64,アリーナ編Ⅶ ー紅蓮の死神ー
ハミの方言は関西の方の、私のが住んでる県の方言っぽくしてます(語彙力)
関西弁だとは思うのですが、ちょっとエセっぽいところもあるかもしれないです
正直言って、私は不満だった。
そりゃそうでしょう。勝ったのはうれしいけど、まったく活躍できずに試合は終わってしまった。ある意味戦犯みたいなものだ。
でも、私に残ったのは申し訳なさじゃなくて"不満"だった。
「ホントにくるくる表情が変わるよね、ヒマリって。」
「ナイト………私いる意味ある……?」
はあ…と大きくため息をつき、話の流れをガン無視して私はナイトにそう言った。
すると、隣から「はあ?」という呆れた声が聞こえて、 慌ててそっちを向く。
そこには、いつの間にかそばにいたシノが、鋭い視線を私に向けていた。
「ヒマリのいる意味とか大ありだけど?なに?ってかたった一、二戦なんだから大きな活躍は出来ないって。」
「シノの言う通り。まあ、ヒマリは十分働いてくれてるから安心して。」
通常運転のシノと、笑いはしないけど優しい言葉をかけてくれるナイトに私は嬉しくなって、思わず笑ってしまった。
だけど、さっきの試合は真面目に罠のお手伝いしかしていないから、次、頑張らないと!
と、決意を新たにしつつ、私は重大なことを忘れていた。
次の試合はあっという間の決勝戦で、対戦相手が火炎帝国だってことを………
ーーーーー
『盛り上がってきた第三回バトルアリーナ・フェスティバル!!とうとうテイル部門決勝戦だぁぁぁ!』
今まで以上に大きな声援が会場内を響かせる。
それは巨大なうなりを持って波となりながら専用フィールドで待機中の私の耳にも届いた。
決勝戦のステージは【渓谷】ステージ。一見するとさっきまでいた森林ステージとそっくりだけど、フィールドをすっぱりと分けるように大きな川が流れている。まあまあ大きな崖もあって、その上でも戦うことができるらしい。
歓声が聞こえてくる前は、かすかに水の流れる音も聞こえていた。リアリティがありすぎて、ゲームってことを忘れてしまいそう。
『全員ドキドキワクワクの決勝戦は、さっき超巨大な罠魔法で天使達を一網打尽にしてしまった【幻想騎士団】VS炎ですべてを焼き尽くす圧倒的な力!【火炎帝国】ぅ!!!』
さっきよりも大きな歓声がフィールドを揺らす。
おおお……この盛り上がり、なんかのアイドルとかのライブの歓声の倍以上ありそう。まあライブとか行ったことないけどさ。
クラスメイトの友達に見せてもらったライブの映像を思い出しながら、私は苦笑いをこぼした。
「じゃあヒマリ、頑張って。」
「ヒマリなら一人でも大丈夫だろうし、頑張ってね。」
ナイトとシノの励ましに努めて明るく笑い返してから、私はふうっと息をついた。
元から火炎帝国との対戦の時は支援に回らず、ティスイはナイトに返却し、ソロで回ることになっている。っていってもウィルとララがいるけれど。
どうやら、火炎帝国は隠密を見破る看破スキルとやらを持っている人が多いから今まで通りだと危険なんだって。
『そんじゃあ……Ledy、Go!!』
私達にとっては本日三回目となるその掛け声と共に、一斉に飛び出していった。
そういえば、なんで私一人なんだろう………悲しくない?ま、まあ、一人ではないんだけどさぁ……
一気に川べりまでやってきた私は、あと一歩で川の中、という所で急ブレーキをかけた。
「……わぁぁぁ!綺麗…………!」
ほのかに白波をたたせながら、水が左から右へと流れていく。
崖からは小さな滝が流れ、鮮やかなセルリアンブルーからグラデーションのように白くなったり戻ったりしている。
音の再現度も高いけど、水もこんなに綺麗に再現するなんて、ホントにファンツリのプログラマーさんはすごいなぁ…………
だけど、感激して水に見とれていた私は、背後から忍び寄る敵に気づかなかった。
『!!』
「ひゃあっ!」
キーン、という心地よい音と共に、私は驚いて後ろを振り向く。
薄い黄色の光を放つ結界が、濃い赤色のコートを纏った男性プレイヤーの剣をはじき返す。
「ご、ごめんララ!ありがと!」
『危機感足りな過ぎだよヒマリ様!ここは戦場なんだから!』
ぷくうっ、と頬を膨らませたララがこっちを見ながら叫んでくる。
少し後退した敵に空中からウィルが弾幕をお見舞いして、苦し気な表情になって動きが鈍る。
また二人に助けられちゃった……これはもっと頑張らなければ!
