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「ばいばい! とーやしゃん!」


 ある日の公園。口元にお菓子のカスをつけたまま、ぶんぶんと手を振って笑顔で去っていく少女を見送りながら、男は恍惚とした表情になる。


「ああ……リオナちゃんは可愛いなあ……」


 男の名はトウヤ。大学生ではあるものの恋愛対象は小中学生という、世間的にはロリコンと呼ばれる存在であった。少女の名はリオナ。トウヤの近所に住んでいる、年齢の割に幼い、トウヤにとっては天使のような存在である。この日も公園のベンチでリオナを自分の膝に乗せてお菓子で餌付けをした後、公園のベンチで感触を思い出しながらニヘラニヘラと笑っていた彼の横に、別の男……大学の同級生であるタカヒロがため息をつきながら座る。


「気持ち悪いなロリコン……」

「うっせ、免許取ったら付き合ってあげるよとか偉そうな事言っといて小学生にフラれたフラれ虫は黙ってろ」

「いやまあ、予想は出来てたし。こっちだって妹みたいなもんだと思ってたから、マジで付き合うことになったらどうしようって思ってたとこだし。しかし悪いことをしたな、断る理由に免許なんて使うんじゃなかった。本当だったら自然に大人になるにつれて精神が成熟して、自然と勘違いだってわかるもんなのに」


 ミカから告白された際に、彼女を傷つけないよう、自分が悪者にならないよう、免許を理由に断ったタカヒロだったが、彼の誤算はミカが免許を取ってしまうことであった。途中で諦めるだろう、そして数年後には自分への想いなんて無くなっているだろう、そんな彼のミカへの過小評価が生み出した悲劇に罪悪感を覚えるタカヒロの陰鬱など気にも留めず、トウヤは頭の中を花畑にして少女への愛を語る。


「……というわけで少女は天使なのだよ。中でもリオナちゃんは熾天使と言っても過言ではないレベル。あの幼さと純粋さ、我々汚くなってしまった大人が渇望して止まないものだ。ああ。資格さえあればそんな天使達と愛を重ねることができるなんて、いい時代になったものだ」

「勝手に我々で一括りされるのは腹が立つな……しかしな、そいつは無理だろ。第一に、相手が資格取ったらお前みたいなロリコンに興味なんて無くなるよ。むしろ今までの餌付けだの膝の上に乗せてボディタッチだのセクハラまがいの行為を理解して嫌うようになるだろうな。調べてみたが、ミカちゃんみたいな例は別に珍しくもなんともないんだとよ」


 車の免許と違って技術力がそれほど必要ではない恋愛免許は、ませた子供があっさりと所得してしまうことも珍しくない。そして子供が免許を取る理由は、大抵既に好きな人がいて、その人と恋愛がしたいから。しかしその恋心の正体は、ただの憧れだったり、親に似ているだけだったり、免許を取る過程で冷静な判断力を手に入れた際には消えてしまうような代物であることが多い。自分の抱いている恋心がまやかしであることに気づきショックを受けるのは子供も大人も同じだが、子供は判断力は手に入れることができても、ショックへの耐性はまだ備わっていないケースが多く、年齢制限を課すべきだ、恋愛感情の喪失への耐性を上げる訓練を行うべきだといった議論が巻き起こっていた。恋愛免許というシステムもまだまだ発展途上なのだ。


「お前と一緒にすんじゃねえ、ミカちゃんのお前への愛は偽物でも、リオナちゃんの俺への愛は本物だ」

「どこからその自信が湧いてくるんだか……仮に本物だとしてもな、もう一つの重要な問題がある。……あの子に免許なんて無理だろ。あれでミカちゃんより年上だぞ? 大人になっても取れないよ、ああいうタイプは」


 リオナは小学五年生ではあるが、周囲と比べても特別に幼い。だからこそトウヤは彼女に恋をしているわけだが、そんな彼女が免許を取りたいと願ったところで、ミカのようにすんなりと取れるはずがないと断言するタカヒロ。いつまで経っても免許を取ることができず、恋愛ができないまま年老いて行く人間が発生するのも、恋愛免許制度の課題だった。


