66,アリーナ編Ⅸ ー中途半端ー
更新が遅れまして、すみません。
「【フレイヤーボム】!」
「【ライトフラッシュ】!」
中央で魔法がぶつかり合って煙が上がる。
その煙をかき破るように現れた紅色の鎌をすれすれでよけて、カウンター系統鏡魔法【反射】で攻撃を返す。
「【ブルースター】!」
私を中央点とした半径約五メートル内に真っ青な星が降り注ぐ。
私の近くにいたハミちゃんは若干ダメージを受けつつもすぐに範囲から逃げ出してしまった。
「【フレイムヘルム】!」
すると、今度はハミちゃんが広範囲の炎魔法を放つ。
勢いよく炎が燃え上がり、一瞬炎に触れてしまっただけなのにHPが一割減らされる。
そういえば、リョウ先輩に聞いたことがある。それぞれの魔法は何かに特化していて、光魔法は支援だったり回復系が多くて、水魔法や土魔法は防御型。そして炎魔法は攻撃力が強いって。
「ATKだと完全に押されちゃうな……」
「あれ?ちょっと休憩?」
いつの間にか川の反対側に渡っていたハミちゃんが、にっこりと笑った。
「………どうやったらハミちゃんを攻略できるかなーって思って。」
「んふふ。そんなん無理やって!だって私と互角に戦えるのはナナミかナイトくんかシノくんくらいやと思うし。」
「……その”ナナミ”さんって?」
聞いたことのない名前が出てきて、私は首をひねる。
すると、ハミちゃんは今までよりも嬉しそうに微笑んで言った。
「【火炎帝国】のテイルマスターで、私のバディで、親友や!煉獄極めまくってて、めっちゃ強いんやで!めっちゃ身軽やし、攻撃特化の炎魔法メインなのにHP全然減らさせんのんやから!」
その口ぶりから、本当にハミちゃんがそのナナミさんを慕っていることがわかって、私は少しほっとした。
色々と怖い人だけど、そんな風に言えるちゃんとしたお友達がいらっしゃったんだ。
私は苦笑いした。
「せや!アリーナ終わったらナナミにも会ってや!んで、三人で一緒にクエスト攻略するのも楽しそうやんか!」
「え、あ、うん……?」
「あー、楽しみやなぁ!大好きな二人と遊べるとか嬉しすぎて羽生えそうやわー!」
そして先ほどまでと同じハミちゃん暴走モードに入る。
にまにまととろけるような笑顔で夢見心地に入るハミちゃんに呆れを覚えながら、私は魔法を構築した。
「………【トラムタムス】」
「ひゃああああああああ!?ちょっ、天使姫ちゃん!不意打ちは卑怯やない!?」
最速で発動するように設定したスタン罠の魔法で動けなくなるハミちゃんを引きつった口角で見つめながら、私は次の魔法の準備をする。
本当はスピリットを召喚して弾幕で追い詰めたいところだけれど、今はウィルがパーティにいないから発動できない。鏡魔法もMP的に温存しておきたいところ。
………残されたものはこれだった。
罠が効力を発揮するのは10秒間。
私とハミちゃんの間を流れる川から水を拝借し、もにょもにょと、しかしすばやく、たくさんの水球を作り上げ、疑似弾幕を作り上げる。
「【行け】!」
何百という水球が、私の掛け声一つでハミちゃんに向かって猛スピードでぶつかっていく。
一つ一つのダメージは小さいけれど、それが何百とぶつかってくるのだからまあまあ削れるはず。
まさに、「塵も積もれば山となる」作戦だ!!
