7,一難去ってまた瀕死?!
「オー、ノー………………」
『んもうっ!契約主(仮)がちゃんとしてくれないと、私も動けないんだから!』
「そ、そんなこと言われてもッ……………」
ヒマリの目の前には、巨大すぎる岩石が幾つか積み重なってできた、世間一般で言うところの「ゴーレム」が、その小さな目を赤く血走らせてこちらをにらみつけてくる。
(絶体絶命って、このことを言うんじゃない?)
ヒマリは、半泣き顔で目の前に表示されてるコマンドボードを改めて見る。
(どうすればいいのぉ?)
どんよりとした空気をまとう向日葵は、しょんぼりとしおれかけてしまっていた。
もちろん、こんな状況になっているのはヒマリのせいだ。
フィラメントは、ぷくぅと頬を膨らませてヒマリを睨んでいる。
Wの威圧攻撃に、ヒマリの(心の)HPは底をつきかけていた。
どうしてこんな状況になっているのかを、フィラメントに簡単に説明してもらおう。
『ヒマリがどうしてこんなんになっちゃったのかって?
なんか知らないけどさぁ、テロップ表示後すぐにボスフィールドに転送されてきたんだけど、その転送場所をマスターがしくじったか、プログラムが誤作動したかで、ブロックゴーレム(エリアボス)のゼロ距離に転送されちゃって。
ま、ゴーレムも眠ってたから戦闘モードにすぐ入らなかったけど、ヒマリは、びっくりしすぎて大きな声出しちゃってさ。それがゴーレム起こす目覚ましになっちゃって。
で、いまだその恐怖を引きずっちゃっててさ。
これでOK?アンダースタンド?』
…………………話を戻そう。
かくして、興奮状態のゴーレムを目の前に固まるヒマリ。
すると、そんなヒマリに追い打ちをかけるように、フィラメントが言った。
『ヒマリー、早くしないとゴーレムの方から襲ってきちゃうよー』
「こんな状況で呑気な声出さないでぇ!」
半分悲鳴まじりのヒマリの声。
だが、なぜかそれで冷静になったのか、ヒマリは深呼吸。
それを二、三回ほど繰り返したのち、にっこりといつもの笑顔で言った。
「OK!んじゃ、やろぅ!」
『了解っ!!』
妖精の同意の声を耳でしっかりと聞いたのち、ヒマリは少し脳内会議を開く。
(転送される前にフィラメントから教えてもらった情報は、
・ゴーレムは水に弱い
・近接攻撃が強い
・HPが少なくなるにつれ、攻撃力(ATK)が上昇
だよね。
私の属性は水と風、フィラメントは土と草だから…………………
フィラメントに土と草でゴーレムの足を固めてもらって、そこで私の水の遠距離攻撃をかけよう。
うん!大体の構成はこんな感じだね!)
コクンと頷くと、ヒマリは早速フィンカーを移動させる。
現在は、フィラメントがパーティに加わっているため、重要四属性(火・水・風・光)に加え、土と草もフィンカーがある。
ヒマリはまず、土フィンカーを三つ縦並びに。連続して、草のフィンカーを二つ横並びに並べる。
すると、先ほどのように合計五つのフィンカーが、ボード上から消える。
「フィラメント!まずは、ゴーレムの足元を固めて!」
『OK!アースマジック!』
フィラメントが合わせた小さな白い両手から、チョコレート色の球体がゴーレムの足元を狙ってとばされる。
見事的中したボールは、ゴーレムの足元の土を盛り上がらせ、膝辺りまでを覆う。
『ググ、ガガガ………………………』
「やっぱり、最初のダンジョンだし、それぐらいの拘束でどうにかなるよね。」
ヒマリはそうつぶやきつつ、フィンカーをスススーと動かす。
「それじゃあ行くよ!ウォーターボール!」
ヒュンヒュンヒュン、とヒマリの両横から飛び出していった水の球体は、くるくると回りながらゴーレムにあたる。
しかも、急所に偶然当たったらしく、ゴーレムの悲鳴(?)が大きくなる。
「これで撃破でしょ!!」
その叫び声を聞いて、安堵するヒマリ。
だが、
それは間違いだった。
にっこりと笑い、気を抜いた瞬間、少し離れた場所にいたフィラメントの声が、ヒマリの耳に響き渡った。
『ヒマリ!危ない!!!』
「!?」
ヒマリが驚いて前を見た刹那。
ほぼ
ゼロ距離に
エリアボス、
ブロックゴーレムの姿が
あった。
「っ?!?!」
(わ、忘れてた!ブロックゴーレム(こいつ)の特殊スキル!)
ヒマリの脳内に、フィラメントの言葉がよみがえる。
ーーーーーーーー
『いーい?ヒマリ。
ブロックゴーレムは、いくら急所を突かれても、特殊攻撃されても、【我慢】っていう、本来は死ぬはずだけど、HP1で生き残る特殊スキルを持ってるの。
しかも、【我慢】状態のブロックゴーレムは、ATKが三倍される【復讐】状態になるから、絶対に気を抜いちゃぁ駄目だからね!!!!!』
ーーーーーーーーー
何度も何度も念押しされるように繰り返された言葉、
それを、ヒマリは完璧に忘れてしまっていた。
だが、その思いは消えていた。
(こ、んなところで!
っていうか、チュートリアルで!)
「死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」