60,アリーナ編Ⅲ ー地獄のテイル戦ー
テイル部門最初は全10組のテイルによる総当たり戦。
テイル数が四つになるまで戦い続ける鬼畜バトルだ(byミネト)
エン先輩の伝蝶にはどうやら位置情報を知らせる機能も付いているらしく、上空から半透明の紫色をした蝶が透けて見えている。
『違いますよヒマリ様。』
「へ?」
どうやら声に出していたらしい。
横を飛んでいたウィルがそう言った。
「どうして?」
『エン様がヒマリ様に託したその蝶だけは特別な【指揮蝶】です。ほら、通常の伝蝶は色が紫色ですけど、それは白色でしょう?』
「………確かに。」
出発直前、エン先輩からなぜか蝶のままの伝蝶を一匹貰った。
ウィルによると、どうやらそれは特別なやつらしい。
指揮蝶……それはまた安直な。じゃあこの子は各ちょうちょを繋いだ操縦桿みたいな役割だねたぶん。
『五匹以上の伝蝶を使うときに指揮蝶は現れます。それがいると、すべての伝蝶達がどこにいるのかが分かります。指揮蝶を通じて、帰還命令も出ますし、指揮蝶から一斉にすべての伝蝶へメッセージを送ることだってできます。』
やっぱり。
ダトオモイマシタ。
「まあ、それなら支援もやりやすいよ。相手の位置が分かればもっといいのに。」
『それは決勝戦で、でしょ?ヒマリ様っ!』
「そうだった………」
この時点で技のすべてを見せるのは危険すぎる。
だから、今回は全員で共有して使うスキルは伝蝶×スピリットだけにしている。
そう。「今回は」。
「ティスイ~?大丈夫~?」
「GRU~!」
『大丈夫だそうです!』
「おっけ!」
よしよし、とティスイを一撫でしてあげてから、私は魔力感知を発動させる。
そして、前方から鳥の形をした魔力の塊が飛んでくるのを見て、私はボードを動かした。
杖の先からウォーターボールが三発飛び出し、水色の結晶を散らしながら鳥型の偵察機は消えた。
よし!この調子でどんどん敵を倒していこう!
背後から現れた何かの物体をウィルが撃墜させ、ララは、ララは……今のところ何もしてない。うん。
でも、ごくたまにティスイの隠密が見破られて攻撃された時、ララは咄嗟に聖光結界を張ってダメージを回避している。
左端にずらりと並ぶ、自分とウィル・ララ・ティスイを除いた七人分のHP・MPをみて回復は必要ないと判断すると、私は攻撃に回った。
〈 ミネト・ヒナタside 〉
「はーーあ!」
「うわ、大きなため息。」
ヒナタの放ったため息に、ミネトは苦笑いを張り付けながら言う。
何だかんだいつも一緒に行動している二人は、今しがた四人ほどのプレイヤーを倒してきたところだ。
「能力封じはいつものことだけど、こういう時ばかりは頼りたくなるよぉ…………」
「ヒナタは分身とか出来ちゃうもんね。」
「てゆーかさ!誰もいないなら少しぐらい遊んだっていいじゃん!なんで!なんでダメなんだぁぁぁぁぁ!」
アリーナではもちろんのこと、能力の使用は禁止になっている。
これは第一回大会の時からリョウがそうルールを設けたのだ。
もちろんそんなことはしないが、例として言うならば、リョウなら時間を止めて敵をすべて倒してしまうことが可能だし、シノなら全員を結界で覆い、ダメージをすべて失くすことだって可能だ。二人の能力も例外ではない。
それに、国ぐるみの国家秘密である能力者達が例えゲームの世界だとしても能力を他人に見せることはあまり、いや、かなり良くない。
「ちょ、ヒナタ!警戒怠らないでよ!」
「あ、ごめんごめん!」
突然飛んできた魔法を、ミネトが咄嗟に矢で相殺する。
まったく反省していない声音でヒナタは笑い、現れた魔術師らしきプレイヤーを槍で切り付ける。ヒナタの後ろからミネトも援護射撃をし、最後はヒナタの一太刀で彼は負けた。
「………前衛!」
「てへっ☆」
バシン、という音が聞こえて、数秒後、ヒナタは槍を地面に突き刺し頭を抱えて悶絶していた。
〈 ヒロ・エンside 〉
『………バシン!』
「…………あいつら………」
「えぇ……大丈夫でしょうか………?」
伝蝶を通じて、ヒロとエンの二人はヒナタミネトの会話を少し前から聞いていた。
エンがはあー、といつも以上のため息をついて、呆れた表情で言った。
「大丈夫だろ。今のは警戒不足のヒナタが悪い。」
「!僕も索敵した方がいいですよね!」
「いや、ここら辺には敵はいなそうだな。だいたいがシノ達の方に行っている。」
小さく笑い、エンは少しだけ肩の力を抜いた。
「すみません!無理させてしまったでしょうか………」
「ヒロは心配性だったか?少し範囲を広くしたから疲れただけだ。」
通信を聞きながら索敵を行っていた彼はアイテムボックスからMP回復のアイテムを出して回復させる。
すると、ヒロががっくりと肩を落として言った。
「能力封じは痛いですね、やっぱり…………」
「なんだ?ヒロもか?」
「確かに、僕の能力もこういうゲームだと脅威ですもんね…………」
ヒロ……水樹の能力【未来予知】は、極稀に見えるのではなく水樹が「知りたい」と思うだけで三十分後までの未来を見ることができる。もちろん時間を細かく設定してみることもできるため、次の相手の動きを完全に予測できるのは強みになる。
