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 恋愛免許センター本部。ここでは恋愛免許の教習や試験についての吟味を行ったり、上位恋愛免許などの新たなルールについての議論が日々繰り広げられていた。今日も会議室に、人間やAIを搭載したアンドロイドが集う。


「本日の最初の議題は、成人女性の恋愛免許合格率についてです」


 司会がスクリーンにグラフを表示する。男女別、年齢別の恋愛免許の教習所参加率や、試験合格率をまとめたグラフ。今回問題視しているのは、男性の合格率が老化の影響が出る年代までは年を取るにつれ右肩上がりになっているのに対し、女性の合格率が二十歳前後でピークを迎えていることであった。


「これは女性差別ではないでしょうか。これでは女性は頭が悪いというイメージを持たれかねません。試験の内容に問題があるのでは? 試験内容を見直すべきです」


 女性の参加者がイライラした口調で発言する。自分の年代が男性よりも合格率が低いというデータは、彼女にとっては不愉快なものであった。


「しかし未成年の場合は女性の方が合格率が高いデス。一般的に女性は早熟と言われていマスからそのためではないでしょうか? 成人するにつれ、俗に言う『ヒス』を起こしやすくなるのも原因の1つかと思いマス。貴女のように」

「なんて事を言うんですか!」

「落ち着きなよ二人とも……いや、片方は機械か」


 そんな彼女に淡々と持論を述べるのは、最新のAIを搭載したアンドロイド。まだ人体感情については発展途上であり、相手の気持ちを考えることなく発言してしまうのが悩みの種であった。


「原因の一つに焦りがあると思いますね。まだ女性は結婚しなければ負け組だ、という認識を持っている人も多い。それに加えて免許制度により未成年の女性との交際も一般的になりつつある」

「やはり未成年女性との交際は禁止すべきです」

「交際をしている未成年は免許を持っている、つまりは恋愛においては精神的に成熟した大人という扱いデス。成人しても免許を取ることができない女性は彼女達よりも幼い。そんな精神的な未成年との交際は禁止されているのデスから、何の問題も無いと思いマス。先ほどのような発言はただの嫉妬からくるものデス」

「女性を馬鹿にしているんですか!?」

「落ち着きたまえ、相手は機械なんだ。……ああもう、両方会議室から出ていきなさい、感情的になる人間も感情を理解できない機械もこの場には不要だ」


 このままでは会議にならないと判断した幹部の一人が、一人と一体を会議室から追い出す。その後は未成年女性の合格率の高さに着目し、学校などで早いうちから免許を取ることを勧めるべきだ、いや必需ではない恋愛を学校で勧めるのは問題があるといった議論が交わされる。予定の時間をオーバーし、一旦保留として次の議題へ移る。


「続いては上位恋愛免許についてです。先ほどまで話し合っていた、免許を取ることができない人間が恋愛するための、免許を取ることができない人間と恋愛するための妥協案として導入した本制度、制度自体の是非については肯定的な人間が多数を占める一方で、初回ということもあり試験の難易度が甘く、本来ならば取ることができなかったであろう人間が上位恋愛免許を所得してしまうという問題も発生しています」


 上位恋愛免許の概要を説明する司会。免許のない人間でも恋愛ができる、幸せになれるという触れ込みで導入したこの制度は国民の理解を得ることができたものの、トウヤのように初回の難易度を悪用する人間は一定数おり、試験に合格してしまう人間も当然ながら存在していた。


「免許に限らず初回の試験とは大抵そういうものだ。必要な犠牲として受け入れ、次の試験に活かすべきだ。まだ始まったばかりの試み、しばらくは様子を見ようじゃないか」


 本部の中でも高い地位にいる、上位恋愛免許の制度を提案し実現させた責任者がそう述べて話を終わらせようとする。そんな責任者に、人一倍真面目な男が食いついた。


「一般的な資格とは訳が違いますよ。この免許を持っていればその辺のすぐになつく幼女と交際どころか性交すらできてしまう。殺人許可証くらい恐ろしい免許ですよ。そんな恐ろしい免許を持っても問題のない人間なんて、数百人に一人いるかどうかでしょう。一旦免許を取り上げて、試験内容について十分に吟味すべきです」

