50,謎すぎるナイトとダンジョン発見
「お帰り、ヒマリ。」
「な、ナイト先輩!?一体どうしたんですか!?」
小さく微笑む孤高のゲーマー様は、ゆっくりと私の元へ歩み寄ると、横で飛翔するミニ・ティスイを指さして言った。
「ティスイのお迎え。」
っあ!そうだった!
そういえばナイト先輩の契約獣だったねティスイは。
すっかりティスイが溶け込んでいて忘れてしまっていた私は、ティスイを優しく掴むと、ナイト先輩に渡した。
「ティスイ、貸していただいてありがとうございました!すごく助かりました!」
「いいよ。ティスイもヒマリのこと気に入ったみたいだし。」
優しく微笑むナイト先輩の笑顔につられて、私も笑顔を返す。
横でティスイがパーティから離脱したことを示すログが流れていた。
「これからどうするの?ヒマリは。」
「……と言われましても、特に計画はしてません…………」
「ふうん。」
とりあえず光魔法と精霊魔法の強化を重視したいとは思ってるけど、フィールドでレベル上げする以外特に決めてないからなぁ……………
すると、突然ナイト先輩がぽんっと手のひらを打って私にこう言った。
「それなら、一緒にエルフェラまわる?」
………………………へ?
「ええええええ?!」
ーーーーー
エルフの国のギルドでたまたま持っていた素材が合致するクエストがあったので受理してもらってから、私はナイト先輩と一緒にエルフェラを探検することにした。(ちなみに、ウィルとララは休ませるために精霊石に戻ってもらっている。)
「あ、装備の強化してもらうんですね!」
「うん。龍の国の方が鍛冶屋は多いんだけど、エルフの国の鍛冶屋は精度が高いから。それに安い。」
「ね、値段で決めるんですね……………」
ナイト先輩の真の目的を聞いて、私は思わず苦笑いをこぼした。
確かに、今私が使っている装備は特に強化しないまま使っている。
特にギリおじいさんからもらった精霊の杖も、まだまだ強化のし甲斐があると思う。
「そういえば、服とかも強化できるんですか?」
「……うん。でも、服は強化と言うより【付与】かな。強化はレベルを上げるけど、付与は効果をつける感じ。付与はNPCでもいいけど、確かリョウが付与スキル持ってた気がする。」
へえ……………
なんか意外だなぁ、リョウ先輩が付与スキルを取るなんて。やっぱり人は見かけによらないんだ。
改めてそんなことを学びながら、私は前に向き直った。
今いるのはエルフの国の南東辺り。ここらへんに鍛冶屋さんが集まっているらしい。
始まりの国はしっかりした頑丈な家ばっかりだったけど、エルフの国は木造建築が多い。所々にはどんな素材でできているのかも分からないような建物もある。例えばキノコの家とか。
「今から行くお店ってなんていうお店なんですか?」
「【ロビィ・クリップ】。裏通りにあるから認知度は低いけど腕は確かだよ。」
「へぇ~…………」
…………。
「…………。」
「…………。」
あ、あれぇ~?
ナイト先輩がシノ並みに話さないのは知ってたけど、ここまで会話がないとなんか気まずい…………
何とか話題を作ろうと、私は思い切って話しかけた。
「あ、あのナイト先輩!」
「ねぇヒマリ。」
と思ったら逆に聞き返された。
「はい!?」
「なんで『先輩』付けるの?ここVR空間だから年齢差関係ないと思うんだけど。」
うぐっ…………
痛いところをつかれた私はつい黙り込んでしまう。
前々から言われていることだけど、どうしても先輩だということをが頭を離れず、最初はぎこちなく呼び捨てしかけていたけれどいつの間にかまた先輩呼びに戻ってしまっていた。
ちなみに、ヒロ君は高等部一年。先輩だ。だけど、ヒロ君、シノ、ヒナタ君はなんとなく友達感があるから呼び方が定着している。
「す、すみません……………」
「敬語じゃなくてもいいんだけど。」
「ぐ………………」
言い訳を許す暇もなく、そこからなぜかナイト先輩による会話講座が始まった。
私は、それを【ロビィ・クリップ】という鍛冶屋さんに着くまでだと思っていたけど、それをはるかに上回るナイト先輩の執念があった。
あ、鍛冶屋【ロビィ・クリップ】の店主マティカさんは、女性だけど力強いハンマー捌きだった。
意外に筋肉ウーマンだった。いわゆる女性ボディービルダーみたいな感じだった。
武器が強化されると+が付いていくみたいで、私の精霊の杖は+3。ナイト先輩の刀は+14になった。
そして、武器を強化してもらっている間も私の特訓は続いていた。
マティカさんがナイト先輩に「今の刀進化出来るけどどうする?」と聞いた時だけ、私に小休憩が入った。
結局、ナイト先輩は刀を進化させることにして、それからまた数分かかった。もちろん、全部ナイト先輩による講義だ。
おかげで、ナイト先輩の刀が進化し終わり、手元に戻ってきたころには
「ありがとマティ。」
「どういたしまして。また来なよー!」
「あ、強化ありがとうございました!」
すっかりため口で話せるようになっていた。
「でも、刀なんてどこで手に入るの?」
「ちょっとした和風ダンジョンで見つけた。」
かかった時間はおよそ二十分から三十分弱ぐらいだと思う。
ナイト先輩……基ナイトがここまで喋っているのは、初めて見た。
…………ん?ダンジョン?
