48,焼肉パーティーとボス戦
魔獣は、攻撃する対象がいなければランダムにフィールド内を徘徊している。
ただ、それはプログラム上で行動していい範囲が決まっており、その中をゆっくりと回っているだけだ。
やはりすべてプログラム。予測すればいつどこにモンスターが来るのかを知ることができる。
エルフェラ南フィールドで出現する猪のような見た目のガルウィックボアー。
通常は、黒い毛皮と血走ったような赤い目をしているが、その中に一匹だけ黒い毛皮に蒼い目をしたガルウィックボアーがいる。
いつも群れで行動するガルウィックボアーは、統率者である蒼い目のガルウィックボアー……キングガルウィックボアーを守るように動いている。
守られながら移動するキングガルウィックボアー。
崩れ落ちた瓦礫をよけながら歩いていた。その瞬間。
彼の足元が黒く振動した。
そして、その黒い毛皮の内部を電撃が走り、彼は意識を失う。
群れで行動しているため、統率者が倒れれば他のガルウィックボアーが寄ってきて、彼を起こそうと鼻でつく。その数は、数えるほどのものから数十体へと増えていく。
黒い塊がひしめき合う。
それを、業火の火の鳥が襲った。
一か所に固まっていたガルウィックボアーは、逃げることができず、火の鳥に飲み込まれる。
飛来した火の鳥。
それが現れた方向を見ると、突然上空に現れた一匹の緑色のドラゴンと、その背中に乗る一人の少女が燃えていく猪達を見つめていた。
ーーーーー
ティスイの背中に乗って、私は焼けていく黒いガルウィックボアーを見ていた。
さすがは暗殺者ナイト先輩の契約獣。
支援スキル【隠密】のスキルレベルがMAXだった。
支援スキル【隠密】は、発動者と発動者の体に触れている者を周りの意識から阻害するスキル。
スキルレベルが高いほど、見つかる確率が低くなって、認識阻害が高くなる。ティスイはMAXだから、見つかる確率も低いし、全然気づかれない。
それのおかげで、モンスターとの接近をできるだけ避けながらここまでやってきた。
接近するときは奇襲のみ。そうすれば、近距離が少なくてもいいかなーと思ったから。
だけど、ガルウィックボアーの群れと遭遇したから精霊魔法のスキルレベル上げに協力してもらったんだ!
「上手くいったね!」
『はい!ティスイの隠密もさることながら、ヒマリ様の精霊魔法もすごかったです!』
『一気に焼けちゃった!お肉食べれるかなっ!』
あははは………おなかすいたんだね、ララ。
後で何かあげようと考えながら、私は静かに地面に着地した。
このガルウィックボアーを狩る作戦は、私とウィルが考えたもの。
ガルウィックボアーは群れで行動していて、その中には王様がいる。王様が倒れれば助けようと周りが集まってくる。
そうウィルから聞いた私は、精霊魔法の中範囲設置型罠魔法【トラムタムス】でキングガルウィックボアーをスタンにさせて、それからガルウィックボアーが集まってきたところで長距離広範囲攻撃型魔法【エレメントフェニックス】で丸焼きにする。そんな作戦を立案した。
「それにしても、たくさんいるんだねぇ。大体一つの群れが何匹ぐらいなの?」
『そうですね………平均的なガルウィックボアーの群れで、約二百から三百匹と言ったところでしょうか。』
に、二百からさ、三百ぅ?!
私は恐る恐るドロップしたアイテムを見る。
【ドロップアイテム】
ガルウィックボアーの角×75
ガルウィックボアーの毛皮×350
ガルウィックボアーの肉(生)×150
……………。
「ウィル。一匹のガルウィックボアーに対してのドロップアイテムの数を教えて。」
『はい!ガルウィックボアー一匹で、毛皮二枚、お肉一枚、角は二匹に一個ですね!』
「……………つまり、現在の討伐数は150匹、と。」
さああっ、と私の背中を冷汗が駆け抜ける。
ということは…………。
GRRRRRR…………
GUUUUUU…………
最低でも50匹いると………………。
どこからか現れた血走った目をしたガルウィックボアーが、私達を取り囲んでいた。
にこにこと無邪気な笑顔を私に向ける二匹の精霊に、私は拳骨を浴びせた。
「まさか、知ってて黙ってたの?!」
『もちろん!って言っても少し前に奴らが隠密解いたんだけどね♪』
『看破スキルがないと隠密は破れませんし、感覚で気づいてはいましたが、ヒマリ様の育成も私達の任務ですから。』
ああ!この子達は本当に…………!
