18,たーすーけーてー!
2年ぶりの東京なう!
足が疲れたぁ…
ひゃあっ!?なにっ?!
びっくりして耳をふさぐ私。
その後も、指の隙間から漏れ聞こえる剣同士がぶつかり合う音に、私はPVPが一種の戦闘であることに気が付いた。
すると、
「あ、ヒマりん。」
手をどけた私の耳に聞こえてきたのは、少しおちゃらけたあの声。
え?
湊?
声がしたほうをきょろきょろと見渡すと、人ごみの隙間からあのチャラ男従兄の顔が見えた。
人ごみをかき分けミネトの所まで行くと、そこにはナイト以外の生徒会メンバーが揃っていた。
「なんでここにいるの?」
「んー?だって、ナイト君がPKに絡まれちゃってさ。」
ぴーけー?
『他のプレイヤーに、悪意を持って攻撃をするプレイヤーのことですよ、ヒマリ様。プレイヤーキラー、略してPK。まあ、この世界ではフィールドでもワールドでも、PVP以外の対プレイヤー戦闘を犯したプレイヤーは、即レッドプレイヤー認定されて、アイテム、レベル共に初期地点に戻されるので、まだちゃんと規律を守っている方ですが。人の妨害をして何が楽しいのやら…………』
うおうっ?!
ウィル、なんかすごい怖いよ?
ちょっとした殺気を感じ、私は右肩に座るウィルを見る。
だけど、ウィルの表情は同じ笑顔(と無表情の境)だった。
「契約したんだ、ヒマリ。」
「うん!こっちが水精霊のウィルで、こっちが光精霊のララだよ!」
シノの問いかけに、私は笑顔で答える。
「ほう…………八精霊の二匹と契約か…………………望月らしい。」
「わ、私らしいってどういう意味ですか?!」
ふっと笑った魔王様に、私は反論。
「まーまー、リョウ先輩もヒマリちゃんも落ち着いてよ。今はナイトの試合みよーよー」
ヒナタくんのフォローに、私ははっと我に返る。
なんだなんだと私達の攻防をみていた観客プレイヤー達も、ヒナタくんの一言で我に返ったみたい。
皆の視線は、広場の中心へと集まっていた。
そこで私が目にしたものとは!
「ナニこれ!?」
あえて黙っておく良心。
でも、そこで繰り広げられていたのは、ナイト先輩と思わしき剣を振るフード少年となんかいかにもヤンキーしてますって感じのダルダルのTシャツにズボンの身にまとい剣を振るう二人の少年がいて。
「PVP。
勝者の賭物は相手の所持品すべて。」
いつもと同じシノの短い説明。
だけど、私はそれがかなり大変なことだということが分かった。
「だだだ、大丈夫なの?!だって、一対二だよ?!」
「あのねぇヒマリ。」
あわあわと口を開閉する私に、あきれ顔でシノは言った。
「うちのコアゲーマーが負けるわけないでしょ。」
あ。
大事なことを思い出し、私は不安な表情から一転、いつもの笑顔へとチェンジさせた。
「だねっ!」
日葵が翔に向けたその向日葵のような可憐な笑顔に、そこにいた男女問わず、観客のほぼすべてが彼女に目を奪われたのはまた別の話。
ーーーーーー
「…………あれ?ヒマリ来てたんだ。」
「はい!すごかったですねPVP!」
二人のPKが敗北し、無事に専用フィールドが解除された。
帰ってきたナイトは、息一つ切らさずいつもの口調で話しかけてきた。
「ま、さすがLv45だな。あいつら、Lv30にも満たないんじゃないか?」
「さすがエンさん。鑑定してたんですね。」
ふっ、と笑うエン先輩に、ナイトはいつも通りの(ほとんど)無表情で答える。
Lv45かあ、まだまだLv1の私には遠い道のりかも。
そんな私の心と同調したかのように、リョウ先輩がいきなり問いかけてきた。
「そういえば、ヒマリはまだクエストや討伐には行かないのか?」
「………………え?」
「確かに。ある意味俺達が引っ張りまわしてたのもあるけど。」
「えええ?」
ちょ、ちょいちょい?
リョウ先輩の言葉に同調するシノ。
な、なんか、この流れって…………………
私の背中をさあっ、と冷や汗が流れる。
案の定、そうなった。
「なんか、ヒマリならLv5ぐらいのモンスターを一瞬で吹き飛ばしそう。」
「えええええ?」
「あー、じゃあまずはいい装備のお店教えたげるよっ!僕連れてくから。」
「ひ、ヒナタくんっ?」
「あっ、それってギリさんとこ?ちょっと買いたい物あるから行きたい!」
「ミネトぉ?」
「装備のお店、ぜひ僕も行きたいです!」
「ヒロくん……………」
「ああ、フィールドはまず南側に行ったらどうだ?ヒマリ。あそこは初心者向けだからな。」
「エンせんぱぁい……………」
続けざまに打たれた、矢の集中砲火に、またもや私の精神HPが削られる。
討伐なんて、初心者の私には無理だって!
そんな私の心の声を知らずに、私はズルズルとヒロ君とミネトとヒナタくんに引きずられ、どこかへ拉致されるのでした(冗談です笑)




