海辺の駅
JRの線路は佐世保駅で途切れており、ここから先は私鉄の松浦鉄道です。『九州レールアスロンパス』の有効区間はJR線だけなので、私たちはこの駅で折り返すことになります。
□佐世保10:43 → みどり12号 → 早岐10:55
既に乗車済みの路線なので、走破ポイントは加算されませんね。
早岐駅での乗り換え時間は僅か一分。降りたホーム向かい側に停車中の気動車に急いで乗り込みましょ!
□早岐10:56 → 普通列車 → 千綿11:28
「随分のんびりと走る列車やね~」
「これまで乗り継いできた特急とは違って、ローカル線の普通列車だからね」
今は夏休みですが、これから部活にでも向かうのでしょうか、車内には制服を着た高校生らしき女の子がいます。私たちも制服でこの大会に参加しているので、彼女からは「おや、見慣れない制服だな?」と思われているかもしれませんね。
さて、猛獣の唸り声のようなディーゼルエンジンの音を轟かせ、列車は大村線を長崎方面へ向かって走ります。
「普通列車の旅も風情があっていいですねっ」
太めの眉と丸い大きな目、ちょっと幼い顔立ちがとってもキュートなあやめちゃん、佐世保駅で買った佐世保バーガーを美味しそうに頬張っています。
「ところで、なぜあやめちゃんはこの旅に参加してくれたの?」
「それは、『九州各地の美味しいもんが食べられるで~』と、あずささんに誘われたからですっ」
なるほど、早速美食の旅を満喫しているようですね……。
でも、確かにご当地グルメを味わうことは旅の醍醐味ですからね。みんなで九州中の美味しいものを食べまくりましょう!
やがて列車は本日三つ目のメダル駅、千綿駅に到着しました。
☆駅メダル(レア)獲得!
千綿
100ポイント
おーっと! 遂にレアメダル獲得です!
この千綿駅に停車する列車は一、二時間に一本程度で、しかも普通列車のみ。到達難易度はかなり高く、これは金色のレアメダルに相応しい駅ですね。
一面一線のホームに降り、列車が過ぎ去った後に広がった光景を見て、私たちは目を見開きました。
「わっ、駅の目の前が海ですっ」
「うわあ~、こらまた凄いロケーションやな!」
まあ、何て素敵な駅なのでしょう。線路のすぐ向こう側には大村湾の穏やかな海が広がり、ほぼ真上に昇った太陽の光がキラキラと波間に反射しています。
「これは……、素晴らしいわ」
サラサラのロングヘアーを潮風に靡かせながら、のぞみちゃんも絶景を見入っている様子。このままポスターや絵葉書になりそうな景色です。
実際、二〇一四年の青春18切符のポスターに、この駅の写真が使われたそうです。レトロな木造の駅舎も趣があっていい感じですね。
ホームの階段を下り、駅舎の中に入ってみると……。
まあ、何ということでしょう。駅舎内の一角がお洒落なカフェになっているではありませんか!
「いらっしゃい。もしかしてレールアスロンの参加チームかな?」
「あ、ハイ、そうです!」
エプロンを掛けたカフェのマスターさんがお出迎えしてくれました。
「大会本部から、選手がここを訪れた時には無償で飲み物を提供してあげてくれ、と言われてるんだ」
「えっ、本当ですか!?」
「やったでぇ~!」
「感謝感激ですっ」
「ありがたいことだわ」
お代は本部が肩代わりしてくれるそうです。太っ腹ですね!
