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ゴーウエスト

『汽笛一声新橋を はや(わが)汽車は離れたり 愛宕(あたご)の山に入りのこる 月を旅路の友として~♪』




 午前八時ちょうど、懐かしの鉄道唱歌のメロディが広場に鳴り響き、レールアスロンが始まりました。三日間合計三十九時間にも及ぶ、長い長い戦いの火蓋が切られたのです。


 八チーム総勢三十二名の選手が、三階コンコースの通路を博多駅のホーム目指して歩いて行きます。どうやら新幹線改札口に向かうチームが多いようですね。


 私たちのファーストトレインは、在来線の鹿児島本線下り8:14発、かもめ101号佐賀行き。まだ少し時間に余裕があります。まずは駅弁を買ってからホームに向かいましょう。腹が減っては戦はできぬ! なのです。




 私たちは一階の大きな売店にやってきました。美味しそうな駅弁が沢山並んでいます。




「よっしゃ、あたしは『明太牛タン丼』に決定や!」




 あずさは昔から、何かを選ぶ時に全く迷うことなく即決します。その決断の早さは天賦の才能ですね。優柔不断な私とは正反対のコンビです。




「わたくしは『大名道中駕籠(かご)かしわ弁当』にしました。二段重ねで豪華絢爛なお弁当ですっ」




 お嬢様育ちのあやめちゃんは天真爛漫。誰からも愛される天然癒しキャラです。特技は日本舞踊だそうです。




「私はコーヒーで良いわ。朝はあまり食欲がないの」




 のぞみちゃんは凛とした雰囲気でスタイル抜群。チビな私はその身長を少し分けてほしいくらいです。




 さて、私はどのお弁当にしようかな……?


 うーん、熟慮に熟慮を重ねた結果、『特厚カツサンド』にしました。戦いにカツ! という験担ぎなのです。




挿絵(By みてみん)




 お弁当の紙袋を手に下げ、私たちはエスカレーターで四番線ホームに上がりました。


 まだ朝方なのに、ホームには早くも真夏の熱気が立ち込めています。まるで蒸し器の中にいるようです。私たちの地元より遥かに暑く感じるのは、大都会特有のヒートアイランド現象というものでしょうか? いや、別に大分が田舎だと言っている訳ではありませんが。




 四番線では、かもめ101号が出発の時を待っていました。




「カッコええ電車やね~」


「まるで戦闘ロボのような顔です」




 あずさとあやめちゃんが興味深げに列車の先頭部を眺めています。




「これは787系だね。JR九州の特急型車両の中では最もメジャーな車両だよ」




【遥香の車両解説・787系】

挿絵(By みてみん)

 JR九州には個性的なデザインの車両が数多く存在しており、各地の鉄道ファンから熱い視線を集めています。

 一九九二年に営業運転を開始した特急型車両787系は、鋭角に尖った先頭部とダークグレー塗装の重厚感溢れる車体が特徴です。かつてはJR九州のフラッグシップトレインとして、主に博多と西鹿児島(現・鹿児島中央)を結ぶ『つばめ』で運用されていました。

 九州新幹線開業後、つばめの名称は新幹線に譲り、現在では主に九州各地の都市間連絡特急として活躍しています。




 それにしても暑い! さっさと冷房の効いた車内に入りましょう。


 当駅始発の列車なので、四人分の座席も余裕で確保できました。




□博多8:14 → かもめ101号 → 佐賀8:57




 列車が博多駅を出発して間もなく、タブレットの画面にウインドウが現れました。




☆列車カード獲得!

787系『かもめ』

レア度★

10ポイント




 ウインドウにはこのように表示され、かもめのロゴマークが描かれたカードが所有カード欄に追加されました。




「へえ、乗車した列車のカードが貰えるんやね」


「この列車は10ポイント……んぐっ、みたいですね」




 運行本数の少ないレアな列車ほど高ポイント、ということでしょうか。


 あら、あやめちゃんはもうお弁当を食べ始めてるんだね……。





◆列車カードについて

・『かもめ』や『ソニック』など、名称・愛称の付いているJR列車に乗車すると、列車カードを獲得できる。

・保有できるカードは、ひとつの列車名称について一枚のみ。

・カードにはそのレア度によってポイントが付帯しており、総獲得ポイントに加算される。




 列車カードは三十種類以上あるようですね。また、所有するカードが多いほど後々の戦いが有利になるみたいですよ。頑張って沢山の列車カードを集めましょう!




