思い出列車
さくら415号は熊本駅に到着です。ホームに降りると、モワっとした熱気が私たちを襲ってきました。
「くは～、あっついな～！」
「さすが火の国熊本というだけあるね。もう夕方なのに、身体が茹で上がるような暑さじゃないか」
熊本市は政令指定都市の大都会です。やはり、より大きな街はより暑いのが定説なのでしょうか。別に大分がより田舎だとは言ってません。
さて、ここ熊本駅ではちょっとタイトなスケジュールなので、モンスター探索は後回しにしましょう。
☆駅メダル獲得！
熊本
50ポイント
熊本駅ではホームの高架化工事が行われており、現在のところ新幹線と在来線の四～六番線が高架ホームとなっています。
私たちは真新しい五番線ホームにやってきました。
「ホームにジャズが流れています」
「ホンマや、ええ雰囲気やね」
「あ、来たみたいだよ！」
陽気なジャズの到着メロディに迎えられ、黒い気動車がゆっくりと五番線に入ってきました。
「A列車で行こう？ そういう名前の列車なんかな？」
「これもD＆S列車でしょうか？」
「そう、これは熊本～三角間を運行しているD＆S列車、『A列車で行こう』だよ！」
「そういえば、今流れているのは『Take The A Train』という有名なジャズナンバーだわ」
「それに、AdultとAmakusaのAも掛けてあるらしいよ。三角は天草へ渡る玄関口だからね」
「確かに大人っぽい落ち着いた感じの列車やね～」
「車内にはバーもあって、お酒を飲みながら車窓を楽しめるんだよ。私たちにはまだ早いけどね」
なるほど、列車から降りてきたお客さんはアダルトの方が多いようですね。みなさん上機嫌そうな顔をしています。お酒も入ってるのでしょうかね？
「そうか、この列車を撮影するために来たんやな」
「その通りだ。じゃあ早速撮ろうか！」
「はるかさん、折角なので四人一緒に写りませんか？」
「あ、そうだね！」
「ほんならあのお姉さんに頼もっか！」
観光特急・A列車で行こうには客室乗務員のお姉さんが添乗して、沿線の観光案内やお酒の提供などをしてくれるそうです。
「すみませーん、写真を撮ってもらっていいですか？」
「ええ、いいですよ。じゃあ列車の前に並んでくださいね。はい、にっこり」
白の制服が凛々しいお姉さんに、A列車で行こうをバックにして四人お揃いの写真を撮ってもらいました。
「良い記念になるわね」
「みなさんとの思い出の証ですねっ」
「おっ、大会本部との通信が終わったみたいやで！」
☆列車カード獲得！
キハ185系『A列車で行こう』
レア度★★★
50ポイント
レア度三つ星の列車カードをゲットしました！ D＆S列車は総じて運転本数が少なく、どの列車も高ポイントが期待できそうですね！
さっ、次はお隣の六番線です。
「え、また何か来るん？」
「うん、多分びっくりするのが来るよ！」
それは、私がこの旅で出会うことを一番楽しみにしていた列車かもしれません。憧れの『58654』が、私たちのすぐ近くまで来ているはずなのです。
ほら、見えてきたでしょ、あの噴き上がる白煙が。
聞こえてきたでしょ、あの独特の排気音が。
「あれはもしや……」
「うわあ～、蒸気機関車や！」
「初めて見ましたっ」
汽笛一声、漆黒の蒸気機関車が六番線に入ってきました。『SL人吉』の到着です！
列車が停車すると、その姿をカメラに収めようと沢山の人が『58654機』の周りに集まってきました。
完全に時代遅れもいいところ、遅いし、煙たいし、メンテナンスは大変だし、もはや現代の車両と性能や利便性では比べものになりません。それでも、まさに威風堂々、その美しさと力強さはいつの時代も人を惹き付けて止みません。
「わあ～、ちょっと感動や」
「凄い存在感ね。周囲を圧倒しているわ」
「この蒸気を吹き出す音がまたいいんだよねえ……」
「まるで生きているようですっ」
そんなSL人吉からは、様々なタイプのお客さんが降りてきました。
親子連れのみなさん。
熟年のご夫婦と思しきお二人。
外国人観光客の方々。
仲睦まじく手を繋いだカップル……、チッ。
遠足なのかな？ お揃いのスモックを着た小さなお友達。
独特のオーラを放つ鉄道ファンの大きなお友達。
みんなSL人吉の旅を満喫したようで、とても満足気な顔をしていますね。私も乗りたいなあ！
おや、人垣に少し余裕ができたようです。またお姉さんに撮影をお願いしましょう。