「マラソンの給水所みたいなものだね。ははは」
マスターさんは優しい笑顔を浮かべながらメニュー表を見せてくれました。
「あたしは『いちごヨーグルトフローズン』をください!」
おやまあ、あずさは相変わらず選ぶのが早いなあ。それに、一旦決めたことを後悔している場面を見たことないし……。
誰が言ったか『人生は決断の連続である』という言葉。何事に付けても素早く決断することで、正しい道を選択するセンスも磨かれていくのかもしれません。散々悩んだ挙げ句にバッドチョイス、なんてことが多々ある私は大いに見習うべきですね。
「わたくしは『ももグルトフローズン』と、自分のお金で『チワタルティーヌ』を買いたいですっ」
チワタルティーヌとは、スライスしたパンの上に地元野菜とベーコンを乗せ、特製チリマヨソースを掛けたこのカフェのオリジナルメニューです。フランス流オープンサンドイッチのタルティーヌと、駅名の千綿が掛けてありますね。
でも、あやめちゃんはついさっき大きな佐世保バーガーを食べたばかりだよね……?
四次元の胃袋を持つ女、と噂には聞いていたものの、いざ目の当たりにすると衝撃的だわ……。
「私は『ほうじそのぎ茶レモンティー』をください」
うん、フローズンもいいけど、やっぱりアイスティーかな!
「じゃあ私は『ほうじそのぎ茶ラテ』にします!」
のぞみちゃんと私は、この地域特産の『そのぎ茶』を使った飲み物をお願いしました。
しばらくして、マスターさんがテーブルにそれぞれ注文の品を運んできてくれました。
駅のホーム越しに海を眺めながら飲むお茶は最高に美味しく、実に優雅な気分です。
BGMは打ち寄せる波の音。
時折吹き抜けていく潮風の匂い。
ああ、素敵な時間だなあ……。
「ところで天王寺さん、この駅にモンスターはいないの?」
「……あ!」
「せやっ!」
「忘れてましたっ」
慌ててカバンからタブレットを取り出し、クイズモンスターの捜索開始です。駅舎の中には見当たらなかったので、外に出てみました。
すると、駅前の郵便ポストの上に太陽の形をしたモンスターを発見!
◎鉄道クイズ・千綿
問題 かつて大村線を走っていた特急列車は?
A シーボルト
B フンボルト
C 六角ボルト
D ウサイン・ボルト
「何やねん、この人をおちょくった問題は?」
ふーん、こういうのもアリなのね……。
答えはどう考えても、Aのシーボルトでしょ!
○正解!
ボーナス獲得!
20ポイント
おっと、この駅でもボーナスポイント獲得です!
「金色のメダルに赤い太陽のモンスターさんが封印されましたっ。でも、なぜ太陽なのでしょうか?」
そういえば……、佐賀はムツゴロウ、佐世保は佐世保バーガー、どちらもご当地名物のモンスターでした。はて、この駅は太陽が名物?
「ああ、これのことかな」
マスターさんがカウンターに飾ってある写真を指差しました。それは、この千綿駅のホームから撮影した、大きな夕陽が大村湾の海を真っ赤に染めている夕焼けの写真でした。
「わあ……」
思わず呼吸を忘れてしまうような、あまりにも美しい光景です。
「この駅は夕陽が有名でね。青春18切符のポスターに使われたのも夕焼けのシーンなんだよ」
なるほど、それで真っ赤な夕陽のモンスターだったんですね!
私たちが写真に見とれていると、駅に列車が接近したことを示す警報音が鳴り始めました。間もなく出発の時間です。
再びホームに上がると、海岸に沿ってカーブしている線路を、こちらに向かって走ってくる列車が見えました。これまた風情のあるシーンですねえ。
「本当に絶景の駅ね。心が洗われるようだわ」
「うん、次は夕焼けの時間帯に来てみたいね!」
「あの写真のような風景、是非見てみたいわね」
のぞみちゃんはこの駅がとても気に入ったようですね。
「秋には新米のおにぎりもメニューに加わるからね。またの来訪をお待ちしているよ」
「はーい! また必ず帰ってきますね!」
私たちはマスターさんと再会を約束して、到着した列車に乗り込みました。地元の方とのふれあいも旅の魅力のひとつですよね。新米のおにぎり、とても楽しみです。果たしてあやめちゃんはおにぎりを何個食べるのだろうか……。
カフェを訪れる前に「ごはんを多目に炊いててください」と、連絡しておいたほうが良さそうですね。