箱入り娘なことも含め色々と打算を巡らせて、俺は彼女に一つの提案を持ちかける。


「ですが、貴方は国家反逆罪を犯したお尋ね者であり、しかも悪名高い勇者一味の中で姫の純潔を奪ったと言われる色欲の勇者ですわよね。はっきり申し上げますが、信用できないのですわ。」


「うっ……。」


 痛いところを突かれた。


「いや、あれは不幸な事故だったんだ。」


 説明すると長くなるし、信用がない状態で事実を言っても信じてもらえるとは思えないので簡単な言い訳で済ます。


「一年前のあの事件は大衆監視のある出陣式で行われたのですわ。よくもそんな嘘をぬけぬけと言えますですわね。」


 一応取り繕ってはみたが、やはり彼女はまともに取り合う気はないらしい。


 はじめに俺は勇者と名乗ったが、その勇者に手配書が出回っているのも事実だ。召喚された勇者は俺を含めて4人、その勇者達が勇者一味などと呼ばれていたりもする。

 そして、勇者全員には賞金がかけられている。幸いなことに dead or alive ではなく alive 限定なのは助かるが。


 それはさておき、あの事件は事故であったと主張したい。疑り深い目でこちらは見つめる彼女を説得するための言葉を探す。


「じゃあ、今俺がアンタに手を出していないことがその証明にはならないか。」


「私に魅力が無いってことですのですわっ。」


 なんでそうなるっ。


「いやいやいや、違うよ?! おっきい胸とか超好みだし。」


 そう言うと、彼女は顔を真っ赤にして自分胸を隠すように両腕で抱え、体を少しでも遠くに逃がそうとする。

 あ、言葉選びをまずった。


「落ち着けって。」


 一歩踏み出そうとする。


「っ…近づかないでくださいですわ。」


 しょうがないのでこのまま話を続けることにする。


「ドラゴンを倒すったって当てはあるのか?」


「それは…、」


「無いだろ。だが、俺は知ってる。だからドラゴンがいる場所に連れて行ってやれる。」


 この世界に来て1年経つ俺は色々なところを巡っていて、たまたま前に中型のドラゴンが縄張りを張って群れを作っていた場所を俺は覚えていた。リーダー格の中型は狩ってしまったが、既に他の中型が台頭している頃だろう。


 そこで彼女も本物を見れば自分の言っていることがどれだけ難しいか理解できるろうと俺は考えている。それに彼女は弱すぎる。

 俺にあっさり捕まってるようでは、せめて3回くらいは避けてもらわないと中型サイズでも勝てないだろう。


「分かりましたわ。貴方が協力的である限り信用して差し上げますですわ。」


 少しの間瞑目した彼女は、渋々といった様子でこちらの提案に乗ってきた。


 これが、勇者オクトとクック=コロッセオの出会いであり、ドラゴンを倒す冒険の始まりであった。


作品をお読みいただきありがとうございます。

これからも作品を投稿させて頂くので、よろしくお願いいたします。

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