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振り子ゆらゆら

 おや、タブレットのLEDランプが点滅しています。何かの通知でしょうか?

 

 電源ボタンを押してみると……。




☆乗りつぶしボーナス獲得!

大村線

走破ポイント×2




 どうやら途中の諫早(いさはや)駅に着いた時点で、大村線の乗りつぶしボーナスを獲得していたようです! お喋りに夢中で気が付きませんでした。




 そしてシーサイドライナーは喜々津駅に到着です。ここでまた普通列車に乗り換えます。




□喜々津13:10 → 普通列車 → 長崎13:54




 列車は長崎本線の旧線を通り、終点の長崎駅に到着しました。


 駅構内には大きな御朱印船のレプリカが飾られています。(いにしえ)からの国際都市長崎、異国情緒がありますね。




☆駅メダル獲得!

長崎

50ポイント




 これで長崎県のメダル駅は完全制覇です!


 では、ここ長崎駅でもモンスターを封印しちゃいましょう。




「今度はのぞみちゃんの番やで!」


「大きな広場ね。見つかるかしら?」




 のぞみちゃんは胸の前にタブレットを構え、改札口前のかもめ広場を捜索していきます。


 かもめ広場では何かのイベントが行われているようで、広場全体に沢山のテントが並び、多くの人で賑わっていました。




「どうやら長崎の物産展みたいやね」


「ここは極楽ですっ」




 各テントでは多種多彩な長崎名産の食べ物が販売されていました。テントの中で調理しているのでしょうか、ほんわり漂ってくるいい匂いが空っぽのお腹を刺激してきます。




「あいや、気い付いたらとっくにお昼過ぎてるやん。お腹空いたわ~」


「さっさとモンスターを封印して、長崎名物で昼食を取りたいところね」


「全面的に大賛成ですっ」




 そうと決まれば急いでモンスターを見つけねば!




「あら、あれは……」




 のぞみちゃんが広場の天井を見上げると、巨大な龍の模型のようなものが吊り下げられていました。いかにも怪しそうな気配です。


 タブレットを龍に向けて構えてみると……。




「やっぱりいたわね」




 宙に浮かぶ龍のモンスターが現れました!




◎鉄道クイズ・長崎

問題 現在建設中の九州新幹線・長崎ルートにおいて、導入が検討されていた車両は?


A フリーゲージトレイン

B ダブルデッカートレイン

C ハイブリッドトレイン

D リニアモータートレイン




 えっと、長崎ルートは途中の区間で在来線を通るように計画されていたから、線路幅の違いに対応した車両を走らせようとしてたんだよね。つまり……。


 答えはAのフリーゲージトレイン!




○正解!

ボーナス獲得!

20ポイント




 ここ長崎駅でもボーナスポイント獲得! 着実にポイントを積み上げていきます!




「はるかさん、調子いいですねっ」


「優勝するためにはクイズをひとつも落とせないからね。この大会に備えて一生懸命勉強したもん!」


「そやからその学習意欲をなぜ学業方面に……」




 あー、うるさいうるさい。




挿絵(By みてみん)




 さて、かもめ広場は美味しそうな匂いで充満しています。もはや鼻はおろか全身の穴という穴の粘膜が刺激され、欲望のマグマが噴火しそうです。もう我慢できません!




「よーし、食べるぞお!」


「選り取りみどりですっ」


「どれも美味しそうね」


「いやあ、こんだけあると難儀な選択を迫られるで!」




 さすがは食通の街、長崎です。決定力に定評のあるあずさでさえも惑わせる魅力的な品揃え。ちゃんぽん、皿うどん、一口餃子、豚の角煮、卓袱(しっぽく)料理の数々……。更にスイーツもお馴染みのカステラやびわゼリーなど、様々なご当地名物が目白押しです。ついつい目移りしてしまいますね。




