36,アリーナとやらが開催されるようです
メリークリスマス!です
ちょっとちょっと!ちょっと待って!?
【精霊薬術】ってどういうこと?そんなスキル、攻略本にもなかったよ?
唖然とする私の横で、ミユウちゃんが緑色の瞳を大きく見開いてぼそぼそと呟く。
「ぜ、全状態異常回復…………そんなシステム組み込んだ覚えないよ…………?」
だが、そのつぶやきはヒマリの耳には届かず。
「精霊薬術…………何それ…………」
半分魂の抜けたヒマリ。
ミユウはヒマリの体を揺さぶり、言った。
「ひ、ヒマリ………!早くスキル備考!開いて!」
「わぁ、わぁ、分かったぁ……!」
頭をグワングワンと揺らされたため、半分酔いつつもヒマリはウィンドウを開く。
スキルの内容や所得条件は、アップデート前から、ステータス表示のスキル欄で詳細が見たいスキルの名称をダブルタップすれば閲覧することができる。
生産スキルの分類に分けられた、目当ての精霊薬術スキルをタップし、私は声に出して読んだ。
「【精霊薬術】……精霊術師であり、八大精霊のうち二体と契約していて、プレイヤーの種族が〈精霊〉の場合、所得可能…………使用することで、評価A以上確定+中確率で全状態異常回復付与の効果がつく…………スキルレア度……………5ぉっ?!」
私は、スキルレア度……その名の通り、そのスキルがどれぐらいレアなのかを示す評価を見て、思いっきり後ずさった。
スキルレア度は、1~6まで。
だから、そのスキルの中で、精霊薬術は上から二番目にレアということだ。
と、その時。
ふいに横でミユウちゃんの呟きが耳に入った。
「ま、まさか………【ロザリオ】?」
ロザリオ…………?
聞いたことのない単語に首をひねる私。
その奥で、顔を真っ青にしたミユウちゃんが呆然として座っていた。
ーーーーー
「【ロザリオ】……ですか?」
「………どっかで聞いたよーな………」
ミユウちゃんとの薬づくりを終えてテイルに戻ってくると、リョウ先輩とエン先輩以外の全員が集まっていた。ヒナタ君とミネトはキッチンで何やら楽しそうに料理をしていて、ヒロ君とシノとナイト先輩は、ソファに陣取り、会話をしていた。
「皆なら分かるかなーって思って。」
「…………ヒマリの言ってる【ロザリオ】は多分………【マザー・プログラム ティタニア=ロザリオ】のことだと思う。」
私の問いに、するり、とナイト先輩が答を出した。
まざーぷろぐらむ……てぃた?
すみませんナイト先輩。何言ってるのかわかりません。
私の心の問いを読み取ってか、ナイト先輩が言った。
「【ティタニア=ロザリオ】は、
このファンツリのシステム名。
つまり、ティタニア=ロザリオは、ファンツリのプログラマー・MINAがプログラミングした、このVRMMOを作ってるプログラムのこと。」
「さすが"完全記憶"」
「やっぱりすごいですね、ナイトくん!」
きらきら笑顔のヒロくんとニヤニヤ顔のシノに挟まれ、ナイト先輩は苦い表情。
ナイト先輩…奈糸先輩の能力。それは、【完全記憶能力】。どんな言葉でも風景でも、些細なことでも忘れず、残らず記憶する力のこと。
奈糸先輩の力は、私やシノとかみたいに超能力!みたいな感じではない。
だけど、あまりに覚えすぎて、大学の入試だって、参考書を読めば合格できるらしいし、実は自分が生まれた時刻もコンマまで覚えてるらしい。
……これを聞いた時は、私も流石にびっくりした。
「それなら普通の学校入れるじゃん!」って思うかもしれないけど、奈糸先輩曰く、
「目立ちたくないし、うち、両親共にいなくて、祖父母の家いたけど、迷惑かけたくないから。」
だそう。
それはそうとして。
「とにかく、どうしてミユウがロザリオのことを口にしたのか。それが聞きたいんだ。ヒマリは。」
「うん。」
シノがそう言い、私はこくんと頷く。
すると、ふと、ナイト先輩が言った。
「……たぶん、その答えは、」
え……
ナイト先輩は、理由、知ってるの?!
少しの驚きと期待に胸をふくらませ、ナイト先輩の次の言葉を待つ。
そして、ナイト先輩はためにためてから、こう告げた。
「………そのうち、分かるんじゃない?」
がくぅぅぅ!!
