川線山線
大会二日目の朝がやってきました。
今日もいいお天気です。では列車の旅、張り切ってスタート!
「D&S列車は初乗車やな」
「そうだね、この『いさぶろう号』には自由席があるから、私たちの切符でも乗れるんだよね」
「和風の内装がお洒落ですっ」
□熊本8:31 → いさぶろう1号 → 吉松11:22
本日の第一列車は、熊本から肥薩線経由で鹿児島方面に向かうD&S列車『いさぶろう・しんぺい』です。人吉までは特急、そこから先は普通列車として運行します。下りの吉松行きがいさぶろう号、上りの熊本・人吉行きがしんぺい号となっています。
風変わりな列車名は、肥薩線の難所、人吉~吉松間を建設していた当時の逓信大臣・山縣伊三郎と、開通時の鉄道院総裁・後藤新平を由来としています。
観光用に特化したD&S列車は基本的に全車指定席で、事前に座席指定券を購入しておかないと乗車できません。しかし、一部の列車には自由席も設置されており、特にこの『いさぶろう・しんぺい』の人吉~吉松間は普通列車なので、乗車券のみで素敵な旅気分を楽しめるちょっぴりお得な列車であります。
「あんまりスピードは出さへんのやな」
「内装は思いっきり改造してあるけど、車両そのものは国鉄時代の製造だからね。最高速度も95キロに抑えられているよ」
【遥香の車両解説・キハ40系】
D&S列車のほとんどは既存の車両を改造したものです。その種車として最も多く利用されているのが、キハ40形やキハ47形などのキハ40系気動車です。
一九七七年から非電化路線の普通列車用として、合計888両と大量に製造されたキハ40系ですが、近年は老朽化により年々その数を減らしています。
急行型のキハ58系と共に、ローカル線の代表格として約四十年の永きに渡り日本全国で活躍しているキハ40系。山や海の風景がとても良く似合う車両です。このノスタルジックな大型鋼製車に思い入れのある方もきっと多いはず。まだまだ頑張ってほしいですね。
☆列車カード獲得!
キハ47形『いさぶろう・しんぺい』
レア度★★★
50ポイント
他のD&S列車と同じく、いさぶろう号でも客室乗務員のお姉さんが沿線の観光案内や記念写真の撮影などをしてくれます。私たちもどこかの駅で写真を撮ってもらいましょうかね。既に『いさぶろう・しんぺい』の列車カードは入手していますが、思い出は沢山あったほうが良いのです!
熊本駅を出発したいさぶろう1号は、八代駅までは鹿児島本線を、八代駅からは肥薩線に入り、日本三大急流のひとつである球磨川に沿って走ります。
やがて列車は一勝地駅に到着しました。この駅ではD&S列車同士の交換が行われます。
「えらい綺麗な色の列車が停まっとるな」
「あれはデビューしたばかりのD&S列車、『かわせみ やませみ』だよ!」
「瑠璃色とエメラルドグリーン、まるで宝石みたいな列車ね」
JR九州の十一番目のD&S列車として熊本~人吉間で運行を開始した『かわせみ やませみ』は、球磨川流域の森林や川の清流をイメージした鮮やかな青と緑の塗装が特徴です。内装は球磨地方産の杉や檜が使われ、木の温もりを感じながら自然豊かな肥薩線の旅を楽しめるそうです。きっとこの列車も人気を博すことでしょうね。
「じゃあ、ちょっくら撮ってくるね!」
私は列車を降り、向かい側のホームに停車している『かわせみ やませみ』を撮影しました。
☆列車カード獲得!
キハ47形『かわせみ やませみ』
レア度★★★
50ポイント
新旧D&S列車の行き違いを経て、いさぶろう号は肥薩線の『川線』区間をどんどん遡って行きます。
やがて九州の小京都と呼ばれ、昔ながらの街並みが残る人吉市の中心駅、人吉駅に到着しました。ここでは七分間の停車です。
「駅弁を売っているおじさんがいますっ」
「鮎寿司やって! 美味そ~」
「夏らしいわね」
昆布出汁で炊いたごはんの上に、酢締めにした球磨川産の鮎を豪快に乗せた、ここ人吉駅の名物駅弁ですね。是非買って行きましょう!
「う~ん、ええ香りやわ~」
「鮎のお寿司は初めてですが、とっても美味しいですっ」
みんなで夏の味覚に舌鼓です。香魚の異名を持つだけあって、独特の甘い香りが何とも爽やかですね!
