金色列車
佐賀駅でメダルとアイテムを獲得した私たち。再びホームに上がると、間もなく次の列車がやってきました。
□佐賀9:15 → みどり3号・ハウステンボス3号 → 佐世保10:24
「この列車は行き先が二つあんの?」
「そう、途中で分割するのさ。私たちが乗っている車両は佐世保行きのみどり3号で、もう片方はハウステンボス行きのハウステンボス3号だよ」
「ハウステンボス、行ってみたいです」
「今回は残念ながら時間に余裕がないけど、いつかみんなで行きたいね!」
【遥香の車両解説・783系】
みどり・ハウステンボスで運用されている783系は、国鉄分割民営化でJRが誕生した後、JR九州によって製造されたJRグループ初の特急型車両です。
国鉄時代の特急型車両の概念を打ち破るべく、軽量ステンレス車体、車両の中央部に配置されたドア、前面展望を楽しめる大型コクピットガラスの先頭部など、数々の画期的特徴を備えて一九八八年に登場し、車両そのものに『ハイパーサルーン』の愛称が与えられました。
子供の頃から前面展望が大好きな私にとって、783系は憧れの車両でした。一般的な車両だと運転室の窓の位置が高過ぎて、幼い小さな私では空しか見えなかったのです。
まあそれなりに成長した今ですら、やっとこさ前が見える程度ですがね……。
そんな私でも、シートに座って前面展望を思う存分楽しめる783系は神! なのです。
☆列車カード獲得!
783系『みどり』
レア度★
10ポイント
☆列車カード獲得!
783系『ハウステンボス』
レア度★
10ポイント
おおっ、続けざまに二枚の列車カードを獲得できました! 一石二鳥ならぬ、一列車二カードですね。
さて、列車は早岐駅に着きました。この駅で列車は二つに分割します。前寄り四両のハウステンボス3号はそのままハウステンボス方面へ、後寄り四両のみどり3号は、進路を方向転換して佐世保方面へ向かいます。列車の分割作業のため、みどり3号はこの駅に五分間停車します。
その五分間を利用して、私は『あること』を企んでいたのです。
◆列車カードについて(セルフカード)
・全車指定席の列車など『九州レールアスロンパス』では乗車不可能な列車は、タブレットのカメラ機能で撮影することによって列車カード化できる。
・撮影した写真はミュージアム欄に展示され、同時に大会本部との通信が行われる。撮影地点及び撮影時刻を本部のデータベースと照合し、正当な写真と認定されれば当該列車のカードが付与される。
・撮影対象はJRが保有する旅客列車、事業用列車に限る。
・列車以外に人物などが写っていても有効である。
「はるかさん、外を見回して何かお探しですか?」
「うん、私が入手した運行情報によると、この早岐駅に『ある列車』が停車中のはずなんだけど……」
「ある列車? どんな列車や?」
「ある列車は、ある列車だよ」
「だ~か~ら~、それはどういう列車なんやって訊いてんの! ケチケチせんと名前くらい教えろや!」
「もしかして、あの列車のことかしら?」
のぞみちゃんが指差した先には……、いました! お目当ての列車が!
