34,生産ギルドへLet's Go!
【情報ギルド】
私はナイト先輩をテイルに置いて、ウィルとララと共に情報ギルドにやってきた。
情報ギルドは赤煉瓦造りの二階建てで、大体、1階の広さが教室四個分ぐらいの建物。主に1階にクエストボードがあって、2階は、特別なクエスト(シークレットクエストやキークエストの一部とか。)の時に使えるんだって。
……………で。
「どうすればいいのかな?ウィル。ララ。」
『まあきっと、ヒマリ様なら大丈夫なのではないでしょうか?』
『同感ー!』
にっこり笑顔のウィルさんに、キラキラスマイルのララさんは、自分たちがひどいことを言っていることに気がついていないようです。
私はため息をつきながら、目の前に張られた唯一のクエストを見直した。
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【薬をお願い!】
クエストランク:B
適正レベル:Lv10以上
種類:NPCクエスト
内容:始まりの国に住む一人の母親が、熱を出した子供のために薬を欲しがっている。すぐに薬を持っていこう!
必要なアイテム:風邪薬×5
報酬:3000G・????
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そう。
これしかない。
あり得ない。
受付のお姉さんに話を聞くと、どこかの大型テイルがクエストを根こそぎ取っていってしまったらしく、クエストは今はあれだけしかないらしい。
いやいやいや。無理でしょ!
私薬術スキル持ってないし、DEX値110だよ!
ダメダメ。
その旨を二人に伝える、が。
『それなら、シノに教えてもらえば?あの人、調理スキルもってたし。』
『後は……エンくんとかでしょうか?』
ダメだった。
「ていうか、あの二人が持ってるのは調理スキルだから、無理なんじゃないかな。」
『う~ん………じゃあ"ミユウ"は?ミユウは確か、薬術スキル持ってたと思うよ?』
……………ミユウ?
ララの口にした名前に、私は聞き覚えがあった。
確か………ナイト先輩と一緒にいた
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「こんにちは。ミユウと言います。」
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あの狐耳のロリータ少女を思い出し、私はポンッと手を打った。
「ああ、あの時の!」
『知り合いなの?ヒマリ様。』
「う~ん、知り合いというか、一度会っただけなんだけどね。」
苦笑いをして私は言う。
もしかして、ミユウちゃんは薬術スキルを持ってるのかも!
微かな希望を抱き、私はクエストを受理することに決めた。
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「こんにちは!ミユウちゃん。」
「久しぶりだね。」
今日は姫系の白とピンクロリータを着ているミユウちゃんは、私に小さく手を振ってくれた。
プレイヤーメールっていう、個人メールでミユウちゃんに「今から会えませんか?」とメールを送ると、きっかり十秒で、「分かった。噴水広場に行きます。」という返信メールが帰ってきた。
「それで、今日はどうしたの?」
「うん、実は……」
私はクエストの件を簡単に説明した。
すると、ミユウちゃんは
「……了解。じゃあ、今から生産ギルド行こ。薬術、教えてあげる。」
「!ありがとう!」
小さく微笑んで、ミユウちゃんは前を歩き始める。
まさか、こんなにも快く引き受けてくれるとは!
私は思わぬ収穫に、心の中でガッツポーズをした。
「…………所で、私が薬術スキルを持ってるって、なんで知ってるの?」
と、少し進むと、突然ミユウちゃんが口を開いた。
「それはね、ララに教えてもらったの!」
「…………"ララ"?」
訝しげな顔をしたミユウちゃん。私はパチっとウィンクをして続けた。
「うん。光精霊で、私の契約精霊のララだよ!」
"ざわっ!!!"
私が笑顔でそう告げると、周りのプレイヤー達がざわざわとささやき声を漏らす。
ミユウも、少し驚いたような表情を浮かべる。
『ひっ、ヒマリ様っ!ちょっとっ…周り………!』
ウィルの小さな悲鳴を聞いて、私は我に返った。
きょろきょろ、とフードの隙間からあたりを見回してみたら………
…………なにこれ。
半径5メートル以内のプレイヤーのみなさんが固まっているんですが。
しかも、数人顔が赤いですよ?
私は、どうしてこうなっているのか見当もつかない。
だから、小声でウィルに問う。
「ね、ねぇウィル………これ、何があったの………?」
『えっ……ヒマリ様……分かってないんですか?』
えっ……いや、なんでそんなに呆れた顔をなさるのですかウィル様………
逆に教えてほしいんだけど。
「何言ってんのこの人」レベルのあきれ顔のウィルは、ため息二つで教えてくれた。
そして、私は驚いた。普通に。
え、八大精霊がパートナーだとそんなに驚かれるの!?
「い、今頃なんだ………とにかく、早く行こう。」
み、ミユウちゃんまで!
ガァーン、と打ちひしがれるヒマリをよそに、ミユウは親指と人差し指で画面をアップにするような仕草をみせ、コマンドボードを呼び出す。
4×4のボードの上を、ミユウの白い指が滑らかに滑る。
と同時に、ミユウは口を開いた。
「ライ。結界。」
『了解!』
刹那
紫色の霧と黄色の光を纏うドームが、私たちを包み込んだ。
ウィルに聞くと、これは幻術スキル【幻壁】っていう、一時的に周りの人からの認識を薄くさせることができる隠密系のスキルなんだって。
で、ドームの方は、ララの造った普通の結界。ただ、幻壁をそのまま使うよりも、ララの結界と併用したほうが維持力が上がるみたい。
その二つのスキルのおかげで、私達は、生産ギルドまでの数分間の道のりを誰にも気が付かれずに向かうことができた。
道行く人達は、見えていないはずなのに、私達を避けるように歩いていく。
だから、自然と道ができる。
いやぁ、スキルってすごい!
「ミー。いつもの部屋、二時間借りれる?」
「あらミュー、今日はお友達も一緒なのね!OK分かったわ。はい、鍵。」
緑や黄緑といった自然を基調とした、平屋の生産ギルドで、ミユウちゃんはサラッと受付を済ませてくれた。受付嬢の女の人は、紫色のミディアムヘアに白いレースのカチューシャを付け、背中に紫色の半透明の羽を付けた見た目30代のお姉さんだった。
すると、その見た目30代のお姉さんが、突然私に話しかけてきた。
「こんにちは!生産ギルドは初めてですか?」
「え?あ、はい……」
「私はここのサブギルドマスターをしている【ミオラ】と言います。これからよろしくお願いしますね。」
「ミーは仕事しないでs「ミュー?」………」
あ、ははは……………
ニッコリ笑顔が怖いですよーミオラさん。
「まあいいや。じゃあ借りてくから。」
青いカードキーを手にして、ミユウは受付の左の通路に入っていく。
通路には何個ものドアが整列していて、ミユウちゃんは迷うことなくL字型の通路の一番奥の部屋へ向かう。
ピピッという電子音がして、ミユウちゃんがウィンドウで何やら操作した後、口を開いた。
「入って。」