人吉駅を発車すると、いよいよ肥薩線のクライマックス、列車は『山線』と呼ばれる高低差430メートルの峠越えに挑みます。
ディーゼルエンジンの雄叫び頼もしく、いさぶろう1号は南九州の分水嶺を力強く登って行きます。
人吉駅を出てから約十五分、列車は大畑駅に到着しました。
何と、ここからは三駅連続のメダル駅なのです!
☆駅メダル(レア)獲得!
大畑
100ポイント
おっと、この旅二つ目のレアメダル獲得です!
熊本や鹿児島の市街地から遠く離れたこの区間、運行する列車は一日たったの五往復のみ。到達難易度は相当高いですからね。
「大畑駅での停車時間は三分間だね」
いさぶろう・しんぺいは観光列車なので、山越え区間の各駅ではそれぞれ数分間、お客さんが駅周辺を散策できる停車時間を確保してあります。私たちは列車を降り、昔ながらの木造瓦葺きの駅舎を訪れました。
「あら、名刺が沢山貼ってあるわね」
「うおっ、凄いなあ! 何千枚くらいあるやろか?」
この大畑駅の駅舎に名刺を貼ると出世する、という噂があるそうです。屋内の壁が膨大な数の名刺やメモ書きで埋め尽くされていますね。全国各地からここを訪れた旅人の足跡とも言えます。
「壮観な眺めですっ」
「あずさも割り箸の袋とか、適当な紙に名前書いて貼っとけば?」
「おっ、モンスター発見や!」
無視か……。
◎鉄道クイズ・大畑
問題 ループ線の存在する路線は?
A 只見線
B 北陸本線
C 根室本線
D 土讃線
大畑駅といえば、円を描くように線路が敷設されているループ線が有名です。肥薩線の他に、急勾配を登るためのループ線がある路線といえば……。
敦賀~新疋田間の鳩原ループ線が有名な、Bの北陸本線だね!
○正解!
ボーナス獲得!
20ポイント
よしっ、二日目も快調な出足です!
「今日も頼むで~。もし間違えたら、飲み物なしでラスクを食わせるからな!」
何なのよ、その地味な嫌がらせは……。
ところで、大畑駅の構内には彩り鮮やかな木馬のようなものがいくつか置かれていました。
「カラフルでかわいいですね」
「きじ馬って言うらしいよ。さっきのクイズモンスターも、きじ馬のオバケだったね」
きじ馬とは、木製の台座に紐と車輪を取り付けた、この地方に伝わる昔ながらのおもちゃです。昔の子供たちは、このきじ馬をゴロゴロと引いたり、背中に乗って遊んだりしたのでしょうね。
今の子供たちも、なのかな?
駅舎の前では、地元のみなさんが手作りの梅干や漬物、お菓子などを販売していました。私たちは気さくなおばちゃんから漬物を購入して、いさぶろうの車内に戻りました。
「この漬物美味いな~」
「茄子と胡瓜、旬の夏野菜だね。おまけで梅干も付けてくれたよ!」
「夏場はしっかり塩分も摂っておかないとね」
「熱中症予防ですねっ」
さて、スイッチバックの大畑駅を発車した列車は、一旦引き込み線に進入します。そこから助走を付けてループ線の上り勾配を駆け上がって行くのです。
しばらく走ると、列車は駅でもないところで停車しました。案内放送によると、先程停まった大畑駅が見えるとのことです。なるほど、確かに大畑駅の構内が遥か下のほうに見えています。ループ線ならではの光景ですね。
列車は更に急勾配を登り続け、やがて肥薩線の最高標高の駅(海抜537メートル)である矢岳駅に到着しました。
☆駅メダル(レア)獲得!
矢岳
100ポイント
矢岳駅もレアメダルです! 隣の大畑駅がレアなので、まあ当然といえばそうですね。
この駅には五分間停車します。
「何となく涼しく感じるわね」
「高原の爽やかな風が気持ちいいね!」
「おや、お客さんがみんな、あちらのほうに向かって歩いて行きます」
「間違いなくあそこにおるんやろな……」
ここ矢岳駅では、以前肥薩線で活躍していた『デゴイチ』こと、蒸気機関車『D51170機』がSL展示館の中に静態保存されています。やっぱり近くで見る蒸気機関車は凄い迫力ですね!
