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水無月学園生徒会は、どんな世界でも最強なのです!  作者: 葉月 都
第四章 水無月学園生徒会は、平凡なる毎日を所望しています
54/68

54,日葵の過去

リョウ先輩のギャップ。



「今でこそ涼雅はあんな性格してるけど、昔はかなり優しかったんだよ。思い出してみたら本当にありえないけどね。」




その時の涼雅の姿を思い出しているのか、蒼は小さく笑った。

そんな蒼の笑顔を見ていると、さっきまでの日葵よりかは、だいぶ表情が柔らかくなってきた。




「それで、そのあとどうなったんですか?」

「うん。で、涼雅がそう聞いてきてさ、俺はもうびっくりしたのなんの………思わず「君も心が読めるの?」って聞いちゃったんだよね。」





ーーーーー




『き、君も心が読めるの?!』

『………ううん。違うよ。僕は時間を止めることができるの。』




確かに、と蒼は思った。

やけに辺りが静かで、さっきまで聞きたくないほど聞こえてきていた"声"が聞こえてこない。

その少年にそういわれ、蒼は納得した。




『すごい…ね………君は力を制御してるんでしょ?僕は………僕は………』

『違うよ。僕も力は制御できてないよ。』

『っ、じゃあ、』




ふっ、と小さく笑うと、少年はそのどこか狼を思わせていた表情を柔らかくした。




『僕は、君がつらそうだったから助けただけだよ。まだ僕は制御しきれてないからあと一時間くらいはこのままだけど………人を助けるのに理由なんていらないでしょ?………それに、時を止めるだけの力しかない僕よりも、人の本音をわかってる君のほうが、助けられる人がたくさんいる。』


『違う………君は知らないからそんなことが言えるんだよ。人の本音は、怖いものだよ。』




誰よりも人の心の闇に触れてきた蒼は、少年の言葉に目を背けた。

人の心に恐怖を持ち、殻をかぶっている蒼は、再び一人になろうと時の止まった風のない世界に一歩踏み出した。


だけど、二歩目は出なかった。




『なら、一緒に練習しようよ。僕と一緒にこの力をコントロールできるようにしゅぎょうしよう!』




ーーーーー



「—ってね。それで俺は涼雅と仲良くなったんだ。ここに来たのも、涼雅に連れられて、って感じだな。」

「そ、そうだったんですね………というか、蒼先輩って一匹狼だったんですねぇ……………」

「もうそれは俺の黒歴史だから掘り返さないでね。」




苦笑いを向けられ、日葵は苦笑いを返すことしかできなかった。




「涼雅が知り合いの能力者を教えてくれてさ、そこで力をコントロールするしゅgy……練習をしたんだ。おかげで、涼雅も止める時間を操作できるし、俺は読める条件を絞り込めるようになったんだ。それで今に至る。」




懐かしい記憶を呼び戻し、蒼は目を細めて笑った。

日葵も、今度はちゃんと笑った。




「さあ、そろそろ戻ろう。涼雅に叱られる時間が長くなるだけだよ。」

「………………はい。」




だが、続いた蒼の言葉に、一瞬で笑顔が消えた。

再び空気が重くなる。


すると、ポン、と頭の上に手が乗った。




「日葵。」

「……………。」


「俺だって、昔のことを話すのは怖いさ。でもね、いつまでも引きずってたってどうにもならない。過去のことは過去のことだよ。俺だって、涼雅のおかげで今では誰かを助けるためにこの力を使っている。日葵だって、それだけ嫌なことが…言いたくないことがあるのに、今は気持ちよく笑ってるでしょう?じゃあ、日葵を助けてくれた人が、昔に少なくとも一人はいるってことだ。どうかな?」




ふふっ、と笑う蒼の表情に、日葵の脳内である人の言葉がよみがえった。





『日葵のこと、守るから!』

『ひよ?ひよには私がいるよ?』






「……………はい。います。助けてくれた人。」




にっこりと笑い、日葵はそう言った。




「そうか。…………日葵、全部話せなくてもいい。嘘をついてもいい。話せるだけ、話してみて。」

「………わかり、ました。」




手を引っ張られ、日葵は立ち上がった。

すうっ、と息を吸い、一歩、踏み出した。


すっかり顔色がよくなった彼女を見て、蒼は小さく微笑んだ。

そして、もう一度、日葵の頭をやさしくなでた。



ーーーーー





「私は小学生後半の時、クラスの女子グループにいじめられていたんです。」




生徒会室に遅れてきた日葵を、涼雅は咎めなかった。視線で席に座るよう促されると、日葵は静かに座った。蒼もワンテンポ遅れて座った。


静まり返った生徒会室に、日葵のか細いその言葉が嫌なくらいに響き渡った。




「もちろん、最初は先生にばれないような陰湿で、小さないじめでした。筆箱を隠されたり、靴箱に草がたくさん入っていたり、ノートがぐちゃぐちゃになっていたり……そんな感じでした。ですが、小学五年生の二学期になると、机に落書きされたり、椅子を隠されたり、黒板に私に関する卑劣な言葉を書かれたりという大きなものになってきました。ありきたりのようですが、小学生のいじめはそんな感じなんです。最初は数人だったものが、十数人規模になるほどでした。

