28,狐少女と楽天家
事件って言うほど、事件じゃないですね笑
事件は、ギリお爺さんに教えてもらった【アイテム収集屋ライクル】への道中で起こった。
「…………あれ、ヒマリ。」
「ナイト?おはようございます!」
ちょうど噴水広場に近づいたあたりで、ばったりナイト先輩と出会ったのだ。
だけど、そこにいたのは、ナイト先輩だけではなかった。
「ひま、り?」
か細い風のような柔らかい声が、私の耳に届く。
ナイト先輩の陰から出てきたのは、狐耳の女の子。私と同じくらいの身長で、ターコイズブルーのセミロングで、緑色の目をしている、とても可愛い少女だった。
装備は、ピンクの下地に白いレースが所狭しと並んでいて、胸元には大きな白いレース付きリボンが踊っている、世間一般で言う「ロリータ」系の服を着ていた。靴は、動きやすそうな白いトゥシューズ。頭には、右の狐耳の根元を隠すようにピンク色のリボンが付いている。
わあっ、可愛い女の子だなぁ…………
思わずじっと見つめていると、ナイト先輩が口を開いた。
「あ、ヒマリは知らないよね。彼女は【ミユウ】。」
「こんにちは。ミユウと言います。」
ぺこり、とミユウちゃんがお辞儀をする。
そこに洗練されたものを感じて、私は(なぜか)感動した。
「ヒマリです!こんにちは、ミユウちゃん。」
私はにっこりと笑顔を見せながら自己紹介をする。
その瞬間、ミユウちゃんの目が一瞬陰ったのは………きっと気のせいよね。
そんなことよりっ!!
「ナイト?もしかして、彼女?!」
「…………ヒマリ、本気で叩き潰すよ。」
怖い、怖い。
本当にナイト先輩ならやりそうなので、それ以上の詮索はやめておいた。
「ミユウとは、ネット友達。」
「ああ、そういうことかぁ。」
「ナイトとは、よくしてもらってるから。」
ミユウちゃんは、ちょっとおしとやかな女の子だね。
若干ミステリアスかも!
ナイト先輩との共通点をもう一つ見つけたところで、ふと、ミユウちゃんが口を開いた。
「それにしても………何か用事があったのでは?」
「………………あ!」
大変!ライクルに行く途中だったんだった!!
「教えてくれて、ありがとう!では、ナイト先輩、またあとで!!」
ビューン、と、素早さのパラメータを越した速さで、私はナビを呼び出しながらライクルへと向かった。
ーーーーー
「先輩、かぁ。」
残されたミユウとナイトは、噴水広場のベンチに二人並んで腰かけて話し始めた。
「呼び捨てでいいって言ってるんだけど…………ミユウは、やっぱり、憧れ?」
「…………もちろん。もう私も中二なのに、ずっと部屋に閉じ込められたまんま。」
「案外、楽しいから。」
ミユウの緑色の目が楽しげに細められる。
「…………計画は、うまく行ってるの?」
「うん。なんとか父様にばれないように、組み直したから。」
彼女は、"エメラルドグリーン"の"メニューウィンドウ"を開き、何やら操作しながら、ナイトに言った。
ナイトは、"水色"の"メニューウィンドウ"を呼び出して、アイテムボックスからドーナツを取り出すと、一人でむしゃむしゃと食べ始めた。
「それ、しーくんの?」
「……………さすが幼馴染」
「美味しそう………しーくんのお菓子、食べたいなぁ。」
「この世界だから実現できることだよねー…………確か、別のお菓子があったと思う。」
そう言いながら、ナイトはウィンドウを再度開きなおし、今度はふわふわのマフィンを取り出して、ミユウに手渡した。
ミユウは、それを奪い取るように取って、もぐもぐ、とすごい勢いで食べ始め、十秒で完食してしまった。
「……………ごちそうさまでした。」
「はやっ」
丁寧に手を合わせると、ミユウは再びウィンドウをいじり始める。
「やっぱり、しーくんのお菓子は美味しいや。」
ーーーーーーー
【アイテム収集屋ライクル】は、西のサンテラストリートにあった。
木材の板に、オレンジのポップ体で書かれた店名の看板は、みているだけで元気が出てくるものだった。
「こんにちは!」
「ぁいー、いらっしゃーい!」
間延びしたとろんとした声が聞こえてくる。
カランコロン、と鐘が鳴り、私は店内に入った。
店内は、十畳ぐらいの狭さだった。しいて言うなら、縦に長細いお店。
カウンターらしきものがたぶん真ん中ちょっと奥あたりにあって、向こう側に一人の男性がだらりと座っていた。
「あのぉ………ドロップ品を売りに来たんですが……………」
「んー、あんた、新規の人だよねー。まー、別にどっちでもいいけどさー。そこ、座って。」
ううう……………どこか気が抜けないなぁ………
一応警戒を解かずに、私はカウンター前に置かれた黒い椅子に腰かける。
ギリお爺さんが言っていて、今現在私の目の前でメニューを操作している風な【ライキ】さんは、なんだかチャラ男っぽい容姿をしている(ように私は見えた)。
オレンジ色の髪の毛は所々はねてるし、赤い目は若干キツネ目みたいだし。右目の下には小さなほくろ。決してイケメンとは言いにくい人。ただ、耳が細長いから、妖精族のプレイヤーさんなのかな?
でもまあ、もしかしたらいい人なのかもしれない。
そんな期待を小さく持ちながら、私は口を開いた。
「あの、南フィールドのドロップ品を売りたいんですが……………」
「へー…………俺はーライキ。売りたいの全部見せてくれるー?」
「は、はい…………分かりました。私は、ヒマリ、です………………」
………………ダメだ。前言撤回。
この人、ナイト先輩・ミネトその他生徒会メンバー以上に掴みどころのないマイペース人だ!!!
脱力感を覚えながら、私はドロップ品をすべてリストにまとめてライキさんに送る。
「へー…………まーまーいい数だねー、全部換金でおーけー?」
「はい。」
「んーじゃあまとめて換えたらしめて5000Gなりー。」
5000!いい感じかな。
「じゃあお願いします!」
「ほーい。じゃートレードプリィズ。」
私はライキさんと、ドロップ品と5000Gをトレードする。
「おけおけ。これでかんりょーだぜー。またいらっしゃい。」
「あ、ありがとうございました……………」
なんだか、完璧にライキさんのペースに乗せられたまま、私は【アイテム収集屋ライクル】から脱出した。
目の前の空間をダブルタップすると、水色のウィンドウが現れる。右下の端に日付と時刻があって、現在の時刻は、
世界時刻 八刻二十
現時刻 PM16:50
と表示されていた。
うーん、四時かぁ……………じゃあ、あと一時間ぐらいフィールドでLvあげしてからログアウトしーよぉっと!
私は、にっこりと笑い、思えば今日はウィルとララと遊んでないなーと思い出しながらサンテラストリートを後にして、再び南フィールドへとむかった。




