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水無月学園生徒会は、どんな世界でも最強なのです!  作者: 葉月 都
第五章 水無月学園生徒会は、アリーナをも征服します
63/68

63,アリーナ編Ⅵ ー巨大罠ー



集合場所で待機していた私達を光が包み込み、気が付くと少し前までいた森林の中にいた。

まさかの二連続森林ステージに、私は口角がひきつるのを感じた。




「そんな嫌そうな顔しちゃだめだよーヒマりん。」

「そうそう!同じステージなら地形が分かってるから動きやすいでしょ?」




そんな私に気が付いたのか、ヒナタ君とミネトが笑いながら言う。

ま、まあそうだけど……他のステージも行ってみたいじゃん………それに対戦相手が大天使兵団な時点で作戦と行動が決まってるから、土地勘とか関係ないし………




『準決勝第二回戦は、空を自在に駆け抜けていく、空中戦のエキスパート【大天使兵団】VS圧倒的な戦力と連携、そしてその圧倒的な美貌を併せ持つ【幻想騎士団】だ!』




幻想騎士団の名前が出た瞬間、遠くで女性プレイヤーの叫び声が聞こえる。

わぁ……元気だなあ皆………




『ステージは【森林ステージ】!どちらかというと大天使兵団には不利なステージだ!どうやって立ち回るのかが気になるぜ!』

「よし。立ち回りは前言った通りだ。エン、ヒマリ、頼むぞ。」

「「了解」です!」




ふうっ、と息を整えて、私は杖を構える。




『それじゃあ両者位置について……Ledy Go!』




号砲と共に先陣を切ったのはナイトとシノ。その後ろに私とエン先輩とミネト・ヒナタ君以外が続く。

その場に残った私達は、互いに顔を見合わせ、警戒しながらゆっくりと中央部に向かった。




「ヒマリ、MPは大丈夫か?」

「全然大丈夫です!気分も最高なんで!」

「興奮しすぎて倒れたりしないでよねー」




けらけらと笑うミネトの足をふんずけてやってから、ずんずんと足を速める。

「ごめんってー!」という情けない声とエン先輩とヒナタ君の楽しそうな笑い声が後ろから追ってくる。

久しぶりに感じるような心のドキドキに、私は思わず頬がほころぶのを止められなかった。


やっぱり、楽しいやっ!




