5,「チュートリアルって、意外に長いね」
「やぁめぇてっ………………」
『ブース、ブース!』
『チビは、チビらしく隅っこで縮こまってたらぁ?』
『そうよ、そうよ!』
『『『キャハハハハハハハハ!』』』
「え……………どうし、たの?」
『ちょ、ひよちゃん……………大丈夫?!怪我はない?!』
「が、がっこぉ…………なんでこんなに【ボロボロ】……………なの?」
『そんなことより、はやく!ここも危ないって!!…………………ひよちゃん?』
「………………ね、しょうちゃん……………まさか、これ、私が"やったの"?」
『…………………………。』
「やぁだ!やぁだ!なんで、なんで………………」
『悪いけど、こんな"能力"を持つ子を、私達は育てられないわ。』
「いやだ!離れたくないよっ………………おいてかないで、パパ!ママ!!」
『じゃあな、日葵。いや…………………"化け物"。』
『これを付けなさい。』
「…………………これは?」
『あなたの力を抑える、魔法の道具だよ。』
「………………………でも。」
『大丈夫。これがあれば、あなたを苦しめるその"力"を封じられるよ。』
「うん。」
「…………………ゃだ!!!……………え?」
ばさっと布団を返して、日葵は起きた。
額には玉の汗。パジャマも少し着崩れてしまっていた。
「ゆ、夢かぁ…………………………」
日葵はふぅっと大きく息をつき、今度はちゃんと起き上がる。
そして、ちゃんと衣服を直し、無地の真っ白なワンピースに着替える。
今日から夏休み。
水無月学園では、夏休みの期間は外出がすべての日で許される。水無月学園はあくまで【保護所】なので、通常の全寮制学校と違い、外出の自由がある。
ただ、学期中は生徒の安全を考慮し、土日ぐらいしか出られないのだ。
でも、日葵の目的は外出ではない。
「やった、やった、なっつやっすみっー!」
と楽しそうに歌を歌いながら、日葵はベットサイドに置いておいた、"ある物"を手に取った。
「ファンツリ、起動!」
白色のヘッドバンドを装着すると、列車の車掌のように、日葵は前置きもなくソフトを起動させた。
誰も見たことのないような、向日葵のような笑顔で。
ーーーーーーーーーーーーーーー
シュン…………………
「ぉお…………」
一瞬、日葵は何もない真っ白な世界に転移させられてきたかと思ったが、すぐにその考えは直された。
日葵の目の前に、こんなテロップが表示されたのだ。
【名前を入力してください(五文字まで)】
「₋₋₋₋₋」
そんな入力バーのしたには、平仮名と片仮名のキーボードがある。
日葵は、ちょっと考えたのち、カチカチ、と名前を打ち込んだ。
【名前を入力してください(五文字まで)】
「ヒマリ₋₋」
余談だが、日葵は「ひより」と読むのだが、ごくたまに、「ひまり」と呼ばれることがある。
別に、どちらの呼び方も好きなので、日葵は特に気にしてはいない。
そして、日葵基ヒマリは、その下の決定バーを押した。
すると、また次のテロップが表示される。
【髪の色を選んでください】
選択欄には、「赤・青・緑・白・オレンジ・ピンク・黄色・紫・藍色・黒・金・銀・黄緑・深紫」etc…………たくさんの色が並んでいた。
ヒマリは、自分の一番好きな色、藍色にした。
ちなみに、髪の長さは、現実世界と同じセミロングである。
決定ボタンを押すと、また別のテロップが表示される。
【目の色を選んでください】
選択欄には、髪の時と同じ色がずらりと並んでいる。
ヒマリは、しばらく考えてから、髪と同じ藍色に決定した。
そのあとも、少し設定があったが、性別や個人情報の登録だけだったので省略する。
やっとすべての設定が終了したと、ヒマリはほっとする。
すると
♪~♪~♪~♪~
CMで聞いた、まるで自然を謳歌しているような壮大なBGMが、ヒマリの耳に聴こえてくる。
「おお…………………」
ヒマリは、本日二度目の感嘆の声を漏らし、再び目の前に現れたテロップにまた視線を移した。
【Fantastic Treeへようこそ!
このゲームは、プレイヤー自らが五感すべてで体験する、新感覚ゲームです。
ヒマリ様はこれから、この世界の住人となり、たくさんの人々と出会い、たくさんのことを学びます。
まず手始めに、チュートリアルを行います。】
そこまで読み進めると、突然耳の中に響いていたBGMの音が、ゆっくりとしたものに変化する。
そして、真っ白だった世界が急に変わりだしたのだ。
そして、数秒後に生成された景色を見て、ヒマリは感激した。
「うわぁあ!」
辺り一面、草木、草花に囲まれた、うっそうとした草原。
ヒマリの目の前には、まさに幻想的な光景が広がっていたのだ。
しかも、幻想的な光景をより引き立たせるのが、所々にぽつりとある虹色に光る結晶。
太陽の光を反射して、ヒマリを歓迎するかのように光っていた。
だが、そんなヒマリの思考は、再び現れたテロップに引き戻される。
【それではまず、種族を決定させていただきます。
以下の種族から選んでください
・妖精
・龍
・半人
・天使
・人間
なお、これは変更不可能です。
また、低確率で、激レア種族〈精霊〉になることがあります。この場合、ここで選んだ種族と同じようにステータスに表示され、効果も二つ分つくようになります。】
(おおっ、きましたねっ)
やっと、待ちに待っていた設定ができるようになり、先ほどよりも心が躍るヒマリ。
そして、かねてから考えていた種族をタッチした。
【天使 に決定します】
YES NO
「YES」をぽんっとタッチする。
【天使 は、神の加護を与えられます。
天使の種族から、種類としてランダムに配布されます。チュートリアル終了後にご確認ください。
また、天使の場合、低確率で、レア種〈ガブリエル〉になることがあります。
続いて、職業を選択します。
種族 天使
・弓術師
・治癒術師
・精霊術師
・薬術師
なお、これは変更不可能です。】
(うぉうっ?!これはちょっと迷うっ…………)
さすがにこれは考え込んでしまったが、散々迷った挙句、ぽんっとタッチする。
【精霊術師 に決定します】
YES NO
ためいらいがちに「YES」を押す。
続いて、今度は属性の設定のようだ。
【精霊術師 は、二体までの精霊との契約が可能です。また、タッグが可能です。
精霊との場合、属性ごとの精霊との契約となります
続いて、属性の設定です。
最大二つまで選択できます。
・火
・水
・風
・光
・闇
・草
・氷
・土
なお、これは変更不可能です。】
今度の設定は、迷わずポン、ポン、と続けざまに二つタッチする。
【光 水 属性に決定します。】
YES NO
ニッコリ笑顔で「YES」をタップ。
すると。
【設定お疲れさまでした。
続きまして、戦闘のチュートリアルに入ります。】
というテロップが表示。
ヒマリは思った。
(意外に、チュートリアル、長いね。)
ほんと、自分で書いてて長いですね、チュートリアル。
続きの戦闘チュートリアルは、七月投稿予定です。