「ほんならあたしらも朝ごはんにしよか」


「そうだね!」




 車窓に流れる景色を眺めながら駅弁を食す。これぞ旅の楽しみであります。




「この牛タン美味いわ~、めっちゃ柔らかいで」


「私のカツサンドもボリューム満点だよ! 列車に乗って食べるお弁当は、また格別の味わいだねえ」




 美味しいものを食べると自然に顔が綻びますね。旅気分は極上の調味料なのです。




「ところではるか、この沢庵一枚とあんたのカツサンドをトレードせえへん?」




 お箸でつまんだ小さな沢庵をひらひらさせながら、あずさが著しく不当なトレードを申し込んできました。これはむしろ恐喝と言うべき事案です。




「何なのさ、そのあからさまな詐欺トレードは……。こちらは交換要員として牛タン一枚を要求します!」


「おっと、牛タン選手は我が軍の主砲や。そう簡単には出されへんで!」


「はるかさん、わたくしも出汁巻き選手とトンカツ選手の緊急トレードを提案しますっ」


「もう、あやめちゃんまで理不尽なことを! それじゃただの玉子サンドになっちゃうじゃないか!」




 食い意地のぶつかった激しい交渉の末、各自の主力選手をちょっとずつ三角トレードで分配するという案で妥結しました。こうすると色々な味が楽しめてお得感がありますね。牛タンもかしわめしも美味しい!




「お弁当、大変美味しゅうございましたっ」




 うおっ、二段重ねの大盛弁当を、ものの数分で完食するとは恐るべし……。


 よく食べよく寝ることがモットーのあやめちゃん。それが胸を大きくする秘訣なのかな……? おっと、あずさの前で胸の話はタブーでした。




 ところで、のぞみちゃんは列車に乗ってからずっと黙ったまま車窓を眺めています。


 もしかしてあまり楽しくないのかな? 半ば強引に連れ出してきたようなものだしなあ……。


 窓から射し込む夏の陽光が彼女の分厚い眼鏡に反射して、その瞳の色を窺うことができません。リーダーとして、チームのみんながこの旅を存分に満喫してほしい、そう願うばかりですが……。




挿絵(By みてみん)




 そんな私たちを乗せたかもめ101号は、鳥栖(とす)駅で鹿児島本線から長崎本線へと進路を変え、最高速度130キロメートルで西へ向かって疾走しています。


 タブレットにはスタートからの乗車距離が表示されており、それに伴いポイントが加算されているようです。




◆走破ポイントについて

・乗車距離1キロメートルに対し1ポイント付与される。

・実際の距離と運賃計算用の距離が異なる新幹線は、実際の走行距離に基づいて算定する。

・一度乗車した区間を繰り返し乗車してもポイントには反映されない。

・一路線を完全に走破した場合、乗りつぶしボーナスとして当該路線の走破ポイントが二倍になる。




 やがてかもめ101号は定刻通り終点の佐賀駅に到着しました。


 タブレットの総獲得ポイント欄を見ると、博多~佐賀間の距離53.6キロに、かもめの列車カードの10ポイントを加算した『63.6pt』と表示されていますね。




 ここ佐賀駅はメダル駅に指定されています。停車駅であれば列車に乗ったままでもメダルを獲得できますが、列車から降りてみると更にチャンスがあるようです。




◆メダル駅について

・メダル駅に到着すると、当該駅オリジナルのメダルを獲得できる。

・通常、メダルはひとつ50ポイントとして加算される。

・高ポイントのレアメダル駅も存在する。




 タブレットの路線図を見ると、メダル駅は九州各地に沢山散りばめられています。三日間で全てのメダル駅を訪れるのはかなり難しいと思われます。どれだけ効率良く、より多くのメダルを獲得できるか、それが勝負の鍵になりそうです。




 さて、私たちが佐賀駅のホームに降りると、タブレットにウインドウが出現しました。




☆駅メダル獲得!

佐賀

50ポイント




 私たちが最初に獲得したメダルは、銀色のノーマルメダルでした。佐賀駅は特急が頻繁に停車する駅なので、到達難易度は比較的低い駅になりますね。




 そして、メダル獲得の後はモンスター狩りです!