私はフィンカーを揃えながら新たな決意を胸に杖を構えた。
「【バブルスラッシュ】!」
放たれる泡の光線を青年は器用に逃げ回るけれど、ウィルの弾幕が器用に間を縫い退路を塞ぐ。
最終的にララが光でできた矢で敵を撃ち抜き、ガラスの砕ける音がした。
『ナイスですね、ヒマリ様。』
『このちょーしでどんどんたおしてこー!』
「おー!」
っとと、その前に!
私はここに来た目的を思い出し、再びボードに触れる。
発動したのは【鏡世界】。ガルウィックボアーの焼肉パーティーで大活躍?してくれた幻惑系統の鏡迷路の遅延型みたいな魔法だ。そして、私が川べりに来た理由は、鏡魔法の上位進化前の水魔法は水辺では効果が高くなるから。だから上位進化後の鏡魔法も水辺では効果が上がるから。
ちなみにこれは攻略本にも書いてあった公式の情報です。
ゆらり、と一瞬空気がゆらめき、罠の設置を示す薄い光が水中から真っすぐ立つのが見えた。
よし、これでオッケー、っと!
「………水系の罠魔法やね。さしずめ鏡世界やろ?」
「!?」
その時。
突然、後ろから訛りのある少女の関西弁が聞こえてくる。
一瞬にして体が固まる。
ごくりと唾をのんで、私は一度息を吐いた。
「まあでも範囲と威力的にはレベルの割にようできとると思うわ。さすが【天使姫】やね!」
「………あ、あなたは………?」
嬉しそうにそう告げた少女だけど、逆に私の恐怖心は際立っていた。
なんせさっきまで遊撃とかいう支援側の人間だったもんだから、こうして直接敵と向き合う(今は後ろ向いてるけど)ことがなかったのだ。
………何が戦犯だ。
この状況、超怖い………
「んー?私は……私はねぇ……」
これは、もう潔く対面しよう。すぐ負けちゃうかもしれないけど、出来るだけ頑張らないとそれこそ真の戦犯だ。
ふうっと息をつき、私はゆっくりと息をつく。
そして恐る恐る振り返った。
「火炎帝国副テイルマスター、ハミ!」
真っ白なボブヘアに少しだけ吊り上がった真っ赤な目。そして濃い紅のマントをはためかせ、左手には死神が持つような鎌を後ろ手に構えるその少女は、満面の笑顔でそう答えた。
その鎌は赤い鉱石のようなものが刃の反対側の三分の一を覆っていて、柄には私の杖に似てに赤い蔓が巻き付いたデザインになっている。
光に反射してきらりと輝くその刃に、私の真っ青な顔が映っていた。
「でも、画面越しよりもホンモノの方がかわええなぁ……!これ終わったら絶対フレ交換しよーな!」
「………え?」
しかし、そのハミという少女から飛び出した次の言葉は、私の恐怖をあっという間に吹き飛ばしてしまうものだった。
ふ、フレンド?な、なぜこの流れでそういう話に……
「そんでー、たまにパーティ組んでクエストしたりしようや!いっつもナナミと組んどるんやけど、たまには別の子とも遊びたいし!」
「えっ……えっ……えっ……?!」
「ナナミもな、天使姫ちゃんのこと気になっとったんよー!今日やって、どっちが天使姫ちゃんと戦えるか勝負しとんよー!ま、私が勝ったけどねー!」
な、なんだろうこの方は……
ずっと鎌を構えられてるんだけど、顔がものすごい笑顔でいらっしゃる………
なんだか不思議な展開になりだして、私の口角がぴくぴくとはねる。
「終わったらナナミも紹介するね!んでフレ交換!」
「あ、はい……」
ぐっ、とサムズアップを見せられ、私は思わず頷いてしまった。
いやまあ断ることではないし、別にいいんだけど……あれ、今アリーナ中で、この方と私は敵同士なわけで……
すると痺れを切らしたようにとうとうララが声を上げた。
『……もう!!結局ハミは敵なんでしょ!?放課後遊ぶ約束してる女子か!』
「いや話してること自体はそういう感じやし、あながち間違ってないと思うんやけど?」
「た、確かに……なんかすっかりペースに飲み込まれてたよ。」
危ない危ない、と私は気持ちを切り替える。
そしてハミちゃんの方をしっかりと向いて言った。
「フレンド交換は後でやりましょう。でも今はこっちです。そちらも戦いに来たんでしょうから。」
「おおっ、天使姫ちゃんむっちゃ真面目やなぁ!確かにそうやね。……じゃあ早く終わらせちゃおっか!」
ハミちゃんが屈託のない笑顔でそう告げる。
よしっ、この対決絶対勝たなきゃ!