「わあっ、金ぴかですっ」
「な、何やの! あのド派手な列車は!?」
「あれはJR九州のD&S列車、その名も『或る列車』だよ」
「なるほど、列車名そのものが『或る列車』やったんか」
「うん、そういうこと!」
「D&S列車って何ですか?」
「それはね……」
D&S(デザイン&ストーリー)列車とは、専用の特別なデザインと、運行地域に関連する物語性を携えた、JR九州オリジナルの観光列車のことです。
この或る列車は、車内で地元九州の食材を使った料理と、有名パティシエが監修した極上スイーツが味わえる、『走る高級レストラン』として誕生した列車なのです。
このようなD&S列車は九州の各地で運行されており、どの列車も人気を集めているようです。
「とってもレアな列車だから、きっと列車カードのポイントも高いはず。ちょっと撮影してくるね!」
「あ、待った! あたしも行く!」
「わたくしもお供しますっ」
「じゃあ私は荷物の見張り番をしておくわね」
ありがとうのぞみちゃん、お願いね。
みどり3号を降りて階段を駆け上がり、別のホームに停車中の或る列車を目指します。真夏の強烈な陽射しとディーゼルの排気熱で、或る列車の周りには陽炎がオーラのように揺らいでいました。
「うっは~、近くで見るとまたえっらい荘厳なデザインやな! ドアの窓なんかステンドグラスやで!」
「黒と金の唐草模様がお洒落ですっ」
「内装も凄まじくゴージャスだねえ。こりゃお客さんは貴族気分だね」
これでもか! とばかりに、細部に至るまでとことん豪勢な仕様で彩られた、二両編成のロイヤルスイート・トレインです。元々はJR四国で走っていた普通列車用の気動車を改造して製作された車両なのですが、その改造費は二両合わせて何と約六億円だとか……! 新幹線の一両当たりの値段は約三億円なので、最新鋭の新幹線車両とほぼ同じ金額が掛けられていることになります。この列車に懸けるJR九州の熱い意気込みが感じられますね!
「よし、じゃあ撮影しようか! あずさ、あやめちゃん、折角だから列車と一緒に写ろうよ!」
「オッケ~!」
「はーいっ」
はい、にっこり。
どうやら上手く撮れたようです。
そうこうしているうちに、みどり3号の発車時刻が迫ってきました。私たちは慌ててみどりの車内に戻ります。
「さっきの写真がミュージアムに展示されました。ポイントはいくら貰えるでしょうか」
「カワイイ女の子が二人も写ってるんやから、間違いなく高得点やろ!」
「あずさの分は減点されたりして?」
痛っ! グーで殴らなくてもいいじゃないか……。
「あはは……」
あっ、またのぞみちゃんが笑った! 身体を張ってあずさの暴力的なツッコミに耐えた甲斐がありました。
さて、しばらくすると画面の「通信中」の表示が消え、派手な金色の枠に囲まれたウインドウが現れました!
☆列車カード獲得!
キロシ47形『或る列車』
レア度★★★★★
300ポイント
「300ポイント! これ凄いんちゃう!?」
「空前絶後の高ポイントですっ」
やりました! 思惑通りのレアカード獲得です!
「そんなに珍しい列車なんや!?」
「うん! 実はこの或る列車、時刻表には掲載されていない、ツアー専用の団体臨時列車なんだ。この大会期間中の運転日は今日だけなので、これが千載一遇のチャンスだったのさ!」
「あ、そやから博多駅での作戦会議で、まずは西九州方面を攻めようって言うてたんか」
「卓越した深謀遠慮ですっ」
むふふ、レールアスロンは様々な戦略的要素があるから、しっかり頭を使って攻略しないとね!
ちなみに、撮影した写真は大会後にデータ化したものを貰えるそうです。旅の思い出になりますね。
大量ポイント獲得に沸き上がる私たち。みどり3号は佐世保に向かって再び出発しました。
「わわっ、さっきと逆向きに動き出しましたっ」
「こうやって方向転換することをスイッチバックっていうんだよ。これで私たちの乗っている八号車が先頭になったから、いよいよ前面展望が楽しめるね!」
運転室の大型ガラス越しに広がるパノラミックな大展望、これを自由席で堪能できるとは破格のサービスですね。783系大好き!
「窓が大きくて見晴らしええね~」
「運転士さんになった気分ですっ」
しかしそれも一瞬、ただ春の夜の夢の如し……。終点の佐世保駅はもうすぐそこなのでした。
「あっ、海や!」
「何か空母らしきものが見えます」
「佐世保は軍港都市で、アメリカ海軍の基地もあるんだよね。なかなか非日常的な風景だね」
佐世保湾に浮かぶネイビーの艦隊が見えたら、間もなく佐世保駅に到着です。
☆駅メダル獲得!
