22,【一日限りの少女】1-2
短編の中編です
次は、本編戻ります。
ピーンポーンパーンポーン♪
Fantastic treeをプレイ中のプレイヤーの皆さんに、始まりの国の王宮よりお知らせがありまーす!
今日は、特別に王宮の門を開放して、一般入城を今日限定でOKにするそうでーす!
現在ログイン中のプレイヤー様は、ぜひ王宮へどうぞ!
テイルにいる六人の耳に、そんな放送が聞こえてくる。
ひくっ、とシノの肩が震えた。
「ほう、城を限定開放か………………」
「へえ…………いい機会じゃないか。皆で行ってみないか?」
「同意」
リョウとエンの提案に、次々と(と言っても、リョウとエンを除いて残り四人だけだが。)賛成の声を上げる。
だが。
「反対!」
真っ先に異議の声をあげた者がいた。
もちろん、言うまでもなくシノである。
だが。
「却下しまーす!」
「はあっ?!」
ヒナタの明るい声によって遮られた。
「ナイト先輩、ちょっとお願いできますか?」
「うん。分かった。」
ヒナタがナイトにパチっとウィンクすると、ナイトの周りで風が吹き荒れ、一瞬にしてシノのかぶっていた毛布をはぎ取り着替えさせる、が。
「な、なんで女子の服なんだよっ!」
「え?だって、せっかくだし。」
「せっかくだし。じゃねーよっ!」
「わ。シノ君のツッコミが冴えわたってる~。あのクールなシノ君がっ…………笑」
「………………ぜってー(戻ったら)湊を真っ先に殺す。」
殺気だち始めたシノ。
すると、「「さあ、行くか。」」とテイルマスター&サブマスターが問答無用で彼の両手を取って(捕まえて、)玄関へと拉致した。
(((シノ君、ご愁傷様。)))
犯人約三名が、引きずられて涙を流すシノを哀れ目に見つめた。
というよりかは、ここにいるシノ以外の五人は全員加害者のようなものなのではないのだろうか?
ーーーーーーー
この世界では、四季があまり存在しない。
だが、ハロウィンやクリスマス、七夕のイベントは行われている。
その理由は、「旅人達の住んでいた世界の行事を再現して、皆さんをおもてなししたいから。」というのが公式の説明ではあるが、四季がなくても、その時の現実世界の月日で決めるわけだから、正直ゲーム世界の住人達の方は、トップマスター、創造主、と呼ばれるプログラマーによってその意味をすりこまれている。だから、本当の意味はよくわかってはいない。
………………話が脱線してしまった。
元に戻そう。
つまり、この世界には四季がないため、ほとんどの天気が晴れであることが多い。
今日も例外ではなかった。
ただ、現実世界が冬になれば数日おき、または連日連夜で雪が降り、現実世界で梅雨になれば雨の降る日が多くなる。
でも、今は夏。
近頃、プレイヤー達に降り注ぐ太陽は、日に日にその光を増していた。
「あっつぅ……………よくシノ君フードなんか被ってられるね。」
「あんたのせいだし………」
横で皮肉を飛ばす後輩に、精霊種の特殊スキルを弱発動させて涼しくさせるシノは毒を吐く。
やはりこの暑さなので、フードを被っているのはシノとナイトのみ。他は帽子や眼鏡をかけていた。
「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。」
「怖いぞやめろ、シノ。」
「俺も、リョウの意見に同意する。」
シノを突き刺すような(というより、なぜか熱っぽい)視線を紫外線よりたくさん浴びて、シノの(精神)HPは20%を切っていた。
暑いのに真っ青なシノは、がたがたと震えていた。
「やっぱ、テイル戻るっ………………」
「行かせないから。」
またもやナイトの特殊スキルが発動し、風の壁を造り上げる。
「なんで、氷操作なんだろ……………」
風に効き目がないことを知っているシノは、がっくりと肩を落とし、一層フードの端をかき集めて顔を隠すようにした。
(うわぁ………シノ君、それが体のラインを強調していることに気が付いてない…………可哀想に。)
ミネトの苦笑交じりの心の声がシノに届くはずもなく、一行は始まりの城の城門までやってきた。
「うわ、さすがお城…………おーきーねー!」
「お城っていえば東京とか兵庫とかにある歴史的建造物しか見たことないしね。」
「…………………王宮は、いっつも討伐に行く時とかに見てるでしょ。」
ミネトとヒナタの感想に、シノが小声で毒づく。やはり根に持っているようだ。
すると、
「ねーねー!ちょっと先に中入ってきてもいい?いいですか、リョウ先輩!」
「?ああ、俺達は後から追いかける。」
「やったね!ミネト、行こう!」
「りょ!」
ヒナタとミネトは楽しそうに城内へ入っていく。
ヒナタはともかく、ミネトは歴史が好きなので、それもあるのだろうか。
(子供か。)
シノははあっとため息をつく。
「では、俺たちも行くか。」
「そうだな。…………シノ、どうした。」
「あ、俺は市場に行きます。ついでなので今日の昼飯の材料買いに。」
「そうか、ではな。」
「襲われないようにね、シノ君。」
にっこりと黒い笑みを浮かべたナイトに、シノは渋い顔で答えそのまま市場へと向かった。
(嫌な予感しかしねぇんだけど。)
何度目か分からないため息をつき、シノはステータスを開いて今のお金の残高を確認した。