約3名が、盛大に椅子から転げ落ちた。
ーーーーー
「システムコール・マザー=ロザリオ」
『はーい♪お呼びかな?マスター。』
とある1室で、一人の人物が言った。
召喚されたのは、ピンク色の長い髪をざっくばらんに投げ出し、紫色のパーティドレスを着た、髪にアネモネの飾りをつけた若い女性だった。
「ロザリオ。勝手にシステム外スキルを組んだでしょう。」
その少女は、厳しい声で、いくつも歳上そうな女性に言う。
が、ロザリオと呼ばれた女性は、気にせぬ表情で、逆に明るい声音でこう言った。
『さぁすがマスター!なんで気づいたの?』
「実際に取った人を見たから。」
『…………え?ほんとに!?』
ロザリオは、少女の言葉に一瞬動揺しつつも、次の瞬間には好奇心をあらわにして叫んだ。
その様子はまるで、おもちゃを買ってもらった子供のよう。
『みたいみたぁい!その子、知り合いなんでしょマスター!!紹介して!』
「その前に、ほかに追加したシステム外スキルのリメイクか、削除。」
『えーーー』
まったく表情を変えない少女に対して、ロザリオはくるくると表情を変えている。
暖と冷そのものだった。
「もう………近々【アリーナ】もあるんだから、"これ以上"チーターを出さないでよ………」
『そんなこと言ったってー、"あの子達"は、素材が強いんだよー?現実世界のプレイヤーの詳細をスキャンして、ゲーム内に反映するプログラム組んだのはマスターでしょぉ?それを見て、私はスキルを組んだだけだよ?』
ぷくぅ、と頬を膨らませてロザリオは反論をするが、少女の視線に負け、エメラルド色のウィンドウを開いて作業を始めた。
ーーーーー
【始まりの国・テイル〈精霊団〉】
「少し集まれ。」
「ちょっといいかー、お前達。」
私達がリビングや部屋でくつろいでいると、帰ってきたリョウ先輩とエン先輩が私達を招集した。
リビングのソファに全員が集まると、テーブルの中央に置かれた、部屋にあるのと同じ青い宝石の置物にエン先輩が二回触れる。すると、透明な画面がテレビくらいの大きさに大きく変わる。
「「…………【第三回・PVPバトルアリーナフェスティバル】?」」
「通称【アリーナ】。」
その画面いっぱいに表示されている、カラフルな画像に大きく書かれる文字を読み上げた私とヒロ君。
シノは、その画像をチラリと見てからぼそり、と言う。
バトルアリーナ?
私は、二人のプレイヤーがそれぞれ持つ二本の剣がXの形に重なっていて、背景には闘技場や古い市街地や草原が映っているその画像をもう一度見る。
「それぞれ【ソロ部門】と【パーティ部門】・【タッグ部門】・【テイル部門】とかの4つの部門に分かれて戦うんだよー。その部門にはそれぞれ【初撃部門】・【10%部門】・【全滅部門】があるんだよね。」
「僕達は、第1回から【テイル部門】の【10%部門】に出場してるんだ♪」
卓上に置かれた紅茶を飲みながら、ミネトとヒナタ君はにこにこと言う。
へぇ…………すごいなぁ。
でも、10%部門ってことは、あと少しの寸止めみたいな感じなのかな。
「あ………この日付、ちょうど現実の1週間後になっていますね?」
「ああ。さすがヒロ。いいところに気が付くな。」
「もちろん、お前たち二人これを見せたのは、今回の第三回大会にお前たちも出てもらうためだ。」
へぇー、1週間後かぁ。あっという間だなぁー。
頑張ってレベル上げないとー。
…………って、ふぇ?!
「わ、私達が、ですか?全然お役には立てないかと思いますよ!?」
「いや、構わん。そのために、今から作戦会議を行う。エン。」
リョウ先輩は、隣に座るエン先輩にちらりと視線を送る。エン先輩は小さく頷いて、あの置物をいじる。
すると、今度は画面が水平になり、何やら五つぐらいのマップが表示された。
「これは、大会で使用されるマップのコピーだ。それぞれ、【旧・市街地】・【草原】・【闘技場】・【渓谷】・【森林】のステージで、それぞれかなり地形が異なる。」
「【草原】と【闘技場】ステージはどっちも障害物がほとんどない。けど、草原は広さにあまり制限がない。広いのは草原の方。」
「【渓谷】ステージは高低差が大きい。不意打ち・奇襲に注意すべきだよ。」
ふ、ふむふむ……
なんかもう、強制的に参加することが決まってるけど、まあ仕方ないっか。
ヒロ君はかなり興味津々で皆の話を聞いている。
エン「だが、まずは攻撃だな。
ナイトとヒナタとヒロ、それから、今回は近接が少なめだからシノも前衛にまわってくれ。」
ナイト「ああ。」
ヒナタ「了解!」
ヒロ「分かりました!」
シノ「………エン、サポートはどうするの?」
リョウ「サポートには、ヒマリにいってもらうことにする。」
ナイト「じゃあ、俺のティスイ貸す。」
エン「ああ、頼むなナイト。」
リョウ「後衛はいつも通り、俺、ミネト、エンの三人だ。」
ミネト「じゃあ、新しく弓の強化するよー。」
エン「俺も遠距離系の杖を購入してくるか。」
着々と会議が進められて行ってる………
まずい、どうしよう。
会話に入れない!!
会話が多いところには、人物名を振ります。
修正12月28日




