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水無月学園生徒会は、どんな世界でも最強なのです!  作者: 葉月 都
第五章 水無月学園生徒会は、アリーナをも征服します
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62,アリーナ編Ⅴ ー夏と月ー


「ヒロ君はもう慣れた?」

「ええ。ここ最近はヒナタ君やミネト君と一緒にパーティを組んでクエストをクリアしていましたよ。やはりお二人ともお上手ですごく助けていただきました」




えへへ、と申し訳なさそうに笑ってヒロ君は言う。

なるほど。ヒナタ君やミネトとパーティ組んでたならすぐにレベル上がりそうだし、サポートしてくれるだろうなぁ。




「ヒマリさんは?」

「私はソロで討伐しまくってたかな。ウィルとララがいるからさ。」

「なるほどです!お二人なら安心ですね!」

「そうでもないよー?皆遠距離だからさ、ほんと近距離系のスキル覚えようかと思ったもん。」




あの後攻略本で覚えられそうな近距離系スキルを探してみたけど案の定なかった。もちろん打撃系のスキルもあるけど、私のAGL(俊敏性)ではだめらしい。なんとまあひどいこと。

もうこれは最終手段として水操作でどうにかしてみようと私の中で結論づいたのであった。




「それもそれで大変ですね。僕のところはミネト君が遠距離で、僕とヒナタ君が中距離系の武器なので構成がよかったんでしょうね。」

「うん。それにヒナタ君がいるから情報の伝わりが早いでしょ?」

「はい!……あ、そうでした。グランドクエストⅠ攻略おめでとうございます!」




ふわりと笑うヒロ君に、私は笑い返してお礼を伝える。

確かにグランドクエストの後はゲーム内では夏祭りとか以外あんまり誰かと一緒に行動したりしなかったからな。


そう考えると、改めて皆と会ったのはあの会議の後初めてかもしれない。




「もーほんと大変だったよあのクエスト!気が付いたら変なドレス着てるしさ、突然わけわかんない場所に飛ばされるし、それで、起きたら石の上に放り出されてたんだよ!」

「うわぁ……それは大変でしたね………」




ナチュラルによしよしと頭を撫でてくれるヒロ君がとてつもなく天使に見える。否天使である。

そんな話をしながら私達はコロシアムの元の席に戻ってきていた。ちなみに結果発表と次のトーナメント表は帰ってきた時にもう表示されていて、私達の次の試合はこの次になった。


このトーナメント戦に残ったテイルは、【大天使兵団】・【オークバーサーカー】・【火炎帝国】そして【幻想騎士団】で、次戦うのは噂の【火炎帝国】と【オークバーサーカー】だ。




「そういえばさ、私ヒロ君が能力を使ってるところあんまり見たことないな。」

「確かに、最近は使ってませんし無理ないですね。」




ヒロ君の能力「未来予知」は色々なことを予知できるかなり万能な能力だ。

そして、私は入学以来ヒロ君が能力を使っているところを見たことがない。




「僕の能力は一度使うとそこから三日間ほど気絶してしまうんです。だから極力使わないようにしているんですよ。」




能力には必ずデメリットがある。

例えば、シノだと発動前後で目が青くなるとか、エン先輩は体に触れないと心は読めないとか、ナイトは記憶するものを文字という媒体でしか記憶できない、とか。


私も強大な力があるけれど、その力の量が制御できなかったり暴発したりする。

そういうデメリットと一緒に私達能力者は生活しているのだ。




「それは大変だね…まあなんでも見通せるから仕方ないっか。」

「僕はヒマリさんの方が大変だと思いますよ?力の制御が利かないのが一番きついですから……」




不安そうな表情で私を見下ろしてくるヒロ君に、私は苦笑いを返す。

いつの間にか席に到着していて、場所が数席ほど離れているヒロ君とは一度別れした。


席に着いたら、隣に座るシノが前を真っ直ぐ見つめながらぼそりと呟いた。




「………ヒロと何、話してたの?」

「………へ?な、なんて言った?」

「なんでもない。」




がやがやとした周りの喧騒で、何言ったのかはよく聞こえなかったけど。




ーーーーー




『テイル部門準決勝1戦目!その勢いはフェニックスさながら!炎の軍勢【火炎帝国】VSその連携力と攻撃力を武器に勝ち抜いた、怒り狂う者バーサーカー【オークバーサーカー】!』




会場の歓声が大きくコロシアムを揺らす。

もちろん私もその中の一人。


火炎帝国が強いのはミユウちゃんに教えてもらったけど、どうやらオークバーサーカーっていうテイルもまあまあの実力者らしい。




『ステージは【旧・市街地】!今にも崩れそうな廃墟が立ち並ぶフィールドをどう立ち回るのか!』




頭上の巨大スクリーンに今回のステージのマップが表示される。

建物はたくさんあるけれど、その中には入れない。しかも建物はある程度のダメージを受けると崩壊するし、その下敷きになればダメージが入るのだからなかなかの難易度のステージだと思う。