佐世保
50ポイント
JRの路線図上、佐世保は行き止まりの駅です。即ち駅に向かう経路が一本しかないため、到達難易度はやや高めになるのですが、ここも通常メダルでした。
うーむ、レアメダルの駅は一体どこなんでしょうね。
おや、またウインドウが現れましたよ。
☆乗りつぶしボーナス獲得!
佐世保線
走破ポイント×2
そうです、佐世保線の起点、肥前山口から終点の佐世保までの48.8キロメートルを完全走破したことにより、乗りつぶしボーナス獲得です! ボーナスとして佐世保線の走破ポイントが二倍になりました!
この乗りつぶしボーナス、路線の距離に比例して獲得できるポイントも多くなるので、特に長距離の路線は確実に完全走破しておきたいところですね。
では、終着駅なので必然的に列車を乗り換えることになります。それまで時間は充分あるので、クイズモンスター退治に向かいますか!
「今回はわたくしが鋭意捜索しますっ」
「あやめちゃん、気張ってや~」
かわいい黄色のカバンを背負ったあやめちゃん、ホームの階段を下りてすぐに立ち止まりました。佐世保バーガーのお店をじーっと見てるけど……?
「見つけましたっ。ハンバーガーのオバケさんです」
あらま、早いねっ!
◎鉄道クイズ・佐世保
問題 かつて佐世保駅に乗り入れていたブルートレインは?
A 富士
B はやぶさ
C 彗星
D さくら
「あっ、これはあたしにも分かるで!」
「ではあずさ選手、答えをどうぞ!」
「Dのさくら!」
○正解!
ボーナス獲得!
20ポイント
「よっしゃ、ポイントいただきや!」
「あずささん、凄いですっ」
「へえ、よく知ってたね!」
「ふふん、何で分かったかというと……」
細身ながらガッチリ筋肉質の腕でガッツポーズを決めたあずさは、答えが分かった理由を語り始めました。
「あたしが大阪から引っ越してきたばかりの頃、あんたに連れられて、しょっちゅう近所の車両センターに列車を見に行ってたやん?」
「うん、よく行ったよね」
「最初は全然興味なかってんけど、不思議とブルートレインには心惹かれてね。当時父親が大阪に単身で残っててさ、あの列車はお父さんのいる大阪まで行くんやなあって。それで、いつかあたしもあれに乗ってお父さんに会いに行こうと思って、ブルートレインの名前とか運行区間とか色々調べたことがあるんよ」
「だから正解が分かったんだね」
「そう! 富士と彗星は大分の車両センターでよく見たし、はやぶさは熊本行きやったはず。そしたらさくらしかないな、と思って」
「素晴らしい考察ですっ」
「でもなあ、いつの間にかブルートレインを見掛けへんようになったんよね~」
「そうだねえ、伝統の『さくら』や『はやぶさ』の名称も、今は新幹線に使われてるからね」
私たちが幼かった頃にはまだ運行していたブルートレインも、時代の波に飲み込まれ、いつしか姿を消してしまいました。仕方のないこととはいえ、やっぱり寂しいですね。
あずさは覚えていないようですが、実は私たち、寝台特急『富士』が引退する日にも車両センターへ行っていました。センターに掛かる跨線橋の上から、最後の任務に向かう青い客車を二人で敬礼しながら見ていたのです。白い手袋をはめた運転士さんが、真上に立っている私たちに敬礼を返してくれたことがとても印象に残っています。
今月今夜のこの富士を、私は一生忘れないでおこう。
私は幼心にそう思いながら、大分発東京行きの最終列車を見送りました。そして、それが九州で見た最後のブルートレインになっています。
あの美しいブルートレインの走っている姿を見ることはもう叶わないかもしれませんが、私たちの記憶の中でいつまでも走り続けることでしょう。