38,初パーティ!の前に………?
あけましておめでとうございます!
3年前。
『ねぇねぇ日葵ちゃん?これ職員室に届けてきてくれるぅ?』
『優しい優しい日葵ちゃんなら、やってくれるよねぇ?』
……ぅん。分かったよ。貸して。
バサバサバサっ!!
『うっわぁひっど!皆のノート落とすとか、日葵ちゃんサイテー!!』
『なにやってんの、鈍くさいのに。さっさと拾って持って行きなさいよ!』
ご、めん、なさい………
今、拾うね………
…っいたぃ!!
『あっ!ごっめぇん!床かと思ったぁ!』
『ぷぷぷぅ。日葵ちゃん影薄いからねぇ』
………うぅ………
どうして、私はこんな目に合わないと、いけないの……………
『……大丈夫?ひよ?』
『ほんと鈍くさいな日葵は。ほら、手を動かす。』
ゆっちゃん……しょうちゃん………
…………ほんとぉ、ごめん。
ありがとぅ。
『いいのいいの。』
『…………別に。』
ーーーーー
……き、今日はなぁに?
『ねぇ日葵ちゃん。あなたずるくない?』
『由紀ちゃんに翔くんに優しくされて………ずるいよ。』
な、んで?
二人は大切な幼なじみで友達だもん。友達同士が仲良しなのは、当たり前じゃぁ……………
『はぁ、綺麗事マジ乙だわぁ。』
『ねぇ、ちょっと服脱いでよ。』
『水かけて、頭冷やしてあげる。』
えっ………どうして………?
やめて………やめてよ……………
『ねぇねぇ、髪も洗ってあげようよ!トイレ掃除するあの小さいたわしっぽいやつでさぁ。』
『じゃあ私タオル持ってくるね!雑巾の!』
『おっけー♪……日葵ちゃん、少しでも動いたらどうなるか……分かるよね?』
『ねねね、綺麗にしてあげたら、男子トイレに入れてあげるのはどぉ?』
や、やだ………
『きゃはっ、それナイスアイデア!じゃあ、早く綺麗にしてあげないと!』
『日葵ちゃあん?もうちょっと待ってねぇ?』
『準備、もうちょっとで終わるからさぁ……………』
やだ……やだよ………
『それかさぁ、綺麗にしてあげた後で、由紀ちゃんと翔くんに見せてあげようよ!』
『うわぁ!最高だねそれ!』
いや……いやだよ…………
もう、もう、もう、もう、もう、もう
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
ーーーーー
「っはぁ!はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」
日葵は自室で大きく叫び声をあげながら飛び起きた。
(また…あの時の夢…………)
日葵は額の汗をぬぐい、乱れた呼吸を整える。
若干着崩れた寝間着を整え、タンスから水色のサマードレスを取り出して着替える。
近頃の天気は最高潮。
平均気温はほぼ毎日二十度を超えているといっても過言ではないほど暑い。
そのため、日葵の私服はワンピースがほとんどとなっている。
今日は、昨日翔と約束した、ファンツリでのパーティ攻略の日だ。
あのあとで、翔が「来れるのなら、こっちの時間で午後1時に噴水広場で待ち合わせで。」とメールを送ってきた。
現在の時刻は午前八時ニ分。まだ約5時間もある。
日葵は簡単に身支度を整えると、朝ごはんを食べに食堂へと向かった。
ーーーーー
「おはようございます、美夏叔母様。」
「まあ!日葵、久しぶりねぇ。えっと………」
「二年ぶり、でしょうか?」
電車で十五分ほどの場所にある豪華な一軒家。壁も床もほとんどが大理石で造られたこの家には、日葵の母親の姉…つまり、日葵の叔母に当たる人物が住んでいる。
日葵の叔母、樋川美夏ー旧名・望月美夏は外見30代だが、本当の年齢は42歳。樋川財閥の御曹司と結婚し、今では樋川婦人だ。ファッションデザイナーとしても有名で、自らのブランドも立ち上げている。
日葵は、両親が出て行った時、水無月学園の付属寮に入るまで彼女の家に住まわせていただいていた。そして、日葵のあのイヤリングを与えた張本人が美夏なのだ。
「今日はどうしたのかしら?」
「あ、はい。あの……イヤリングのメンテナンスをお願いしに来ました。」
「え?イヤリングのメンテ?」
日葵は大きく一息ついてから、ゆっくりゆっくりと右耳のイヤリングを外す。
その様子を見て、美夏は驚いて日葵がイヤリングを持っているてをぎゅっと握りしめて言った。
「だ、大丈夫なの?日葵?!」
「はい……興奮することさえなければ、大丈夫………だと、思います。」
苦笑いして日葵はそのまま美夏の手にイヤリングを手渡す。
「あの……実は、近頃ファンツリっていうゲームしてるんですけど、それをプレイ中にちょっとした時に力が出そうになったりして………」
「えええ?分かったわ。見てみるわ。」
美夏は慌てて日葵のイヤリングを預かると、何やら近くの棚から道具を取り出して、イヤリングを紺色の小さな座布団に置き、金色の宝石で縁取りされた藍色の宝石箱を右隣に置いて何やら作業を始めた。
日葵は極限まで動かないように、持ってきておいた本を読み始めた。
そして、それから一時間ほどの間、日葵の目の前では小さな機械音と道具同士が擦れ合う音。たまに衣ずれの音が聞こえて続けていた。
二時間後。
「…………ちゃん、日葵ちゃん?」
日葵は自分を呼ぶ声で、眠っていたはずの思考を呼び起こした。
「っ!?………あ、美夏叔母様………ごめんなさい、眠ってしまっていたみたいで…………」
「構わないのよ?………とにかく、なんとか修正したわ。なんだかすごく大きな傷がついてたわよ?何かあったの?」
目を覚ますと、美夏がにっこりと微笑んで隣の席に座っていた。
日葵は美夏の言葉に右耳を触ってみると、そこにはいつもと変わらず冷たい鉄のイヤリングがかかっていた。
変わらない感覚に、日葵はほっと息をつく。
一安心している日葵の姿を見て、美夏はキッチンから紅茶のカップが乗ったトレーを持ってきて、一つ、日葵の前に置いた。
「はい。どうぞ。」
「ありがとうございます…………」
野原が描かれた、いかにも高そうな陶器のカップに口をつけ、日葵はにこりとほほ笑んだ。
「叔母様、本当にありがとうございました。」
「いいのよ?元はといえば、そんな能力がある時点で神様を恨まなきゃいけないし。」
「…………仕方ないですよ。」
テーブルの上に置かれた色とりどりのマカロンの中で赤いマカロンを迷わず手に取り、日葵は苦笑いした。
「この能力は………なんというか……大変ですが、使い道次第ではちゃんとうまく使えると思うんです。私はただ単に、使いこなせてないだけなんです。」
「いいえ。日葵ちゃんはちゃんと調整で来ていると思うわよ?普通なら、もっと封印器具をつけないといけないほどの威力を持ってるのに、たった一つのイヤリングで力を押さえられているんだから。」
「あ、あはは………お褒め頂き、有難うございます。」
苦笑いを続ける日葵の姿を見て、「本当なのだからね?」と美夏は念押し。
二人はその後、学校の話、ファンツリの話、美夏の夫の話、ブランドの話他に花を咲かせ、日葵が寮に帰ってきたのは正午前後のことだった。
日葵は急いでご飯を済ませると、部屋に戻り、簡単に課題を進めてからヘッドバンドを付けた。
2xxx年7月29日
午前十二時二十八分。