◆クイズモンスターについて

・メダル駅のどこかにクイズモンスターが潜んでいる。基本的にホーム上には存在せず、駅舎やその周辺に隠れているようである。

・モンスターを発見すると、鉄道に関する四択クイズが出題される。正解するとモンスターは当該駅のメダルに封印され、その際にカプセルを落とす。カプセルの中にはボーナスポイントや旅のお助けアイテムなどが入っている。不正解の場合、モンスターは逃亡し、その駅では二度と出現しない。




「じゃあ、みんなでクイズモンスターを探しに行くよ!」


「ゲームみたいで楽しそうですねっ」


「こういうのは勘の鋭いあずさが得意そうだし、タブレットを託すよ!」


「よっしゃ、速攻で見つけたるで~!」




 タブレットのモンスターサーチカメラ機能をオンにして、あずさを先頭に佐賀駅の構内を歩き回ります。




「ん~、どこにおるんやろか……」


「あっ、駅員室の中にモンスターっぽい人が!」


「あれは普通に駅員さんちゃうの?」


「はるかさん、失礼ですよ」


「そ、そうだね、ごめんなさい駅員さん……」


「そもそもカメラ越しやないとモンスターは見えんやろ」


「そりゃまそうだ。君は正論を言っているよ」


「ふふっ……」




 あっ、今のぞみちゃんが初めて笑ってくれたような……。何だか少しホッとしました。




挿絵(By みてみん)




『私、福山さんと友達になりたいんだ! だから一緒に旅に出ようよ!』




 今思えば、かなり強引な誘い方だったような……。


 私とのぞみちゃんは同じ一年三組のクラスメイトであり、テストで学年トップを取る頭の良さ、長身で抜群のスタイル、冷静沈着でクールな性格、そんな彼女を見ていて、私は密かに憧れを抱いていたのです。何しろ私はそれらの特性を1ミリも持っていない訳でしてね……。人は自分にないものを持っている人に憧れるって言うでしょ?


 そこで、これを機会にのぞみちゃんと無理やり友達になってしまおう! という作戦を企てて、彼女に声を掛けたのが今から一か月前、この大会に出場が決まった時のことです。


 最初は渋っていたのぞみちゃんでしたが、あまりにしつこい私に根負けしたのか、終には首を縦に振ってくれたのです。


 まだ今のところぎこちない感じですが、早く壁をブチ壊して仲良くなりたいものです。




 さてさて、クイズモンスターなるものを見つけるべく、駅周辺の探索を続けていると……。おや、佐賀市の観光案内板の前に怪しい影が!?




「よっしゃ、モンスター見つけたで!」


「お魚の妖怪変化さんですねっ」




 なるほど、佐賀だけにムツゴロウのモンスターが現れました!


『よく来たな。ではクイズを出すぞ』


 このオバケムツゴロウめ、成敗してくれるわ!




「はるか、頼んだで!」


「オッケー、鉄道クイズはこの私に任せといて!」




◎鉄道クイズ・佐賀

問題 一九八七年に廃線となった国鉄佐賀線の筑後川橋梁の特徴は?


A 跳開橋

B 旋回橋

C 昇開橋

D 引込橋




「うわっ、難しそうな問題や!」


「解答時間は十秒しかありませんっ」




 えっと、筑後川橋梁は下に大きな船を通すための可動橋で有名なんだよね。確か写真で見た筑後川橋梁は、橋桁が垂直に昇降するタイプの橋だったから……。


 答えはCの昇開橋!




○正解!

アイテム獲得!

『銀の鍵』




 やりました! 見事にアイテムゲットです!




「ムツゴロウのモンスターさんがメダルに封印されましたっ」


「やった~! さすがはるか、鉄道に関しては天才的!」




 むっ、何か引っ掛かる言い方だな……。


 まあそれはさておき、モンスターの落としたカプセルから、アイテム『銀の鍵』を入手しました! これは一体何に使うものでしょうかね?




 鉄道にゲームの要素が加わり、ただでさえ楽しい鉄道旅行が更に面白さ倍増のレールアスロンです。果たしてこの先、どんな愉快な旅が私たちを待っているのでしょうか。




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