05
繋がれた手に疑問を持ちながら、どんどん歩いていく彼の背中を見上げているとあっという間に女子寮の前に着いていた。彼の短い黒髪は柔らかそうに風になびいていて、うしろ姿からでもわかるほど無駄のない筋肉をしていた。ずっと私の横で本を読み終わるのを待っていてくれたのを思い出すとなぜそんなことをしてくれたのか疑問に思ってしまう。
「ここまでくれば大丈夫だろう。」
いきなり彼が振り向いて繋いでいた手が離された。長い髪の隙間から彼の顔を見ると綺麗な薄緑色の瞳は私を見下ろしていた。
「ありがとう。」
この言葉で合っていると思う。たぶん。
「ようやく喋ってくれたな。さっきから何も言わないからどうしようかと思ったよ。」
そう言って彼は小さく笑った。
「そういえば名前聞いてなかったな。俺はアルベルク。まぁアルとでも呼んでくれ。3年だからたまには学園でも会うだろうしな。」
「シックス。私の名前。シックス・バンナー。」
「シックス?珍しい名前だな。忘れなそうだな。今度は本に夢中になりすぎて図書館に閉じ込められないようにな。」
そう言って帰っていった彼の後ろ姿はすぐに小さくなって見えなくなってしまったので私も寮に入ることにした。
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寮は基本的に二人部屋で部屋の真ん中をカーテンで仕切ることが出来る。
私にも同室の部屋の人がいるがほとんど喋ったことがない。初日に名前を聞かれた後に「お互いのことに干渉しない」と可愛い顔立ちをした同室のガーネットさんから強く言われてから部屋のカーテンは閉められたままだ。
私のスペースには備え付けのベットと机とクローゼットが最初の配置のままだ。クローゼットの中は冬服と夏服の制服が入っているだけで他に私物といわれるものもない。寮では毎日、食事が出るし共同の入浴場もある。とくにお金を使う所がないのでとても助かっている。
いつものように制服を脱いで、ベットに入る。アルベルクという人に握られた手を見て先ほどのことを考えているとすぐに睡魔が襲ってきた。
---夜もだいぶ遅かったがガーネットさんはまだ部屋に戻ってきていなかった。
私の一日の始まりは日が昇る前に起きる。制服を着てからシンとした廊下を静かに歩いて入浴場に向かう。誰も居ないのを確認してから服を脱いでシャワー室へ。
私の体にはいくつもの縫合の後がある。背中やお腹、太ももにも。ここに来る前は気にしなかったが周りの人からの視線を感じてからは誰も使わない時間帯に入浴することにした。
入浴場を出て、部屋に戻って博士から送られてくる赤い錠剤の薬を飲む。博士とのつながりは今のところこれしかなかった。でもいつかきっと博士が迎えにきてくれると信じている。博士に会いたい。
そして食堂で朝食を食べてから、学園へ向かう。何度も繰り返した日常だ。