その時、私の脳内に大きな古城の姿がフラッシュバックする。
「あああああああああ!」
「え、どしたのヒマリ。」
突然大声を上げた私を心配する言葉をかけてくれる優しいナイト。
ああ、どっかのアイツとは全然違うや。
そんなことを考えながら、私は話し出した。
「実は、帰り際古城ダンジョンを見つけたんだ。」
「…………ダンジョン?」
不思議そうに問いかけるナイトと共に中央広場的な場所のベンチを一つ確保すると、私は話し出した。
ーーーーー
それはシュリンガル戦のあと、エルフェラへ帰還しているときのことだった。
『…………?!』
突然、ララが辺りをきょろきょろと見回しだした。
それに気が付いた三人は、おびえた表情を見せるララに尋ねた。
「ララ?どうかしたの?」
『………なんか、不思議な魔力を感じる。』
『変な魔力……ですか?』
そう言ってから、ウィルも遠くを見るような目であたりを見回すと、ララの見ている方向でピクリと静止した。
『確かに………なんでしょう?どこか埃っぽい感じですね。』
『うんうん。しかも、マスター並の魔力反応も奥のほーに小さくあるよね。』
「GRU…………」
「え……ど、どういうこと?」
一人会話についていけないヒマリ。
教えてくれる気配がないので魔力感知を発動させて、みんなが見ている方向を見る。
そして、ヒマリも気が付いた。
大きなお城の形をした、もやもやとした魔力反応に。
「う……わ……なにあれ………」
『あの場所には元・エルフェラの王城【アディタ城】があったはずです。数百年ほど前に魔獣に侵略され現在の王城になりましたが………』
ウィルがいつも通り丁寧に説明してくれる。
私はふむふむとうなずきながら、改めてその【アディタ城】を見直した。
すると、ララが待ちきれないといったふうに言った。
『もうっ!そんなのどぉでもいいからっ!早くあっち行ってみようよっ!』
「『はあ?!』」
無邪気な笑顔でアディタ城がある方向を指さすと、ララは一目散に飛んでいく。ティスイも楽しそうにそのあとをついていくように飛んで行った。
残された私とウィルは顔を見合わせため息をつくと、仕方なく二人の後をついて行った。
数分ほど歩くと、ふいに枯れ木ばかりだった森が開け目の前に大きな古城が出現した。
先に着いていたララとティスイは、その大きさに圧倒されて呆然としている。
………うーん、確かに大きいけど、スカイツリーといい勝負くらいからそれより小さいぐらいだよね。
私は数秒だけそのお城を見上げてから、ピコン♪と現れたクエストログを見てみた。
【エルフの国南フィールドダンジョン】
[アディタ城の古城主]
ダンジョンレベル:A
適正レベル:Lv35以上
人数:10人以下
内容:六百年前に廃城した元・エルフェラ王城のアディタ城を探索せよ
クエスト報酬:60000G、???
ふむふむ………
適正レベルはなんとか行けそうな気がするけれど、初めてのダンジョンだし皆と行きたいなぁ!
そう考えた私は、目をらんらんと輝かせたララを苦笑いして見つめてから、こう告げた。
「えと…ここはテイルの皆で攻略したいから、今日は街にもどろっか。」
十秒ほどの間の後、盛大なララの声がフィールド中に響きわたった。
『そんなああああああああああ!!!』
ーーーーー
「…っていうことがあって、帰ってきたんだ。」
「へぇ。南フィールドにエルフェラの古城があるのは知ってたけど、まさかダンジョンになってたとはね。」
あの後、どうにかしてララの機嫌は戻った。
おかげで私のアイテムボックスから三個のお菓子が消えることになったけど。
ナイト先輩は、澄み渡った青空を見上げて小さく微笑んだ。
「…………行ってみよっか。そこ。」
「!!!ほんと?!やったぁ!」
ばんざあい!と手を大きく空に掲げ、私はベンチから立ち上がった。
「でも、あと二日もしないうちにアリーナが始まるから。ダンジョン攻略はアリーナが終わってからだけど。」
「あ!………そうだった。」
いろいろあってすっかり忘れてしまっていたけれど、そろそろリョウ先輩たちの話があった一週間がたつ。
初めてのアリーナだ!!
私のほほがだらしなくゆるむ。
「ヒマリ。」
すると、ナイト先輩が私の名を呼んだ。
振り返ると、いつもと同じ無表情の顔が浮かんでいた。
「なに?」
「…………まだ、つきあってくれるよね?」
だけど、ちょっともたたないうちにその端正な顔には悪魔の微笑が浮かんでいた。