淋しそうな表情を浮かべるヒロの頭を、エンは優しく撫でた。
「こればっかりは仕方がないからな………それに、これからのイベント情報とかが分かっていたら面白くないだろう?」
「そ、う……ですね!やっぱり蒼先輩は皆のお……んぐっ?!」
「!?ばっ、か!大きな声で言うな!」
珍しく焦った顔でヒロの口を覆うエン。
ヒロはなぜ口を塞がれたのか、事態がよくわからず困惑していた。
〈 リョウ・シノside 〉
その頃リョウとシノの二人は、エンから送られてきた情報をもとに木の上で待機していた。
会話は二人が持つ支援スキル【念話】で行っている。
『………確かに、一時の方向に複数の魔力反応が見えます。火炎帝国とどこか別のギルドでしょう。』
『便利だな、魔力感知は。俺も取りに行けばよかったかもしれん。』
『意外ときついですよ、ヤマタノオロチ。』
はあ、とため息交じりにシノは呟く。
しかし、リョウは正反対に楽し気だった。
念話で送られてくる声も、真向いの木の枝に鎮座している彼の表情も笑顔だった。
やや、狂気的な笑みに見えたのはさすがに気のせいだとシノは思った。
『今度トライしてみよう。エン辺りでも誘うとするか。』
『エン先輩、ご愁傷さまです。』
この半暴走モンスターを華麗に操る寛大な心と鋼の精神力の持ち主を称え、シノは再び息を吐いた。
『リョウ、八時の方向。人数は三名。それと契約獣らしき鳥型のモンスターが二匹接近中。』
『了解。』
そして、直感的に振り向いた先で動く魔力を感知し、そう告げる。
彼のその言葉を合図に、シノは獲物を抜き、リョウは矢を番える。
瞬時に切り替わったびりびりと震える緊張感の中、ピィーッと鳥の鳴き声が響き渡る。
二人の色違いの瞳がすうっと細められ、纏う空気が数度下がった。
「―っちだ!」
「索敵しろっ!」
男性の声が聞こえてくる。
その長い間に、二人は言葉少なに語らう。
『…………後ろへ。』
『了解。』
一瞬にして深紅の人魂と化したリョウは、見事な速さで彼らの背後の木へと飛び移る。
それを見届けるや否やシノは、現れた狩りの“獲物”の前へ舞い降りた。
そして、驚くひまも与えずずっと待機状態にしていた愛剣をするどい疾風とともに彼らに切り付けた。
「っ?!」
「レッド!!背後警戒しろ!!」
まさにレッドの名の如く真っ赤なマントを羽織った一人のプレイヤーが、残り二人に背を向けるように立つ。
が、その青年の足元に、幾本もの矢が突き刺さる。もちろんリョウである。
かろうじてダメージは防いだようだが、青年がすこしだけバランスを崩す。すると、その瞬間を狙っていたかのように真っ黒な炎を纏う矢が青年の体を貫いた。
そして、貫通して地上に突き刺さったその火矢は三人を包む炎の檻となる。
いつのまにか、彼らの鳥形契約獣は姿を消していた。
「火を消せ!このままじゃやばい!」
「ダメだ、この火消えねぇ!!」
「っち!!レッドがいてくれれば!」
懸命に火を消そうとするが、彼らの水魔法は、まるで炎自体に飲み込まれるように消えていく。二人の顔が焦りで染まり、心拍数が一気に上がる。
その時。
突然炎の檻の一角が、彼をうけいれるように消える。
そして、凛とした低い声が彼らの耳を通り抜けた。
「【カマイタチ】」
二人を纏うように風が吹き荒れ、眼を閉じる。
勢いよくHPが削られて、二人のプレイヤーは結晶体と化し、砕け散った。
〈 ナイトside 〉
キラキラと輝く結晶体のカケラを他人事のように見つめながら、彼は刀を降ろした。
高揚感も何もない、いつも通りの"作業"。
「ヒマリ、北東エリア。」
『あっ、はい!』
人間の行動パターンは一律で、嫌でも覚えてしまう彼の頭脳は、先ほどエンから送られてきた敵の分布図さえも事細かに記憶している。
そう考えると、北東エリアにいるヒナタ達と、火炎帝国に並ぶ強さを誇るディアスノウとがぶつかっている頃合いだろうと推測できる。もちろん二人は聡明だから無理はしないだろうけれど、一応のサポートが必要だ。
「【魔力感知】」
世界の色が変わり、人型にだけ色がつく。
そして、その景色のまま相棒に指示を出した。
「レゥイ。隠密からの幻影。攪乱させてきて。」
「NYAA」
黒猫の契約獣・レゥイはその姿を影と同化させて、ナイトの指示した方向へ駆けていく。
ナイトもすかさず追いかけて、レゥイの数歩後ろを同じスピードで駆け抜ける。
あの和風ダンジョンで見つけたこの刀は、ナイトの素晴らしい愛刀として働いてくれている。
「【薄羽蜻蛉・幽】」
半透明の刀身は鋭く光り、ナイト自身の姿も幽霊のように透けていく。
そして、レゥイが攪乱させている五人ほどのパーティを、通り過ぎざま横一線に切り裂いた。
「レゥイ、【ダークシャドウ】」
辺りが真っ暗になる。
敵の行動を封じ、追い打ちをかける。
「【エンドレスダークホール】」
暗黒魔法最大スキルレベルの魔法。
プレイヤー全員が突如地面に出現したダークホールに飲み込まれ、ポリゴンとなった。
「謎生物」投稿後から予定がぎっしり詰まっていて全然投稿できませんでした。
ほんとに亀更新ですみません!