そう意志を強く持ち、杖を構えたその瞬間だった。
「ふふふ、遅いよー。」
「ひゃっ!?」
眼前にハミちゃんの楽しそうな表情が迫って、私は思わずのけぞる。
魔法移動で対岸まで移動してなんとか攻撃を回避するけど、ぞわりと背筋が冷たくなるのを感じる。
「今気づいたけど、天使姫ちゃんのその装備、リユのとこの防御特化系装備やね。もしかして防御弱い感じ?」
「え………」
ハミちゃんの言葉に胸が大きく鳴る。
さ、さっきから思ってたけど、ハミちゃんってスキルとか装備とかすごい詳しい……よね。これはちょっと勝てるか難しいぞ……
「やけど、その服むっちゃかわええよ!ほんまリアル天使!あーもうこのままお持ち帰りしたぁい!」
「あ、あの……勝負は………」
「そうなんよね……こんなに愛らしい天使姫ちゃんを倒さなきゃいけないなんて、ほんま酷!」
きぃーー!と叫びながらハミちゃんはこっちに向かってくる。
酷!とか言いながら普通に倒しに来てますよね!やめて!怖い!
私は少しずつ雑になっていく攻撃をしっかりとよけながら、なんとか反撃の一手を探す。
………とりあえず、防御を上げよう。
そう思って、私は防御力を上げる全体支援魔法【ミラクト】を発動する。
でもその時、不敵にハミちゃんが笑うのが目に入った。
「………ウソっ!?効果が……ない?」
いつもならHPゲージの横に表示されるはずの青い盾マーク、それが表示されないのだ。
えっ、ど、どういうこと?確かに私はかけたのに……
「んふふ、ごめんね天使姫ちゃん。私の前ではありのまんまで戦ってもらうさかい。」
「ええええ!」
『………やはりその鎌、【紅血の協奏曲】を持っているんですね。』
難しそうな表情でウィルがそう呟く。
あ、あーてぃくる?何それ。
「へぇ、その子むっちゃ賢いんやね。そんなことまでしっとるんや。」
『………ありがとうございます。』
ちょちょちょ、ちょっと待ってよ!そっち二人で話進めないでくれる!?
バチバチと火花を散らせながらウィルとハミちゃんがにらみ合う。
お願いだからさっきのアーティクルなんとかの説明をして!
だけどそんな私の思いは届かなかったようだった。
『……【弾幕・展開】』
ウィルがそう呟くと、少女の周りに無数の青く光り輝く球が現れる。
もちろんウィルの弾幕は何度も見ているけど、ここまで多いのは初めて見た。気のせいかな、物凄くウィルが殺気立ってるように見えるんだけど。
『楽しそう!ララも混ぜてー!【幻想】!』
「ら、ララまで………」
ララがのんびりと飛翔しウィルの隣につく。
その瞬間二人の姿がハミちゃんを取り囲むように複数現れる。その数約6組。
戦うの大好きなララはともかく、ウィルがここまでするとは思わなかった。
ウィルの弾幕は確実にハミちゃんをとらえるけど、ハミちゃんはそれを鎌で消し去ってしまう。だけど、ハミちゃんからの攻撃はララの結界で弾かれる。
かなり互角の勝負に、私は数秒ほど呆然としてみていた。
『なかなかやりますね。』
「まあ互角、ってとこやね。でも……こうしたらどうや?」
ふいに、ハミちゃんが鎌の構えを変える。
鎌を大きく振りかざし、まるで竹刀を構えているみたい。
そして、それを真っすぐ下に振り下ろすのかと思いきや、ハミちゃんは鎌を上から下へ斜めに振り下ろしたのだ。しかも、振り下ろしたのはハミちゃんからみて左側。ウィル達本体がいる側とは違う方向。
なのに、ララの作り出した幻想がすべて消滅する。
『うげっ!使いこなしすぎでしょー!』
『ふむ、一筋縄には行かないようですね………』
光の粒子として散っていく分身達に目もくれず、ウィルは再び弾幕を展開した。
………私も混ざっていいよね?
この対決についていける気が全くしない私は、少しの間だけ傍観することにした。