このD51170は運転台の見学もできるので、多くのお客さんが興味深々に計器類やボイラーの釜などを見て回っています。
ちなみに、昨日見たSL人吉の『58654機』も、実はこの場所で静態保存されていた車両なのです。現役に復帰した元同僚をデゴイチ君は羨ましく思っているかも……。
「おったで~、車輪のオバケみたいなんが!」
蒸気機関車の大きな車輪がモンスターになったようです。
時間に制約がある中で、あずさのモンスター捜索力は頼りになりますね。
◎鉄道クイズ・矢岳
問題 ヨーロッパ最高標高の駅といえば、スイスのユングフラウヨッホ駅。ではスイスの最高峰は?
A モンテローザ
B モンブラン
C ユングフラウ
D マッターホルン
「ぎゃあああ、完全に地理の問題じゃないかあああっ! の、のぞみちゃん……!」
「えっとね、ヨーロッパ最高峰はモンブランなんだけど、スイスに限っていうと……、Aのモンテローザね!」
○正解!
アイテム獲得!
『銀の宝箱』
「のぞみちゃんは凄いな~!」
「さすがの博識ですっ」
「ハアハア……、また助けられたよ……」
「チーム一丸で頑張らないとね」
これのどこが鉄道クイズじゃ! と、文句のひとつも言いたくなるような問題でしたが、我がチームの誇る才媛のぞみちゃんのクリーンヒットで車輪モンスターの封印成功!
私は何となくマッターホルンだと思ったよ、危ない危ない……。
そして、アイテム『銀の宝箱』が手に入りました! 事前に獲得していた『銀の鍵』を使って、この宝箱を開けることができそうです!
「おっ? 宝箱が開くアニメーションが始まったで!」
「一体何が入っているのでしょうかっ?」
宝箱の中から出てきたのは……おや、巻物?
『シークレットミッション・銀 九州にある日本百名山のいずれかひとつを撮影せよ』
おおっ、遂にシークレットミッションが明らかになりました! なるほど、このような形式で出題されるようですね。
「九州の日本百名山? はて、どの山がそうなんやろ?」
「確か九州には六峰あるわね。そのうちの宮之浦岳は屋久島だから、ちょっと撮影は難しそうね。後は阿蘇山、九重山、祖母山、霧島山、開聞岳だったかしら」
「あっ、霧島山ならこの近くだよね!? もうすぐ見えるはずだよ!」
「わお、絶妙なタイミングですねっ」
これも私の日頃の行いでしょうか、どうやら速攻でクリアできそうですね!
いさぶろう1号は矢岳駅を出発して間もなく、肥薩線最長の矢岳第一トンネル(2096メートル)に入りました。国境の長いトンネルを抜けると……、そこは雪国ではなく、日本三大車窓のひとつが待っていました。
案内放送が流れ、景色の良いところでまたもや列車は停車します。
「ええ眺めやな~」
「お天気も良くて風光明媚ですっ」
「線路脇に風景の案内板も設置されているのね」
眼下に広がる緑の絨毯のようなえびの盆地、その向こう側にはいくつもの山々が重なるように連なっているのが見えます。いやあ、日本三大車窓の名に違わぬ見事な眺望ですね!
「どの山が霧島山なんやろか?」
「実は霧島山という単体の山は無くて、あの辺りに見える火山群の総称なのよね」
「なるほど、あの山々の全部が霧島山なのですねっ」
「よし、じゃあ撮影しよう!」
私はタブレットで雄大な霧島連山の風景を撮影、すると本部との通信の後、ウインドウが現れました。
☆シークレットミッション・銀クリア!
100ポイント獲得!
「いやっほーっ! シークレットミッションの銀をクリアしたよ!」
「金の鍵も早く見つけたいですねっ」
うん、今の良い流れなら、案外すぐに入手できるかもしれませんね!
列車は再び動き出し、今度は下り勾配を滑るように進んで行きます。
やがて車窓の左下に駅のホームが見えてきました。一旦駅を通り過ぎ、山線二回目のスイッチバックを経て真幸駅に到着です。
☆駅メダル(レア)獲得!
真幸
100ポイント
はい、もちろんレアメダルですね!
真幸駅には五分間の停車です。
ここ真幸駅の駅舎には、その駅名にちなみ、『真の幸せ』を願う絵馬が沢山掛けられています。無地の絵馬が販売されているようなので、それを買って私たちも何かお願いごとをしましょうか!
