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あれから数ヶ月、私の毎日は決められた日程になりつつある。講義や魔物討伐をして週に一度図書館の奥でアルベルクさんに会って色々なことを教えてもらう。この数ヶ月で私の世界は一気に広がった。
お金の使い方もエメル国の果物や花の育て方も私は全くわからなかった。言葉遣いも少しは違和感がなくなったと思う。最近は博士への手紙も少し長く書けるようになった。アルベルクさんといるとあっという間に閉館の時間になってしまうのが寂しい。
いつものように講義が終わってから図書館の奥で本を読む。最近は花の図鑑を。アルベルクさんに花のことを教えてもらってからとても興味が湧いた。前に居た塔の中では見ることのなかった美しいもの。1ページ、1ページめくるたびに赤やピンク、黄色の花に感動する。
が、今日は頭痛が治まらなくて集中出来ない。最近、毎日のように襲ってくる頭痛は時間と場所を選んでくれない。まだ1人の時は休めばなんとかなるが、学校での講義の時や魔物討伐中の時はどうしようも出来ない。一度、戦闘に集中出来なくてカロルさんに怒られたことがある。
自分ではどうしていいのか分からなくなって博士との手紙に頭痛のことを書いた。するとすぐに返事が届いた。
毎日飲む薬とは別に、新しい青い薬がたくさん入っていた。酷い頭痛がしたら飲むようにと。
それと手紙にはこうも書いていた。
ーーーシックス、頭痛がしても絶対に誰にも言わないように。救護室、病院にも行かないように。薬を飲んでいることも誰にも言わないように。塔の中に戻りたくなければーーー
博士は優しい。こんなにも私を心配してくれている。あの塔の中には戻りたくない。毎日、血の臭いしかしないあの中では美しい花を見ることすら出来ない。
痛い。頭が割れそうなくらい痛い。立ち上がることすら辛い。とりあえず薬を飲まないと。図書館を出て水を取りに行こう。意識を飛ばさないように手を強く握りながら外に出る。手のひらが内出血しているがもうどこが痛いのか分からなくない。クラクラしてきて目の前がぼやけてくる。図書館は出られたが水を取りに行くまでに倒れてしまいそうになり、近くの木にもたれかかる。少しだけ、少しだけ意識を飛ばしてもいいだろうか。
「おい!!!大丈夫か?」
いつもの聞きなれている声と同時に暖かい感触を背中に感じた。アルベルクさんだ。柔らかそうな黒い髪が見える。
「今、救護室に連れて行くからな。」
その言葉と共に体がふわりと浮いた。
「嫌。だ、、め。行かない。そこには行けない。薬があるから。これ、、、、飲めば治るから、そこには行かない。」
意識が朦朧としてる中で思いついた言葉を並べて、支えている腕を必死に掴んだがもう限界だと目を閉じる。
ーーーふわふわと優しい何かに包まれている。なんだろうこれは。少し目を開けると薄緑色の目が見えた。思わず、「きれい。」と言って手を伸ばしてみた。届かないと思っていた手は大きな暖かい手に包まれた。「薬はこれか?」と聞こえて青い錠剤らしきものが見えたので頷いた。あぁ、博士から貰った薬。さっきまで飲みたかった。もう頭が痛いのかどうかわからなかった。目を閉じたら現実に戻ると思いながらも、もう無理だと思った瞬間に唇に暖かいものを感じた。次の瞬間に口の中に冷たい水が流れ込んできて思わず飲み込むと、頭の上で「おやすみ。」と聞こえて優しく頭を撫でるのを感じた瞬間に意識を手放した。