67,さっきの敵はもう友達
リョウ先輩に導かれながら闘技場の扉を抜けると、大きな歓声や拍手とともにたくさんの紙吹雪が私たちに降り注がれた。
中央には、各部門での優勝者・準優勝者と、ハミちゃん含め火炎帝国の皆さんらしき人達がすでに待機していて、私達がその横に到着した瞬間、会場のボルテージがさらに上がった。
ぼぉぉんというマイクの大きな不協和音が鳴ったかと思うと、あのアナウンスしていた声がまた聞こえてきた。
『さぁぁぁぁ!それではこれよりぃ表彰式を行いまぁす!各部門優勝者には、トロフィーと100万G、そしてアリーナ限定配布のスキルが一つ授与されまっす!』
あ、アリーナ限定配布スキルっ?!
チート防止で攻撃系スキルに制限までかける運営さん!?大丈夫なんですか!?と思わず言いたくなるけれど、貰えるものはもらっておこうという気持ちの方が勝ち、シノの隣で静かに順番を待つ。
金色の大きなトロフィーは、それぞれリョウ先輩と火炎帝国のテイルマスターさんが受け取り、私達は一つずつ金メダルをエルフのNPCさんからかけてもらう。
どうやらこのメダルをかけてもらうことで、その限定スキルとやらが選べるようになるみたい。
テイル部門以外の優勝者さんたちにもトロフィーとメダルが授与され、大喝采の中、アリーナは終了した。
ーーーーー
「あっ、おったおった!てーんしひめちゃぁぁん!」
皆とテイルに帰ろうとコロシアムを出たところで、大きなその声が私達を引き留めた。
こ、この声は………!
くるり、と振り返れば、にこにこと笑い手を振りながらこっちに駆け寄ってくるハミちゃんと一人の女の子の姿が。
「もーはやいって!フレ交換の約束!!」
「ご、ごめん………」
「………ヒマリ、その人達……」
すっ、と横に現れたシノが不思議そうな顔をして私を覗き込む。
少し瞳が警戒を帯びていたのは気のせいだろう。
その瞬間、黄色い悲鳴が一つ、目の前で上がった。
「はあああああああシノくんんん!ほんものや!やっば……かっこよすぎるやろ!」
「は、ハミ…落ち着いて………」
………どうやら、ハミちゃんはシノのファンらしい。
横の大きな魔女帽子をかぶった女の子がくいくいとハミちゃんの服を引っ張ってなだめる。
シノはその時点で訝し気な目をしながら姿勢を戻し、二人を見ていた。
「ヒマリんー、僕たち先に帰ってるねー?」
「シノ、あとよろ。」
ぴしっと敬礼をするヒナタ君と目を細めるナイトがそう言う。
そこで私はみんなを待たせていたことを思い出し、慌ててお辞儀した。
「ごっ、ごめんなさいっ!あとから追いかけます!!」
「………了解だ、ヒマリ。」
ふっ、と笑い、リョウ先輩は身をひるがえす。
そのあとに続くように、私とシノを抜いた他の皆は一足先にテイルへ帰っていった。
くるりと前に向き直ると、ハミちゃんが引きつった笑顔で固まっていた。
「な、なんや……天使姫ちゃんってすごいな………」
「えっなにが!?」
「あんなイケメンさんたちと、普通に話せるなんて……やっぱ慣れなんかなぁ……それか、顔か!?」
い、いやいやいや!
慣れ慣れ!あんな個性的な方々と一年も一緒にいれば慣れちゃうから!