「はるか、ペン貸して!」
「はい。何を書くか決まったの?」
「世界征服に決まってるやん!」
「……は?」
「ツッコミが甘いな。嘘やんか」
私がいつツッコミ役になったというのだ? むしろあずさのほうでしょ……、ってこの人あっという間に書いて絵馬台に掛けちゃったよ。
『志望大学に合格できますように 諏訪梓』
なるほど、市井の正しい高校生の絵馬だわね。……おや、もう一枚あるぞ?
『タイガースが日本一になりますように 諏訪梓』
生きているうちに叶うといいけどね……。
あやめちゃんの絵馬は?
『世界中の美味しいものが食べたいですっ 鹿島菖蒲』
ふむ、実にあやめちゃんらしいね。こういう世界征服なら平和だね。
で、のぞみちゃんは何だろう?
『世界が希望の光で満たされますように 福山ソフィア望』
何という高貴なる願い……。彼女が女神の化身か何かに見えてきました。というか、のぞみちゃんのミドルネームはソフィアなのか……。全てがカワイイなあ……。
そして私の絵馬はもちろん!
『レールアスロン優勝! 天王寺遥香』
おっと、そのためにもモンスター討伐を忘れてはいけません。
「むむっ、絵馬台の裏におったで!」
鐘の形をしたモンスターが現れました!
◎鉄道クイズ・真幸
問題 スイッチバック式ではない駅は?
A 立野駅
B 坪尻駅
C 姨捨駅
D 北宇智駅
あれっ!?
この四駅は全部スイッチバックじゃなかったっけ?
……いや、ちょっと待って。確か和歌山線の北宇智駅は、駅舎移転でスイッチバックが解消された、というニュースをどこかで見たような……。
えいっ、答えはDの北宇智駅!
○正解!
アイテム獲得!
『金の鍵』
「おわっ、ホンマに金の鍵が出たがな!」
「いいよいいよ、流れ来てるよ!」
「これはシークレットミッション・金かしら?」
早速絵馬に願を掛けた効果が現れたのでしょうか、お望み通りの展開になっています!
そして金の宝箱の中からは、やはり巻物が出現しました。
『シークレットミッション・金 鹿児島本線と指宿枕崎線の0キロポストを両方とも撮影せよ』
「ゼロキロポスト? 何やそれ?」
「キロポストっていうのは、距離標のことだね。で、路線の起点駅には『0』と書かれたキロポストが立てられているのさ」
「なるほど、路線のスタート地点という意味ね」
「うん! 鹿児島本線の起点駅は門司港駅で、これは明日行く予定だよ。そして指宿枕崎線は鹿児島中央駅だね。次に乗り換える列車が鹿児島中央行きなので、そこで撮影できるね!」
さあ、シークレットミッション・金の内容も明らかになりました! ミッションクリアは明日に持ち越しとなりますが、銀の時よりも高ポイントに期待できそうですね!
さて、めでたく山線の三駅連続クイズも無事全問制覇できたところで、真幸駅名物『幸せの鐘』を鳴らしましょう!
ホームにある鐘は、以前は発車の合図として使われていたそうです。鐘の横に説明書きがありますね。
『ちょっと幸せの方は一回。もっと幸せを願う方は二回。いっぱい幸せの方は三回鳴らしてください』
「よっしゃ、三回鳴らすで~!」
私たちはそれぞれ思いの数だけ鐘を鳴らし、列車に戻りました。ちなみに、私が鳴らしたのは二回です。私は欲張りなので、もっともっと幸せが来てほしいのです!
真幸駅を発車した列車は、最後の力走で吉松駅を目指します。
二箇所のスイッチバックとループ線を駆使、大量の湧水に行く手を阻まれながらも長大トンネルを貫通、百年以上前の当時における最高の鉄道建設技術を注ぎ込んで開通させた山線区間です。全くえらいところに線路を通したもんだと感心します。
八代海沿いを通る『海線』開通後は、熊本~鹿児島を結ぶメインルートの座を平坦な海線に奪われてしまい、すっかり寂れてしまったこの路線ですが、近年は観光路線として再び脚光を浴びています。九州新幹線が全線開通してからは更にお客さんも増えているそうです。これは嬉しいことですね。
現存する鉄道文化遺産として、是非多くの人に体感してもらいたい路線です。
三時間近い長旅を終え、いさぶろう1号は終点の吉松駅に到着しました。