「でも、長崎といえばやっぱりトルコライスやな!」




 トルコライスとは、炒飯とパスタを並べて盛り付けた上にドカンとトンカツを乗せ、仕上げにデミグラスソースを掛けた長崎の名物料理です。和洋中がコラボレートした豪華な一品ですね。




「私もトルコライスにしましょう」


「じゃあ私も!」


「わたくしもトルコライスを追加ですっ」




 あやめちゃん、既にレジ袋を三つも抱えてるんですが……。




挿絵(By みてみん)




 広場の隅に空いていたテーブルを見つけ、みんなで輪になって楽しい昼食の時間です。




「そういえばあんた、朝もカツサンド食べてたよな? どんだけトンカツ好きやねん」


「あ……、忘れてた」




 べ、別にいいのです! トンカツ美味しいもん。




「食前方丈のお昼ごはん、わたくしは幸せですっ」




 相変わらずあやめちゃんの食欲は留まることを知りません。テーブルに並べたトルコライス、皿うどん、ハトシを吸い込むように胃袋の中へ収めていきます。


 なぜそんなに食べても太らないのか、甚だ疑問です……。




「ほう、もうすぐ長崎ペーロンなんやな」




 テーブルのそばの支柱に、ペーロン選手権の勇壮なポスターが貼ってありました。屈強な男たちによる水上の熱き戦いですね。




「長崎ペローンって何ですか?」


「毎年この時期に長崎港で行われる、細長い舟の競走だよ。かなりスピードが出て凄い迫力らしいよ!」


「へえ、格好いいですねっ」




 あれだけの量を一瞬でペロンと平らげるアナタもある意味格好いいですよ……。


 ちなみに、ペーロンは漢字で『白龍』と書くみたい。なるほど、だからさっきのクイズモンスターの背中にはオールが付いてたんですね。




「龍といえば、長崎くんちの龍踊じゃおどりもあるわね」




『モッテコーイ』の掛け声で有名な秋の大祭、長崎くんちは毎年二十万人もの観客で賑わうそうです。




「わたくしはお祭りが大好きですっ」


「あたしも!」




 お祭りの雰囲気っていいよねえ、心がフワフワしちゃう。




 充実のランチタイムを終えた私たちは、再び長崎駅の構内へ。あやめちゃんはなぜか踊りながら歩いています。




「あやめちゃん、その踊りは一体……?」


「これは満腹の舞ですっ。お料理への感謝を表していますっ」




 日本舞踊にそういうのがあるのかどうかは知りませんが、とても楽しそうです。しかし流石のあやめちゃんも、あれだけ食べればお腹一杯になったみたいですね。




「あっ、売店に角煮まんを発見しましたっ。これを見逃す訳にはいかないのですっ」




 彼女の言う満腹とは一体……?




挿絵(By みてみん)




 ホームでは『白いかもめ』が私たちを待っていました。




「朝のかもめとは全然違いますね」


「そうだね、博多から佐賀まで乗ったかもめは787系の黒いかもめ。これは885系の白いかもめだね」


「黒いのは角張っていましたが、これは丸っこくてかわいいです」


「デザインだけじゃなくて、その走行性能も全然違うんだよ」


「どう違うんや?」


「それは乗ってからのお楽しみ!」




□長崎14:20 → かもめ26号 → 新鳥栖15:47




 列車は長崎駅を出発、東に向かいます。


 あやめちゃんは角煮まん五つを瞬殺した後、物産展のレジ袋から何かを取り出しました。




「みなさん、デザートのびわゼリーをどうぞっ」


「えっ、いいの!?」


「うわあ、あたしらの分も買ってくれてたんや!」


「あら、ありがとう鹿島さん。冷たくて美味しそうね」




 あやめちゃんがくれたカップ入りのびわゼリー、ぷるっぷるの透明なゼリーの中に大きなびわが三つも入っていて、何とも贅沢な一品ですね! うーん、美味しい!


 山盛りのトルコライスで満腹だったはずが、やっぱりデザートは別腹なのです!




