35,精霊薬術!
「お邪魔しまぁす………」
「……私の部屋じゃないけど。」
おずおずと入っていくと、その白い壁紙のシンプルな部屋の中には、畳二畳ぐらいの机が一つ。それを囲むようにコの字に白いソファが置かれていた。他には、よく分かんない観葉植物が部屋の端にあって、木造の三段ボックスが置いてあった。
私達は端の方に並んで座ると、まず
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう!じゃあ、私はお菓子を……………」
ミユウちゃんがアイテムボックスから飲み物(多分ポーション)を取り出して、私の目の前に置いてくれる。私は、シノが前お菓子をくれたことを思い出して、オブジェクト化させる。
ポンッ、と音を立て、籐のバスケットが目の前に表示される。
瞬間
ガタガタっ
ミユウちゃんが、大きな音を立てて立ち上がった。
「ど、どうしたの、ミユウちゃん!?」
「え、あ、…………」
驚いた私は、慌ててミユウちゃんに声をかける。
すると、ミユウちゃんはびっくりしたように目を瞬かせながらゆっくり座った。
「ご、ごめん………それにしても、すごく美味しそうだね、それ。」
「うん!実はこれ、私の友達が作ってくれたんだ!」
私の言葉が言い終わらないうちに、ミユウちゃんはクッキーに手を伸ばす。
ナッツの香ばしい匂いが部屋を包みだした。
………………。
「み、ミユウちゃん…………」
「?」
「すごい勢いだね」
「(コクン。)」
と、とうとう喋ってくれなくなっちゃった!
暇になって数えてみたら、なんと2秒に一枚のスピードでクッキーを食べていっていた。
クッキーは60枚あって、残り………八枚?!
あ、無くなった……………2分きっかりで食べ終わっちゃった………
ポンッ、と手を合わせると、ミユウちゃんはご馳走様、と言った。
「美味しい。さすがは……………!」
「さすがは?」
「…………さすがは、シノだね。」
えっ、ミユウちゃんはシノのこと知ってるの?
ま、まさか……リアルでの知り合いだとか?
「違うよ。シノは幻想騎士団だし、料理に関しては天才って、生産スレで騒がれてるから。」
まるで私の心を読み取ったかのようにミユウちゃんは苦笑い。
そして、いつもの笑顔を浮かべて言った。
「始めよ。私も、気分がよくなってきた。」
ーーーーー
「まずは、薬草を準備。今日は、私の貸したげる。」
「ありがとう!」
「薬草は、フィールドで採れるから。今度、行ってみて。」
私の前に、本当にただの草みたいな細長い薬草が置かれる。
続けて、青緑の網目状の葉っぱとオレンジ色の………これは、ミカン?
「依頼内容は風邪薬だから、メロの葉っぱとオレンジの皮と葉っぱを使うよ。身は食べちゃおう。」
「はい!」
やっぱりミカンだったか。
ミユウちゃんは、ミカンと2種類の葉っぱを半分ずつに分け、一組を私の前に、もう一組を自分の目の前に置いて、小さなガラス瓶を取り出してコマンドボードを表示させた。
数秒後。
「え?!」
ミユウちゃんの前にはもう材料は影も形もなく、ガラス瓶の中には水色の液体が八分目ぐらいまで注がれていた。しかも、ご丁寧に栓までして。
いつの間に?ていうか、どうやったの?!
コマンド打ち終わったかと思ったら、材料三つとガラス瓶が光って、そしたらあったよ!
私があっけにとられているのに気がついて、ミユウちゃんはガラス瓶を私の目の前に置きながら言った。
「私は薬術スキル持ってるからすぐに作れる。でも、薬術スキルがない場合、ちゃんと手順踏まないとダメ。生産系のスキルは、ちゃんと学べば所得出来る。攻撃系のスキル所得に上限があるのは、チーターが出ないようにするため。」
ち、チーター…………
私は、背筋に冷や汗を感じたけれど………まあ、気にしないことにした。
「じゃあ、まずはオレンジの葉っぱと皮をすりつぶす………これ道具。」
ゴリゴリゴリゴリ……………
「次に、メロの葉っぱを加える。」
ゴリゴリゴリゴリ……………
「で、お水。」
ゴリゴリゴリゴリ…………
「最後に、コマンドボードを表示させて………」
クルクルクルー
コマンドボードの上でフィンカーが回る。
ポンッ!
「出来た!」
「わ………初めてにしてはすごいうまいね。」
ミユウちゃんがウィンドウを開きながらそう呟く。
やったぁ!褒められちゃった!
私が嬉々としていると、ミユウちゃんがウィンドウをこちらに寄越してきた。
それは、どうやら鑑定のウィンドウみたいだった。
【風邪薬】×1
評価:A
効果:病気の快復(状態異常回復)
備考:風邪を治すための薬。風邪によく効くオレンジとメロが使われている。
おお………評価Aだぁ!やったぁ…………へ?
私がピシリと固まったところに、久しぶりにログが流れる。
ピロリン♪
生産スキル・薬術を入手しました
そして、追い打ちの一言。
「すごいね、ヒマリ。初心者でA評価なんて。」
ズガーーーーーン!!!
私の頭に巨大な石が降り注がれた。
もう!なんでこんなに普通にプレイができないのぉっ?!
私は半泣き状態でログをスクロールして消去し、がっくりと盛大に肩を落としてから再び薬づくりを開始した。
ーーーーー
そして、五分後。
「すごく手際が良くなってきたね。」
「うん!まだ薬術用のフィンカー出現までレベルが足りないけど、だいぶ作業がわかってきたよ!」
ゴリゴリ、と葉っぱをすりつぶしながら、私はミユウちゃんとお話していた。
机の上には、一・二本の失敗した薬の残骸と、二つの完成した薬瓶と、材料の残りが置かれている。
ゴリゴリ、とすりつぶしを開始したその時。ふと私は思った。
「ね、ねぇミユウちゃん。薬って、魔法を込めたりすることはできるの?」
「え?………うん。マナを込めた特別な薬があるよ。魔力薬とか、治癒薬とか。」
「お願いミユウちゃん!やり方教えて!」
「え?!」
もしかしたら、すごい薬が出来るかも!
もうこうなったら開き直ってすごいの作ってやる!
いつの間にかウィルはテーブルの端に座って本読んでるし、ララは葉っぱの上でオレンジの皮にくるまって寝てるし。二人のためにも頑張らなきゃ!
目をギラギラとさせてミユウちゃんに懇願すると、ミユウちゃんは引き気味に言う。
「初めは難しいんだけど………分かった。じゃあ、材料をすりつぶすところまでは同じで、コマンドを打つ時にまずは………水コマンドを打ち込んで。」
「うん!」
材料はすりつぶせているから、あとは水コマンドを打つ!
今までは、草と光コマンドで薬を作っていたけれど、草3と光2の後に水3!
だいぶ慣れてきたコマンド操作を終える。
すると、瓶と材料を水色の光がつつみ………
水色の液体の薬が完成した!
………………………。
鑑定。
【風邪薬・★】×1
評価:A+
効果:全状態異常回復
備考:とある精霊姫が作った薬。水の精霊の加護がつけられている。
ピロリン♪
生産スキル・薬術のレベルがMAXになりました
特定の条件を満たしているため、生産スキル・精霊薬術を所得しました
……………
「………そんなことって」
「あるぅぅぅぅぅぅ?!」
ミユウちゃんの呟きと、私の大絶叫が生産ギルドに響き渡った。
ひまりん、ファイト。