「最近楽しそうだな、ヒマリ。」

「VRMMOの魅力にどっぷりとはまっております!」




きりっ、という効果音と共に返すと、エン先輩は優しく目を細めて笑ってくれた。




ーーーーー





「よし、コマンドは覚えているか?」

「ばっちりです!」




サムズアップを返すと、エン先輩はうむ、と頷いてヒナタ君とミネトの方を振り返る。




「よろしくな、二人とも。お前たちにかかっているからな。」

「了解!」

「らっじゃー!」




その返事を聞いてから、エン先輩は私に目線を送る。

私はそれに無言でうなずき、コマンドボードの上に指を置く。




「………スタート」




その低音ボイスの掛け声と共に、私とエン先輩は同時にコマンドを動かし始めた。


今から私とエン先輩が組み上げるのはとある罠のような巨大魔法だ。

魔法自体はエン先輩のものだけれど、今回は使う規模が大きすぎてMPが足りない。そのため私が一端を手伝うことになっているのだ。

これを聞いたとき、そんなの可能なの?って思ったけど、私は罠と目くらましの部分を担当するのでノープロブレムらしい。まだまだ奥が深いなぁ。




「半分経過」

「ぅえ!?は、はやっ………」




エン先輩の声に私は指を動かすスピードを上げる。

私がつなげなければならないコマンドの数は総23。エン先輩は総40強。私の約二倍のコマンドをつなげるエン先輩がもう半分とは………


四つ目の黄色い球体を消してから、私は次の赤い球体を消しにかかる。


私の方も半分経過したところで、突然近くで土煙があがってびっくりしたけれど護衛役の二人が追撃をしてくれた。なかなかやるなぁミネト。



そして、それから数分後。




「完成です!」

「お疲れ、ヒマリ。」




私より少し前に一工程残して仕事を終わらせていた大魔法使い殿は、私の報告を受けて最後のコマンドを打った。

そして、私とエン先輩はそれぞれの杖を空高く上げ、魔法を放った。




「……………何も起こらないですね。」

「いや、そりゃそうだろ……罠自体ばれないことが前提なんじゃないのか?」

「あ、そうですね!」




呆れた顔で苦笑いをこぼすエン先輩に、私もあはは、と苦笑いを返した。




「とにかく、ヒマリはもうMPぎりぎりだろう?少し休んでいけ。ララ、任せたぞ。」

『合点承知の助!』




ずっとヒナタ君とミネトについていたウィルとララが私のところに帰ってきて、ララがそのまま結界を張ってくれる。

そして、エン先輩はリョウ先輩に連絡をしてからそのまま木々の間に去っていこうとしたのだ。




「えっ、エン先輩っ!?休まなくていいんですか!?」




左上に表示されるエン先輩のスタミナゲージはHPはもちろん満タンだけどMPは半端なくない。そりゃそうだ。私の倍コマンドを打っていたんだから。


私の声に振り返ったエン先輩は小さく笑って言った。




「俺はもう慣れたからな。だが、ヒマリは初参加なんだから無理しないほうがいい。しっかりMP戻してから動けよ?」

「……はーい。」




うぐ……なんだろうこのよきお兄さん感は………

さすがだ……


結局試合はララの聖光結界の中で三分ほど休ませてもらっている間に終わってしまったらしい。いつの間にか私はコロシアムに戻ってきていた。事の次第は全部そこで合流した皆から聞いた。

どうやら頑張ってつくりあげた罠は無事発動し、全員皆が狩ったらしい。


ん?

…………え。




えええええええええええええ!!!???

…………ナニソレ、ひどくないですか?