この攻撃が終わるまでは特にやることがないから、私はふと皆の様子が気になって左上のステータスバーを見上げる。
そこで気づいた。
うち三つが、灰色く染まっていることに。
「…………え?」
そうなっていたのは、ヒロ君、ヒナタ君、ミネトの三人。
見事に、テイルの中でも低いレベル帯の三人がやられている。
確かヒロ君はエン先輩と一緒にいた気がする、と思ってみるとエン先輩のHPが三割まで減っていた。
「………はー、あっぶなぁ!」
「………!やっぱり、生き残っちゃうよね。」
「あははー、もうちょっと罠の効果が長かったら危なかったわー!」
ゆっくりと振り向くと、少し疲れた表情でハミちゃんが立っていた。
私はふうっと息をつき、再びボードに手を伸ばす。
「【交差する炎華】」
その瞬間、ハミちゃんが鎌をバツ印を描くように空を切り裂いた。かと思うと、そう描いたとおりに炎が現れて私の方に向かってくる。
ひえええええ!絶対やばいやつだああああ!!
頭が真っ白になって、私はとりあえず顔を伏せて、光を避けるかのように目の前を腕で覆った。
だけど、いつまで経っても予測していたはずの痛みはこなかった。
「あ、あれ……?」
顔をあげると、驚いたように目を見開くハミちゃんがいた。
先ほどの炎はどこにもない。
そこで、私の思考が再び動き始めた。
ま、ま、まさか……能力が発動しちゃった………?!
うそうそうそ、そんなはずない!だってあの人からもらったネックレスがあるし…でも私が「怖い」って感じちゃったから発動しちゃったとか?!そ、そうだったらどどどどうしよう!!!
だけど、そんな心配は杞憂に終わった。
『ここで試合終了~~~!!すっげぇ白熱した戦いだったなー!!』
ナレーションの人のアナウンスが聞こえてきて、私は呆然とする。
「あーあ残念やなぁ……もうちょっとやったのにー!」
「も、もしかして……タイムアップ?」
たぶんシュリンガル戦の時と同じような感じなんだろう。
ぎりぎりで、あの技は無効化された、と………
またそれか!!
「くやしいけどここまでやな。じゃあ、またあとで会おうな、天使姫ちゃん!」
「あ、うん………」
「あっ、フレ交換しよーな!絶対やで!」
「わかったよ……」
さすがにしつこい。
引きつった顔で笑っていると、目の前が光に包まれた。
ーーーーー
気が付くとコロシアムに戻ってきていた。
どうやら私が一番乗りだったらしい。
私は、ふうっと息をついて、近くにあったベンチに座ってみんなを待った。
「疲れた……」
「やはり強かったな。シノ、大丈夫か?」
最初に帰ってきたのはシノとリョウ先輩の二人だった。
いつも通りの二人で私はほっとした。
「お帰りなさい二人とも。」
「早かったな、ヒマリ。」
「ヒマリもお疲れ。」
ふっと笑うリョウ先輩と微かに口角をあげるシノ。
「あー、マジやばすぎだよー!」
「先にとけちゃってごめんね、ヒナタ君。」
続いて帰ってきたのはミネトとヒナタ君。
二人とも苦笑いを浮かべてやってきた。
「おかえり、ミネト。ヒナタ君。」
「ごめんね、死んじゃったー」
「ほんっとごめん!」
あはは、と笑う二人は、今更ながらどこか似ているなと思った。
「すまないな、ヒロ。カバーが遅れた。」
「いえいえ!僕のミスなので仕方ないですよ。」
「今度ダンジョン巡りでも行く?ヒロ。」
最後はヒロ君、エン先輩、ナイトだった。
これで全員が揃ったね。
「……待ってください?そういえば勝敗はどうなったんですか?」
そういえば聞いてないような。
すると、シノが答えてくれた。
「同率優勝だって。」
「ど、同率優勝!?」
「………どうしたのヒマリ。」
ナイトが不思議そうに首をかしげる。
なんだか、いろいろと中途半端なアリーナだったなぁ。
ハミちゃんとの戦いも中途半端だし、同率優勝だからどっちつかず、みたいな感じだ。
「あ、えーっと、ちょっと中途半端だなーって思ってさ。」
「中途半端?」
ん?と二人して首をかしげられるけど、その前にリョウ先輩が言葉を発した。
「闘技場に行くぞ。表彰式が始まる。」