先程から次々と記念撮影を頼まれていたＳＬ人吉の客室乗務員さん、私たちも快く撮ってくださいました。
「これはええ写真やわ～」
「引き伸ばしてお部屋に飾りたいですっ」
「蒸気機関車がこんなに美しいものだとは思わなかったわ」
「そうだね、造形美というか、機能美というか、近代産業技術が生み出した傑作だよね！」
【遥香の車両解説・8620形】
この『58654機』は一九二二年に製造された、8620形蒸気機関車の435番目の車両です。
最盛期には600両以上が日本全国を駆け巡っていたハチロクこと8620形も、今や走行可能な車両は58654を含めて二両のみ。もう一両の8630は京都鉄道博物館にて動体保存されていますので、現役でお客さんを乗せて営業路線を走っているのは、この58654だけということになります。
日本鉄道史の生き証人として、今後もできるだけ永く、私たちにその勇姿を見せてほしいものですね。
☆列車カード獲得！
8620形蒸気機関車＋50系客車『SL人吉』
レア度★★★★
100ポイント
よしっ、100ポイント来ました！ やっぱり蒸気機関車は稀少価値がありますね。
さて、名残惜しくも58654にお別れを告げて、次は地上ホームへ移動です。この時間帯の熊本駅は、D＆S列車の到着ラッシュなのです。
「０番線って、何か変な言い方やな」
「存在しないホームみたいに思えるわね」
「なぜ０番なんて付けたのでしょうか？」
「その疑問はごもっとも。じゃあホームの番号の付け方から説明しようか」
ＪＲでは、というか国鉄時代からですが、駅長室に近い側から一番、二番という順でホームに番号を付けていくのが慣例となっています。しかし、必要に応じて駅を拡張する場合も多々あります。駅長室から遠いほうに番号を増やす分には問題ありませんが、一番線の内側に新たなホームを増設する場合、番号の並びが不規則だとお客さんが混乱する恐れがありますよね。それで、一より小さな数字として０番線ができたのです。
「なるほどね～、そういうことか」
「確かに一番線の隣に八番線とかがあるとややこしいわね」
「ただ、ここ熊本駅みたいに０番線が二つもある駅は珍しいんだよ」
「ホンマや、０番線AホームとBホームがあるで」
「今は使ってないけど、以前はCホームまであったのさ」
「さすがにそれはやり過ぎのような気がするで」
「新たに番号を付け直したほうが良さそうよね」
「実際、ホーム増設を機に全部を改番した駅もあるね。この熊本駅では、高架化工事が完成したら０番線は廃止される予定だよ」
私たちは主に豊肥本線の列車用となっている、熊本駅０番線ホームにやってきました。
「あら、Aホームにかわいい列車が停まっています」
「黒い犬の絵が山ほど描いてあるで」
「これは『くろちゃん』というJR九州のキャラクターだね。車内にも至るところに描かれてるみたいだよ」
「子供が喜びそうな列車ね」
「そう、この列車はまさにファミリー向けのD＆S列車、『あそぼーい！』だよ！」
「名前もかわいらしいですねっ」
ホームには小さなお子さん連れの方々が沢山いました。『阿蘇』、『遊ぼう』、『BOY』と三つの言葉が掛けられているこの『あそぼーい！』号。その運用に就くキハ183系1000番台は『こども専用特急』のコンセプトで、車内には親子で座れる白いくろちゃんシートや木球のプール、絵本の図書室が設置されるなど、幼いお子さんが列車の旅を楽しめるように様々な工夫が施されています。
では、私たちは恒例の撮影会です。くろちゃん絵柄のかわいいベストを着たお姉さんにお願いして、大きなくろちゃんの前で、はい、にっこり。
思い出の形が一枚ずつ増えていきます。
人は青春時代の思い出を胸に、その後の長い人生を歩んで行くのでしょう。そのアルバムは分厚いほうが良いですよね。
☆列車カード獲得！
キハ183系『あそぼーい！』
レア度★★★
50ポイント
夕方の熊本駅で出会った三つのD＆S列車。それぞれ沢山の思い出を乗せて熊本駅に帰ってきたようです。きっと素敵な夏の思い出として、ずっと心に残ることでしょう。
私も小さい頃に家族と乗った列車のこと、今でも鮮明に覚えています。見るもの全てが新鮮で、どきどきわくわく、本当に楽しかったあの日。私の鉄道ライフの原点かもしれませんね。
私たち四人のこの旅も、いつかもっと大人になった時に思い出すのでしょうか。