そういうことで、私達は無事決勝戦に進むことができた。

皆は褒めてくれたけど、不完全燃焼過ぎてなんだかもやもやするから決勝戦では思いっきり攻撃してやりたい気分だ。




ーーーーー




「ナナミー!はよぉー!始まるよー!」

「ごめん、ちょっと混んでて。」




深紅のマントを翻し、少女は席に座る。

隣に座る中学生くらいの関西弁白髪少女がむすっと頬を膨らませながら言った。




「まったく………せっかく今回の好敵手(ライバル)の戦闘が見れるんやから!時間は守らんと!」

「ご、ごめんね………」




髪の色とよく似た色の魔女のとんがり帽子を膝の上に置き、「ナナミ」と呼ばれたその少女は空中に浮かぶ巨大スクリーンに視線を移した。


そこに映るのは準決勝第二回戦で戦う二組のテイル。一つは全員が天使種族で空を飛ぶことができるという特徴を持つので有名な【大天使兵団】。

もう一つのテイルは、その容姿の圧倒的な偏差値の高さに負けない高い技術力とバランスの取れた構成で勢力を振るう【幻想騎士団】だ。




「あの子って"天使姫"よな?うわぁ……ほんまにかぁわいい………!!」




少女がうっとりとした瞳で、画面の中でも圧倒的なオーラを放つ一人の少女を眺める。

辺りでも「はぁ…」という声が聞こえて、会場内の空気が甘くなる。




「どんな味なのかな、あの子。」

「ん?どしたん、ナナミ。」

「………何でもないよハミ。」




ナナミの言葉に、ハミはふうん、と言って画面に顔を戻す。


その会話から少しして試合が始まった。

最初は色んなプレイヤーを映して回っていたけれど、予定通り戦闘が始まるとそちらにカメラは固定される。




「わっ、やっぱ早いなぁ。むっちゃ的確にあてるんやからさすがというかなんというか……」

「たった数か月であんなに当てるんだからすごいよ。」




黒髪の、やけに大人じみた顔をした青年がはなった矢が空中を飛び交う天使の胸を撃ち抜く。

ざわりと会場が揺らぐ。




「そういえばさぁ、ナナミは幻想騎士団の中で誰がすき?私はやっぱりシノくんやわぁ………」

「好きというか、プレイ的に好きなのはエンさんかな。サポートとしてもすごいのに前線でも動けるんだから。」




そんな呑気な会話をしていた二人だが、突然二人の頭を揺さぶった波に慌てて画面の方に振り返った。




「ちょっ……なんやさっきの!」

「画面越しだから眼が使えないけど、すごく大きな魔法の反応がしたね。」




ハミからミーハーさが消え、ナナミから笑顔が消える。

それは未知の生物と出会い、謎の強大な力を見せつけられ絶望するそれを思わせるようなものだった。


それから三分ほどして、二人はあの「すごく大きな魔法の反応」の正体を知ることになる。




『な、なんだァ!?突然大天使兵団のメンバー全員が地面にたたき落されただとぉ!?』

「あれ、罠か!?」

「でも一気に四人落としたぞ!?」


「……………重力やね。罠系統の【グラビティフォールネット】。」




会場が一気ざわざわとなり、ナナミを苦味が襲う。

ハミの解説を聞きながら、少女は必死に苦しい表情を殺し始める。




「………あれって、せいぜい一人か二人はいつくばらせる程度の魔法だよね。なのに……さっきの罠魔法には残った四人全員が、引っかかったし、それプラス……閃光による目くらましが、あった。」

「どんだけ魔法系のコマンドを理解しとっても巨大化プラスアレンジとかやばいなぁ……たった三か月でここまで仕組みを把握はできんやろ。かなりのやり手がついてそうやな。」




地面にたたき落された敵達を下で待ち構えていた剣士二人と槍術師二人が攻撃していく。

グラビティ本来の効果で身動きが取れない彼らは為されるがままHPを削られていく。


結局、グラビティの効果中に倒せたのは二人だけだった。


だが、ハミにはそれだけであの前衛四人の戦力を把握するには十分だったようだ。

テイル内でも随一の戦略家はこう告げた。




「やっぱりナイト君とシノ君の強さは圧巻やね。あの二人は警戒せんとあかんわ。やけど、ヒナタ君とかあのもう一人の槍の子はそこまで警戒せんでも大丈夫やわ。あの子たぶん新しい子やろ?まだ慣れてない感じがあるわ。」




ま、今んとこ戦闘で映ってるのはあの四人くらいだけやけど。と付け加えて、ハミはふっと息を吐き出した。

だが、先ほどハミが伝えてくれたことはナナミにもなんとなく分かっていた。

確かにナイトやシノの動きはずば抜けている。だが、普段商人としてゲーム世界にいるヒナタやもう一人の槍の子ーヒロの動きは二人に比べて戦闘に慣れていないことが分かる。


なんとか四人の包囲網を抜け出した残りの二人は、急いで上空に飛び上がり、攻撃態勢に移る。




「あぁ!なんでそこでそうするんやねん!そこは一旦引いて態勢を整えんと!」

「でも、そろそろ時間だし、やけくそ、みたいな感じなんじゃないかな。」




予選がラスト四組になるまで終わらないのに対し、準決勝・決勝は時間の都合上十分しか時間がない。そして、十分間で敵を全滅させるか、仲間が敵よりも多く生き残っていれば自分たちの勝利となる。




「にしても、冷静沈着そーなのにやっぱ焦るんやねー」

「ま、前回は叩き潰しちゃったしね。」




画面の中では空中から弓を引く彼らの体を的確に矢が撃ち抜き、そのまま一人が再び地面に落とされるシーンが流れている。

無慈悲にもHPをどんどん削られるプレイヤーをどこか冷めた目で見つめながら、ナナミはそう呟いた。




「そうそう!もーあっという間にナナミが倒しちゃうから、私ら出番なかったんやけどー!」

「それは……ごめん。」

「絶対思ってないやろー!!」




表面上でぷんすかと怒ったふりをするハミに小さく笑いかける。

画面の中では最後のプレイヤーが何本もの矢に貫かれ、静かに結晶となる。試合終了のブザーが鳴り、会場が大きく沸いた。


さてと、と大げさにぶりをつけてハミが立ち上がる。それを真似するようにナナミも立ち上がり、大きく伸びをした。




「いっちょ、暴れますか!」

「ほどほどにね、ハミ。」





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