結局最後までいじめられていた理由が分からないんですけど、そんな毎日が続いていました。」




ふっ、と息をつくと、日葵はぐるりと生徒会室を見渡し、問う。




「…………四年ほど前の十一月十二日。ある小学校の校舎が、お昼頃、突然半壊したというニュースをみなさんは、知っていますか?」


「………知ってるよ。お昼休みの時間に、突然崩壊した、っていうやつだよね…………?」

「僕も知ってますそれ。………まさか、その小学校って……………?!」


「水樹君の言う通り………そこは私と翔が通っていた小学校…………そして、その事件の犯人は、っ私、です…………」




全員が、静かに息をのんだ。

日葵の瞳に、再び陰が落ちる。




「あの日………私はいじめを受けていた女子グループの主犯格ボスだった女の子達3人に女子トイレに呼び出されていました。そこで…………まあ、色々とあったんです。とりあえず、いじめがかなり拡大していて、水をかぶせられたりされたんです。それで、小さかった私はあまりのことに怒りがたまり……………気が付いたら、私は外にいました。目の前にはボロボロになった校舎の瓦礫が散らばって山になっていました。」




その時のことを思い出し、日葵は机の下で強くこぶしを握った。

爪が皮膚に食い込んでいるが、まったく気にしていない。


すると。




「じゃあ、あとは俺が話す。日葵、それでいい?」




おもむろに、翔が口を開いた。

ふわりと乗った翔の大きな手に、こぶしを握りこむのをやめ、彼女ははっと我を取り戻した。


こくん、とうなずくのを見ると、翔は話し始めた。




「俺と、あともう一人幼馴染がいるけど、俺らは日葵がいじめられてるのを知ってた。だから、最初の方は日葵の盾になって反発してたんだけど、ある日日葵が俺らに言ったんだ。「もう、いいよ。二人に迷惑はかけられない。」って。」



ーーーーー



『もう、いいよ…………二人に迷惑かけたくないよ…………』




ある日唐突に、日葵は二人に告げた。

放課後の教室には人っ子一人おらず、日葵と翔、そしてもう一人の幼馴染の少女だけが残っていた。

瞳いっぱいに涙をためて、少女は言った。




『私のせいで、しょうちゃんとゆきに迷惑がかかってるの知ってるの………私のせいで、二人が皆から無視されてるんでしょ?だから……………私にかかわっちゃだめなんだよ…………』

『な、んで、そんなこと言うんだよ!俺ら友達だろ?!友達は友達のこと助けるんだよ!!』

『しーくんの言う通りだよ…………別に無視されてもいい……親友が傷つけられてるのに、無視なんてできない!!』




二人の悲痛な叫びが教室に反響して吸い込まれていく。

だが、日葵は頑として首を縦に振らなかった。


結局、根負けしたのは二人のほうだった。


二人は日葵に、必ずつらくなったら話すことを約束させた。

次の日から、二人はいじめに介入することが減った。おかげで、日葵へのいじめはエスカレートした。

最初は先生にいじめのことを告げたりしたが、表面上はその女子グループは優等生で、その上、そのボス格の子の家族が権力を持っていたので、うやむやにされてしまった。




そして、事件は起こった。





四年前の十一月十二日。

日葵がいじめグループに呼び出されて女子トイレに向かった。

それを横目で見ながら、翔は男子達と話をしていた。


それから十分ほどして、そろそろお昼休みの時間が終わりかけるといったその時。

翔は莫大な力の放出を感じ取った。


翔はその頃力の制御の練習をしていて、自身の結界を学校を覆うように張っていた。

そして、五年生に上がる頃には、自身の結界内なら何となくどこでどうなっているのかが気配で分かるようになっていた。


放出元は3階の女子トイレの付近。

その力の大きさを見て、翔は小さいながらに気がついた。「このままでは死人が出る」と。それにもう一人の幼なじみである少女も気がつき、二人は視線を絡ませた。翔は咄嗟に教室内に結果を張った。もちろん、他の学年の教室にも張った。その行動はたった五秒のことだった。




次の瞬間、爆発が起こった。




気がつくと、校庭に投げ出されていた。

翔が張った学校を覆う結界は崩壊していた。教室ごとに張っておいた結界は、すっかり消え去っていた。なぜなら、今回翔が咄嗟に張ったものは、ある意味強度を重視した使い捨てのものだったからだ。


だが、正直それでもぎりぎりのところだった。小学校にして、翔の造る結界は、隕石ぐらい余裕で跳ね返すことが出来ていたのだ。でも、その翔の結界を、日葵は一瞬で破り去ってしまった。

それだけ日葵の力が強大かつ危険だったということだ。



翔と少女は、一人校舎の瓦礫に包まれて座り込む日葵を見つけ、駆け寄った。

二人の姿を認めると、日葵は呆然とした表情でこう言った。



ーーーーー



「ー『ねえ、これって私がやったの?』って聞いてきたんだ。俺らはそれに答れなかった。」




端正な顔を歪め、翔は言った。

日葵は何も言わなかった。




「……………それで、結局望月が人込みを嫌っているのは、いじめを思い出して、能力が暴発しないようにするためだという事か?」

「…………はい。そうです。」



涼雅の問いに、コクりと頷く。


あの事件は、謎の学校崩壊事件として大々的にメディアにとりあげられた。結局校舎の老朽化ではないかということになり、生徒を危険な目に合わせたということで校長が辞任したことで幕を閉じた。半壊した校舎は建て直され、二ヶ月後には無事授業が行えるようになっていた。

唯一大怪我をおった女子グループ三人は、骨をかなり骨折していて、三ヶ月の入院を余儀なくされた。

彼女達は「あいつが壊したんだ!」と主張していたが、根拠がないうえ警察が介入したことでいじめが発覚し、日葵に火の粉がかかることはなかった。




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