24,倒すことで得た物
終わりに困った。
そうして、【リトルドール】と【ギリグル】の二軒での買い物を済ませ、残り残金が1000Gになったところで、私は冒険者ギルドへやってきていた。
……………だって、エン先輩に言われた通り南側のフィールドに行ってみたら、そこにいた衛兵さんらしき人に、「冒険者ギルドで認定を行ってから来てください。」って丁重に言われたんだもん。
やってきてみたら、私はがっくりと肩を落とした。
「………………………人、多くない?」
『仕方がないですよ、ヒマリ様。冒険者ギルドは別名【総括ギルド】と呼ばれていて、すべてのギルドを統治しているんですから。』
『ウィルー、質問の答えとして噛み合ってないよー。』
それはいいとしてさあ……………多くない?
ホテルのフロントみたいにカウンターが並んでて、間を開けて何人かの人がその向こうに座ってるんだけど、そこに並んでる一列一列の人数が、だいたい十数人。ひどくない?
しかも、常に増え続けてるんだから、よく室内に隙間があるな、って感心するよ。
『そうですねぇ……………だいたい各列約20分程度の待ち時間でしょうか?どうされますか?』
「どうされますか?って……………ここで帰ったらいつまで経ってもフィールドに入れないよ。なんとか並んでみるよ。」
『分かった!じゃあ静かにしてるから遊んでていい?』
「静かにしててね?」
私は、見たところほかの列よりも短そうな列を選んで、そこの最後尾に並ぶことにした。
ウィルとララは、水や光の玉をふよふよと浮かせて形を変えて遊んでいる。
私は、プレゼントボックスやアイテムボックスの整理や設定を決めたりして、列が進むのを待った。
ーーーーーー
十分ぐらい経って、半分ぐらいのところまで来た。
そろそろやることもなくなってきて、退屈になってきちゃったなぁ。
前を見るけど…………うん。まだ少しかかりそう。
はあ、とため息をついて私は暇つぶしを探して画面を操作していた時のこと。
突然、私の耳に大きな男の怒号が届いた。
「おいおい、どけよてめぇら…………!」
「邪魔邪魔。」
「俺達のために、後ろ、下がってくれるかな?」
高圧的な態度。
私の視線の先には、赤髪の大男と、緑と銀色の髪をした三人組が、私のいる列の三つ向こうで暴れていた。
赤髪の男がリーダー格のようで、右目に刀傷があった。緑髪と銀髪の二人は、鋭い目つきで並んでいる人を押しのける。
そこで、私の耳にあるささやき声が聞こえた。
「おい…………また【シーカーズ】だ。」
「嘘だろ、またかよ。」
シーカーズ……………きっとパーティ名ね。
私の中で、ふつふつと怒りが湧く。
ちゃんと列に並んでいる人達を押しのけるなんてひどい!
私は、少しだけ殺気を漏らす。
シーカーズとやらの三人組に向けて。
『っ……………殺気スキル…………すごい威力ですッ』
耳元で、ウィルのおびえたような声が聞こえたような気がしたけど私は悪いが無視をした。
それは徐々に威力を増し、私はついにギルド全体に殺気を放った。
あたりで小さく悲鳴が聞こえる。
私が見る限りでは、十数名ほどのプレイヤー達が体を震わせたりしゃがみこんだりしていた。
でも、なぜか皆あたりを見回して、誰も私のことを見ようとしない。
「ッヒ………誰だ!」
「出てこい……ッ!」
輪の中心にいるシーカーズの緑髪と銀髪の二人が怯えたように叫ぶ。
私は、シノに貸してもらった青色のフードパーカを装備して、フードを深くかぶり静かに歩み出た。
「……………邪魔。今すぐここから出ていって。」
いつもより低い声色なのが分かる。
でも、今の私に止めるブレーキなどなかった。
「貴様は何者だ。」
赤髪が言う。
さすがに本名(とプレイヤー名)を名乗るのは嫌だったので、私はこう答えた。
「M、とだけ答えておく。」
望月の頭文字Mを答えると、赤髪は言った。
「では、Mよ。俺とPVPをし、勝った者の言うことを聞く、というのでよいか?そうだな、こちらはお前に負けたら今回は素直にここから立ち去ろう。」
「分かった。では、こちらが負けたらお前たちの命令に沿う。」
私がそう言った瞬間、ピロリンと鈴が鳴ってログが表示された。
ピロリン♪
プレイヤーゲイルからPVP申請が来ています
ルール 【ノーマルルール】1on1、HPを二割削った方が勝ち 契約獣がいる場合参加OK
フィールド設定 【闘技場】
受理しますか?
