52,ゲーム世界の夏祭り
な、なんだろう………ミナガクにもそんなホラー要素があったんだね………
受付で本の貸し出し手続きをしながら、私はぶるりと肩を震わせた。
ナイトはもう外で待っていてくれていて、ウィルとララも預かってもらっている。
その時、受付のお姉さんが私の顔を覗き込みながら不思議そうな顔で言った。
「あの………当図書館にこのような本は所蔵されていないのですが。」
「…………え?でも確かにここで…………」
ま、まさか異次元の図書館!?
こわっ…………
ただし、私にこの状況を打開するようないい案は浮かばない。
でも、受付のお姉さんの方がやっぱり頭が良かった。
「本来、当図書館としては文献の保管・管理は義務なのですが、現在棚がいっぱいでして、次の増築が一か月後なんです。もしお客様がよろしければ、そちらの本、お客様にお持ちしていていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ……この本ですか?」
それはまさかの展開だった。
貸し出しができるのはもちろんだけど、まさか貰ってもいいだなんて。
利用時間云々もあるし、もし借りれるなら詳しく見てみたい。だけどいつかは返しちゃわないといけない。
でも、こんな興味深い本、めったに見つからなそうだし、今後精霊薬術を使う時によさそうだから、貰えるのなら貰っちゃおうかな!
私は笑顔を浮かべてうなずいた。
「そちらが良ければ、いただいてもよろしいですか?」
「はい!もちろんです。是非お願いいたします。」
「で、ではいただきますね!」
本をブックカバーで包んでくれる受付のお姉さん。
良く見るとお姉さんにはエルフ耳が生えていた。さすがエルフの国。
丁寧に革のブックカバーを付けてくれる中、お姉さんは笑いながら言った。
「今日はアリーナ前のお祭りがあるみたいですよ?どこかの異界で、この頃の季節は【ナツマツリ】というものがあるそうです。無料で【ユカタ】というものも配布されているそうですね。ファストで行われているので、是非行ってみてくださいね。」
「そうなんですねぇ………ありがとうございます!」
そっか、夏祭りかぁ………そういえば、現実世界でも明日は夏祭りだったような…………
そんなお知らせの紙が寮長室横の案内板にのってた気がする。
お姉さんが私に本を渡してくれる。お礼を言ってから、私は巨大な図書館を後にした。
ーーーーー
エルフェラとファストを繋ぐ門に向かっている中、私はナイトに聞いてみた。
「今日ここで夏祭りがあるって本当?」
「え?うんそうだよ。お知らせで告知されてたでしょ?」
……………。
お知らせみてなかった。
メニューウィンドウを開いてお知らせを見てみると、確かに夏祭り基サマーフェスティバルがあると書いてある。てか、漢字を英語にしただけじゃん。なんかカタカナになるとプールくらいしか思い浮かばないなぁ。
「ほ、ホントだ…………」
「一応皆行くけど、ヒマリも来るよね?」
もちろん私に断る理由なんてない。
「もちろんいくよ!」
「良かった。じゃあ、戻ろう。」
『わぁーい!お祭りだっ!』
ふふっ、ララが一番はしゃいでる。
ウィルが小躍りするララをなだめている。前も思ったけど、ウィルとララってまったくタイプが違うんだよね。ララはパリピだけどウィルはしっかり者だからなぁ。
「やっぱり出店とかもいっぱいあるのかな?」
「うん。………そういえば、今日明日のいつかで桜坂神社の夏祭りなかったっけ?」
「あったよー。でもいつだったっけ?」
桜坂神社っていうのは、学園の近くにある神社のこと。例の夏祭りが開催されるところだ。
最近はファンツリにかかりっきりだったから、夏祭りのことを全然気にしてなかった。
だけど、ナイトが最速でリョウ先輩に聞いてくれたおかげで、夏祭りはアリーナの終了後にあることが分かった。
桜坂の夏祭りは、最後に大きな花火もあがるし、出店もたくさん。