 みんなで甘酸っぱい長崎スイーツに夢中になっていると、かもめ26号は長崎トンネルへ突入しました。全長6173メートルの長崎トンネルは、九州の在来線では最長のトンネルです。




「あれ、行きしなとは違うルートなんか?」


「そうだね。さっき普通列車で通ったのは開通当初からの旧線、こちらはトンネルでショートカットする新線だよ。特急と快速は全部この新線を通るよ。距離が圧倒的に短いからね」


「なぜ先程は旧線を通ったのですか?」


「それはもちろん、乗りつぶしボーナスを獲得するため! 全線走破が条件だから、新旧どちらの線路も乗りつぶしておかないとね!」


「な~るほど、そういう理由やったんやな。疑惑がひとつ解消したわ」


「疑惑?」


「いやあ、わざわざ長崎行きの快速から長崎行きの普通に乗り換えたから、この子とうとう頭おかしくなったんちゃうか? って思ってたんや」




 何ちゅう失礼な奴だ……。




挿絵(By みてみん)




 列車は有明海沿いのカーブの多い区間を走行しています。あやめちゃんはスヤスヤお昼寝タイムですね。




「さっきからカーブの度にめっちゃ傾くんやけど……。大丈夫なん? コケたりせえへん?」


「あ、気が付いた? 実はこれ、わざと傾けてるんだよ。この885系は振り子電車といって、車体を傾斜させることによって高速でカーブを通過できるのさ」


「ほう、それがさっき言うてた性能の違いやね?」


「そう、振り子式なら一般的な車両よりも大体25キロから30キロくらい速いスピードでカーブに突っ込んで行けるから、かなりのアドバンテージだよね。かもめ号が運行している博多~長崎間では、振り子機能の有無で十分以上所要時間に差が付くよ」


「ほんなら全部の列車を振り子式にしたらええんちゃうの?」


「それがね、振り子装置はハイテク満載の複雑な構造なので、必然的に車両の製造コストが高くなるのさ。それに、車両だけじゃなくて線路や枕木も強化したものを使う必要があるから、振り子式車両を走らせるのは色々大変なんだよ」


「そうか~、線路があればどこでも走れる、という訳やないのね」


「だから、費用対効果が大きい路線で振り子電車は導入されているのだよ」


「ふ~ん。それにしても、軽~いジェットコースターみたいな乗り心地やね」


「確かにちょっと暴力的というか、強引に曲がるような感覚だもんね。乗り物酔いしやすい人は、車両の真ん中付近の座席で進行方向と同じ向きに座ることをオススメするよ」




【遥香の車両解説・885系】

挿絵(By みてみん)

 二〇〇〇年に誕生した885系は、長崎本線の特急かもめと、日豊本線の特急ソニックで運用されている振り子電車です。その車体色からそれぞれ「白いかもめ」、「白いソニック」と呼ばれています。車体を大きく傾けて急カーブを制圧していく姿は実にダイナミックですね。

 JR九州の振り子電車は他に一九九五年から運行している883系があり、そちらは全て「青いソニック」として走っています。




 白いかもめ26号は、右に左に車体を振り回しながら長崎本線のカーブ頻発区間を駆け抜け、肥前山口駅に到着です。




☆乗りつぶしボーナス獲得!

長崎本線

走破ポイント×2




 新線旧線合わせて148.8キロメートルの長崎本線を走破しました! このボーナスポイントは大きいですね!




 さて、列車は間もなく新鳥栖駅に着きます。私たちはここで降ります。




「ふわあ……」


「あやめちゃん、おはよう。いいタイミングで起きたね」


「おはようございます。何だかお腹が空きました」




 この人の身体はどうなっているんだろう……?




「私もうたた寝していたようだわ」


「あらま、のぞみちゃんも寝てたんだね。気配を消してたから分からなかったよ」


「おい、のぞみちゃんは忍者か!」




 二人にとって、振り子電車はちょうど良い揺りかごだったみたいですね。




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