両手をぶんぶんと横に振って説明するけれど、ハミちゃんは訝し気な顔。
すると、ずっと黙っていた魔女帽子の子が口を開いた。
「ハミ……フレ交換。ヒマリさんも用事あると思うから……」
「あっ、いやいや!全然暇だから大丈夫だけど………」
「そうやったな!ってかまずは自己紹介やろ!うんせやな改めて自己紹介せな!」
なぜか自己紹介をする流れになっているんだけど。
ハミちゃんはんんっと咳払いをして笑った。
「私、ハミ!種族は妖精のキジムナーで妖術師をやっとるで!………ほら、ナナミも。」
「あっ、えっとナナミです………種族は山姫で、魔術師やってます。」
隣の魔女帽を目深に被った女の子、ナナミちゃんも少し恥ずかしそうに自己紹介をしてくれる。
「私はヒマリです!種族はガブリエルで、精霊術師をしています!よろしくね。」
とりあえず、精霊のことは黙っていよう。
と心の中で決め、笑顔で自己紹介をする。
しばしの沈黙が落ちる。
………だめだこりゃ。
隣に立つシノにそれとなく「シノも自己紹介してよ」と目線で伝えるけれど、あいつから帰ってくるのは「は?なんで。」という不機嫌な睨みばかり。
はあ、仕方ない。
私はシノを手で指示して言った。
「えーっと、こちらシノ。種族は龍で、飛行術師………だったかな。」
「ファンです。ありがとうございます。」
言い終わるが否や深々と頭を下げるハミちゃん。
ひくり、と、さすがのシノの仏頂面も崩れる。
「あの、じゃあフレ交換しませんか………?」
「あっ、そ、そうだね!」
そこでナナミちゃんのナイスフォロー。
私はそれを逃がすまいと、私は二人にフレンド申請を送った。
二人のステータスウィンドウが開き、ナナミちゃんはすぐに、ハミちゃんは少し慌てた風に画面を操作する。
ピロリン♪
プレイヤーナナミ・ハミとフレンドになりました!
久々に聞いたこのお知らせ音。
私は視界の端でその文字をとらえて、二人の方に向いた。
「よろしくね!」
その瞬間だった。
「ふぐっ………とお、とい………」
「ま、ぶしい………」
突然二人が胸を押さえてうずくまる。
しかも体が震えている。
「えっ、ど、どうしたの?体調悪い!?」
「だいじょぶ、だいじょぶや………うん、大丈夫。」
「さすが、天使姫…………」
はー、はーと荒い息を出しながら、二人は答える。
すると、シノが大きくため息をついて言った。
「ヒマリ……大丈夫。すぐに落ち着くと思う。うん。」
「えっ、そうなの?ってか、なんでシノがそれ分かるの?!」
そう言うシノの顔は、呆れというか、同情、というか………
いや、なんで!?
私は、シノを追求すべきか二人の心配をするべきか迷い、視線をさまよわせた。
「えっとですね……とりあえず立ちましょう。それで、これどうぞ……」
シノはまあいいや、という結論に達し、私は二人に小瓶を手渡した。
中身は、精霊薬術で作った治療薬だ。
ゆっくりと顔を上げた二人は、差し出された小瓶を受け取り、ぽんっと小瓶をつついた。
えっ、なにそれ
「えっと、何してるの?」
「あ、ああ、鑑定やで。鑑定スキルがなくても、道具の簡単な能力値とかをこうやってみるんよ。」
「…………なに、これ。」
解説してくれている間、まじまじと小瓶から開かれた窓を見ていたナナミちゃんが大きく目を見開いた。
「全状態異常回復にHP全回復………?ほぼチートアイテム………」
「あっ、もしかしてあの時のポーション!?やった!ありがと!」
うんナナミちゃん。私もそう思うよ。
ハミちゃんは一度このポーションの効果を見ているから、嬉しそうにぴょんっと跳ねてアイテムをしまった。
「それじゃあ、また!」
「うん!またメッセ送るな!」
「あっ、ポーション、ありがとうございました……」
それから少し話してからひらひら、と手を振り、私達は別れた。
どうやら二人はこれから期間限定ダンジョンに潜るらしい。
私はフィールドに向かう二人を見送り、横でずっと待っていたシノを見て言った。
「珍しいね、シノがずっと待ってるなんて。」
「べーつに?暇だったから。」
「………話聞いてるだけなのも十分暇だと思うけど。」
すたすたとテイルへ歩いていくシノを慌てて追いかける。
横に並べば、なぜかあっかんべー、と舌を出される。
なんだこいつ………!
私もべーと返して駆け出す。
シノが後ろで少し笑ったのがわかった。
「ねぇヒマリ。」
「なーに?」
「夏祭りいこ」
その後、みんながログアウトして、無人のテイルで私の夜の予定が決まったことを、一体誰が予想できただろうか。