去年は友達と行ったけど、今年はシノも誘ってみようかな。
そんなことを考えていると、ナイトが心の内を読んだように言った。
「ヒマリは今年、シノと行くの?」
「へ!?い、いや、そのぉ……………」
最初からかっているのかと思ったけど、明らかに真面目に聞いているからなんとも言い難い。
なんとなくそう思っただけだと伝えると、ナイトは「そっか」と微笑んでから前に向き直った。
ーーーーー
始まりの国に着くと、私達は商業ギルドへ向かった。商業ギルドで浴衣が配られているからだ。
私としてはリユさんのお店に行きたかったけど、無料配布だから仕方ない。
私は白地にピンク色の朝顔がプリントされた、黄色の帯の浴衣にした。ナイトは紫色の甚平を着た。
しかも、精霊用の浴衣もちゃんと用意されていて、ウィルとララも祭り仕様になった。もちろんウィルは水色のスカート型の甚平で、ララは黄色のスカート型甚平を身に纏った。
他の皆との集合はテイルハウスの前で、私とナイトが着いた頃には皆が揃っていた。
「あ!やっときたー!」
「ヒマリーん、ナイトくーん!」
ヒナタ君とミネトが手を振って私達を出迎える。
ヒナタ君は向日葵がプリントされた黄色地の甚平、ミネトはオレンジ色の甚平を着ている。
皆浴衣を着ていて、シノは黒色、リョウ先輩は藍色、エン先輩は緑色の甚平を。ヒロ君は黄緑地の葉っぱがプリントされた普通の浴衣を着ていた。だけど、いつも使っている変装用の眼鏡やら帽子やらを皆今日は付けていない。
「あれ?眼鏡とか今日は付けないんですか?」
「ああ。今日ぐらいは自由に遊びたいからな。」
「まあ、付けていないと付けていないでうるさいがな。」
不敵な笑みを浮かべる年長組二人。
さすがの余裕だなぁ…………
「ヒマリ、早く行こう。」
すると、少しむっとした表情でシノが私の腕を掴んだ。
ぎゅっと掴まれて少し痛かったけど、そこまでじゃなかったから気にしないでいた。
後ろでヒナタ君達が「ひゅーひゅー!」って言ってたけど、どうしたんだろう?
私とシノが先頭を歩き、その後ろをヒナタ君とミネト、ヒロ君とナイト、最後尾をリョウ先輩とエン先輩が歩いていた。
中央広場へ向かうと、どんどん人ごみが多くなってきて、祭囃子みたいなBGMが聞こえてきた。ちらほらと屋台も見えてきて、私の気分は高揚してきた。
「うわぁすごい!」
「ヒマリーん、迷子にならないよーにねー!」
ミネトの嫌味をスルーして、私は広場に駆け出した。
あたりの人が皆浴衣や甚平を着ていて、本当に夏祭りに来たみたいで楽しかった。
たこ焼きやかき氷みたいな、普通の夏祭りの屋台が広場を囲むようにたくさんあって、私は思わずはしゃぎまわる。
しばらくして気が付いた。
私の周りにたくさんの人が集まっていることに。
「……あれって"天使姫"?!」
「本物かわいすぎ!」
「浴衣かわいい!」
だけど、私にその言葉は届いていなかった。
っ……な、なに………怖い…………
ぐるぐると頭の中で私を誹謗中傷する言葉に変換されていく。
皆……私を見てる……また……私のことをいじめてるの………かな?
ふらり、と視界がゆがむ。
「あの……握手してください!」
囲みから突き出された誰かの手が見えた時、私は無意識に魔法移動をしていた。
ーーーーー
はあ………はあ………
荒い息が口から漏れ出る。
いやなくらいに心臓がバクバクと音を立てる。
な、なんであんなことになったの?
学校に通えるようになった時点で、もう大丈夫だと思ってたのに。
その時、背後で声がした。
「やっぱりここか。ヒマリ。」
…………うぅ
ぎゅっと抱きしめられ、私はまた息をついた。
気を抜けば倒れてしまいそうだった。なんとか立っていたけど、体の震えが止まらなかった。
「わかんない………わかんないよぉ……………」
「………大丈夫。大丈夫だよ。」
シノの優しい声が私を撫でる。
夏なので夏祭りネタをぶっこみました!
現実のほうでも行ってくるみたいですねぇ皆。