「しかし一旦交付した免許を返納させるというのは問題がある。通常の恋愛免許も本来ならば定期的に試験を課し、基準を満たさなかった場合は免許を返納させるべきだという考えがあったが、突然免許が無くなったという理由で別れるのはあんまりだということで、犯罪等を起こさない限り免許は永久に有効にしようという話になった。上位恋愛免許についても同じであるべきだ」

「悪意ある免許所有者による被害者が出る以上の問題なんてありませんよ。だから私は反対していたのです、上位恋愛免許を導入するにしろ段階的にするべきだ、入念にテスターを募り、初回であっても適切な試験が行えるようにするべきだと前々から申し上げていたにも関わらず、強引にこの制度を進めたのは何故ですか? 利権や個人的な思惑が絡んでいるとしか思えません」

「何を言うのかね君は! 私は恋愛弱者の事を考えてだな……」

「いやー実際怪しいッスよ」


 責任者をギロリと睨みつける男。この制度の実現への速さについては疑問視する人間が他にもいたらしく、そうだそうだと批判的な意見が飛び交う。


「まあまあまあまあその辺で……先ほど自分で言いましたが、実際に本来ならば取ることができなかったであろう人間がどれくらいいるか自体、不明瞭な訳でしてね。まずはその辺をきちんとデータ化するように、情報部の方に伝えておきますので……それでは次の議題に移りましょう」


 男の考えている通り、上位恋愛免許には試験合格のための塾といった利権や、ロリコンである責任者が少女と恋愛をしたいという個人的な思惑が絡んでいた。しかし司会はこの責任者の派閥に加わっており、強引に議題を終わらせてしまう。


「あー……そうですね、そう、アンドロイド。最近はアンドロイドも人間らしくなってきましたよね。アンドロイドとの疑似恋愛、昔からそれなりの需要があったんですよ。かくいう自分もね、若い頃はメルチちゃんとか、シルフィちゃん好きでしたよ。それでですね、今はアンドロイドとの恋愛に免許なんて当然必要ないのですが、今後ますます人間らしくなるであろう連中です、より人間同士に近い恋愛ができることを見越して、免許の適用も考えるべきなんじゃないかってね、思うわけです。いやいや、そこ笑わないでくださいよ、実際さっき追い出した二人、喧嘩する程なんとやらって思いませんか?」


 一触即発な空気を何とかして和ませ、上位恋愛免許について忘れさせようと、アンドロイドとの恋愛について語り始める司会。機械との恋愛というテーマは人間同士の恋愛に慣れている大多数には面白おかしいようで笑いが漏れる。


「いやー、アンドロイドにも免許適用したら、人間と恋愛できない人が可哀想じゃないッスか? 何事も規制だ規制だじゃ息が詰まるッスよ。免許の取れない、免許取っても相手にされないおばさんとかは、アンドロイドと恋愛させてあげましょうよ、俺優しいッスね」


 追い出されたアンドロイドと同じくらい失礼な発言をする新入社員。おばさんと呼ばれる年代の女性を含む、ムッとする人間が出てきたのを察知した司会が、堅苦しい空気になって先ほどの話題をぶり返されないように新人に注意する。


「こらこら新人君、そういう言い方はよくないぞ。それにね、アンドロイドが人間らしくなるってことは、人間の悪い部分を持ってしまうってことなんだ。ロリコンのアンドロイドだって今後出来てしまうかもしれない、恋愛免許が必要ないのをいいことに……ああ恐ろ……」


 言いながらハッとした表情になり周囲を見渡す司会。折角忘れさせようとしていた話題を自分からぶり返してしまい、会議室の中は重苦しい空気に包まれる。やはり上位恋愛免許についての議論を重ねるべきだと、最初に責任者を追及した男が発言し、責任者はギロリと司会を睨む。


「あー! もうそろそろ時間ですね! いや、実際には20分くらい残っていますが、20分じゃ建設的な議論はできないでしょう、というわけでですね、今回の会議はここまでにしたいと思います」


 そして強引に会議を終了させる司会。いつの世も、人間の会議は様々な思惑が入り乱れ、なかなか進まないものである。

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