61,アリーナ編Ⅳ ーリズムゲームー
大変お待たせしました!
……見つけた!
ナイト先輩の指示を受けて、私は北東エリアに向かっていた。
さっきから空を飛んでいてまあまあの人数とすれ違うけどまったく見つからない。何度目か分からないけど、さすがナイト先輩のティスイ。
木々の間で黄色い光が弾けた。
たぶんあれは魔法だろう。
そう考えながら私はティスイを縮小化させながら隠密状態のまま地上に降りる。
ナイト先輩によると北東エリアでミネトとヒナタ君がちょっと強めのテイルと接触するからサポートに行って欲しいというものだった。あの人時折エスパーだよね。
確かに二人は六人くらいのテイルと交戦していた。
『…………ヒマリ様、どうされますか?』
「隠密状態のまま後ろで援護しよう。出来るだけ見つからないように三方向に分かれよう。」
『おっけい!』
大きな声を上げるララの口を二人で慌てて塞いで、私達は動き始めた。
森林ステージは、空中から見ていると木が邪魔して下がよく見えないけど、下に降りると木が意外と障害物になって隠れやすい。見覚えがあるこのフィールドは南フィールドかな?
「【ディザスター】!」
「【ウィンドカッター】!」
お揃いの水色のマントを着た四人のプレイヤーと戦うミネトとヒナタ君。
ふむふむ、あれが【ディアスノウ】かな?
火炎帝国に続く謎の偏ったプレイヤー選考にまあまあの実力者が集うテイル【ディアスノウ】。それが今二人が相手にするテイルの名前だった。
「ウィル、気づかれないように弾幕を織り込んで。ララはミネトが光魔法打ったらそれにかぶせて。」
『『了解!』』
伝蝶を使い二人に呼びかける。
元気の良い返事が返ってきたのを確認して、私も加勢を始めた。
肩に乗るティスイ(小)のおかげで隠密は維持されている。この子にも加わってもらいたいからMPを分け合っているけど。
私は戦況がよく見える位置の木に上り、中でも太い枝に座る。
画面左上のステータスバーを見て適度に回復させてあげながら、ララに指示したように【混合】を使用して魔法を打っていく。あっ、なんか楽しい。タイミング合わせて一緒に打つって、リズムゲームみたい!
だんだん楽しくなってきた私は、威力を変えたり属性を変えたりして遊び始めた。
すると
「『!?ひ、ヒマりん?ちょっと何やってるの?!』」
「『あー、やっぱヒマりんの仕業ー?援護嬉しいけど絶対遊んでるでしょー!』」
ミネトとヒナタ君の声が伝蝶から聞こえてきて、私は思わず苦笑いをこぼした。
ばれてたか……いや別にばれてても一向にかまわないんだけど。
「えへへ……ナイト先輩に言われてさ。このまま支援してるから、二人とも頑張って!ウィルとララもこっそりいるからー。」
「『ええ?ナイトすごすぎでしょ!あと支援あざー!』」
「『おっけぃ!ほんと助かるよヒマりん!』」
その通信のあと、私はティスイに指示を出す。
暴風が一直線に駆け抜けて、三人に減ったディアスノウを襲う。一気にバフ効果が全部消えてゼロに戻る。
突然の風とバフ効果の消滅に、相手側の魔法使いが慌てているのが見える。
「よーし、ティスイも攻撃に加わって。隠密解除していいよ。ウィルも弾幕をそのまま打ち込んでいいから。ララは敵を結界で包み込んで逃げられないように!」
『了解です。』
『おっけ!』
ティスイが肩から離れ、隠密が解除される。
そして木の枝から飛び降り、その勢いのまま二人の後ろに駆けつける。
「なっ、もう一人いたのか!」
先頭にいたリーダー格の男性プレイヤーがそう叫ぶけど、私は気にせずボードを動かす。
「【ミラーズシンフォニー】!」
「ヒマりん!?【トリプル・フラッシュアロー】!」
「【グラビティ】!」
そのまま何も言わずに魔法を撃つと、さすがの二人の対応力で撃ってくれた。
背後からはウィルの弾幕、そしてララの結界で退路を塞がれて、ディアスノウは全滅した。
魔法使いの人がミリで生き残ったけれど、ウィルの弾幕で倒された。
ポリゴンとなって三人が消えたのを見届けると、私達はハイタッチを交わす。
「ナイッスぅ、ひまりん!」
「ほんとほんと!絶妙なヒールのタイミングでびっくりしたよー!」
「あはは……でも、すごい硬いですね。全然倒れないから………」
何発当ててもなかなか倒れないあのテイルを思い出して、私は大きくため息をつく。
すると、ヒナタ君が言った。
「水魔法には、【水晶魔法】っていう防御に特化したような聖位進化魔法があるんだ。ほんとあれ厄介なんだよねぇ。」
「そうそう!特にクリスタルパレスはほんと厄介!」
「【水晶魔法】……?」
私はその単語に首をかしげる。
そういえば…エルフの図書館で貰って帰ってきたあの本…確か【聖位進化の魔法】みたいな題名だったっけ?貰って帰ってきて全然読んでないなぁ……終わったら頑張って読破しよーっと!
「確か、あれってDEFが極端に低い人貰えるんだよね?」
「うん。ヒマりん持ちそうだなー!」
あははー!と笑うミネトとヒナタ君の会話に相槌を打ちながら、私はほかのみんなのステータスを確認する。…………ヒロ君が少なめだけど、エン先輩と一緒だし大丈夫かな。ナイト先輩は全然大丈夫。うん。無傷レベルで大丈夫だね。
私はウィルに頼んで二人のHPを全回復させてから、ティスイのサイズを戻す。
「じゃあ、私は他の支援行くねー!」
「あっ、ちょっと待ってひまりん。」
そしてティスイに乗って元の業務に戻ろうと思うと、ミネトが私の服を引っ張って引き留めた。
「うんうん。たぶん行く必要ないと思うよ。」
「え?…どういうこと?」
それにヒナタ君も加わって、私は首をかしげる。
二人はにこにこしているだけで何も言わない。
その時。
『しゅ~~~りょ~~~!!はいそこまで!決勝進出テイル決まったぞーー!!全員帰還だァ!!』
久々に聞くような感覚でナレーターさんの声がフィールド中に響く。
すると目の前に【強制的にスタジアムへ帰還しますか?】というシステムメッセージが表示されて、私はゆっくりとYESを押した。
光が私を襲い、反射的に目を閉じる。
気が付くと私の姿は元のスタジアムの出入り口に戻ってきていた。
周りにはシノ達みんながいて、私は思わず大きく息を吐いた。
「お疲れ、皆ー!」
「いやー、第四回でもレベル高いなー!」
ミネトとヒナタ君が最初に口火をきり、んんー!と大きく伸びをする。
それにつられて、他のみんなも緊張が抜けたように声を出し始めた。
「でもナイトは無傷だよな?ここまで来るとチートを疑う。」
「確かにツールはあるけど、使ったところで重くなるからしないけど。」
「………うわぁ。」
シノとナイトはいつも通りの会話を始めるし。
「ポーション残ってるか?」
「ああ。だいぶ買っといたからな。」
リョウ先輩とエン先輩は業務連絡みたいな感じで話してるし。
「さいっしょはっグー、じゃんけんポンッ!」
「はいいい!あっちむいってほいっ!」
「ふっ、ヒナタよ……まだまだ甘いぜっ!」
ミネトとヒナタ君は謎のあっち向いてほい対決を始めるし。
残された初心者組は、互いに顔を見合わせ、苦笑いを落とした。
やっぱり、ヒロ君は天使だった。