「いや、しかし、子供の成長は早いからもう少しすればまともな知性が身につくかもしれないし……」

「……成長したらお前の好きなロリじゃなくなるんじゃね?」

「ああああああああ! ダメだ、暗い話はNGだ! いいか、リオナちゃんは今後一切成長しない! 身体もずっと少女のまま! 頭の中は幼女のままだ!」

「ひっでえ……」


 好きな人が成長してしまうと魅力が無くなってしまう、子供好きのジレンマに打ち震えながらも、トウヤは結ばれる未来を夢見る。そして数日後、大学で出会ったタカヒロにトウヤは勝ち誇った表情をしながら、スマホの画面を見せる。


「『上位恋愛免許』の導入? なんだそりゃ」

「ふふふ、簡単に言うとだな、この上位恋愛免許を持っている人間は、恋愛免許を持っていない人間とも恋愛ができるのだよ。普通の免許持ちよりも遥かに高い人間性や判断力を持っている人間なら、免許を持っていない人間とでもきちんとした恋愛ができるはずだ、幸せにできるはずだという理屈だ」


 免許を取ることができないが故に恋愛がしたくてもできない人間のために、あるいは好きな人が何らかの事情で免許を取ることが難しい人間のために、近日上位恋愛免許制度が導入されるというニュース。導入の背景等を理解しながらもタカヒロは当然の疑問を抱く。


「……お前それ取る気なの?」

「勿論」

「無理でしょ。普通の免許だって割とギリギリだったじゃねーか。ロリコンには無理だよ。かなりの人格者や金持ちじゃないと取れないんじゃね?」


 免許さえあれば子供と大人の恋愛が可能になる時代ではあるが、ロリコンのような存在が認められているかは別問題。『相手が老化すれば興味を無くす』という傾向は少なからず誰しも持っているものだが、それが顕著であるロリコンは恋愛をする資格はないという風潮が広がっており、免許所得の際にも厳しい採点をされていた。


「ああ、普通にやったら無理だろうな。……しかし、今回初めてこの制度が導入されて教習や試験が行われる。どういうことかわかるか?」

「……初めてだから基準が固まってない、甘めになる可能性もあるってわけか」

「その通り」


 試験の難易度は過去の試験の難易度を参照して決められるが、初めて行う場合にはそれがなく、一から考える必要がある。それは時として非常に簡単な難易度になることがあるのだ。トウヤはそこを突くつもりであった。


「悪知恵の働くやつだな……」

「ふん、免許を取ればいいんだよ取れば。そして俺は晴れてリオナちゃんと結ばれるんだ。そしてリオナちゃんと……ぐふふ」

「昔だったら逮捕案件だな……」


 リオナと身体も心も愛し合う妄想をしてニヤニヤするトウヤ。そして上位恋愛免許所得のために新設された教習所へ入り、数ヶ月後に初回の試験を受ける。それからしばらく、公園のベンチでうなだれるトウヤの姿があった。公園に行く時は必ず餌付け用のお菓子を持っていくのにそれも忘れるほどショックを受けるトウヤの元に、とてとてとリオナが駆け寄る。


「とーやしゃん、どうしたの?」

「やあリオナちゃん。ごめんね、今日はお菓子持ってきてないんだ」

「ううん、リオナとーやしゃんとあそぶのすきだからだいじょーぶだよ。なんでおちこんでるの?」

「お兄さん、試験に落ちたんだよ。リオナちゃんと恋人になれないんだ」


 確かにトウヤの思惑通り初回の試験の難易度は易しめだったらしく、次からは難化すると試験団体が声明を発表する程であった。しかし易しめだからといってトウヤのようなロリコンが突破できるような代物ではなかったらしく、哀れにも最初で最後であろうチャンスを逃してしまったのである。


「こいびとって、すきなひとどうしがなるんだよね? とーやしゃんはリオナすきなの?」

「そうだよ、お兄さんはリオナちゃんが好きなんだ。それはおかしなことなのかもしれないけれど、更生するべきことなのかもしれないけれど、この情熱は止まらないんだよ」

「えへへ、リオナもとーやしゃんがすきだから、こいびとどうしだね」

「リオナちゃん……」


 ニコニコしながら純粋な眼差しでトウヤを見つめるリオナを、これは恋愛ではないと言い訳しながらぎゅっと抱きしめるトウヤ。絶対に上位恋愛免許を取って君を迎えに行くからねと、どことなく犯罪チックな約束を交わすのであった。

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