私は無言でYESを押す。
『ひ、ヒマリ様?』
「大丈夫。勝つから。」
ララの問いに簡単に答える。
瞬き一度で、私は闘技場らしき場所へと転送されていた。
ーーーーー
右上に相手の体力バーが表示される。
どうやら、あの赤髪はゲイルというらしい。
Lvの表示がないのは当たり前みたい。
私はぱちんと指を鳴らして、ギリお爺さんに貰ったあの精霊の杖を出現させる。
ゲイルは、背中に背負っていた大きな鞘から大太刀を抜き取り、攻撃態勢に構える。
3………2………1…………START!!
カウントダウンが始まり、ピーッ!と笛の音が聞こえた。
刹那
ゲイルが私の目の前にいた。
私はあまりの速さに目を見開く。
っ……速い………
さすがに防ぎきれないよ!
そう思った瞬間。
キィーン
ガラスに当たったような快音が響く。
『ね、いいんでしょ?精霊の参加って。』
ララの楽しそうな声が聞こえる。
もしかして………結界?
『ヒマリ様、頑張りましょうね?』
『ヒマリ様!サポートは任せて!』
ふよふよと、仮面をつけた二匹の精霊が私の横に並ぶ。
「くっ………精霊術師か…………」
ゲイルはそう言うと、再び私に迫ってきた。
だけど。
「精霊魔法【ウォータースピリット】、【ライトニングスピリット】」
冷静になった私は、コマンドボードで水のフィンカーを素早く操作。手早く三つの水フィンカー、続いて光のフィンカーを四つ消すと、数秒で精霊の杖から水色の光が浮かんできた。
精霊魔法【ウォータースピリット】は、水の精霊、つまり、ウィルがパーティにいるときに発動できる。
水の妖精達を呼び出しすことができるのだ。
【ライトニングスピリット】も同じく、ララがパーティにいる時に発動できる、光の妖精を呼び出せる魔法だ。
「ウィル、ララ、それぞれの妖精達と連携してプレイヤーを総攻撃。ウィルは弾幕を駆使して戦って。ララは状況に応じて結界発動。」
『『了解』』
その言葉を言い終わるや否や、妖精達と二人がぐるりとゲイルを取り囲み、一斉に水と光の砲弾を浴びせる。
ゲイルは大太刀で振り払おうとするけど、どこかを守れば反対側が空いてしまう。それの繰り返しだった。
そのうちに、私は二つの精霊魔法で失ったMPを回復させる。
そう言えば、私はまだLv1だったよ。
MPがたまったのを見て、私は思った。
そして、いまだ精霊たちの砲撃に気を取られているゲイルの背後を取り、小さくつぶやいた。
「さようなら」
そして、私はちょんっと右人差し指を、画面に触るみたいに彼の背中に押し当てる。
私の指先を中心とした半径20センチメートルの球体をイメージして、私は自らの異能力を発動した。
絶望の波紋が広がる。
ゲイルだけに当たるように、彼女たち精霊・妖精、私に当たらぬように。
生かさず、死なせず、殺さず。
私は、視界の端で、ゲイルのHPが残り1になったのを確認して指を放した。
目の前に、「YOU WIN!」という金文字が現れる。
ピロリン♪
プレイヤーゲイルとのPVPに勝利しました
賭け品無しのため、経験値が送られます
ピロリン♪
プレイヤーヒマリのLvが2になりました
私は、表示されたテロップを見て複雑な気分になる。
人を倒して得る経験値は…………あんまり嬉しくないな。
私は目の前でのびるゲイルに一礼してから、闘技場を後にした。
伸ばしまくってごめんなさい。
次はギルドに行って、フィールド行くとこまで頑張って書きます。