『それじゃあ両者位置につけ………Ledy Go!』




その掛け声と共に号砲が鳴り響き、画面がマップから切り替わる。

色んなプレイヤーのところをカメラが回っているみたい。だけど戦闘が始まるとそっちにカメラの視点は移る。


最初は適度に間隔をあけながらランダムに回っていたけれど、数分後、一つの場所でカメラが固定された。


真っ赤なマントを翻しながら、一人の女の子のプレイヤーが二人の大きな巨体の大男プレイヤーと戦い始めたのだ。




「わ…あの子あんなに体格差がある人を二人も………」

「人数差はともかく、別にこの世界じゃ体格差なんか関係ないよ。ステータスの数値と経験の差。」




眩しそうに目を細めながらシノはそう言う。


た、確かに……いくら現実ですばやくてもこっちではAGL値が低ければ動きはとろいもんね。

やけに低めな自分のAGL値を思い出しながら、私はがっくりと肩を落とす。




「それに、勝負はもうついてるし。」

「………へ?」




その言葉に私は画面を見上げる。

大男が振り下ろす両手斧を軽々とよけ、その女の子は魔法を撃っていく。

もう一人の男も槍を突き出すけどそれさえも宙返りをしてよける。


赤いマントがひらひらと舞い、炎みたいにみえた。


斧持ちの大男の顔が少し歪み、ボードを動かす。

が、その動作中、彼の体を真紅の矢が貫いた。そこに準備を終えた少女の魔法も撃ち込まれ、ポリゴンと化す。

その瞬間、少女の背後を狙おうと槍をつきだしたもう一人の男が炎に包まれる。




「わっ!」

『トラップですね。中範囲火炎魔法【フレイヤーボム】でしょう。』




膝の上でウィルが冷静に分析する。




『でもフレイヤーボムは置いた瞬間に発動だよね?遅延掛けられるっけ?』

『もしかしたらあの方は土魔法も所持しているのかもしれません。もしくは【山姫】なのでしょう。』




ウィルによると、土魔法の上位進化に地球魔法っていうのがあって、それにある【グラビティ】っていう魔法を使うと、それの影響を受けた魔法が遅延状態になる効果があるらしい

「山姫」は人間種の一つで、特殊スキルとして発動を遅くする【大地の怒り】というやつが使えるんだって。


でも、魔法の混合は、私の持ってる鏡魔法の特殊能力【合わせ鏡】を使うか、支援スキルの【魔力操作】を使わないと出来ないから、山姫の可能性が高いらしい。


そんな推測をしている間にもどんどん戦闘は続き、八人いたオークバーサーカーのメンバーはあっという間に二人まで減っていた。それに対して、火炎帝国の方は七人いる。戦力の差は絶望的だった。




「………これは決まったね。」

「そうだね。」




ナイトがふぁあ、とあくびをしながら言う。

眠そうに目をこすっているということはまさか……寝てたの!?


この恐ろしいゲーマーに私は若干引きながら、勝利の音を遠くに聞いた。




『WINER、【火炎帝国】!』





ーーーーー




「ヒマリちゃん。」

「あっ、ミユウちゃん!やっほー!」




試合が終わり、皆でさっきの入口に向かっていると、突然後ろから声をかけられた。

振り向くと、そこには狐耳のロリータ少女・ミユウちゃんと見覚えのある二人の姿があった。




「わっ、この子が噂の【天使姫】ちゃん?!かっわいい~!」

「……ちょっとナツ、初対面の人にいきなりタメはだめだよ……」




目をキラキラと輝かせるミディアムヘアの子と、あきれ顔でため息をつくミディアムヘアの子………

えっと、確か、パーティ部門で同率優勝した二人だよ…ね?




「か、顔がそっくり………」




いや、そっくりどころじゃない。

何もかもが同じに見える。目もとのほくろの位置も髪の長さも身長もほとんど同じ。ただし、装備の色が水色と青で違う。そして、水色装備の子は女の子にしては声が低めだけど、青色装備の子はその逆に聞こえる。




「ヒマリちゃんは知ってるよね、二人はパーティ部門で優勝したナツとツキ。」

「こんにちは、天使姫ちゃん!」

「こんにちは。」




そう声をかけられ、私は戸惑いながらも挨拶を返す。

肩の上でララが『どっちがナツでどっちがツキ?』と首をかしげている。私も同じだよ、ララ。


すると、その問いを読み取ったかのようなタイミングで、ミユウちゃんが言った。




「水色装備がナツ、青色装備がツキ。ややこしいよね。」

「ざっつ!雑いねミュウ!」




ぷくうと頬を膨らませて、ツキくんがミユウちゃんに突っかかる。

漫才で例えるなら、ツキくんがボケでナツちゃんがツッコミだろうな。




「よろしくね、天使姫ちゃん!」

「あ、ヒマリっていいます。よろしくお願いします。」




にこにこと笑うツキくん。そして変わらずの澄まし顔のナツちゃん。

なんだろ、正反対な二人だけどすごいいいコンビだよね。




「二人は双子なんだよ。」

「え、ええ!?ほんとに?」




突然告げられた事実に、私は声を上げる。

ど、通りでそっくりさんだと思った!




「ヒマリ~ん、何やってんの~?」

「早く集合して~!」




遠くでミネトとヒナタ君の叫び声が聞こえてくる。

はっ、まずい!時間が!


私はあわてて三人に断って、走り出した。




「…………ね、ツキ。」

「なに?ナツ?」

「デジャヴを感じる。」

「奇遇だね、()もだよ。」




はあ、とがっくり肩を落とす双子姉弟に、半歩後ろで見物していたミユウは小さく笑った。




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