目を細めて殺気を浴びせてから、私は臨戦態勢に移る。
ティスイといえば、素晴らしいことにもう戦ってくれている。風の刃でガルウィックボアーがどんどん倒れていく。
私は光魔法でガルウィックボアーを倒しながら、本格的に近接系スキルを覚えてみようかと思いだした。
ーーーーー
無事に残り50匹+30匹を討伐しきった私達は、再びティスイの隠密でモンスターを避けながら奥へと進んでいた。
うん。数分前までね。
『むふぅ~!おいひぃ~っ!!』
小さな廃屋の中から、どこかいい匂いが漂ってくる。
その匂いの正体は、もちろんガルウィックボアーのお肉が焼けた焼肉の匂い。
あまりにもララが『お腹が空いた!お腹が空いた!』と騒ぐもんだから、近くの廃屋をお借りしたんだ。
まあ、そろそろお腹もすいてきたところだったし、ちょうどティスイが火属性。焼肉パーティーが始まりました。
『こら!あんまり一気に食べちゃあダメですよ!』
『ふぁかっへふっへ(分かってるって)!』
「はい、ティスイ♪」
「GRU~♪」
もちろんたれはないから、ここで万能シェフから貰った塩コショウを使うことになる。
意外においしいねぇ……ちょっと持って帰って、今度シノに料理作ってもらお!
半分をアイテム化させて、残りはボックスに収納する。
ついでにマップを見てみると、まあまあ奥のほうにやってきているのが分かった。
ただ、ボスエリアまではもう少しみたいだねー
「じゃあ、あともうちょっとでボスエリアだからこのまま討伐しにいこっか!」
『了解しました。』
『ひょうかぁーひ!!…………んぐっ!?………ごほっ、ごほっ………』
「GRUUUU!」
焼肉も少し持っていくことにして、私は再びお肉に手を付けた。
…………え?いい匂いに連れられてモンスターが来ないのか、って?
大丈夫!
廃屋はララが結界張ってるし、そとには鏡魔法の幻惑系【鏡迷路】を発動させておいたからね!まあ、【鏡迷路】は時間制限あるからちょくちょく発動しなおしてるけれど(笑)
というわけで!私達は呑気にご飯タァーイムッ!出来るんだぁ♪
こうして、十分に満腹になったララとお腹を満たしたその他諸々は、再びフィールドへと向かった。
途中で少しずつ戦闘を交えていくことで、ボスエリアに入るまでに私のレベルは26になっていた。
「よぉーし!それじゃあボスを倒しに行くぞー!!」
『『おおお~!!』』
「GUOOOO!!」
お城のような建物をバックに、私はエリアへと入った。
そこは、野原のように広く建造物がほとんどない場所だった。
BGMが変化して、私の目の前に紫色の巨大な魔法陣が出現する。
ゆっくりと召喚されていくボスモンスター・シュリンガルは、ガラスのような水色の輝く毛並みの鹿だった。
属性は水・草。
途中で仲間を呼んでくるから注意、っと。
最初の数秒ほどのセーフティタイムが終了してから、私達は武器を構えた。
透明感のある雄たけびを上げ、私達の方へシュリンガルが突進してくる。
ひらりと交わして、魔法を打ち込む。
他の三匹も同じようにして上空から魔法を撃ったり、風の刃を飛ばしている。
少しHPを削ると、シュリンガルが再び雄たけびを上げた。
すると、どこからかシュリンガルのミニバージョンの鹿達がわらわらと出てくる。
「ウィル!ララと一緒に手下をお願い!」
『了解いたしました!』
『了解!』
私はコマンドでティスイを大きくさせると、背中に乗って上空から魔法を撃つ。




